これで終わりじゃないよね?

もとむげ

文字の大きさ
5 / 23
始まりの章

第四話 「覚悟が決まらない」

しおりを挟む
「予め言っておくが、君の望みは私が叶える訳ではない」

「……なんだって?」

しばらくの沈黙の後、全てを知る者から発せられた言葉は意外なものだった。

俺としては、もうストレートに答えを教えてくれるのだとばかり思っていたので、余計にそう思った。

「君の望みである「生きる意味」は、君自身で解き明かすのだ」

「俺自身で解き明かす?あんたが教えてくれるんじゃないのか?」

「……答えを知ってもらいたいとは言ったが、教えると言った覚えはない」

――その言葉を聞いて納得がいかなかった俺は、全てを知る者に問い詰めた。

「なあ、それでも良いんだけどさ、自分自身で解き明かせ、なんてそんなおかしい話あるかよ。今まで考えても考えても答えを知るには至れなかったんだぜ?だから俺はあんたみたいな存在を望み、あんたは俺の前に現れた。そうだろ?それに自分自身で解き明かせるくらいなら、あんたが出てくる必要もないはずだ」

どうしてもダメだったからあんたが来てくれたんじゃないのか?

頭がパンクするくらい考えても疑問しか湧かない俺に、どうやって解き明かせと言うのか……。

若干の失望がこもっていた俺の問い詰めに対し、全てを知る者は先程から少しも変わらない淡々とした口調で答えた。

「今が「時期」と言って良い。君がどうしようもなくなり、私のような存在を強く望むのも「時期」だっただけのこと。それは同時に、君がかねがね望み、考えてきた生きる意味を知ることが出来る「時期」でもあるのだ。そして今、君は私が出てくる必要はないはずだと言ったが、私は存在する必要がある。先程、私が述べた内容を思い出してくれれば理解してもらえるだろう。決して答えを教えるために私が居る訳ではない」

「……じゃあ俺はどうすれば良いんだ。その「時期」とやらに身を任せれば良いのか?それとも、また考えて考えて頭を悩ませってか?そんなことしたってどうせ答えは出ないぜ」

ここまで来ると、もう何が何だか分からなくなってくる。

俺が全てを知る者の存在を強く望むのも時期?

俺が生きる意味を知ることが出来るのも時期?

――ってことは、全てを知る者が言っていることは「運命」のことなのか?

「まだ私の話は終わっていない。最後まで聞いてもらおう」

「……ああ、話の腰を折って悪かった。続きを頼む」

俺が先を促すと、全てを知る者は相も変わらず、感情の起伏のまるで無い口調で言った。

「君はこれからこの空間に来る前の世界に戻り、また普通に生活を送っていくことになる」

――この一言に俺が驚いてしまったのは、これから壮大な冒険が始まるんだとでも思っていたからだろうか?

「今まで通り……か?」

「そうだ」

「じゃあさ、ここはやっぱり夢の中なのか?」

「現実...と言いたいところだが、今は君の解釈に任せよう。ただ一つだけ、この暗闇から次の景色に変わる時、君は答えに繋がっていく」

「……なるほどな。まあとりあえず、ここは夢の中なんだって思うことにするよ。そして要するに、いつもと変わらない日常が過ぎていくのは昨日までで、明日からは何らかの変化があるってことだな?」

――目が覚めた時から毎日が変わっていく。

そこまで大袈裟に変わるって訳でもなさそうだが、少なくとも今までのような単調な日々にはならないということだ。それが分かっているなら、幾分心が踊る……かもしれない。

「……もう一つ聞いて良いか?」

「何か質問でも?」

この暗闇から見慣れた景色に変わる時、答えに繋がる毎日を数えていくことになる。それだけで考えれば、一体何が起こるんだろうかとワクワクしてしまう。

実際、今俺は若干嬉しいと感じているかもしれない。

しかし、もう単調でつまらないかもしれないが、平和だった毎日とはさよならをしなければならないんだなと思うと、なんだか哀愁を感じずには居られない。

平和じゃ無くなるなんてことは無いのかもしれないが、今までの日々が変わらないで欲しいという気持ちが少なくとも俺の中に存在している。

要するに、不安なのだ。

恐らく、これから起きるであろう出来事の中には受け容れ難い出来事もあるはず。

今のままだと、俺は多分受け容れることも出来ないだろうし、目を逸らして逃げてしまうかもしれない。

だからこそ、訊いてみたかった。

「俺は……本当に生きる意味を知ることが出来るのか?」

「ん?その答えを知りたくは無いのか?」

「いや、そうじゃなくて。本当に答えはあるんだよな?」

「なぜそのようなことを聞く?」

「俺はいつからか考えてきた生きる意味を知りたい。この気持ちは確かなんだ。それに、あんたみたいな存在が俺の目の前に現れてくれたことだって、普通に考えたらありえないことだぜ?だから、嬉しいし楽しみなんだよ。これからどんなことが起きるのか、生きる意味の答えはなんなんだろうかって。でも……」

「「覚悟が決まらない」んだな」 

――最初、確かこんなやりとりがあったな。

全てを知る者には何もかもお見通しってわけか?

「……そうだよ。どうしても躊躇してしまうんだ」

ここで不安を和らげるように優しく諭してくれれば良かったのだが、全てを知る者は何も変わらない。ただ言葉だけを並べて、俺の耳に入れるのだ。

「心配する必要は無い。言ったはずだ。物事は思っているよりも単純であることが多いと」

「そんなこと言うけどさ、俺にとっては……」

――この時、俺は異変に気付いた。空間が歪み始めたのだ。

グニャっと空間が折り曲げられ、まるでSF映画に出てきそうなワンシーンを見ているようだった。

でもそれより解せなかったのは、暗闇は徐々に明るく彩りを加えて行くのを認識できているにも係わらず、俺の視界は逆に暗黒で覆い尽くされていくということだった。

「ちょっと待ってくれ!覚悟がまだ……」

「ここにはまた来ることになる。安心しろ」

――ああ、これは意識を失うってことなんだな。

意識が途切れる寸前、全てを知る者の口元が笑ったように見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...