25 / 26
Day6
25.ばいばい
しおりを挟む見上げると、誰かが空を飛んでいるのが見えた。薄暗がりの空にひとつだけほのかに光る物体が見える。それは飛んでいる人影から発せられたものであり、人影がひとりでなく、ふたりであることも確認できた。
雨が降りしきる中、人影は天井を抜けていった。俺はなにも言わずに外に出た。葵も恵くんも黙って俺についてきた。
外に出ると、先ほどよりも雨は弱まっていた。葵が傘を持ってきてくれたものの三人では入りきらなかった。だから、俺だけか傘の外に出ることになった。
飛んでいた人影はゆっくりとこちらに向かって下りてきていることが分かった。視認できる距離になると、俺たちは言葉を失った。それは背中に純白の翼を持ち、頭上には黄色の輪のようなものが見える。ファンタジーで見るような天使が今、目の前にいるのだった。
天使が地面に降りてきた。俺が倒した男も抱えている。
「ルイ君、なの?」
葵は信じられない顔で天使に聞いた。天使は無情にも「うん」と答えた。しかし、それはどこか悲しげだった。
目の前にいるのはほんとにルイだった。黒くつやつやの髪に輝く黒い瞳、最初に出会った時と変わらない。
葵は気を失っている男をルイから譲り受けた。
「今まで、黙っててごめんね」
俺らは何も言えなかった。すると、ルイはこちらを見た。
「原くん。もしかして、中庭の話、聞いてた?」
俺はこくりと頷く。葵と恵は初耳のようで「なにそれ?」と言いたげにこちらを見た。
「じゃあ、ボクがいなくなることも聞いていたのか」
俺は再び頷く。
「ボクは人間界に一週間いるつもりだったんだ。それでほんとは明日が最後の日だったんだ。けれど、人間にこの姿を見られたからもうここにはいられなくなる」
ルイの周りの光が先ほどよりも強く光っていた。もうすぐルイがここからいなくなってしまうことを確証もないのにそう感じてしまう。俺はルイのもとへ寄った。ルイは優しく笑っていた。俺はルイの身体を抱きしめた。雨で冷たく感じるはずなのにルイが暖かく包んでくれるようだった。
冷たい雨が顔につくなか、俺は頬に暖かい雫が流れた。そして、それは雨と一緒に地面に落ちていく。
気がつくと、ルイのまわりに恵くんと葵がいた。そして、ふたりとも涙を流している。
「ルイ、今までありがとう」
「ううん、こちらこそありがとね」
ルイの周りの光がさらに強くなった。もうルイはここにいられないのだ。そう思うと目から涙があふれ出てきた。俺はいつのまにか号泣していた。それでもルイは優しく抱きしめ、背中をさすってくれた。
「ルイ君」
葵は無理矢理、俺をルイから引きはがした。そして、ルイを軽々と持ち上げて頬ずりをした。
「次、来るときは私の弟になってね」
葵は珍しくあの笑顔を見せなかった。ルイは少し困惑した顔を見せたが、すぐに微笑んで、
「うん、お姉ちゃん」
とつぶやいた。
葵は嬉しさのあまり「キャー」と乙女のような悲鳴をあげた。そして、ルイを抱きしめた。ルイは少し苦笑いを浮かべていた。
「師匠」
恵がそう言うと、ルイはそちらを向いた。
「師匠に教わったこと、一生忘れません」
「そうしてくれると嬉しいな」
ルイは微笑んだ。
すると、雲の隙間から光が差し込んだ。それは異様な光景だった。なぜなら、今はもう夕方で太陽は西に沈み始めているからである。そして、その光はルイを照らしていた。
「もうお別れだね」
ルイの身体が徐々に浮き始めた。俺はルイの手を掴もうとした。しかし、もう届かなかった。ルイはその光に吸い込まれるかのように遠のいていく。
「さよなら」
ルイの悲しげな声が聞こえてきた。
「バイバイ、ルイ」
俺らはルイの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。いや、ルイの姿が消えてもかまわず手を振り続けた。
光の筋が消えると、雲は四方に散らばっていき、空は晴れだした。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です
ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。
理由は不明、手紙一通とパン一個。
どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。
そんな理由でいいのか!?
でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適!
自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない!
……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる