終わりなき理想郷

DDice

文字の大きさ
31 / 63
空高く、天を仰ぐ

第31話 凍てつけ、深く遠くまで - その5

しおりを挟む
2017年07月20日(木)11時22分 =まじない屋裏口=

 目標物あの子を背負っているのが確か桐藤きりふじ波留はるちゃんで、こっちが狛凪こまなぎ遼太郎りょうたろう。どこかで聞き覚えがあると思っていたけれど、狩助かだす市の災害に巻き込まれた子達ね。
 であれば、こっちの子遼太郎には鳥羽とばちゃんが手を加えたはずだけど、まだ起きないわね。まだ、火種が弱いかしら。
「それにしても好戦的ね。だから、のよ?」
「は?」
「まあ、あなたは覚えていないかもね。でもね、波留はるちゃんは覚えているんじゃない?」



 ああそうだ。こいつ遼太郎狩助かだすの一件で一度命を落とした。私の、盾となって...。クソッ、せっかく忘れられたっていうのに...。
「・・・で、それが一体何だって言うんですか。そうだとしても、今彼は生きているじゃないですか!」
の間違いじゃないかしら。ねぇ、波留はるちゃん。あなたは憶えているでしょう?」
 ・・・ああ、憶えている。だとしても、今それを思い出す必要はない。目的は時間稼ぎか、それとも...。
「まさか、朱里あかりさんを起こそうと...?」そう言葉を零すと、彼女は不敵な笑みをこちらへ向ける。背筋が一瞬氷漬けにされたように冷えるが、ひかりちゃんの体温で一瞬で解凍される。
 鳥羽とば朱里あかり狩助かだすでの一件でお世話になった対神特務課たいしんとくむか壱級職員いちきゅうしょくいんの方だ。そして彼女は今、遼太郎りょうたろうの中で
 にしてもだ、どうしようかなぁ。まだあいつが気付いていないからマシだけど、もし思い出しでもしたら不味いぞ...。私以外ひかりちゃんを守るものが無くなってしまう。だからと言って、何か私にできることは...ないのか?
 そう脳内で打開策を練っていると、バリィーンと大きな音と共にスーツ姿の女性が出てくる。そして、壁に刀を突き立てたかと思うと遠心力を利用して割れた窓から再び侵入する。
奈穂なほちゃんも無茶するわねぇ。それにしても、周りすら確認しないってことは奈穂なほちゃんと戦ってるのはまじない屋の店主さんかしら?」
 ・・・一向にあっちから仕掛ける気配はない。何かを待っているのか、それとも...。
「さっきからぺちゃくちゃと、五月蠅いぞ。」と、さっきまで口を綴んでいた遼太郎りょうたろうが口を開く。だが、そのまなこには赤い炎のようなものが垣間見えた。

狛凪流こまなぎりゅういん  ついたち

 遼太郎りょうたろうが薙いだ刃先から赤い炎が顔を出す。そしてそれは、謎の障壁らしきものを透過して彼女の元へと近づく。しかし、当たる直前に握った拳銃の銃口で弾き距離をとる。流石に舘にそのような仕事をしている分だけあるって感じだろうか。
 ただ、これはいったいどうなんだ?彼女が目覚めたのかとも思ったが、それなら彼女の同僚に切っ先を向けるのは合点がいかない。だとしたら...、無意識的に力を解放しているってこと?
「たとえどんな小細工を使おうが、俺は何が何でもひかりちゃんを守り切る。」

狛凪流こまなぎりゅういん 奥義おうぎ  幾望きぼう

 私たちと彼らの間を隔てるように炎の壁がそそり立つ。私はひかりちゃんを守るように遼太郎りょうたろうの背後へと下がる。そして、いつでも逃げ出せるように後ろを振り向いた瞬間、
「どちらへ行こうとなさるのですか?」と、スーツの男が逃げ道を塞ぐように立っていた。いつの間にか囲まれていたようだ。
「別にその子を殺すつもりはありません。ただ、彼女はですから我々が保護するだけです。我々とあなた方が対立する必要はないように思えますが。」
「あなた達が仮に保護したとして、ひかりちゃんは今後どうなるのよ。」
「さあ?少なくとも命じられているのは彼女の保護であって、それ以上も以下も存じ上げません。」
「じゃあひかりちゃんの明け渡すことはできないね。」
 とは言っても、遼太郎りょうたろうはあっちの二人でいっぱいなわけで...かと言ってひかりちゃんを背負いながら戦うのは流石に難しいよなぁ。
 そう考えていると、ひかりちゃんに肩をゆすられる。そして、指を指した先の道路に視線をやると、奥から大きめの黒いワゴン車が走って来る。そして、その車が近づいてくると公安の彼ら全員が驚きの目を表す。
 彼らが何か行動を起こす前にワゴン車の扉が開き、背丈の高めの女の子が手をこちらへ伸ばしてくるので片手で遼太郎りょうたろうの襟首をつかみ、もう片方の手で彼女の手を取る。爆速で走る車の空気抵抗で腕が持っていかれそうになるが、火事場の馬鹿力というもので耐えきる。何とか私とひかりちゃんが入り込んだのち遼太郎りょうたろうを入れようとするが薙刀が上手く入らない。
 しかし、そのまま落とすのも良くないため、少し離れた空き地に薙刀を投げ込んで遼太郎りょうたろうを引き込んだ。命辛々、津雲つくもさん以外の3人はあの場から離脱することができた。

 何とか乗り込んだ私はひかりちゃんを下ろしてから遼太郎りょうたろうの方を確認する。すると、遼太郎りょうたろうはいつの間にか眠りこけていた。揺すっても起きる気配はないため、
「ありがとうございます。助けていただいて。」と一先ず助けてくれた方々に感謝を伝える。
「いえいえ、困ったときはお互い様というものです。あ、自己紹介しておきましょうか。私は星宮ほしみや桃花ももかって言います。」と、私たちに手を差し伸べてくれた子が自己紹介をしたため私も、
「私は桐藤きりふじ波留はるって言います。それでこっちの寝ているのが狛凪こまなぎ遼太郎りょうたろうって言います。そしてこっちの子が...。」と自己紹介をしていると、
ひかりちゃん、ですよね?」遮られる。
 というか、ひかりちゃんのことを知っている...?
「な、なんでひかりちゃんのことを...?」
「まあいろいろある、最初から話そうじゃないか。私は灰色のあら「レイちゃんです。」...風倉かぜくられいだ...。」と、食い気味に星宮ほしみやちゃんに遮られる。
「それと私たちが岩崎いわさきあゆみと、「ひのきだ。」まったく、愛想がないんだからぁ!」と助手席に座っていたあゆみさんが自己紹介をし、運転席で運転しているひのきさんが簡素に自己紹介をする。多分恋人...、いや夫婦かな?
「あの...それで、どうしてひかりちゃんのことを知っているんですか?」
 もう一度そう問いかけると風倉かぜくらちゃんが話し始める。
「そうだね、大体3時間前のことから順に話そうか。僕たちが烏丸からすま家に行った時の話だ。」



「逃がしてしまいましたけど、追いかけます?」
「いや、いいわ。ここまで情報の開示をして鳥羽とばちゃんが起きないどころかあの子の力の一端を使いだしていたってことは変に手を出すと焼き殺されちゃうかもね。」不敵な笑みを狭間はざま君に送ると『そんな縁起の悪いことを言わないでくださいよ。』と言いたげな目で熱い視線を送って来る。
「それじゃあ一旦撤収って感じですか。それじゃあ一旦平凡な見せかけは切ります?」
「そうねぇ、奈穂なほちゃん次第かしら。」
「だったらもう解いていいわよ。」背後からスタッと軽快な着地音を鳴らして赤髪の男を小脇に抱えた奈穂なほちゃんが現れる。
「それが、まじない屋の店主さん?」
「ああ、古代魔術も使ってきたから多分そう。とりあえず、コレだけ持ち帰って尋問かしらね。」
「そっかぁ。そうだ、鳥羽とばちゃんのことだけど...。」
 そうして、私たちは情報を共有しながら一旦警察署へと帰還するのだった。


==========
報告書20151003-狩助市の龍 第壱頁

報告担当者    御剣 海斗

事件担当者
公安対神性特務課壱級職員 御剣 海斗
公安対神性特務課壱級職員 鳥羽 朱里
公安対神性特務課弐級職員 霞城 優芽

事件対応総被害
市民 283 名死亡 561 名行方不明
建造物 2394棟 倒壊もしくは沈没
鳥羽朱里 殉職[特性上、休職として扱う]
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

FLARE

GenerativeWorks
ファンタジー
炎を呪いと恐れられ、孤独に旅立った少年リオ。 彼は風を災いと呼ばれた少女ミナ、灰を抱く少女リサ、焔を持たぬ勇気の子カイと出会う。 それぞれの痛みを抱えた仲間たちは、“誓い”を重ね合いながら絆を紡いでいく。 水底に響く歌、大地を揺らす影、燃え尽きぬ闇――数々の試練に立ち向かう中で、彼らは学ぶ。 炎も風も灰も勇気も、孤独では弱いが、重なれば未来を照らす力になるのだと。 これは、仲間と共に闇を越え、未来を選び取る少年たちの物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。 現在1945年中盤まで執筆

処理中です...