殲滅の狂戦士

天三津空らげ

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 不意に、ランカの腕の中の重みが消えた。

「スライム達の国に送った。あそこは世界で一番安全で優しいところだ。心配はいらない」
 世界で一番安全で、優しい……ランカはシグアグルム達を思い浮かべて、納得した。

「……貴方本当に、リーン王国の邪神なの?」
 ランカは抱き抱えていたはずの、ハルニア姫の姿が忽然と消えた原因……シャルガルを呆然と見つめる。

「リーン王国が崇める創世の女神は、この世界を作った慈愛深い存在だ。邪神などど呼んでいい存在ではない。僕は彼女ほど優しくはないから、別に邪神でも構わないが。ただ今は制約があって、リーン王国に入れない。つまり、答えは『違う』かな」

「…………でも、神なのよね?」
「本当の神は天にいる。僕はその輝きの一欠片。ただの写身だ。この肉体は、ハイエルフと同じ構造でつくられている。だから、種族的には、ただのハイエルフだよ」

 ランカは理解しようと、懸命に頭を働かせた。
「ええと、リーン王国やスライム達が崇めているのは《創世の女神》で、それが《シグアキアグ》?」
 ランカは以前出会ったシグアグルム達のことを思い出す。二匹とも、ランカにシグアキアグの恩恵があるようにと祈ってくれた。
「そうだよ」
 シャルガルは満足気に頷く。

「で、貴方の本体? も神で、《創世の女神》とは別の存在……。では、女神エルフェーラは?」
 リーン王国がシグアキアグを崇める前までは、世界には神と呼べる存在は、女神エルフェーラしかいないと聞いていた。

「女神エルフェーラは、人々が作った、大きな幻だ。はるか昔に実在したハイエルフを、女神と勘違いしたんだよ」

 なんとなくわかった。
 リーン王国は、勘違いを正したのだ。おそらくそれにより、シグアキアグの恩恵で大きく発展し、他国の反感を買ったのだ。

「つまり女神エルフェーラより、シグアキアグの方が、ご利益がある。わかった。私も今後シグアキアグを崇めるわ」

 シャルガルはランカの理解の速さに満足して、くす、と笑う。優しく見守るような微笑みだ。
 その表情と滲み出す空気で、ランカは彼が神の写身という途方もない話が、真実なのだと肌で感じた。

「ランカは元日本人なだけあって、そういうところは柔軟だね」
「でもハイエルフってなに? エルフとは違うの?」
「ハイエルフは、創世の女神が一番はじめに世界に生み出した種族だ。今は現存数も少なく、皆リーン王国で暮らしている。まあ、それだけ知っていれば十分だろう」

 シャルガルは遠くを見ている。それはリーン王国の方角だった。
 彼は大切な人が、ランカと同じ前世が日本人だと言ってなかったか……。おそらくその人は、リーン王国に居るのだろう。シャルガルの瞳には、ランカの知らない熱が灯っていた。

 シャルガルは、ランカに向き直ると、落ちついた声で問うた。
 
「ランカ、君の隷属の魔法は解呪した。君は自由だ。これから、どうするかい」
「……私の命が欲しいんじゃなかったの?!」

 てっきりシャルガルに連れ去られるものだと思っていたので、ランカは驚いた。

「今すぐに必要なわけじゃない。それに僕は、命のことで無理強いはしたくない。選択は人の特権だ。ランカ、君の生きる道は、君が選んでいい。僕は時が来たら、もう一度君に乞おう。僕にその命をくれないかと」
「つまり、それまで好きにしていいと……」

 ランカの脳裏に、シアナ姫とハルニア姫の顔が浮かぶ。知りたい。シアナ姫の真実を。そこにどんな臭い泥が詰まっていたとしても。なぜ、ゼンゼックが、ソウヤが、ハルニア姫が死ななければならなかったのか……。

 ランカは目を閉じた。

「戻るわ。シアナ姫のところに。どうせ行き先はフィスフィア王国だもの」

「そうか」
 シャルガルは、ランカの手のひらに、赤い石を置いた。
「これは……ソウヤの……」
 シャルガルは頷いた。
「君の魔導具に嵌めるといい。彼なら、君の《力》になるだろう。だが、収納鞄の中にあるものは、どれも《欲》が強い。それらは使わない方がいい」

 ランカは、ソウヤだったものを受け取って、大切に手の中に握り込んだ。そしてシャルガルに背を向けると、直ぐにスカートの裾をたくし上げて、手探りで己の魔導具に嵌め込む。
 周囲は暗いし、シャルガルに見られても気にしないことにした。
 今しか機会はない。
 〈狂火〉のことはランカより王族のシアナ姫の方がよりよく知ってるはずだ。ランカの勘が、シアナ姫にこの石が知られるなら、彼女に手の届かない状態にしておくべきだと訴えた。
 「輪火」は、まるでそれを待っていたかのように、近づけただけで吸い込むように石を取り込んだ。

 ふと、シアナ姫が欲しがったゼンゼックの赤い宝石とは、この石のことだったのではと思いなおした。

「この石は、魔導具の《力》を強める他に、使い道はあるの?」
 一応、確認しておく。

「女性がその石を飲んで、男と交われば、必ず子を孕むよ」
「じゃあ子供が欲しい夫婦にでも、売ればいいのかしら」
「そうだね、それが一番平和な使い道だ」

 なるほど。大国の世継ぎに嫁ぐ姫なら、喉から手が出るほど欲しいものに、違いない。子を授かるかどうかは、その後の生き方に大きく影響するはずだ。

 ランカは顔を上げて、周囲を見渡した。
 真実を知った後、この優しくない世界で、たとえ自由になったとしても、私はどう生きればいいのだろう……。

 炎が消えたそこは、ただ深い暗闇だけがあり、その中でシャルガルだけが淡く輝いて見えた。
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