アポリアの林

千年砂漠

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20  クラスメート  その2

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 思った以上に調査は順調に進んだ。
 クラスメートたちは晴彦が両親を殺した事をテレビや新聞の報道で知っていてショックを受けているようだったが、質問には素直に答えてくれた。

 この事件で晴彦は加害者だというのに、どの子も晴彦に同情的だった。
 積極的でないにしろ晴彦を無視するという形でイジメに関わっていたため、良心の呵責もあってのことなのかもしれない。

 正午を過ぎて、次の生徒が来る予定の時間までの間を利用して昼食を取った。
 昼飯のコンビニ弁当を突きながら、小宮は午前中に来た子たちの話のメモを眺める。

 宗田は気まぐれだが好きになった物には一途で、二年生の二学期に膝を痛めて退部を余儀なくされるまで、十歳頃からずっと地元のクラブでサッカーをやっていた。
 年上に可愛がられる愛嬌があり、学校の成績もそこそこ良くスポーツマンとしての礼儀を身に着けているせいか教師の評判も悪くない。
 将来は海外留学したいと英語の勉強に力を入れていた。
 嫌な事や苦手な事は言葉巧みに言い訳して他人に押し付け逃げてしまう面が玉に瑕だ。

 大石は芸術家タイプの言動が変わった少年で、良くも悪くも空気を読まないが、独特のユーモアがあり面白がられている。
 絵が上手く、本人も将来はイラストレーターになりたいと言っていた。
 描く絵は個性的で癖が強く好き嫌いが分かれそうだが、雑誌などに投稿して何かの賞をもらったこともあるらしい。
 ただ自分が良いと思ったものは常識も良識も関係なく支持するというのは、場合によっては危うい気がする。

 品川は自他共に認めるお調子者だが、意外に気配りのできる子で、友達が喧嘩して険悪な雰囲気になりそうな時など、面白おかしく茶々を入れて笑わせ、場を和ませる事もあったそうだ。
 お笑い芸人になりたいからコンビを組まないかと誘われたと言う子もいた。
 普段からふざけた態度が多いので、冗談なのか本気なのか分からない時があるのは困りものだ。

 生徒に話を聞くたびに増えて行く三人のメモに対して、晴彦の方はメモ帳のページがなかなか埋まらなかった。
 誰に聞いても一言目に大人しいと言う。そして後は特に印象に残っていないと続いて終わりだ。
 目立たなかった上に、クラス編成があった新学期早々皆に無視され、挙げ句家出して学校にいかなくなっていた晴彦の人柄がほとんど知られていないのは無理もないかもしれない。
 一年生、または二年生の時に同じクラスだった者から、写真を撮るのが好きだったとか自己主張せず誰のどんな話も静かに最後まで聞いていたとか、穏やかな性格であると思われる話は聞けたが、特別親しい友人の名前は出なかった。晴彦が家族にどんな感情を持っていたのか、知る者もいない。

 教師の山口の人物像は生徒によってきれいに分かれた。
 贔屓する、独り善がりの勘違いが多いと悪く言う者は概ね女子生徒で、親しみやすい、些細な事でも良く褒めてくれると良く言うのは男子が多かった。
 高田東高校の校長の一人娘、高田南高校で教師をしている婚約者がいて来年の夏結婚する予定、となどプライベートな話を知っていたのも男子の方だ。

 小宮はメモ帳を置いてソファーに横になり、座りっぱなしで疲れていた身体を伸ばす。向かいの長ソファーには早々に昼食を終えた井川が目を閉じて寝そべっていた。
 その姿は小宮に殺害された秀雄を連想させ、次いで資料にあった写真の中の晴彦を思い出させた。
 あの幼ささえまだ残る笑顔の少年が両親を刺殺し、級友に斬りつけ重症を負わせた。

 彼の正気を失わせたものはなんなのか。
 その狂気の種をいつから宿していたのか。

 彼が特殊な精神の持ち主だったとは思わない。狂気とは誰の身の内にも潜むものだ。
 それが発露するに至る、きっかけやタイミングを知りたい。
 自分の内にも必ずあるだろう狂気を解放しないために。
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