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21 原田詩織 その1
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午後からの調査でも、特に気を引く話は出てこなかった。夕方を過ぎて残りは女子生徒一人になり、大した情報はでてこないだろうと期待はしていなかった。
ノックの後、ショートカットの女子生徒が一人で入ってきたかと思うと、つかつかと小宮たちに歩み寄り一枚の紙を差し出した。
「これ、親の許可証です」
「許可証? 何の」
面食らった井川が問うと
「今日、私一人で警察の人と話をしていいっていう許可証です。先生が親と一緒じゃないと駄目だって言うから、一筆書いてもらってきました。これじゃいけませんか」
透明感のある声で、歯切れのいい答えが返る。
奇妙な存在感がある子だった。身体は小柄だが、顔つきも雰囲気もどことなく大人びていて、アンバランスな感じがする。
「いや、そんなことはないけど。事件が事件だし、君たちも親御さんも不安だろうと配慮してのことだから」
「犯罪の取り調べでもなく、話を聞くだけなのに? 大人って変な所で過保護なんですね。とにかく、私は一人で警察の人と話をしても良いって親の許可をもらってきました」
「どうして? ええと……原田さん、だね? ご両親が今日忙しいなら日を改めても良いんだよ?」
手元の名簿に目をやり、『原田詩織』の名前を確認して井川が問いかけた。
しかし彼女は嫌そうに顔をしかめた。
「刑事さん、中学生が親の前で本当の事話すと思ってるんですか?」
小宮たちは顔を見合わせ、苦笑した。
「嘘は言わないと信じてるよ」
彼女は、ああ、と額に手を当てた。
「言い方が悪かったです。事実、じゃなくて本音の方です」
それは、と言い淀んだ井川の代わりに、
「言わないだろうな。嘘ではないけど、真意でもないという感じになるかもしれない」
小宮が答えると、彼女は頷いた。
「そうです。私も親が隣にいたらそんな話になるだろうと思って」
考えてみれば思春期の子供だ。親にこそ聞かれたくない話もあるだろう。
「君は、本音で語りたいんだね」
「刑事さんこそ、一番聞きたいのはそれでしょう。今まで、隣にいる親に気を使って遠回しな質問して、ピントのボケた答しか聞けなかったんじゃないですか?」
鋭い子だ、と小宮は胸の内で唸る。
この子の語る話が、実像に一番近い気がする。
小宮は空咳を一つして、そっと井川に目配せする。井川は了解の印に頭をかいてみせた。
「じゃあ、聞かせてもらおうかな。その本音ってやつを」
「私の話、分かり難いと思いますけど、刑事さんたちなら理解してくれると期待してます」
少女は愛想もなくそう言って、勧める前にソファーに座った。
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