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4 疑問だらけの過去 その1
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広い純日本風の庭に、薄っすら雪が積もっている。
古い大きな屋敷には白と黒の幕が張られている。
大勢の黒い服の大人たち。
線香の臭い。
屋敷の中の広間には、白い花に埋もれそうな祭壇。
気難しい顔の老人の写真。
父は祭壇の横に座って、次々とやってくる黒い服の人間たちに挨拶をしている。
父の横の席、上座はひとつ空いている。
まるで誰かを待っているように空いている。
広間のあちこちで囁かれる声。
――あの方は御次男でしょう
――しかし……様がお戻りにならないなら
――世久家にお戻りいただき、跡を継いでいただかなければなりません
もうあのアパートに帰っても、誰もいない。
――他人しかいない町より身内のいる町の方が
だから戻ろうと思った。
――その人は行かせたくないみたいだ
母さん……母さんは反対だったのかな。
――この家を出るのよ
どうして? こんな夜中に、カバン一つで?
床に置いたカバンが不意に揺れる。
ゆっくり、ゆっくり、カバンのジッパーが開いて。
中から、白い手が。
その手が、何かを指し示す。
振り返ると少し開いた襖の間に――目が。
目が覚めた。
一瞬、隆志はそこがどこなのか分からなかったが、格式高い日本間を見て思い出した。夕方まで休むよう明子に勧められ、奥の間に用意されたふとんに潜り込んですぐに眠ってしまったのだった。
体中に嫌な汗をかいていた。自分の周りの空気が淀んでいるような気がして風に当たりたくなり、隆志は布団から起き上がった。
部屋の中はすでに薄暗かったが白い障子を開け放つと、雨の日の午後とはいえ十分な明るさが部屋に差し込んできた。廊下の掃き出し窓を開けると、冷えた風が家の中に入り込む。隆志は廊下に座り、窓の向こうの中庭を眺めた。
小さな池のある中庭は、ここに住んでいた頃にも見た覚えがなかった。
当然庭の向こうにある棟へは行ったこともなく、どこの廊下をどう通って行けばいいのかさえ知らない。
それほどこの屋敷は広く、しかも入り組んでいる。悪意ある迷路と思えるほどに。
大げさな話ではない。つい二週間前、隆志はこの家の中で迷子になったのだから。
父の葬儀をこの家で行なった時は、喪主であったので一つの部屋からあまり動くことはなく、移動する際は案内する人間がいたので大して不都合はなかった。が、葬儀の後で父が寝起きしていた別棟の部屋を一人で片付けしていて疲れ、少し気分転換しようと屋敷内を探索して歩いたら、迷った。
世久の屋敷は祖母が住んでいる離れや昔は親族や使用人が住んでいたという別棟など建て増しした建物は全て互いに行き来出来るよう廊下代わりの棟を作って無理な形でつなげてあり、その上母屋にも通じるようにしてあるため、方向感覚が狂ってしまうのだ。
この屋敷の中はどこへ行っても似たような障子の部屋と廊下がある。
せめて障子が開けてあれば部屋の中の様子の違いで、さっき通った所か区別できるのに、どの部屋の障子も閉め切ったままなので自分がどこを歩いているのかさえ分からなくなってくる。
廊下を歩いて歩いて、気づけば同じ部屋の前まで戻ってきてしまっている。それを三度繰り返して、隆志はぞっとした。結局捜しに来てくれた明子の案内で無事に父のいた棟へ戻れたが、あまりにあっさり戻れたことで逆に何か得体の知れない恐怖を覚えた。
父がこの屋敷から出さないようにしているのではないか。そんな考えすら、浮かんだ。
そもそもこの家にはいい思い出がほとんどない。
隆志がこの家に生まれて初めてきたのは九歳の時、祖父の葬儀のためだった。二月に入ったばかりの寒い日で、葬儀の後隆志は風邪で寝込んでしまった。
今考えると妙だが、父はそれまで一度も生家に帰らず、両親の話もしたことはなかった。だから予想外の家の大きさにも驚いたが、父が祖父の葬儀の後「家を継ぐためこの家に戻る」と言い出した時は、もっと驚いた。
母は見知らぬ土地での暮らしの不安から、隆志は仲のいい友達と別れなければならない寂しさから反対したが、いつもの父らしくなく強引に引越しを決めてしまった。
しかし、隆志がこの家で暮らしたのは、たった一年足らずだった。
隆志を連れて家を出た母は大学時代の友人を頼って東京に行き、彼女の世話で仕事と住居を得た。
父とはずっと会わなかった。
連絡すら来なかった。
間接的ではあるが、父から連絡が来たのは八年後のつい最近、それも母の葬儀の翌日だった。
「世久、いや、坂下隆志さん……ですね?」
くたびれたスーツの背の低い男が、隆志の家に訪ねてきた。彼が差し出した名刺には『本田リサーチ』と刷られていた。
「あなたのお父様のご依頼で、あなたとお母様をずっと捜していました。一刻を争うので単刀直入に申し上げます。あなたのお父様が御危篤です。どうぞ今すぐ、世久の家へお戻りください」
思いも寄らない事態に対しての混乱と父への複雑な感情とですぐに返事ができなかったが、彼の説得に押し切られて同行した。
その道すがら、彼から今まで知らなかった事情を聞かされた。
母は家を出た後で父に離婚届を送ったが、父はそれを提出せず、定期的に興信所に依頼してずっと母と隆志の行方を捜していたそうだ。
しかし見つからないまま八年間が過ぎ、半年前に肺癌と診断され入院した父は、捜索の依頼を五社に増やした。
それでも捜索は難航していたが、新聞に母の名前が載ったためようやく居所が知れたのだという。
母は仕事からの帰宅途中の路上で絶命しているのを発見された。
倒れていた場所が数日前に女性を殴って逃げると言う通り魔事件があった現場に近く、頭に傷を負っていたことから第二の犠牲者かと思われたが、司法解剖で死因は脳溢血と分かり、頭の傷は倒れた際にできたもので事件性はないのが判明し、それらが記事になったのだ。
法的に離婚していないので、新聞には当然戸籍上の名前が載った。それがなければ捜し出せなかったと彼は正直に告白した。
父は今まで連絡して来なかったのではなくて、連絡しようにもできなかったのだと知り、隆志の胸中はますます複雑になった。
「もしかしたら旧姓の『斎藤』を名乗っているかもしれないと、そちらの名前でも捜してもいたんですがね。まさか全く別の名前をお使いとは」
彼が捜索の苦労を恨みがましく当て擦った言葉に、隆志は長く抱えていた疑問の答えが見えた気がした。
隆志たち親子が名乗っていた『坂下』は世話になった母の友人の姓だった。
東京に出てしばらく彼女の家に住まわせてもらっていたので「家族も同然だから同じ名前にしましょう」と、これからは『坂下隆志』と名乗るよう母に言われた時、子供だった隆志はさほど疑問に思わず受け入れた。
が、時を経て学校の授業や親が離婚した友人の体験談から姓名は両親のどちらかの姓しか名乗れないと知った。
世久の家を出た理由を、はっきり母は教えてはくれなかった。隆志の方もきちんと訊ねた事はなかった。
真実を知るのが、なんとなく恐ろしかったからだ。
同じ理由で『坂下』が明らかな偽名と分かってもその訳を母に問えなかった。
何故偽名を使っていたかについては、ようやく分かった。母は『世久』や『斎藤』の名前を手掛かりに、父に捜されるのを避けていたのだ。
何故、母はそうまでして父から身を隠そうとしたのだろう。
父と母の間に何があったのか、もしかしたら父から事情を聞けるのではないかと期待したのだが、残念ながら臨終に間に合わなかった。
もはや何も問えない、答えない父を前に感傷にひたる間もなく、弁護士の太田親子に助けられながら、通夜と葬儀を喪主として執り行わなければならなかった。
葬儀の後、もし父の日記でも残っていれば両親の間に何があったか分かるかもしれないと期待し、父の遺品の片付けをしたが何もなかった。
葬儀の合間に拾った話では、父は人嫌いで有名だったようで特に親しい人間はいないらしく、明子でさえ知らないと首を振った夫婦の事情を知っている者はいそうもなかった。
詳しく調べようにも、隆志はこの春高校を卒業し就職も決まっていて十日後には職場での研修が始まる予定だったので、一通りの片づけを終えれば自分が生活する町へ戻らなければならなかった。
この土地の風習なのか世久家だけの慣習なのか分からないが、初七日法要、四十九日法要、それに納骨式まで葬儀当日にまとめてやってしまったので、喪主としての役目は終わっている。挨拶状などは父の交友関係を全く知らない隆志にはできないので、太田の弁護士事務所が代理でやってくれるということだった。
自分にできることは全てやったつもりの隆志が暇を告げると、太田親子に引き止められた。
「あなたには世久家に御戻りいただき、家を継いでもらわなければなりません。和也様が亡くなられた今、一人息子のあなたが後継者です」
言われるまでそんなこと考えもしなかった。商売をしている様子でもないのに『家を継ぐ』とはどういう意味なのか問うと、当主になることだと尚更理解できない返事が返ってきた。
「世久家を継げば、これら全てがあなたのものです」
見せられた資料には、冗談に思えるほど膨大な数字の資産が記載されていた。
それらを受け取る条件は、世久姓を名乗り、この家に戻って住むこと。
即答はできなかった。
母の急死。八年間会わなかった父の死。短期間に相次いで両親を亡くして動揺している今、巨額過ぎて実感できない遺産の相続話を持ってこられても冷静に考えられない。
この先の自分の人生を決めてしまいそうな大きな分岐点であるからこそ、簡単には返事できなかった。
古い大きな屋敷には白と黒の幕が張られている。
大勢の黒い服の大人たち。
線香の臭い。
屋敷の中の広間には、白い花に埋もれそうな祭壇。
気難しい顔の老人の写真。
父は祭壇の横に座って、次々とやってくる黒い服の人間たちに挨拶をしている。
父の横の席、上座はひとつ空いている。
まるで誰かを待っているように空いている。
広間のあちこちで囁かれる声。
――あの方は御次男でしょう
――しかし……様がお戻りにならないなら
――世久家にお戻りいただき、跡を継いでいただかなければなりません
もうあのアパートに帰っても、誰もいない。
――他人しかいない町より身内のいる町の方が
だから戻ろうと思った。
――その人は行かせたくないみたいだ
母さん……母さんは反対だったのかな。
――この家を出るのよ
どうして? こんな夜中に、カバン一つで?
床に置いたカバンが不意に揺れる。
ゆっくり、ゆっくり、カバンのジッパーが開いて。
中から、白い手が。
その手が、何かを指し示す。
振り返ると少し開いた襖の間に――目が。
目が覚めた。
一瞬、隆志はそこがどこなのか分からなかったが、格式高い日本間を見て思い出した。夕方まで休むよう明子に勧められ、奥の間に用意されたふとんに潜り込んですぐに眠ってしまったのだった。
体中に嫌な汗をかいていた。自分の周りの空気が淀んでいるような気がして風に当たりたくなり、隆志は布団から起き上がった。
部屋の中はすでに薄暗かったが白い障子を開け放つと、雨の日の午後とはいえ十分な明るさが部屋に差し込んできた。廊下の掃き出し窓を開けると、冷えた風が家の中に入り込む。隆志は廊下に座り、窓の向こうの中庭を眺めた。
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当然庭の向こうにある棟へは行ったこともなく、どこの廊下をどう通って行けばいいのかさえ知らない。
それほどこの屋敷は広く、しかも入り組んでいる。悪意ある迷路と思えるほどに。
大げさな話ではない。つい二週間前、隆志はこの家の中で迷子になったのだから。
父の葬儀をこの家で行なった時は、喪主であったので一つの部屋からあまり動くことはなく、移動する際は案内する人間がいたので大して不都合はなかった。が、葬儀の後で父が寝起きしていた別棟の部屋を一人で片付けしていて疲れ、少し気分転換しようと屋敷内を探索して歩いたら、迷った。
世久の屋敷は祖母が住んでいる離れや昔は親族や使用人が住んでいたという別棟など建て増しした建物は全て互いに行き来出来るよう廊下代わりの棟を作って無理な形でつなげてあり、その上母屋にも通じるようにしてあるため、方向感覚が狂ってしまうのだ。
この屋敷の中はどこへ行っても似たような障子の部屋と廊下がある。
せめて障子が開けてあれば部屋の中の様子の違いで、さっき通った所か区別できるのに、どの部屋の障子も閉め切ったままなので自分がどこを歩いているのかさえ分からなくなってくる。
廊下を歩いて歩いて、気づけば同じ部屋の前まで戻ってきてしまっている。それを三度繰り返して、隆志はぞっとした。結局捜しに来てくれた明子の案内で無事に父のいた棟へ戻れたが、あまりにあっさり戻れたことで逆に何か得体の知れない恐怖を覚えた。
父がこの屋敷から出さないようにしているのではないか。そんな考えすら、浮かんだ。
そもそもこの家にはいい思い出がほとんどない。
隆志がこの家に生まれて初めてきたのは九歳の時、祖父の葬儀のためだった。二月に入ったばかりの寒い日で、葬儀の後隆志は風邪で寝込んでしまった。
今考えると妙だが、父はそれまで一度も生家に帰らず、両親の話もしたことはなかった。だから予想外の家の大きさにも驚いたが、父が祖父の葬儀の後「家を継ぐためこの家に戻る」と言い出した時は、もっと驚いた。
母は見知らぬ土地での暮らしの不安から、隆志は仲のいい友達と別れなければならない寂しさから反対したが、いつもの父らしくなく強引に引越しを決めてしまった。
しかし、隆志がこの家で暮らしたのは、たった一年足らずだった。
隆志を連れて家を出た母は大学時代の友人を頼って東京に行き、彼女の世話で仕事と住居を得た。
父とはずっと会わなかった。
連絡すら来なかった。
間接的ではあるが、父から連絡が来たのは八年後のつい最近、それも母の葬儀の翌日だった。
「世久、いや、坂下隆志さん……ですね?」
くたびれたスーツの背の低い男が、隆志の家に訪ねてきた。彼が差し出した名刺には『本田リサーチ』と刷られていた。
「あなたのお父様のご依頼で、あなたとお母様をずっと捜していました。一刻を争うので単刀直入に申し上げます。あなたのお父様が御危篤です。どうぞ今すぐ、世久の家へお戻りください」
思いも寄らない事態に対しての混乱と父への複雑な感情とですぐに返事ができなかったが、彼の説得に押し切られて同行した。
その道すがら、彼から今まで知らなかった事情を聞かされた。
母は家を出た後で父に離婚届を送ったが、父はそれを提出せず、定期的に興信所に依頼してずっと母と隆志の行方を捜していたそうだ。
しかし見つからないまま八年間が過ぎ、半年前に肺癌と診断され入院した父は、捜索の依頼を五社に増やした。
それでも捜索は難航していたが、新聞に母の名前が載ったためようやく居所が知れたのだという。
母は仕事からの帰宅途中の路上で絶命しているのを発見された。
倒れていた場所が数日前に女性を殴って逃げると言う通り魔事件があった現場に近く、頭に傷を負っていたことから第二の犠牲者かと思われたが、司法解剖で死因は脳溢血と分かり、頭の傷は倒れた際にできたもので事件性はないのが判明し、それらが記事になったのだ。
法的に離婚していないので、新聞には当然戸籍上の名前が載った。それがなければ捜し出せなかったと彼は正直に告白した。
父は今まで連絡して来なかったのではなくて、連絡しようにもできなかったのだと知り、隆志の胸中はますます複雑になった。
「もしかしたら旧姓の『斎藤』を名乗っているかもしれないと、そちらの名前でも捜してもいたんですがね。まさか全く別の名前をお使いとは」
彼が捜索の苦労を恨みがましく当て擦った言葉に、隆志は長く抱えていた疑問の答えが見えた気がした。
隆志たち親子が名乗っていた『坂下』は世話になった母の友人の姓だった。
東京に出てしばらく彼女の家に住まわせてもらっていたので「家族も同然だから同じ名前にしましょう」と、これからは『坂下隆志』と名乗るよう母に言われた時、子供だった隆志はさほど疑問に思わず受け入れた。
が、時を経て学校の授業や親が離婚した友人の体験談から姓名は両親のどちらかの姓しか名乗れないと知った。
世久の家を出た理由を、はっきり母は教えてはくれなかった。隆志の方もきちんと訊ねた事はなかった。
真実を知るのが、なんとなく恐ろしかったからだ。
同じ理由で『坂下』が明らかな偽名と分かってもその訳を母に問えなかった。
何故偽名を使っていたかについては、ようやく分かった。母は『世久』や『斎藤』の名前を手掛かりに、父に捜されるのを避けていたのだ。
何故、母はそうまでして父から身を隠そうとしたのだろう。
父と母の間に何があったのか、もしかしたら父から事情を聞けるのではないかと期待したのだが、残念ながら臨終に間に合わなかった。
もはや何も問えない、答えない父を前に感傷にひたる間もなく、弁護士の太田親子に助けられながら、通夜と葬儀を喪主として執り行わなければならなかった。
葬儀の後、もし父の日記でも残っていれば両親の間に何があったか分かるかもしれないと期待し、父の遺品の片付けをしたが何もなかった。
葬儀の合間に拾った話では、父は人嫌いで有名だったようで特に親しい人間はいないらしく、明子でさえ知らないと首を振った夫婦の事情を知っている者はいそうもなかった。
詳しく調べようにも、隆志はこの春高校を卒業し就職も決まっていて十日後には職場での研修が始まる予定だったので、一通りの片づけを終えれば自分が生活する町へ戻らなければならなかった。
この土地の風習なのか世久家だけの慣習なのか分からないが、初七日法要、四十九日法要、それに納骨式まで葬儀当日にまとめてやってしまったので、喪主としての役目は終わっている。挨拶状などは父の交友関係を全く知らない隆志にはできないので、太田の弁護士事務所が代理でやってくれるということだった。
自分にできることは全てやったつもりの隆志が暇を告げると、太田親子に引き止められた。
「あなたには世久家に御戻りいただき、家を継いでもらわなければなりません。和也様が亡くなられた今、一人息子のあなたが後継者です」
言われるまでそんなこと考えもしなかった。商売をしている様子でもないのに『家を継ぐ』とはどういう意味なのか問うと、当主になることだと尚更理解できない返事が返ってきた。
「世久家を継げば、これら全てがあなたのものです」
見せられた資料には、冗談に思えるほど膨大な数字の資産が記載されていた。
それらを受け取る条件は、世久姓を名乗り、この家に戻って住むこと。
即答はできなかった。
母の急死。八年間会わなかった父の死。短期間に相次いで両親を亡くして動揺している今、巨額過ぎて実感できない遺産の相続話を持ってこられても冷静に考えられない。
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