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Day5
19.さみしい
しおりを挟む教室から窓の外を見ると、雲は少しあるものの晴れでした。しかし、午後から曇り空が続くと天気予報で言っていました。
休憩時間に話しかけに来る女の子も少なくなっているような気がします。最初の時は違うクラスも来ていたのですが、今では同じクラスの女の子ばかりになっています。多くの人が来るのは少し対応に困っていたのですが、今ではなんだかさみしいような気がします。今日でこの学校が最後というのもさみしさを増していきます。
ボクはたまに葵ちゃんと原くんと話しました。主に恵くんの様子です。家で筋トレを始めたようでした。それになぜか葵ちゃんも参戦し、恵くんのやる気を上げようとしたようです。しかし、それは逆効果で、力の差を見せつけられた恵くんは別の部屋に行ってしまったようです。原くんが「嫌われてるじゃん」と大笑いすると、葵ちゃんが原くんを思いっきり殴りました。殴られた原くんは床に横たわり、ボクはそれを見て思わず笑ってしまいました。
今日は恵くんがうちに来ます。でも、師匠と呼ばれるのはなんだかむずがゆいです。のちに原くんから聞いたのですが、ボクが倒したあの3人は近くの高校の生徒らしく、暴力集団が集まっているとのことでした。そして、裏ではクラスと呼ばれる地位があり、その高校の人たちはそれを守るのに必死らしいということでした。
昼休みが終わると、ボクはいつもの中庭に行きました。もちろん、神様との連絡をするためです。
「ルイ、おつかれ」
「お疲れ様です。神様」
ボクは先ほどより曇りがかった空に向かって話しました。ボクは今日の様子を報告しました。
「ふむ、なるほど。ご苦労だった。人間界の調査も残り2日だな」
神様はそう言うと連絡をきろうとしました。
「待ってください、神様」
ボクは大きな声を出し、連絡を続けました。実際にそこにいなくても眉をひそめている神様が想像できます。
「どうした?」
ボクは少し間を開け、
「もう少し、人間界にとどまってもよろしいでしょうか?」
「どういうことだ?」
「そのままの意味です」
ボクは今、天使としてあるまじきことを聞いているのかもしれません。ボクは人間界に愛着を持ってしまいました。いろいろな人々と付き合っていると心地よい気分になるのです。そして、ここにはボクを迎えてくれる場所も人もいるのでした。ボクが人間界から去るのを考えると胸が苦しくなりました。
しかし、神様は、
「だめだ」
と残酷な答えをボクに言い放ちました。少し前までのボクなら引き下がっていたかもしれません。でも、今は。
「お願いします。もう少しだけ時間をください。もう少しだけ、人間界にいさせてください」
ボクは校舎まで聞こえるくらい大きな声で叫び、目の前に神様がいないにもかかわらず頭を下げました。
「ルイ、お前は人間たちに情を抱いてしまった。それは人間界で調査を行う天使にとっては良からぬことだ。だが、情を抱いてしまったのは仕方がない。お前はこれが初めての任務だ。これから学べばいい」
「し、しかし」
神様は強い口調で「ルイ」と叫びます。ボクはそれに驚き、無意識に背筋が伸びました。
「お前は人間界との別れがつらくなっている。だから、わしに時間が欲しいと頼んでいるのだろう。だが、時間が伸びたところでいずれは別れが訪れる。それに一緒に過ごす時間が長いと別れもさらにつらくなる。今のお前にできるのは人間たちと築いてしまった関係を絶つことだろう」
神様はそう言うと、連絡を断ってしまいました。空を見上げると雲が先ほどよりも多くなり、顔を出していた太陽も隠れてしまいました。まるで今のボクの心を表しているかのようです。
校舎に重い足取りで向かいます。教室に戻ると、葵ちゃんの姿がありましたが原くんの姿がありませんでした。ボクは先ほどの神様との会話を思い出します。神様は関係を絶てと言っていましたが、ボクにはそれができません。葵ちゃんもボクが人間界で過ごした大事なひとりだからです。
葵ちゃんはこちらに気がつくと笑顔で手を振っていました。ボクも小さく手を振ります。
しばらく見ていると葵ちゃんとの距離がいつもより離れているように感じます。さらにそれは少しずつボクから遠ざかっているようでした。
ボクは葵ちゃんに近づこうと歩み寄ります。すると、今まで感じていた距離がスッ、と消えたような気がしました。
「ねぇ、原くんってどこ行ったの?」
ボクは笑顔で葵ちゃんに話しかけました。それがどこかぎこちないことはボクにもわかります。
「うーん、それが知らないんだよね。いきなりどっか行っちゃうんだもん」
ボクが「そっか」とつぶやきました。特に用事はありませんが、残り人間界で過ごせる時間をできるだけ一緒に過ごしたいのです。
葵ちゃんは落ち込んでいるボクのことを見ていましたが、いきなり「あっ」という声をあげ、「おーい」と手を振りました。ボクが振り返ると、そこには原くんがいました。しかし、原くんは顔をうつむかせていました。それに葵ちゃんの声は聞こえていないようでした。葵ちゃんはもう少し大きな声で「おーい、聞こえるか」と言いました。さすがにこれは原くんも気がつきました。
「あぁ、悪い」
原くんは小さくつぶやきました。表情は暗いです。
「どうしたの、具合でも悪い?」
ボクが心配になってそう言うと、原くんは、
「いや、そういうわけではないんだが。すまん、ちょっとトイレ行ってくる」
と言い、教室から顔をうつむかせたまま出ていきました。
「どうしたんだろう、朝は元気だったのに」
「食中毒かなんかじゃない?」
葵ちゃんの意見にボクは首を横に振りました。なぜなら、朝は同じ食事をとり、お昼の弁当も原くんに作ってもらっているからです。原くんが食中毒ならボクもそうなるはずです。
朝、あんなに元気だったのにどうしてだろう。ボクはそう考えていました。しかし、答えは見つかりませんでした。
5限目はあまり授業の内容が入ってきませんでした。原くんのことを考えてしまうのです。そのため、授業が終わるとすぐに原くんの席に向かいました。しかし、原くんはそこにはいませんでした。葵ちゃんが言うにはまたトイレに行ったと言います。
「やっぱり、おかしいよね」
葵ちゃんがそう言うと、ボクは黙ってうなずきます。
「さっきの時間、教科書も開かずにぼーっとしてただけだからね」
「何か心当たりはない?」
ボクがそう言うと、葵ちゃんは首を横に振りました。ボクと葵ちゃんはしばらく考えました。でもやはり答えは見つかりませんでした。
6限目が終わると原くんの席に行きました。見ると机の中は何も片付けていませんでした。
「ねぇ、帰ろう」
ボクがそう言うと原くんは慌てて「あぁ」と言い、カバンに教科書を直しました。やっぱり何かおかしいです。
「何かあったの?」
原くんは少しの間、黙りましたが、
「何もないよ」
とぼそりと言うだけでした。
自転車で帰る時も同じでボクが聞いても「何もない」と返事をするだけでした。
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