終わりなき理想郷

DDice

文字の大きさ
58 / 61
空高く、天を仰ぐ

第58話 アイホートの雛の追放 - その8

しおりを挟む
2017年07月21日(金)1時08分 =萌葱町もえぎちょう警察署B2F=

 さて、ここからどうするか。現状、一方的に銃を向けられている状況だ。相手の間合い、相手の陣地、相手の位置。全て相手にとって最良の条件だ。今ここで俺が取れる選択は3つ。
 1つ、相手の弾切れを待つ。まあ、これは無理だ。時間がかかりすぎるし、対神課の武器なら弾丸の補充方法は一つだけではないだろう。
 2つ、俺の現実改変を使って無理やりにでも突破する。だがこれもあまりいい方法ではない。これで突破してたどり着けたとて脱出する方法がない。上からグレイが迫りくる中最後の保険を切るのも怖い選択だ。
 3つ、グレイと共に強襲する。一番現実的だし、これが本望。だが、グレイの制御ができない今、迂闊な行動をとることはできない...。一体、どうするべきだろうかな。
 曲がり角の壁の裏で様子を伺いながら打開策を考える。だが、相手は壱課。小手先の打開策じゃ突破されるのは目に見えている。かと言ってこちらの手の内を先にさらけ出すのも悪手だ...。
 次の行動をどうするかを延々と悩んでいると、俺が通ってきた階段のほうから爆速で何かが駆け降りる音が聞こえる。そちらの方へ視線をちらりと移すと先ほどまでのびていた伸二しんじがおりてきていた。しかし、伸二しんじはこちらには目もくれず、ずっと後方を注意しており、視線を辿るとそこにはグレイの津波のようなものが通路という通路を埋め尽くして侵蝕をしている。
 流石にこのままだと巻き込まれる...。とりあえず近場にあった部屋の扉を開き、体を押し入れる。部屋の中は真っ暗であり、足元も色々物があるようで下手に動くことができない。一瞬息をついた途端、バリバリバリッと壁を裂くような音と共に伸二しんじの悲鳴が壁越しに聞こえる。
 徐々に暗闇に目が慣れてきた。どうやらここは...、いや。ここが、俺の目的地だったみたいだ。

 どうやらこの部屋は取調室のようだ。そして、足元の障害物は...だ。その糸は部屋中を張り巡らしており、まるで蜘蛛の巣のようだった。そして、本来机や椅子が置いてあるであろう部屋の中央には、ひと際大きな繭のようなものが鎮座している。
 それに対して「津雲つくもめぐるか?」と声をかけてみると、幽かにだが反応がある。急いで救助しようと手で切り裂こうとしてもなかなか繊維が堅く、手を隙間に差し込むことすらできなかった。4号ガーゴイルもこの連戦で損傷が激しく無茶な使い方はできないだろう。
 であるのならば、手を借りるしかないだろう。同じ目的を持つそれは、すぐ近くにいるんだからな。
 そう考えながら、この部屋の扉を開け放つ。
「グレイ、津雲つくもはこの部屋だ!」と声をかけると、扉に張り付いていた分のグレイが流れ込み、糸を一本一本ほぐして外していく。
 徐々に糸にうずめられた男が姿を現す。その表情は三日三晩飲食をするという行為自体をできなかった地底人のような感じだった。
「大丈夫...ではないが、まあ、生きてるからヨシ。津雲つくも、動けるか?」
「君は...?動けるか...って...まあ、一応。」
「詳しい話は後だ。今、まじない屋に腹の中に怪物を宿した急患が3名待ってる。」
「腹に怪物...。なるほど、遂に烏丸からすまも動き出したのか。であれば、早急に行った方がいいか。」
 徐々に糸から解放され、圧迫されていた四肢に血液を送るように掌を開いたり閉じたりしている。そして、遂に椅子から解放された。
「さて、ここからどう脱出しようかって感じなんだけど...。」
「ん、ああそう言うこと。大丈夫、俺にはこいつがあるんでね。」
 そういう彼はポケットから目が描かれた紙を取り出す。
「なんだその、目の書かれた紙。なんだ...?」
 疑問と、困惑の入り混じった感情で問うと、フフンと待ってましたと言わんばかりの表情と共に口を開く。
「これは『消滅VANISHの紙』。この紙を破ると対となるアイテムの場所までテレポートできるアーティファクトさ。細かい条件はいろいろあるが、これを破ればテレポートができる。そして、既にまじない屋に設定してはいるからこれを破るだけで逃げ出せるのさ。」
「そうか、ちなみにそれって俺もいっしょに行けたりする?」
「んー、まあ俺にくっついていればできるよ?」
「そうか、であれば...少しだけ待っててくれ。」
 そう言って、俺はグレイの方に視線を変える。
「目標達成 『グレイ』ハ 次ノ行動指定マデ スリープモード ニ移行シマス」
 ちょうどいい、ここで使ってしまおう。
が聞こえた。次の行動はすでに示されている。個体名『文野ふみのきた』の護衛だ。」
「・・・認証 『グレイ』ノ次ナル目標ハ 個体名『文野ふみのきた』ノ護衛 行動ヲ開始シマス」
 そう音声モジュールから言葉を発生させたのち、ずるずると地上階の方へとグレイが大移動を始めた。一時的に邪魔をしていたからこれで伸二しんじ香苗かなえがフリーになる。その前に、移動をしないと。
 そう考え、津雲つくもの肩に手を置いて、「使ってください!」と言葉をかける。
 それを聞いた津雲つくもは目の文様を内側にして二つ折りにし、紙を破いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...