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空高く、天を仰ぐ
第36話 八咫烏は見ている - その5
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「だからそんなに桃花ちゃんの機嫌が悪かったのね。」
「そうなんです!気分悪そうにすれば今度こそレイちゃん止まるかなって思ったら逆に連れて行っちゃうし!」
「ダメよ桃花ちゃん。そういう時はねぐいぐい行くもんよ。そうすれば、振り放す気は起きないものよ。」
「あのなぁ、純情な乙女に変な知識植え付けないでくれ。どのみち、僕は止まるときは止まるし、止まらないときはどうやっても止まらないさ。」
「だからそれをやめてって言ってるでしょ!」
車内で僕たち女性組で談笑していて、それを左から右へと聞き流しながら運転している桧君がちょうど赤信号で停車した瞬間に僕たちに向けて話し出す。
「それで、そっちがどうだったかは分かった。こっちが見つけた情報なんだが、光ちゃんの親、既に両方とも死亡済みだった。父は烏丸孝標の次男、烏丸袵。母は鈴埜宮空。歴史書もあったが、どうやら烏丸家と鈴埜宮家、そして時雨家は三竦みのようなものだったみたいだ。そして、近年になって時雨家を烏丸家が吸収したことで今の状況になったらしい。つまりだ、光ちゃんは…言葉を選ばなければだが、双方にとって望まれない子であったのだと思われる。まあ、仮説だがね。」
「ふむ。そうなると無理に連れていくというのも不味いんじゃないかな。それこそ、烏丸だけでなく鈴埜宮にもだが。」
「それなんだけどね、光ちゃんは両親の死後の行方が分かっていないみたいなの。だから、生きているかどうかも分からないみたいなのよね。」
「それでも、小さな子であればどこかしらに保護されている可能性があるわけだから。そういう機関に行ってみるのも手じゃない?」
「逆に聞くが、一大家系である烏丸家がそれを認識していないとでも思うのかい?」
烏丸財閥はサービス業に重点を置いた会社だ。宿泊、飲食、交通、少なくともこの街の中で烏丸財閥の恩恵を受けずに暮らすのは難しいだろう。
それこそ、託児などの場合は知らぬわけがないだろう。個人の場合もあるだろうが、さほど大きい都市ではないからわざわざ好んでそんなことをする人もほとんどいないだろう。それに、そのような個人活動をしているならば気づかないわけがないだろう。
「そうだな。ないとは言い切れないが可能性としては低いだろう。そうなるとありえるのは、鈴埜宮で保護されているか、もしくは…。」
「どこかで野垂れ死んでいる可能性。それか、考えたくはないが少女嗜好者に襲われている可能性もある。」
「どのみち、気分がいいものではないわね。」
歩さんがそう言ったのを皮切りに車内に重苦しい空気感が張り詰める。
実際、犯罪件数的には減少傾向にはあるがそれでも0ではない。ただ、この件に足を踏み込んだ時点でその懸念をする必要があるというのも、何とも言えないものではある。
そこから2時間ほど、グネグネと道路を練り走りながら車を走らせて住宅街へと入り込む。すると、何やら変な感覚がこの身を包み、離れていった。そして、すぐさま急停車をされた。おかげで僕と桃花の二人が激しく前の座席に激突する。
「一体どうした!?」と声を荒げると、
「急に人が現れてね。思わずブレーキを踏んだんだが...。」と冷や汗を浮かべながら苦笑いをする桧君が答える。
すると、コンコンと運転席側の窓を急に出てきた人に軽く叩かれる。
少しだけ開けて、桧君がどうしたのかと問うと、
「警察の者です。すみませんが、この近くで少女の誘拐事件が起こっていまして、一時的に立ち入りを規制しているのですが。」とその人物は警察手帳を提示しながら答える。
その警察手帳には『警視庁公安部対神性特務課弐級職員 穂積伸二』と印字されていた。なるほど、対神課関連なのか。なかなか面倒なことになるぞ...。
「君、その少女って色白で長い銀髪の女の子かい?」と後部座席の方から聞くと、彼は困ったようにしている。
どうやら、心当たりがありそうだな。であればと、桧君の左の肩を軽く叩き、「この先にいるかも」と小声で伝える。すると、桧君が左目でウインクし、窓の外にいる彼に対して、
「わかりました。では、先を急いでいるのでこれで。」と、一気にエンジンを吹かして彼をおいていく。
「あっ、この。待て!」と、彼は全速力で走りだす。彼も想像よりも足が速く、トップスピードは車とさほどの差がなかった。なかなか彼も化け物だな。しかし、トップスピードを超えてから徐々に彼の速度が落ちていきすぐに息を切らしたのだろう、後部の窓から彼が息を切らしているのを目にしながらそのまま進んでいった。
「それからは、君たちを発見して回収して逃げてきている。まあ、僕たちの今までの行動はこんなものさ。」
「そうなんです!気分悪そうにすれば今度こそレイちゃん止まるかなって思ったら逆に連れて行っちゃうし!」
「ダメよ桃花ちゃん。そういう時はねぐいぐい行くもんよ。そうすれば、振り放す気は起きないものよ。」
「あのなぁ、純情な乙女に変な知識植え付けないでくれ。どのみち、僕は止まるときは止まるし、止まらないときはどうやっても止まらないさ。」
「だからそれをやめてって言ってるでしょ!」
車内で僕たち女性組で談笑していて、それを左から右へと聞き流しながら運転している桧君がちょうど赤信号で停車した瞬間に僕たちに向けて話し出す。
「それで、そっちがどうだったかは分かった。こっちが見つけた情報なんだが、光ちゃんの親、既に両方とも死亡済みだった。父は烏丸孝標の次男、烏丸袵。母は鈴埜宮空。歴史書もあったが、どうやら烏丸家と鈴埜宮家、そして時雨家は三竦みのようなものだったみたいだ。そして、近年になって時雨家を烏丸家が吸収したことで今の状況になったらしい。つまりだ、光ちゃんは…言葉を選ばなければだが、双方にとって望まれない子であったのだと思われる。まあ、仮説だがね。」
「ふむ。そうなると無理に連れていくというのも不味いんじゃないかな。それこそ、烏丸だけでなく鈴埜宮にもだが。」
「それなんだけどね、光ちゃんは両親の死後の行方が分かっていないみたいなの。だから、生きているかどうかも分からないみたいなのよね。」
「それでも、小さな子であればどこかしらに保護されている可能性があるわけだから。そういう機関に行ってみるのも手じゃない?」
「逆に聞くが、一大家系である烏丸家がそれを認識していないとでも思うのかい?」
烏丸財閥はサービス業に重点を置いた会社だ。宿泊、飲食、交通、少なくともこの街の中で烏丸財閥の恩恵を受けずに暮らすのは難しいだろう。
それこそ、託児などの場合は知らぬわけがないだろう。個人の場合もあるだろうが、さほど大きい都市ではないからわざわざ好んでそんなことをする人もほとんどいないだろう。それに、そのような個人活動をしているならば気づかないわけがないだろう。
「そうだな。ないとは言い切れないが可能性としては低いだろう。そうなるとありえるのは、鈴埜宮で保護されているか、もしくは…。」
「どこかで野垂れ死んでいる可能性。それか、考えたくはないが少女嗜好者に襲われている可能性もある。」
「どのみち、気分がいいものではないわね。」
歩さんがそう言ったのを皮切りに車内に重苦しい空気感が張り詰める。
実際、犯罪件数的には減少傾向にはあるがそれでも0ではない。ただ、この件に足を踏み込んだ時点でその懸念をする必要があるというのも、何とも言えないものではある。
そこから2時間ほど、グネグネと道路を練り走りながら車を走らせて住宅街へと入り込む。すると、何やら変な感覚がこの身を包み、離れていった。そして、すぐさま急停車をされた。おかげで僕と桃花の二人が激しく前の座席に激突する。
「一体どうした!?」と声を荒げると、
「急に人が現れてね。思わずブレーキを踏んだんだが...。」と冷や汗を浮かべながら苦笑いをする桧君が答える。
すると、コンコンと運転席側の窓を急に出てきた人に軽く叩かれる。
少しだけ開けて、桧君がどうしたのかと問うと、
「警察の者です。すみませんが、この近くで少女の誘拐事件が起こっていまして、一時的に立ち入りを規制しているのですが。」とその人物は警察手帳を提示しながら答える。
その警察手帳には『警視庁公安部対神性特務課弐級職員 穂積伸二』と印字されていた。なるほど、対神課関連なのか。なかなか面倒なことになるぞ...。
「君、その少女って色白で長い銀髪の女の子かい?」と後部座席の方から聞くと、彼は困ったようにしている。
どうやら、心当たりがありそうだな。であればと、桧君の左の肩を軽く叩き、「この先にいるかも」と小声で伝える。すると、桧君が左目でウインクし、窓の外にいる彼に対して、
「わかりました。では、先を急いでいるのでこれで。」と、一気にエンジンを吹かして彼をおいていく。
「あっ、この。待て!」と、彼は全速力で走りだす。彼も想像よりも足が速く、トップスピードは車とさほどの差がなかった。なかなか彼も化け物だな。しかし、トップスピードを超えてから徐々に彼の速度が落ちていきすぐに息を切らしたのだろう、後部の窓から彼が息を切らしているのを目にしながらそのまま進んでいった。
「それからは、君たちを発見して回収して逃げてきている。まあ、僕たちの今までの行動はこんなものさ。」
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