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Day1
1.ここから
しおりを挟むルイ
シャンデリアが天井にぶら下がる大広間でボクは神様の前にひざまずいていました。神様は立派なひげを持ち、威厳のある姿をしています。
とうとうボクにもこの日がやってきました。雑用からの解放、そして、初めての任務、嬉しさのあまり感情が顔に出そうになります。でも、神様にこの顔を見られたら・・・。
平常心、平常心。
「ルイ」
「はい」
神様から名前を呼ばれ、いさぎよく返事をしました。あまりにも早い返答だったためか神様も少し困惑しているように見えます。しかし、それに対して特に口を出すわけでもなく、
「お前には人間界の調査を命ずる。期間は一週間、できる限り情報を集めてくるのだ」
「はい、承知しました」
ニヤケ顔が出そうになるのを必死におさえました。
「禁止事項はわかっとるな?」
「はい、人間に天使の姿を見せてはいけないのですね」
「そうだ、それを破れば天罰が下るから気を付けろ」
ボクはゆっくりと立ち上がりました。神様は続けて、
「では、健闘を祈る」
と言い、ボクを送り出しました。入口まで続く赤いカーペットの上を歩き、大広間を後にしました。ボクもようやく一人前の天使になれるのだと、涙がこぼれ落ちそうになります。
入口にはこれまでになく光があふれていました。まるでボクのことを祝福するような暖かい光です。ボクは考えることなく白い翼をはばたかせ、その光へと突っ込みました。
原 俊樹
俺は玄関のカギをしっかりと閉めた。外に出るたび目を細める。日差しがまぶしかったのだ。空には透き通るような果てしない群青色が広がっていた。
今日はいい日になりそうだ。
俺はまるで首にかけているひも付きのカメラに話しかけるようにつぶやいた。見ると最初のころに輝いていた光沢もいつしかなくなっている。小学6年生の時に買い、6年間使い続けているのだ、無理もない。しかし、このカメラを買い替える気はなかった。
俺は毎日、カメラを首に下げているが、カメラマンではない。高校生だ。近所の人からすれば趣味でやっていることは知っているのだけれども、町の外にでも出ると、「カメラマンの仕事をされているのですか」と勘違いされることがある。まあ、それも仕方がないことだ。
俺は右手に持っていたカバンを自転車のかごに乗せ、またがった。サドルはハンドルと同じほどの高さだ。
さあ、出発だ、と心の中でつぶやき自転車を勢いよくこぎ家を出る。同じような外観の住宅街を通り抜ける。それを越えると、この町では大きめな橋に到達する。その下には美しい清流があり、ここからでも耳を澄ませば流れる音が耳に入ってきそうだ。しかし、俺はそれを見ようとはしなかった。
橋を越えると、ようやくスーパーなどの商業店が見えてくる。あの住宅街に住む人が買い物をするときはいつもここだ。
木々が植えられている歩道を通っていく。すると、ひとりの少年が道に迷っているのを見かけた。たまたま通りかかったランドセルを背負う子供たちと身長はそれほど大差ない。黒くさらさらとしたショートヘアーに弱々しい黒い瞳。僕はその姿を一目見ただけで胸が高鳴っていた。
しかし、その少年は俺と同じ服装をしており、同じ高校に通う生徒なのだと感じた。俺はこの時、いまだ発見されていなかった埋没金を掘り当てたような嬉しさと同時に、これまでそれを見逃していたという羞恥心が胸の中で混合していた。
その少年はいまだに歩道で困り顔を浮かべながら右往左往していた。その少年の顔もなんだか愛おしく感じてしまう。その姿に見とれてしまい、つい、写真を撮るのを忘れてしまった。やべっ、と心の声を漏らしながら首にかけているカメラをその少年に向かって構えた。
カメラのフィルターには慌てふためく少年の姿がしっかりと映し出された。
よし、このまま・・・
絶好のシャッターチャンス、そう確信してシャッターを切った。完全にものにした、そう思っていた。しかし、少年は写真に納まるコンマ数秒前にカメラとは逆方向に振り返ってしまった。
カシャ。
シャッター音をオフにするのを忘れてしまった。撮った写真には当然、その少年の後ろ姿しか映っていない。それを撮られた少年もこちらを振り向いた。大失態だ。
慌てて自転車にまたがり、その場を立ち去ろうとした。しかし、少年が先生にこのことを相談して、呼び出されてしまうと考えるとペダルに足をかけるのをためらった。
ここは素直に謝るべきか。
今、悩んでいる間にも小さな足音がこちらに近づいてきている。見上げると、太陽がにっこりと笑い、暖かい風も僕の背中を押してくれている。よし、と決意を固めたが、先に口を開いたのは少年だった。
「ねえねえ、君、神住高校の生徒だよね?」
初めて少年とお互いに目を合わせた。先ほどとは違う、大きく見開いた瞳に吸い込まれそうになり思わず「う、うん」と頷いてしまった。俺はこの後の展開として「最悪、先生にチクっとくから」という妄想を膨らませた。こればかりは自分の非を恥じるばかりであった。しかし、少年は、
「じゃあ、一緒に行こうよ」
俺の予想とは裏腹に少年は子供のような裏表のない笑顔を俺に見せた。さっきのことは何とも思ってないのか。俺はよかった、と心の中で胸をなでおろした。すると、少年は
「ねえ、どっちなの?」
と目を細めながら俺のほうに顔を寄せてきた。身長に差があるため、ぷるぷると体を震わせながら背伸びをしている。少し怒った顔もかわいい。
俺は顔を赤らめさせながら視線をそらして、「うん、いいよ」と答えた。すると、少年の顔がぱっと明るくなった。
俺が自転車の後部座席に誘導すると、素直に乗ってくれた。あらかじめ、かわいらしい熊のイラストがついたクッションをつけておいてよかった。俺は少年の前の座席に乗り、自転車を漕ごうとした。すると、俺の身体を少年が暖かく包み込んでくれた。思わず心臓が飛び出してしまいそうになった。
「それじゃあ、い、行こうか」
少し呂律がまわらなくなった僕に少年は「うん」と優しく答えてくれた。夏はもうすぎているにもかかわらず汗がにじみ出てくる。落ち着け、落ち着け、と自分を鼓舞しながら自転車をこぎ進めた。
少年は見た目通りに軽かった。感覚的にはひとりで乗っているのとあまり変わらない。そのため、俺はちらちらと少年が乗っているのを確認した。その時には、少年はニコッと愛くるしいほどの笑顔を俺に与えてくれるのだった。
歩道の木々が、サーと木の葉を揺らす音が聞こえてくる。感情が昂っている俺にとっては気持ちのいい風だ。
後ろの少年に見られないように唇の両端を釣り上げた。
今日は本当にいい日になりそうだ。
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