あえない天使

ハルキ

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Day5

20.おねがい

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 家に着くといつも通り原くんがカギを開けてくれました。先にボクが家に上がります。ボクは振り返り原くんが襲ってこないか確認します。しかし、原くんはボクを素通りし、2階に上がっていきました。
 ボクは落ち込んだふりをして、誘う作戦なのだと少し思っていました。というのも昨日はリビングでつまずいて痛そうに足をおさえていました。それを心配したボクはまんまとだまされて抱き着けられてしまいました。ほんとにこの人は悪知恵だけはあるようです。ボクは同じことを繰り返さないためにも原くんについていかないようにしました。
 しばらくリビングで過ごしていると、ピンポーンという音が聞こえました。ボクは足早で玄関に向かいます。玄関の扉を開けると恵くんが立っていました。
 「師匠」
 恵くんは明るい声でそう言いました。昨日とはまるで別人です。
 ボクは少しくすぐったくなりながらも恵くんをリビングに案内しました。
 「じゃあ、まず基本から教えるね」
 「はい」
 恵くんは姿勢よくはっきりとした声で答えます。
 「ボクも恵くんも力は強くないし、体も小さいから正攻法ではまず勝てない。だから、相手の勢いを利用するんだ」
 ボクが説明していると恵くんは真剣に聞いてくれました。その目からはボクの言葉を聞き逃さないという意思を感じられます。
 少し実践をした後、少し休憩しました。恵くんは数十分ですこしたくましくなったような気がします。体の使い方や相手を倒しきることはまだできないにしろ、十分に成長しています。しかし、ボクには時間がありません。もし、教えきれなかったらメモを残しておきましょう。
 もう数十分、教えていると恵くんはボクを倒せるほどに成長していました。恵くんは真面目に聞いてくれているので成長が速いです。ボクが帰る前に原くんを倒すことが出来たら大丈夫でしょう。
 ボクはあれから原くんの姿を見ていませんでした。おそらく自分の部屋にいるのでしょう。やっぱりあれはボクをだますためではなく、何か理由があるのではないでしょうか。
 ボクが悩んでいると横から声が聞こえました。
 「師匠、どうしたの?」
 恵くんは心配そうにボクを見てきました。
 「ううん、なんでもないよ」
 ボクは恵くんに心配されないように笑顔でそう言いました。窓の外を見ると少しずつ暗くなっているのがわかります。もうそろそろ帰る時間です。
 「恵くん、そろそろ帰ろうか」
 「はい、バイバイ、師匠」
 「うん、バイバイ」
 ボクは元気に去っていく恵くんに手を振って見送りました。
 恵くんの姿が見えなくなるとボクは少しずつ手を下ろします。そこにはもうだれもいません。それなのにただ薄暗がりの道を少しの間、眺めていました。
 ボクは再び光の中に戻ります。しかし、そこには原くんの姿がありません。もう日暮れ時、原くんが夕ご飯を作ってもいいころです。ボクは原くんを呼ぶために2階に上がりました。
 ボクは原くんの部屋の前まで来ました。ボクはまだこの部屋に入ったことがありません。なので、この部屋に何があるのかわかりません。
 ボクは2回ほどノックをしました。しかし、反応はありません。
 「原くん」
 ボクが扉に耳を当て、中の音を聞こうとしました。すると、中から足音が聞こえてきました。
 「ごめん、ルイ。今はひとりにしてくれないか」
 原くんは力のない声でそうつぶやきました。扉越しに近くにいることがわかります。
 「ご飯はどうするの?」
 原くんはしばらく悩んでから、
 「てきとうに食べてくれないか」
 と言いました。
 「原くん、どうしちゃったの?」
 ボクには時間がない。できるだけ原くんと一緒にいたいのにそれがかなわない。ボクは扉を無理やりこじ開けるようにそれを叩きました。お腹が痛くなるほど「開けて」と叫びました。それでも扉は閉じたままでした。
 「静かにしてくれないか」
 聞こえてきたのは冷たい声でした。気が付くとボクは涙を流し、せき込んでしまいました。ボクは頼りない足取りで寝室に向かいました。
 いったいどうしたんだろ。
 ボクはベッドに寝ころびながらそう思いました。時計の音がカチっ、カチっという音が立て一秒、一秒が確実に過ぎていくことが嫌でもわかります。
 ボクはそれがきこえないように全身を毛布で覆いました。それでも時計の秒針を刻む音が聞こえます。手を耳に当ててもそれは聞こえてきます。ボクはこの世界から意識をなくすために目を思い切り閉じます。
 窓の外からはピュー、という風の音が聞こえます。まるでボクの睡眠を邪魔しているかのようです。
 ボクは体を丸め、「聞こえない、聞こえない」と頭の中で唱えます。それでもその言葉を打ち消すように頭の中で聞こえてきます。
 結局、その日はあまり眠れませんでした。

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