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14話 アレのでか過ぎる人間ヒイロ
しおりを挟む絶対に関わってはいけない人、クレイヴ。
それを思い出したヒイロはなんとか逃げ出そうと模索する。しかし、既に目は合い、手招きされている現状を打破することなどできない。
仕方なくヒイロはクレイヴの隣にやってきた。
「さあ、ヒイロ、ポージングだあっ」
壁一面に張られた大きな鏡。所々歪んではいるがある程度鮮明で、風呂から湯気が漂う風呂場でも一切くもっていない。
自分の姿と、筋肉を強調するようなポーズをとるクレイヴが細部までクッキリよく見える。
赤茶の髪をしたクレイヴは、170センチそこそこのヒイロより10センチ以上背が高く、体格も良い。それはまさに筋骨隆々と言えるだろう。
そして股の間からはブランブランとクレイヴのアレが何者にも邪魔されることなくぶら下がる。
逃げたい衝動に駆られない男は、この世にいないだろう。だが、ムキッと力を入れたその姿は、逃げた場合の恐ろしさを物語っていた。
「何をしている、さっさとタオルを取れええぇい」
隣に立たされ同じポーズを要求されるもまごまごしていると、ヒイロは腰に巻いていたタオルを剥ぎ取られる。
すると当然ではあるがヒイロのアレも露となった。
ヒイロが密かに自信を持っている自慢の巨大兵器が。
「お、おおぉぉ、で、でかい……」
通常状態同士ではあるが、クレイヴの倍はあろうかというアレがぶらりと揺れる。
「か、返して下さいっ」
「お、おおお、でかい」
タオルを取り返そうと動いたヒイロの動きに一歩遅れる形でアレが揺れる。手で隠しても一切隠しきれないアレに、クレイヴはまたそんなことを呟いてしまった。
自分のを見て、またヒイロのを見て。驚愕と脅威を感じている目。
しかしそれも束の間、クレイヴは己を取り戻す。
ニカッ、と笑いクレイヴは言う。
「よおし、巨根のヒイロよ。まずはこのポーズだーっ」
「タ、タオルをーっ」
タオルの返還は適わぬままヒイロとクレイヴはポーズをとり続けた。
クレイヴは溢れんばかりの筋肉量。ヒイロもそれなりに締まった身体をしてはいるが、隣にクレイヴがいては貧相に見える。
それでもそれなりには筋肉が浮いて見え、何よりアレがでかすぎる。
もしここに誰かが入ってくれば、自らの危機を直感するだろう。
とは言えこの季節、寮に誰かがいることはほとんどない。誰も入ってこないまま10分程が経ち、ヒイロも慣れてきて、とりとめのない会話をしながらポージングをとっている。
「ふむ、では薬売りになるために来たと」
クレイヴのサイド・チェスト。
「はい。来たというか、来ないと駄目だったんですけど」
ヒイロのサイド・トライセップス。
「そうか薬売りか、うむ。貴様は弱そうだからそれが良い」
クレイヴのフロン・ダブル・バイセップス。
「はい」
ヒイロのフロント・ラット・スプレッド。
「しかし、やはり華は冒険者だ。精霊と共に旅をしまだ見ぬ地をこの目で見る。素晴らしいことだ。ヒイロ、貴様はそれに興味がないのか?」
クレイヴのバック・ダブル・バイセップス。
「……そう、ですね、僕は……」
ヒイロのバック・ラット・スプレッド。
「だがヒイロよ。薬売りとは命を救う職、弱者を救い、強者を救う職。その心意気、実に天晴れだ」
クレイヴはアブドミナル・アンド・サイのポーズをしながら言った。
「あ、ありがとうございます」
ヒイロもアブドミナル・アンド・サイのポーズをしながら答えた。このポーズはアレがよく映える。
「ようしポージングも終わりだ、では共に風呂に入ろうではないか、ヒイロっ」
「は、はいっ」
関わらない方が良い、と言われたクレイヴ。しかしヒイロはもう関わらないでおこうとは思っていない。
既に関わってしまっているし、何より良い人だったからだ。
多少強引で意味の分からない部分も多いが、クレイヴの言葉には力があり、常に本心であり、目の前の景色すら上手く見えていなかったヒイロの前を切り開いてくれた。
短時間の会話だったが、ヒイロはそう思う。
クレイヴが浴槽へ歩き始めたその後ろを、ヒイロは着いて行った。
その背中に、なんだか懐かしいものを感じながら。
「む、ヒイロよ、そこは滑るぞ」
「え?」
空中で回転するヒイロ。
スリットからされた2つの警告、クレイヴに関わるな、風呂場に凄く滑る床があるから気をつけろ。
建物に関してで言えば唯一あった警告を、ヒイロはすっかり忘れていた。
他のタイルと一切色を変えず紛れながら存在した踏めば必ず統べる床のタイルを踏み、ヒイロは見事に滑ってしまったのだ。
「危ないヒイロっ」
頭から床に当たれば最悪の事態もありえる。クレイヴは回転するヒイロを助ける為に尋常でなく素早い動きを見せる。
「う、うぅ……」
それは間に合い、ヒイロは硬い床に頭をぶつけずにすんだ。しかし……ヒイロは何か柔らかい物に頭をぶつけている。
どちらかと言うと、柔らかい物が口に当たっている。
「う――、うええええええ、うえええええ」
「ふっ、ヒイロよ」
目を開けたヒイロは、一瞬完全に機能を停止し、直後口元を拭いながら激しくえずきだした。
「知らずに滑り、命の危機に陥りながらも俺の股間に攻撃を食らわすとは……、その心意気、実に天晴れだ」
そう、ヒイロの口に当たったのはクレイヴの股間。
クレイヴはその素早い動きでヒイロと床の間に身体を滑りこませたが、ヒイロもヒイロで体勢を整え、なんとか空中で回転し後頭部からではなく手をつけるよううつぶせに落ちていた。ゆえの事故。
「おええええええ」
「この圧倒的な力量差の中、臆することなく急所に一撃。そのような覚悟と強い意思を見せられてしまっては仕方ない。ヒイロよ、我がギルド、メガクレイヴギルドに入ることを許可しようっ」
「おおえええええ、え?」
よく分からない言葉に思わずヒイロは聞き返す。
「いやむしろ入る以外の選択肢はないと思えっ」
だがもちろん返答はない。
「ふははははは。感謝しろヒイロよ。さあ共に行くぞっ。いやまずは風呂に入るぞおおおお」
「うわあああああ」
ヒイロは担ぎ上げ、そのまま広い湯船にダイブするクレイヴ。
決して関わってはいけないクレイヴの一端をヒイロは知り、そして今後全容を知っていくことになる。
ヒイロの学園生活は間違いなく前途多難。
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