殲滅の狂戦士

天三津空らげ

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23 やがて降る

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 朝起きると、スー、ライ、ムーの三匹が、ランカにくっついて寝ている。
 はじめは寝ているうちに潰さないかヒヤヒヤしていたが、どうやらスライム達はランカの身体が動くと、器用に転がって離れ、またくっついてと、いい具合に動いているようだった。

 いつものように、着替えてパン屋に向かう。
 人々が動き出し、小麦の焼けた匂いがただよう朝の街の一部であることに、ランカはいつのまにか小さな幸福を感じていた。

 見上げた曇り空に、今日は家で過ごすかなと考える。コッコカトリス達も雨に濡れるのは好きじゃないようなので、家に入れてあげないと。

 朝食後のお茶を飲む頃には、ぱた、ぱた、と、雨粒が屋根を叩きはじめた。

「ランカ、話しがあるんだ」

 シャルガルの言葉に、ランカはどきりとした。
 とうとう命を使う時が来たのだろうか。

「僕は手っ取り早くこの国のダンジョンを破壊したかったのだけど、魔物の氾濫が起こっている間でなければ、ダンジョンを形成している核を破壊することができないことがわかった。だから、やはりランカの助けが欲しい」
「…………」
「もちろん、まだ半年は先の事だ。ゆっくり考えてみて欲しい。僕は命のことで、無理強いはしたくない」

 シャルガルの誠実さに苛立ちを感じた。いっそ、選択肢など、与えてくれぬ方がどれほど楽か。

「協力したくないって、言ってもいいの?」
「それが君の選択なら、仕方ない。逃げても構わないんだよ、ランカ。それとは別に、この国にいる間は僕は君のやりたいことを支援しよう。時が来るまで、僕は特にすることは無いからね」

 半年後に死ぬか、逃げて三十歳過ぎに死ぬか……。そんなの後者に決まっている。はず。

 ランカはシャルガルの整った顔を見つめる。目が合うと、シャルガルは優しく微笑んだ。

 シャルガルは神の写身と言っていたが、どのような神かは言ってない。既に創世の女神という存在がいるなら、彼は何を司るものなのか……。

 わかっているのはランカにとっては死神なのだということだ。優しく、あたたかい。

 だから時が来れば確実に、ランカの命を燃やし尽くす。たぶん、空から降る雨のように容赦なく。

「ランカが望むなら、次の生に多少融通を利かせることもできるよ」

 次の生……、つまりは来世か。

「たとえば?」
「ランカの記憶と経験を、そのまま引き継ぐことも可能だ。性別や種族も選ぶことができる」
「……種族はよくわからないけど、今の知識や経験が無駄にならないのはいいかな」
 ランカはポツリと呟いた。

 次に繋げることが出来ると思えば、短い命も意味のあるものに思えてくる。

「性別はどっちがいい?」
「男かな……女性は色々と不便が多そうだし……」

 ランカはぼんやりと答えた。

 シャルガルに協力しようがしまいが、どうせランカの寿命には限りがある。

 そしてシャルガルがランカに選択肢を委ねると言うならば、悔いのない選択をしていくしかないのだ。

 ランカは膝の上で眠っている、スライム達をそっと撫でた。

「……そういえばシャルガルは、何の神様なの」
「何の神?」

 シャルガルは目を見開いて、珍しく隙のある顔をする。

「改めてそう言われると、僕は何なのだろうね。創世の女神は慈愛をこめてこの世界を作ったが、世界には綻びがあった。僕の役割はその綻びを修復することだったが、それが成された後、役目を終えて消えるなんてこともないんだ。何の神かは、これから人が決めるんじゃないかな」

「ふわっとしすぎじゃない?」
「そうだよ。まあ今のところは、邪神や破滅の神と思われてるんじゃないかな」
「何で?」
「シグアキアグは一部の存在を除いて、世界にあるもの全てに等しく愛を注いでいるが、僕はそうじゃない。『僕』という写身が地上に存在するから、状況によっては誰かと敵対することもあるだろう。僕は必要ならば人を選別し、命を奪う。決して慈悲深い神ではない」

「……上機嫌に歌を口づさみながら、美味しいごはんを作る人を邪神とは思い難いんだけど」

 シャルガルは確かにランカの死神かも知れないが、出会った時から神秘でいて、親しげで優しく……不思議と守護されている実感があった。

「それはもちろん、写身を得たのは伴侶を迎えるためだからね。家事は婿入りのための大事なスキルだ」
「もしかして、相手はもう決まってるの?」

 シャルガルは頷いた。
「リーン王国で、待っててくれているよ。最後に別れたのは、彼女が十三の時だから、今は人だったらもう成人になってるね」

 この世界の成人は十五歳だ。人だったら、ということは、ハイエルフなのだろう……。

「シャルガル歳は幾つなの?」
「そうだね……。僕は一度肉体がなくなったから、この写身がようやく出来上がったのは、ランカと出会う数週間前だよ」
「その前は?」
「三千歳は超えてたはずだね」

 幼女趣味の疑いを持ちそうになったが、時間感覚の解釈不一致の予感がしかなかったので言及はしないことにした。相手は神なのだから。
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