大人の読書感想文

水咲 ちひろ

文字の大きさ
10 / 14

春の庭

しおりを挟む
1、
 「柴崎友香」氏の『春の庭』。
 社会人男性「太郎」の住むアパート「ビューパレス サエキⅢ」を中心に起こる、日常の出来事が書かれている。

 この小説は、20年くらい前の暮らしを描いたものであろうか。
 今、この時代、このように同じアパートや近くに住む人と、親しくなったり、家にあげたりすることは、日常的ではないだろう。
 建物が壊されたり建てられたり、そのような再開発の記述から、30年ほど前かとも思ったが、その当時はまだメールというものは、日常的ではなかっただろう。


 劇的な変化や大どんでん返しのない、太郎の日々を綺麗に、丁寧に描いている。日常の描写が素晴らしい。
 タイトルにも『春の庭』とあるように、「庭」を中心に、季節を感じる描写が多い。「街」のトキの変化も、しみじみと情緒深い。
 失礼ながら読んだ後に知ったのだが、芥川賞受賞作品だそうだ。どおりで文章が繊細で美しい。


2、
 ゆったりとした太郎の暮らしが描かれているので、ここで特にどうこうと考察する必要はないだろう。この今より少しだけ過去の、柔らかな時間の流れを感じてほしい。
 特に、「街」についての描写をいくつか紹介したい。


「空き家は人が住んでいる家とは根本的に違う空気に覆われていた。きれいに手入れされて一見留守をしているだけに見える家でも、すぐに空き家だとわかった。あらゆる種類の空き家、空き部屋があった。」

「毎日歩く地面の下は、暗渠《あんきょ》の川が流れている。水道やガラスの管がある。不発弾があるかもしれない。
 ~
 不発弾があるなら、その時に燃えた家や家財道具のかけらも埋まっている。もっと昔はこのあたりは雑木林や畑だったらしいから、毎年の落ち葉や木の実やそこにいた小動物なんかも、時間とともに重なって、地表から少しずつ深いところへ沈んでいった。
 その上を、太郎は歩いていた。」

「団地に住んでいたころ、わたしたちはいつも大勢だった。各階に同級生がいて、狭い公園では場所の取り合いだった。
 ~
 狭い街のどこにいても、誰かに会った。わたしはいつも、大勢の一部に過ぎなかった。」


 このような生活をしたり、このような体験をしたことがあるわけではないのに、なぜかもの懐かしい感覚にさせてくれた。





柴崎友香(2014)『春の庭』,株式会社文藝春秋
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...