23 / 29
23 やがて降る
しおりを挟む
朝起きると、スー、ライ、ムーの三匹が、ランカにくっついて寝ている。
はじめは寝ているうちに潰さないかヒヤヒヤしていたが、どうやらスライム達はランカの身体が動くと、器用に転がって離れ、またくっついてと、いい具合に動いているようだった。
いつものように、着替えてパン屋に向かう。
人々が動き出し、小麦の焼けた匂いがただよう朝の街の一部であることに、ランカはいつのまにか小さな幸福を感じていた。
見上げた曇り空に、今日は家で過ごすかなと考える。コッコカトリス達も雨に濡れるのは好きじゃないようなので、家に入れてあげないと。
朝食後のお茶を飲む頃には、ぱた、ぱた、と、雨粒が屋根を叩きはじめた。
「ランカ、話しがあるんだ」
シャルガルの言葉に、ランカはどきりとした。
とうとう命を使う時が来たのだろうか。
「僕は手っ取り早くこの国のダンジョンを破壊したかったのだけど、魔物の氾濫が起こっている間でなければ、ダンジョンを形成している核を破壊することができないことがわかった。だから、やはりランカの助けが欲しい」
「…………」
「もちろん、まだ半年は先の事だ。ゆっくり考えてみて欲しい。僕は命のことで、無理強いはしたくない」
シャルガルの誠実さに苛立ちを感じた。いっそ、選択肢など、与えてくれぬ方がどれほど楽か。
「協力したくないって、言ってもいいの?」
「それが君の選択なら、仕方ない。逃げても構わないんだよ、ランカ。それとは別に、この国にいる間は僕は君のやりたいことを支援しよう。時が来るまで、僕は特にすることは無いからね」
半年後に死ぬか、逃げて三十歳過ぎに死ぬか……。そんなの後者に決まっている。はず。
ランカはシャルガルの整った顔を見つめる。目が合うと、シャルガルは優しく微笑んだ。
シャルガルは神の写身と言っていたが、どのような神かは言ってない。既に創世の女神という存在がいるなら、彼は何を司るものなのか……。
わかっているのはランカにとっては死神なのだということだ。優しく、あたたかい。
だから時が来れば確実に、ランカの命を燃やし尽くす。たぶん、空から降る雨のように容赦なく。
「ランカが望むなら、次の生に多少融通を利かせることもできるよ」
次の生……、つまりは来世か。
「たとえば?」
「ランカの記憶と経験を、そのまま引き継ぐことも可能だ。性別や種族も選ぶことができる」
「……種族はよくわからないけど、今の知識や経験が無駄にならないのはいいかな」
ランカはポツリと呟いた。
次に繋げることが出来ると思えば、短い命も意味のあるものに思えてくる。
「性別はどっちがいい?」
「男かな……女性は色々と不便が多そうだし……」
ランカはぼんやりと答えた。
シャルガルに協力しようがしまいが、どうせランカの寿命には限りがある。
そしてシャルガルがランカに選択肢を委ねると言うならば、悔いのない選択をしていくしかないのだ。
ランカは膝の上で眠っている、スライム達をそっと撫でた。
「……そういえばシャルガルは、何の神様なの」
「何の神?」
シャルガルは目を見開いて、珍しく隙のある顔をする。
「改めてそう言われると、僕は何なのだろうね。創世の女神は慈愛をこめてこの世界を作ったが、世界には綻びがあった。僕の役割はその綻びを修復することだったが、それが成された後、役目を終えて消えるなんてこともないんだ。何の神かは、これから人が決めるんじゃないかな」
「ふわっとしすぎじゃない?」
「そうだよ。まあ今のところは、邪神や破滅の神と思われてるんじゃないかな」
「何で?」
「シグアキアグは一部の存在を除いて、世界にあるもの全てに等しく愛を注いでいるが、僕はそうじゃない。『僕』という写身が地上に存在するから、状況によっては誰かと敵対することもあるだろう。僕は必要ならば人を選別し、命を奪う。決して慈悲深い神ではない」
「……上機嫌に歌を口づさみながら、美味しいごはんを作る人を邪神とは思い難いんだけど」
シャルガルは確かにランカの死神かも知れないが、出会った時から神秘でいて、親しげで優しく……不思議と守護されている実感があった。
「それはもちろん、写身を得たのは伴侶を迎えるためだからね。家事は婿入りのための大事なスキルだ」
「もしかして、相手はもう決まってるの?」
シャルガルは頷いた。
「リーン王国で、待っててくれているよ。最後に別れたのは、彼女が十三の時だから、今は人だったらもう成人になってるね」
この世界の成人は十五歳だ。人だったら、ということは、ハイエルフなのだろう……。
「シャルガル歳は幾つなの?」
「そうだね……。僕は一度肉体がなくなったから、この写身がようやく出来上がったのは、ランカと出会う数週間前だよ」
「その前は?」
「三千歳は超えてたはずだね」
幼女趣味の疑いを持ちそうになったが、時間感覚の解釈不一致の予感がしかなかったので言及はしないことにした。相手は神なのだから。
はじめは寝ているうちに潰さないかヒヤヒヤしていたが、どうやらスライム達はランカの身体が動くと、器用に転がって離れ、またくっついてと、いい具合に動いているようだった。
いつものように、着替えてパン屋に向かう。
人々が動き出し、小麦の焼けた匂いがただよう朝の街の一部であることに、ランカはいつのまにか小さな幸福を感じていた。
見上げた曇り空に、今日は家で過ごすかなと考える。コッコカトリス達も雨に濡れるのは好きじゃないようなので、家に入れてあげないと。
朝食後のお茶を飲む頃には、ぱた、ぱた、と、雨粒が屋根を叩きはじめた。
「ランカ、話しがあるんだ」
シャルガルの言葉に、ランカはどきりとした。
とうとう命を使う時が来たのだろうか。
「僕は手っ取り早くこの国のダンジョンを破壊したかったのだけど、魔物の氾濫が起こっている間でなければ、ダンジョンを形成している核を破壊することができないことがわかった。だから、やはりランカの助けが欲しい」
「…………」
「もちろん、まだ半年は先の事だ。ゆっくり考えてみて欲しい。僕は命のことで、無理強いはしたくない」
シャルガルの誠実さに苛立ちを感じた。いっそ、選択肢など、与えてくれぬ方がどれほど楽か。
「協力したくないって、言ってもいいの?」
「それが君の選択なら、仕方ない。逃げても構わないんだよ、ランカ。それとは別に、この国にいる間は僕は君のやりたいことを支援しよう。時が来るまで、僕は特にすることは無いからね」
半年後に死ぬか、逃げて三十歳過ぎに死ぬか……。そんなの後者に決まっている。はず。
ランカはシャルガルの整った顔を見つめる。目が合うと、シャルガルは優しく微笑んだ。
シャルガルは神の写身と言っていたが、どのような神かは言ってない。既に創世の女神という存在がいるなら、彼は何を司るものなのか……。
わかっているのはランカにとっては死神なのだということだ。優しく、あたたかい。
だから時が来れば確実に、ランカの命を燃やし尽くす。たぶん、空から降る雨のように容赦なく。
「ランカが望むなら、次の生に多少融通を利かせることもできるよ」
次の生……、つまりは来世か。
「たとえば?」
「ランカの記憶と経験を、そのまま引き継ぐことも可能だ。性別や種族も選ぶことができる」
「……種族はよくわからないけど、今の知識や経験が無駄にならないのはいいかな」
ランカはポツリと呟いた。
次に繋げることが出来ると思えば、短い命も意味のあるものに思えてくる。
「性別はどっちがいい?」
「男かな……女性は色々と不便が多そうだし……」
ランカはぼんやりと答えた。
シャルガルに協力しようがしまいが、どうせランカの寿命には限りがある。
そしてシャルガルがランカに選択肢を委ねると言うならば、悔いのない選択をしていくしかないのだ。
ランカは膝の上で眠っている、スライム達をそっと撫でた。
「……そういえばシャルガルは、何の神様なの」
「何の神?」
シャルガルは目を見開いて、珍しく隙のある顔をする。
「改めてそう言われると、僕は何なのだろうね。創世の女神は慈愛をこめてこの世界を作ったが、世界には綻びがあった。僕の役割はその綻びを修復することだったが、それが成された後、役目を終えて消えるなんてこともないんだ。何の神かは、これから人が決めるんじゃないかな」
「ふわっとしすぎじゃない?」
「そうだよ。まあ今のところは、邪神や破滅の神と思われてるんじゃないかな」
「何で?」
「シグアキアグは一部の存在を除いて、世界にあるもの全てに等しく愛を注いでいるが、僕はそうじゃない。『僕』という写身が地上に存在するから、状況によっては誰かと敵対することもあるだろう。僕は必要ならば人を選別し、命を奪う。決して慈悲深い神ではない」
「……上機嫌に歌を口づさみながら、美味しいごはんを作る人を邪神とは思い難いんだけど」
シャルガルは確かにランカの死神かも知れないが、出会った時から神秘でいて、親しげで優しく……不思議と守護されている実感があった。
「それはもちろん、写身を得たのは伴侶を迎えるためだからね。家事は婿入りのための大事なスキルだ」
「もしかして、相手はもう決まってるの?」
シャルガルは頷いた。
「リーン王国で、待っててくれているよ。最後に別れたのは、彼女が十三の時だから、今は人だったらもう成人になってるね」
この世界の成人は十五歳だ。人だったら、ということは、ハイエルフなのだろう……。
「シャルガル歳は幾つなの?」
「そうだね……。僕は一度肉体がなくなったから、この写身がようやく出来上がったのは、ランカと出会う数週間前だよ」
「その前は?」
「三千歳は超えてたはずだね」
幼女趣味の疑いを持ちそうになったが、時間感覚の解釈不一致の予感がしかなかったので言及はしないことにした。相手は神なのだから。
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる