あえない天使

ハルキ

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Day6

25.ばいばい

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 見上げると、誰かが空を飛んでいるのが見えた。薄暗がりの空にひとつだけほのかに光る物体が見える。それは飛んでいる人影から発せられたものであり、人影がひとりでなく、ふたりであることも確認できた。
雨が降りしきる中、人影は天井を抜けていった。俺はなにも言わずに外に出た。葵も恵くんも黙って俺についてきた。
 外に出ると、先ほどよりも雨は弱まっていた。葵が傘を持ってきてくれたものの三人では入りきらなかった。だから、俺だけか傘の外に出ることになった。
 飛んでいた人影はゆっくりとこちらに向かって下りてきていることが分かった。視認できる距離になると、俺たちは言葉を失った。それは背中に純白の翼を持ち、頭上には黄色の輪のようなものが見える。ファンタジーで見るような天使が今、目の前にいるのだった。
 天使が地面に降りてきた。俺が倒した男も抱えている。
 「ルイ君、なの?」
 葵は信じられない顔で天使に聞いた。天使は無情にも「うん」と答えた。しかし、それはどこか悲しげだった。
 目の前にいるのはほんとにルイだった。黒くつやつやの髪に輝く黒い瞳、最初に出会った時と変わらない。
 葵は気を失っている男をルイから譲り受けた。
 「今まで、黙っててごめんね」
 俺らは何も言えなかった。すると、ルイはこちらを見た。
 「原くん。もしかして、中庭の話、聞いてた?」
 俺はこくりと頷く。葵と恵は初耳のようで「なにそれ?」と言いたげにこちらを見た。
 「じゃあ、ボクがいなくなることも聞いていたのか」
 俺は再び頷く。
 「ボクは人間界に一週間いるつもりだったんだ。それでほんとは明日が最後の日だったんだ。けれど、人間にこの姿を見られたからもうここにはいられなくなる」
 ルイの周りの光が先ほどよりも強く光っていた。もうすぐルイがここからいなくなってしまうことを確証もないのにそう感じてしまう。俺はルイのもとへ寄った。ルイは優しく笑っていた。俺はルイの身体を抱きしめた。雨で冷たく感じるはずなのにルイが暖かく包んでくれるようだった。
 冷たい雨が顔につくなか、俺は頬に暖かい雫が流れた。そして、それは雨と一緒に地面に落ちていく。
 気がつくと、ルイのまわりに恵くんと葵がいた。そして、ふたりとも涙を流している。
 「ルイ、今までありがとう」
 「ううん、こちらこそありがとね」
 ルイの周りの光がさらに強くなった。もうルイはここにいられないのだ。そう思うと目から涙があふれ出てきた。俺はいつのまにか号泣していた。それでもルイは優しく抱きしめ、背中をさすってくれた。
 「ルイ君」
 葵は無理矢理、俺をルイから引きはがした。そして、ルイを軽々と持ち上げて頬ずりをした。
 「次、来るときは私の弟になってね」
 葵は珍しくあの笑顔を見せなかった。ルイは少し困惑した顔を見せたが、すぐに微笑んで、
 「うん、お姉ちゃん」
 とつぶやいた。
 葵は嬉しさのあまり「キャー」と乙女のような悲鳴をあげた。そして、ルイを抱きしめた。ルイは少し苦笑いを浮かべていた。
 「師匠」
 恵がそう言うと、ルイはそちらを向いた。
 「師匠に教わったこと、一生忘れません」
 「そうしてくれると嬉しいな」
 ルイは微笑んだ。
 すると、雲の隙間から光が差し込んだ。それは異様な光景だった。なぜなら、今はもう夕方で太陽は西に沈み始めているからである。そして、その光はルイを照らしていた。
 「もうお別れだね」
 ルイの身体が徐々に浮き始めた。俺はルイの手を掴もうとした。しかし、もう届かなかった。ルイはその光に吸い込まれるかのように遠のいていく。
 「さよなら」
 ルイの悲しげな声が聞こえてきた。
 「バイバイ、ルイ」
 俺らはルイの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。いや、ルイの姿が消えてもかまわず手を振り続けた。
 光の筋が消えると、雲は四方に散らばっていき、空は晴れだした。
 
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