1 / 6
01.お先真っ暗プロローグ
しおりを挟む
まず最初に、私は悪くない。
「下町の食堂とやらに行ってみたいわ」
「それは…なぜです?」
「アンデル様はね、民の生活を知るために時々城下へ視察に行かれるそうなの。あぁお優しいアンデル様…素敵」
悪いのは、お嬢様にこんな情報をもたらした昨日のお茶会で会ったであろう噂好きの誰かさん。
そして、お忍びがバレてるうかつな王子様がそもそもの元凶だと思う。
「メリル、ここがいいわ。入ってみましょうよ」
「ここは食堂ではありませんよ、酒場です。お嬢様が入られるような場所では…」
「ここがいいの。ごらんなさい、とっても賑やかだわ」
ご覧の通り、とってもガラが悪いんですけど。
お嬢様のチョイス、まじないわー。場違い過ぎて、一歩入っただけで注目の的だ。
「ヒュー、別嬪さんのお出ましだ。ご注文は?」
話し声、笑い声、手を叩く音、からかうような口笛。
酒場は昼間でも客が多く、確かに賑わっていた。
丈夫そうな装備の人も多いから、冒険者御用達の店なのかもしれない。
冒険者って血の気が多いっていうかガラが悪いっていうか…とにかくとってもハズレ。
「いけませんお嬢様、別の店にしましょう。ここはお酒を飲む場所なのです、お嬢様はお酒呑まないでしょう?」
「そ、そうね…不躾に見られて、気分が悪いわ」
流石にないなと判断されたのか、あっさり踵を返す。
「やっぱりあちらの店にしましょう、行くわよ…あら?髪がほどけて…」
「あー…やられましたね」
髪を緩く編んでいたリボンは、そう簡単にほどけるものでもない。
リボンの上から被せるように付けていた髪飾りごと、故意に誰かが引っ張ったのだろう。恐らく、先ほどの酒場にいた誰かが。
すぐに気付かなかったということは、刃物で切り取られたのかもしれない。
「やられた?どういうことなの」
「自然に落ちたとは考えにくいので、すれ違ったどなたかに盗まれたのではと」
「あれは誕生日にお父様が下さった大切な物よ、取り返してきて」
何でそんな大事な物付けてきちゃったのかなー。街に出るだけなのにハリキリすぎなんだよ。
「誰が犯人か分かり兼ねますし、難しいかと…」
「駄目よ。貴女があんな場所に連れて行ったんでしょう、何とかしなさい」
私、いいって言ってないし。勝手に入ったのお嬢様だし。
「お許しくださいませ…」
酒場に居た誰かだとは思うけど、見つかるはずない。素直に返してくれるハズないし、皆口裏合わせするだろうし、最悪いちゃもん付けたって逆ギレされるかもしれないし。
どうしようもないので、謝るしかできない。私、悪くないのにね。
「聞きたくないわ。謝って許せる問題ではないのよ」
はぁ?はあ…子守失敗の代償がクビか…最近雇ってもらったばっかりなのにな。
っていうか先輩方に押し付けられた挙句がこの様とか本当、最悪。
我儘なお嬢様が居るお屋敷だとは聞いてたけど、理不尽すぎる。
「あの髪飾りは守護の御守りで、ドラゴンの鱗が使われていたとても貴重なものなんだから」
全然守れてないんですけどー。絶対詐欺なんですけどー。
「…申し訳ございません」
「聞かないったら。何とかするまで、うちに帰ってきちゃ駄目よ」
マジか。正式に解雇してくれないんなら、退職金も出ないし次の職も探せない。
まぁ何とかできるハズもないので、こっそり屋敷に帰って荷物持ち出して、離れた街にでも行ってー…
「とは言っても誰が持っているのか分からないなら、どうしようもないわ」
ん?
「おっしゃる通りだと存じます」
「貴女に弁償できるとは思えないし、そもそも一点物だったらしいし…いいわ、私が手配しましょう」
…ん?
「ドラゴンの鱗を取ってきなさい。そしたら許してあげるわ」
それ、無くなった髪飾りを見つけるより無理なやつですからね。
さて帰ったら荷物をまとめて、ドラゴンを探しに行くフリで離れた街にー…
「馬車を出して、黒の森まで送ってあげるわ。そこから先は自分で何とかなさい。私は新しく作り直してくれるデザイナーを手配して待ってるわ」
あ、これ逃げられないやつ。
「お嬢様…私はドラゴンを見たことがないのですが…」
「ドラゴンはね、綺麗なお姫様が好きなのよ。攫ってしまう習性があるの。もう着ないドレスをあげるから、寄ってきた隙に剥がせばいいのよ」
人間の爵位や出自なんてきっと分からないだろうから、着飾っていれば騙されるに決まっているわとのこと。それ、何情報よ…何処情報よ…。
習性とか図鑑にでも出てきそうな紹介してるけど、絵本の話ですよねそれ。
あー、頭痛くなってきた。お嬢様はもう15歳になるはずなのに、ガチで言ってるんだろうか。
「あら、やっと後悔した顔したわね?いまさら遅いんだから」
お嬢様は、貴族だ。人の悪意や敵意には敏感で、そんなとこだけ察しが良い。
ぬかった。侮った。私が、お嬢様が悪いのにと思っていたことなんて筒抜けだったのだろう。
いやでも…本当にどう考えてもお嬢様が悪い案件だったんですけど?
まぁ盗んだヤツが悪いんだけどさー。どっちにしろ私、悪くないじゃん。
反省なんかできるか!
「逃がさないわよ、森で怯えて、反省なさい!」
そして私は、八つ当たりというか濡れ衣というかで魔物の住む黒の森へとドナドナされた…。
「下町の食堂とやらに行ってみたいわ」
「それは…なぜです?」
「アンデル様はね、民の生活を知るために時々城下へ視察に行かれるそうなの。あぁお優しいアンデル様…素敵」
悪いのは、お嬢様にこんな情報をもたらした昨日のお茶会で会ったであろう噂好きの誰かさん。
そして、お忍びがバレてるうかつな王子様がそもそもの元凶だと思う。
「メリル、ここがいいわ。入ってみましょうよ」
「ここは食堂ではありませんよ、酒場です。お嬢様が入られるような場所では…」
「ここがいいの。ごらんなさい、とっても賑やかだわ」
ご覧の通り、とってもガラが悪いんですけど。
お嬢様のチョイス、まじないわー。場違い過ぎて、一歩入っただけで注目の的だ。
「ヒュー、別嬪さんのお出ましだ。ご注文は?」
話し声、笑い声、手を叩く音、からかうような口笛。
酒場は昼間でも客が多く、確かに賑わっていた。
丈夫そうな装備の人も多いから、冒険者御用達の店なのかもしれない。
冒険者って血の気が多いっていうかガラが悪いっていうか…とにかくとってもハズレ。
「いけませんお嬢様、別の店にしましょう。ここはお酒を飲む場所なのです、お嬢様はお酒呑まないでしょう?」
「そ、そうね…不躾に見られて、気分が悪いわ」
流石にないなと判断されたのか、あっさり踵を返す。
「やっぱりあちらの店にしましょう、行くわよ…あら?髪がほどけて…」
「あー…やられましたね」
髪を緩く編んでいたリボンは、そう簡単にほどけるものでもない。
リボンの上から被せるように付けていた髪飾りごと、故意に誰かが引っ張ったのだろう。恐らく、先ほどの酒場にいた誰かが。
すぐに気付かなかったということは、刃物で切り取られたのかもしれない。
「やられた?どういうことなの」
「自然に落ちたとは考えにくいので、すれ違ったどなたかに盗まれたのではと」
「あれは誕生日にお父様が下さった大切な物よ、取り返してきて」
何でそんな大事な物付けてきちゃったのかなー。街に出るだけなのにハリキリすぎなんだよ。
「誰が犯人か分かり兼ねますし、難しいかと…」
「駄目よ。貴女があんな場所に連れて行ったんでしょう、何とかしなさい」
私、いいって言ってないし。勝手に入ったのお嬢様だし。
「お許しくださいませ…」
酒場に居た誰かだとは思うけど、見つかるはずない。素直に返してくれるハズないし、皆口裏合わせするだろうし、最悪いちゃもん付けたって逆ギレされるかもしれないし。
どうしようもないので、謝るしかできない。私、悪くないのにね。
「聞きたくないわ。謝って許せる問題ではないのよ」
はぁ?はあ…子守失敗の代償がクビか…最近雇ってもらったばっかりなのにな。
っていうか先輩方に押し付けられた挙句がこの様とか本当、最悪。
我儘なお嬢様が居るお屋敷だとは聞いてたけど、理不尽すぎる。
「あの髪飾りは守護の御守りで、ドラゴンの鱗が使われていたとても貴重なものなんだから」
全然守れてないんですけどー。絶対詐欺なんですけどー。
「…申し訳ございません」
「聞かないったら。何とかするまで、うちに帰ってきちゃ駄目よ」
マジか。正式に解雇してくれないんなら、退職金も出ないし次の職も探せない。
まぁ何とかできるハズもないので、こっそり屋敷に帰って荷物持ち出して、離れた街にでも行ってー…
「とは言っても誰が持っているのか分からないなら、どうしようもないわ」
ん?
「おっしゃる通りだと存じます」
「貴女に弁償できるとは思えないし、そもそも一点物だったらしいし…いいわ、私が手配しましょう」
…ん?
「ドラゴンの鱗を取ってきなさい。そしたら許してあげるわ」
それ、無くなった髪飾りを見つけるより無理なやつですからね。
さて帰ったら荷物をまとめて、ドラゴンを探しに行くフリで離れた街にー…
「馬車を出して、黒の森まで送ってあげるわ。そこから先は自分で何とかなさい。私は新しく作り直してくれるデザイナーを手配して待ってるわ」
あ、これ逃げられないやつ。
「お嬢様…私はドラゴンを見たことがないのですが…」
「ドラゴンはね、綺麗なお姫様が好きなのよ。攫ってしまう習性があるの。もう着ないドレスをあげるから、寄ってきた隙に剥がせばいいのよ」
人間の爵位や出自なんてきっと分からないだろうから、着飾っていれば騙されるに決まっているわとのこと。それ、何情報よ…何処情報よ…。
習性とか図鑑にでも出てきそうな紹介してるけど、絵本の話ですよねそれ。
あー、頭痛くなってきた。お嬢様はもう15歳になるはずなのに、ガチで言ってるんだろうか。
「あら、やっと後悔した顔したわね?いまさら遅いんだから」
お嬢様は、貴族だ。人の悪意や敵意には敏感で、そんなとこだけ察しが良い。
ぬかった。侮った。私が、お嬢様が悪いのにと思っていたことなんて筒抜けだったのだろう。
いやでも…本当にどう考えてもお嬢様が悪い案件だったんですけど?
まぁ盗んだヤツが悪いんだけどさー。どっちにしろ私、悪くないじゃん。
反省なんかできるか!
「逃がさないわよ、森で怯えて、反省なさい!」
そして私は、八つ当たりというか濡れ衣というかで魔物の住む黒の森へとドナドナされた…。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。
それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。
「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」
『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。
しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。
家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。
メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。
努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。
『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる