殲滅の狂戦士

天三津空らげ

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21 責任

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 貸家に戻ると、当然のようにシグアグルムが中で掃除をしたり、洗濯をしたりして家の中を整えている。

「お帰りなさいですー」
「た……ただいま……。ねぇ、鍵は毎回かけて出かけてると思うんだけど」

 何故かシグアグルム達は、家の中に侵入している。シグアグルム達が危害を加えてくることは決してないからと、シャルガルは気にしていないが、ランカはどうやって出入りしているのかは気になった。
 しかも毎回違う個体が出入りしているのだ。

「しっかり戸締りされて、偉いのですー。さらにシャルガル様の魔法でー、許可のないものは入れなくなっているので、ご安心くださいー」
「えーと、じゃあシグアグルムが出入りできるのは、シャルガルが許可してるから? 鍵が掛かってても?」
「そですー。ここにはシャルガル様のご厚意でー、まだお金を頂くほどでもない魔法が未熟なものがー経験詰みにーご奉仕させていただいてますー」

 言われてみれば、魔法の光をぴかぴかと何度でも放ちながら、掃除をしている。以前、シアナ姫といた時に野営地を綺麗にしたシグアグルム達は、一回で仕事を終わらせていた。

「いつもありがとう」
「いいえーこちらこそー」

 ふとシグアグルムは、窓を見た。
 庭に居着いている、三匹の野生のスライムが、窓に張り付いてシグアグルムの真似をしようと、ぽっぽ、ぽっぽと、弱い光を点滅させていた。

「変わった、スライム達なのですー。特殊個体でもないのに、教えられずに魔法を覚えようとするなんてー」

 シグアグルムが窓を開けると、野生のスライムはぽろぽろと中に入ってきて、ランカの折り込んだズボンの裾に、好き勝手に入っていく。

「テイムされましたかー?」
 シグアグルムに聞かれて、ランカは首を横に振った。

「しかしー、ただならぬ仲のようですー」
「ただならぬ仲って……、食事をちょっと分けてやってるだけで」
「たとえばー?」
「今朝はスクランブルエッグ。卵が好きみたいだから……」
「……それは!! コッコカトリスの卵ですか?!」

 その剣幕に驚きつつ、ランカはソファで寝ているコッコカトリスのメスを見て頷いた。
 二羽とも毎朝晩数個ずつ卵を産んでるので、ありがたくいただいているのである。

「上位竜種の卵を毎日……!! なんて羨ましいー」
「竜? 鳥でしょう?」
「コッコカトリスは紛れもなく竜種ですー。我々スライムが強く丈夫に成長するには、食事の質の良さが重要なのですー」

 シグアグルムは、真剣な眼差しで、ランカを見た。

「お兄さんはー、この子達を普通の葉っぱや残飯でー、満足できない体にしてしまいーまーしーたー」
「…………!!!」

 ランカのズボンの折り目に入り込んだスライム達は、きゅるるんと期待の眼差しで、ランカと……収納鞄を交互に見ている。薬ゲジが入っているのを、知っているのだ。

 責任を取らなければ、ならない。
 責任をとって……養わねば。

 ランカは書棚から薬ゲジの討伐について書かれた手帳を取り出して、手早く自分の手帳に書き写す。必要なものも揃えて、最後にコッコカトリスの卵をそっと、シグアグルムに渡した。

「ほんの気持ちです」
「これはこれはーありがたいものをー」
「私は仕事に行ってきますので、この子達をお願いします」

 ランカはズボンの裾からスライム達を取り出して、テーブルの上に並べた。

「はぁーいー、お任せくださいー」

 賄賂の効果は抜群だったようだ。

 ランカはコッコカトリスのオスに乗ると、依頼人の家へと向かった。


「冒険者ギルドの依頼を受けて来ました」
「いま、行きます」
 ランカがドアをノックしてから現れた家人は、成人したばかりの若いむすめだった。目の下に隈ができていて、疲れた様子だ。

 治安の悪い国で育ったランカとしては、冒険者なんてならず者の出迎えに、若いむすめが出てくると、他人事ながら心配でヒヤリとする。

 貴女の目の前の私、人を殺してるんですよ……。

 冒険者登録で保証人が必要だったのも、登録時の審査で引っかかったからだ。お陰で、変な箔がつき、他の冒険者達に絡まれることはなかった。

「うちは薬屋なの。お店はちゃんと中心地にあるんだけど、薬草園がこっち。いつの間にか薬ゲジが出るようになっちゃって……」
「そのことですが、駆除した薬ゲジは貰ってもいいですか?」

 薬屋のむすめは、少し躊躇いがちに言った。
「……でも……体液は欲しいわ……」
 薬屋ならそうだろう。ランカは頷いた。

 薬草園を見て、思いがけない薬ゲジ数の多さに、驚く。地面を堂々と薬ゲジが動き回っている。もうこの薬草園は薬ゲジに占領されてると言っていい。

「夜カサカサ音が聞こえるし、家の中にも入ってくる時があるから、最近全然寝れなくて……」
 ああ、なるほどとランカは納得した。

「冒険者ギルドに依頼を出しても、報酬が安くて、誰も受けてくれなかったの……」

 確かにこの数では、割に合わないだろう。だが。

「私は薬ゲジ自体が目的だったから、ちょうどよかったです。すぐにはじめますから、体液を採取する桶でも準備してください」

 むすめは頷いて、家の中に桶を取りに行く。

 ランカはリーン王国では農夫でも使えるという、簡単な魔法を使用する。

「収穫」

 周囲にいた大量の薬ゲジが、全て残らずランカの目の前に現れた。

「低温」

 薬ゲジは寒くなると殆ど動かなくなる。
 ランカはこの量を凍らすほどの魔法は使えなかったが、体温を冷やすことくらいはできた。

 あとは桶がやってきたら、刃の通り易い殻の繋ぎ目に数箇所切れ込みを入れて、体液を採取すれば、残りはお持ち帰りだ。

 大福のような小さなスライム達が、薬ゲジを持った、ランカの帰りを待っている。
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