殲滅の狂戦士

天三津空らげ

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10 シャルガル

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 焚火の前にいるのは、フード付きの灰色の外套を目深に被った男だった。
 焚火の灯りに照らされたシルエットだけで「格好いい」と思わせるスタイルの良さに、ランカの背筋がぞわりとした。

 瓦礫に隠れたまま、男の耳が見えないか注視する。

「君は、味噌と醤油、どっち派かな?」
 男は焚火を見つめたまま、話しかけてきた。
「それとも、きのこか、たけのこか……そう聞いた方が良かったかい」

「あなた……日本を知ってるの……?!」
 驚きの余り、気配を消すのを忘れてランカは声をかけてしまった。

 男がフードを外した。厚い雲の切れ間から、月光がきざはしのように降り立ち、男の美貌を顕にした。その長く尖った耳とともに。

 冷たい夜の月のような、長い白金髪が揺れる。

 天の輝きシャルガル……!!
 ランカは腰が抜けそうだった。美貌のレベルが想像の桁違いだ……。現に、月光を受けた男は淡く輝いている。比喩ではなく、物理で。まさに《天の輝き》と呼んで差し支えない。

 唇を噛み締める。
 エルフ族の美貌がこんな桁外れだなんて、ゼンゼックは言ってなかった。とんだまぬけ面をさらしてしまった……。

「日本のことは、知識として知っているよ。僕の大切な人は、前世は日本人だったんだ」
「前世……」
「魂は巡る。時に先の世の記憶を持つもの、それが異世界だったものを、僕は《旅人》と呼んでいる。君もそうだね」
 ごくりとランカは唾を呑み込んだ。どう対処すれば良いのか、わからない。

「警戒心が強いのは、良いことだよ。だが僕は時間を無駄にしたくない。単刀直入に言おう。ランカ、君の厄介な魔導具を外すことは、誰にも出来ない。だが、その命を僕のために使ってくれると云うなら、僕はそれなりに便宜をはかろう」
「……は? 待って、なんで私の名前を知ってるの? それに、魔導具のことも、」
「僕には鑑定魔法がある。君を見て、わかる情報は全て読ませてもらった」

 エルフの男……いや、シャルガルは、さも当然とばかりに言う。

「そんなことする人に、どうして命を預けられるというの」
「だが、君も鑑定魔法が使えたら、同じようにするだろう」
「…………」
 その通りです。ぐぅの根も出ないとはこのことだ。

「私が命を預ける人は、もう決まってるんです」
「君の隷属契約なら、僕が解呪できるよ。なんなら、魔法の手解きもしよう」
 悪魔か、この男は。誘惑が上手い。
 ランカは懸命に首を横に振った。
「それでも……それでも……」

 ランカの躊躇いをかき消すように、蹄の音が近づいてくる。

「ランカ…………っ!!」

 シアナ姫の声が響く。
 兵と馬車を率いて、姫が心配して駆けつけてきたのだ。

「ランカ! そのひとから離れて!!」
「シアナ姫!! 近づいてはダメです!!」
 ランカは慌てた。守るべき人を、この得体の知れないエルフに近づけるべきではない。

『ランカ! 戻って!!』
「……あ」
 それは、隷属の魔法を帯びた言葉だった。ランカの身体が強張り、意思とは関係なくシアナ姫のいる馬車の側まで戻った。

「ランカ……ごめ……ごめんなさい……っ、隷属の魔法を使って」
 シアナ姫は、用心深く馬車から降りず、窓からランカに謝罪した。
「平気です。仕方ない状況だと理解してます。姫は彼が何者かご存知なんですか?」
「リーン王国の邪神の使い……ハイエルフよ……」
「ハイエルフ……?」

 ランカがもう一度、シャルガルを見ると、彼は観察するように、じっとシアナ姫を見ていた。
 鑑定魔法だ。ランカは咄嗟にシアナ姫を庇うように立つ。

「彼女が君の主人のようだね、ランカ。もう一度乞おう。君の命を僕の為に使ってほしい」
「ふざけないで! ランカを邪神の手先になんてしないわ!!」
 シャルガルの美貌に怯みもせず、シアナ姫は叫んだ。

 瞬間。

 轟音と共に、あたりが明るくなった。
 炎だ。こんな瓦礫だらけで、火種もないところで、炎が激しく踊っている。
 そう遠くない場所で、人と魔獣馬の叫びが聞こえた。

「なにが……」
「もう一人の魔導具が解放されたようだ」
 シャルガルの冷静な声に、ランカの心臓は冷や水を被ったかのように、ショックを受けた。

 ソウヤ――――!!!

「望むなら、君をあの現場に連れて行こう」

 音もなく。いつのまにかシャルガルはランカの隣に移動していて、真っ直ぐその瞳を捉える。
 ランカは差し出された、シャルガルの手を取った。
「シアナ姫、ハルニア姫の様子を確認してきます」

 シアナ姫は激しく、首を横に振った。
『ランカ! ……』
 何かが砕けるような音がして、ランカは空高く舞い上がった。
 シャルガルがランカを連れて、空を飛んだのだ。だが、そんなことに驚く余裕がないほど、ランカのこころは、痛かった。

『……そいつを、殺しなさい』

 最後に聞いた、シアナ姫の隷属の命令の内容が、ただただ、信じられなかった――
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