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空高く、天を仰ぐ
第26話 一切合切を捨て置いて
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2017年07月20日(木)10時43分 =萌葱町警察署=
警察署に戻ってきた俺と穂積弐級職員は捕縛した奴らを霞城壱級職員に受け渡して、いったん休憩をしていた。
そして、それから10分ほどして霞城壱級職員がバインダーにペラペラな紙一枚を挟んだものを持って俺たちのところに来た。
「それでどうです、彼らは何か言いましたか?」
「いいえ。全員しっかりと訓練を受けてるのでしょうね、有用な情報は一切吐かなかったわ。」そう言いながらバインダーを渡してくる。
バインダーを受け取り何が書かれているかを確認する。そこには簡潔に、『鈴埜宮PMC所属、目的は不明だが暫定:聖夜前災の怪物を追っているものと断定。』と記されていた。
「まあ、大方予想通りではありましたね。」と言うと、
「ええ。でも、あの場で回収できなかったのは残念ね。」と少々残念がった声で言われる。
「あの時は一般人もいましたので、力を行使するのは危険かと判断しました。」
「ええ、わかっている。それに、不十分な準備でやりあえる相手だとは思っていないからね。でも、次は違う。」
霞城壱級職員は覚悟の決まったような深みのある声で言った。
「あなたのおかげで居場所は分かったわけだし、後は私たちに任せてちょうだい。」
「ええ、あなたほどの人物に信用しないのは相手が神の時ぐらいですよ。」それを聞いた霞城壱級職員は、
「ふふっ、あなたも言うようになったわね。まあ、報告を楽しみにしてちょうだい。」と言ってその場を去っていった。
さて、これで今回の仕事は終わりかな。
「奈穂ちゃん、そろそろ行くの?」と、出入り口で香苗に捕まる。
「ええ。あの存在の居場所が分かったからね。」と言って、ポケットの中に仕舞っていた端末を取り出して香苗に見せる。そこには、呪い屋に位置情報を示すピンが刺さっている映像が流れ続けている。
「ここ数十分の間この建物の中を移動はしているにしろそれ以上の動きは見せない。これはちょうどいいチャンスでしかないでしょ。」
「でもその中には巻き込まれた一般人もいるでしょ?それはどうするのよ。」と聞かれたので、
「それは、あなたにやってもらうことよ。」と答える。
「まったくもー。そうやって人使いが荒いんだから。でも、いつも通りの作戦で安心したわ。それで、どの方法で行く?」
「そうだな...、まあさほど遠くもないし歩きでいいだろう。車とかで行って警戒されても困るからね。」
「そうね。それじゃあちょっと待っててちょうだい。出発する前にちょっとだけ弟吸いしてくるから。」
そういうと香苗は走って私が歩いてきた道を逆走していった。そして数秒後、馬鹿みたいな叫び声が廊下全体に反響する。まったく、これさえなければ言うことはないんだがなぁ。
そうしみじみと彼女の奇行を感じていると、耳をふさいで狭間君がやってくる。
「どうしたの、狭間君。」と聞くと、
「あまりにもうるさいし、見るに堪えなかったので見捨てて逃げてきました。」と淡々と答える。それを聞いた私は、「確かにそうね。」と同意した。
そして数分、やっと叫び声が枯れ始めたころ、
「霞城壱級職員。俺もバックアップとして行っていいですか?」と狭間君が聞いてくる。
「それはいいけど、どうして?」
「呪い屋は噂ですが、常に屋内の構造が変わるらしいんです。その場合、捕まえる前に逃げられる可能性もあるわけです。なので、外で待機してもし出てきてもすぐに捕まえれるようにしようかと。」
呪い屋、確かにあそこは公安の中でもマーキングされている場所。であれば、一考の余地があるわね。
「わかったわ。であれば外で香苗と一緒にバックアップをお願いするわ。」
「ありがとうございます。それと、来ましたよ。穂積壱級職員と、死にかけの穂積弐級職員ですね。」
吸われまくったせいか、心ここにあらずというような伸二君が香苗に抱えられながら来た。
「奈穂ちゃん、伸二を連れて行っちゃだめ?」
「・・・好きにしろ。」そう言った瞬間、伸二の目が一瞬で光を失ったように見えたのは気のせいだと信じたい。すまない、伸二君。任務のための犠牲となってくれ。
まあ、そんなこんなで4人というそこそこの人数となってしまったが、バックアップが万全となったと考えればいいだろうか。心配な要素はあるがさほど心配する必要もないだろう。あの時とは違う、技術も上達したし準備も十二分に万全だ。あの時の遺恨を、今回こそ晴らさせてもらおうじゃないか。
そう意気込んで、一歩私は歩みを進めた。そして、私の後に続くように3人も歩みを始める。
聖夜前災から引きずってきた呪いを、今度こそ、ここで、すべて断ち切ってやる。
警察署に戻ってきた俺と穂積弐級職員は捕縛した奴らを霞城壱級職員に受け渡して、いったん休憩をしていた。
そして、それから10分ほどして霞城壱級職員がバインダーにペラペラな紙一枚を挟んだものを持って俺たちのところに来た。
「それでどうです、彼らは何か言いましたか?」
「いいえ。全員しっかりと訓練を受けてるのでしょうね、有用な情報は一切吐かなかったわ。」そう言いながらバインダーを渡してくる。
バインダーを受け取り何が書かれているかを確認する。そこには簡潔に、『鈴埜宮PMC所属、目的は不明だが暫定:聖夜前災の怪物を追っているものと断定。』と記されていた。
「まあ、大方予想通りではありましたね。」と言うと、
「ええ。でも、あの場で回収できなかったのは残念ね。」と少々残念がった声で言われる。
「あの時は一般人もいましたので、力を行使するのは危険かと判断しました。」
「ええ、わかっている。それに、不十分な準備でやりあえる相手だとは思っていないからね。でも、次は違う。」
霞城壱級職員は覚悟の決まったような深みのある声で言った。
「あなたのおかげで居場所は分かったわけだし、後は私たちに任せてちょうだい。」
「ええ、あなたほどの人物に信用しないのは相手が神の時ぐらいですよ。」それを聞いた霞城壱級職員は、
「ふふっ、あなたも言うようになったわね。まあ、報告を楽しみにしてちょうだい。」と言ってその場を去っていった。
さて、これで今回の仕事は終わりかな。
「奈穂ちゃん、そろそろ行くの?」と、出入り口で香苗に捕まる。
「ええ。あの存在の居場所が分かったからね。」と言って、ポケットの中に仕舞っていた端末を取り出して香苗に見せる。そこには、呪い屋に位置情報を示すピンが刺さっている映像が流れ続けている。
「ここ数十分の間この建物の中を移動はしているにしろそれ以上の動きは見せない。これはちょうどいいチャンスでしかないでしょ。」
「でもその中には巻き込まれた一般人もいるでしょ?それはどうするのよ。」と聞かれたので、
「それは、あなたにやってもらうことよ。」と答える。
「まったくもー。そうやって人使いが荒いんだから。でも、いつも通りの作戦で安心したわ。それで、どの方法で行く?」
「そうだな...、まあさほど遠くもないし歩きでいいだろう。車とかで行って警戒されても困るからね。」
「そうね。それじゃあちょっと待っててちょうだい。出発する前にちょっとだけ弟吸いしてくるから。」
そういうと香苗は走って私が歩いてきた道を逆走していった。そして数秒後、馬鹿みたいな叫び声が廊下全体に反響する。まったく、これさえなければ言うことはないんだがなぁ。
そうしみじみと彼女の奇行を感じていると、耳をふさいで狭間君がやってくる。
「どうしたの、狭間君。」と聞くと、
「あまりにもうるさいし、見るに堪えなかったので見捨てて逃げてきました。」と淡々と答える。それを聞いた私は、「確かにそうね。」と同意した。
そして数分、やっと叫び声が枯れ始めたころ、
「霞城壱級職員。俺もバックアップとして行っていいですか?」と狭間君が聞いてくる。
「それはいいけど、どうして?」
「呪い屋は噂ですが、常に屋内の構造が変わるらしいんです。その場合、捕まえる前に逃げられる可能性もあるわけです。なので、外で待機してもし出てきてもすぐに捕まえれるようにしようかと。」
呪い屋、確かにあそこは公安の中でもマーキングされている場所。であれば、一考の余地があるわね。
「わかったわ。であれば外で香苗と一緒にバックアップをお願いするわ。」
「ありがとうございます。それと、来ましたよ。穂積壱級職員と、死にかけの穂積弐級職員ですね。」
吸われまくったせいか、心ここにあらずというような伸二君が香苗に抱えられながら来た。
「奈穂ちゃん、伸二を連れて行っちゃだめ?」
「・・・好きにしろ。」そう言った瞬間、伸二の目が一瞬で光を失ったように見えたのは気のせいだと信じたい。すまない、伸二君。任務のための犠牲となってくれ。
まあ、そんなこんなで4人というそこそこの人数となってしまったが、バックアップが万全となったと考えればいいだろうか。心配な要素はあるがさほど心配する必要もないだろう。あの時とは違う、技術も上達したし準備も十二分に万全だ。あの時の遺恨を、今回こそ晴らさせてもらおうじゃないか。
そう意気込んで、一歩私は歩みを進めた。そして、私の後に続くように3人も歩みを始める。
聖夜前災から引きずってきた呪いを、今度こそ、ここで、すべて断ち切ってやる。
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