大人の読書感想文

水咲 ちひろ

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島国日本の脳をきたえる

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1、
 脳科学者「茂木健一郎」氏の『島国日本の脳をきたえる』。
 「第Ⅰ部 3・11以後、僕が考えたこと」、「第Ⅱ部 神津島で、僕が考えたこと」、「第Ⅲ部 脳をきたえる方法」の3部構成になっている。


2、
 まず、「第Ⅰ部 3・11以後、僕が考えたこと」について。
 ここで、「安全基地(セキュア・ベース)」という言葉が出てくる。これは、「見守られている」という安心感のことだ。

 生まれたての赤ちゃんは、最初は何もしようとはしない。しかし、母親からの愛情を受けることで、「見守られている」という安心感となり、やがて母親に接触していなくても「見守られている」という安心感から、未知のものに触れ、口に含み、ハイハイをして動き回るようになる。
 「安全地帯」=「安心」が強ければ強いほど、冒険や人間関係の構築も活発にできるようになるのだ。

 私が、このようにいろいろな冒険ができているのも、故郷に母や家族がいるから、子どもの頃、母に愛情を貰ったからだ、と感じた。
 一方、このように引きこもって、人と会うのがしんどいのも、過去のある出来事で、安全地帯が壊れてしまったからなのか、と考えた。


 世界中で、中国人の活躍が目覚ましいが、彼らは故郷を離れていてもSNSを駆使し、密に家族や友人と連絡を取り合い、母国のコミュニティを大切にしている。
 つまり、そういったコミュニティに支えられているからこそ、安心して海外で活躍できるのだ、と書かれている。

 確かに、私が東南アジアに行ったとき、家族や親戚、友人たちと常に連絡を取り合う、コミュニティの親密さに驚いた。
 日本の、核家族化、個人主義、家族と連絡を取り合うのはまれで、故郷の友人とも疎遠、実家に帰ったのはいったい何年前だろうか、という感覚とは、全く異なっていたからだ。
 中国人も、彼らと同じように故郷のコミュニティが厚いのだろう。

 人付き合い、親戚付き合いが、しんどく億劫に感じる一方、そういうものがないと、人は自由に行動し、活発に他者と関われないのだ。


3、
 「第Ⅱ部 神津島で、僕が考えたこと」、ここでは、茂木氏が神津島に訪れて、考察されたことが書かれている。

 島内では、島民全員の顔と名前が一致する。村長は、小学校~中学校の全生徒の名前を覚えていて、道で会えば必ず名前を呼んで声を掛けるという。
「近所の皆が互いに名前を知っていることだって、かつては、日本のあちらこちらであったじゃないか。決して驚くようなことではないじゃないか。」筆者はそう言う。

「このような濃密な母体が人を育む本質的な場であり、それこそが『島』という空間のよさだったのではないか。」

 そして「島」の濃密なコミュニティは「安全地帯」になるという。
 そのような「安全地帯」があるからこそ、「島」の子どもたちは外へ飛び出して行ける。


 私は、田舎の昭和のようなコミュニティは、閉鎖的で旧来型の価値観の、時代遅れなイメージがあった。しかし、そのようなかつてのコミュニティが、逆に世界で活躍する土台となる、という考え方に新知見を得た。


4、
 「第Ⅲ部 脳をきたえる方法」は、Q&A方式になっていた。
 気になったものを3つ取り上げたい。


【感情は分類できない】

 「喜怒哀楽」というものがあるが、はたしてその表現が本当に正しいのか。脳科学的には、人間は一体どのくらいの感情を持ち合わせているのか。という質問に対して。

 脳科学的には、感情はとても複雑なため、感情がいくつあるかという定義はなされていないという。
 小説家たちも「喜び」を表現するとき、どのような喜びなのか、無数の表現をする。
 このように人々の感情は複雑で分類しきれない。怒っていると感じても、実は悲しんでいるのかもしれない。


 感情の根本的なものは、アプローチするかアボイドするか、だそうだ。なんと単純で、すっきり分かりやすいものか。



【ボーっとすることは、脳にとって大切】

 ボーっとしている時、脳は活動しているのでしょうか。ボーっとしている分だけ、脳の働きが悪いのでしょうか?という質問に対して。

 私は、このトピックに非常に興味をもった。
 私もよくボーっとしているからだ。かなり長時間ボーっとしてしまうことも多い。
 友人からもよくボーっとしていると言われる。

 ボーっと何も考えていないような時にこそ動いている部分「デフォルト・ネットワーク」があるらしい。
 デフォルト・ネットワークが活発化しているときは、何かを探索している時で、若いほどよく働く。
 だから、ボーっとしている状態は悪いことでなく、創造的になっていたり、性格の変化を迎えていたり、何かを学びとろうとしていたりする状態だそうだ。
 安心した。デフォルト・ネットワークについて、もっと学びたいと思った。



【リアルな人間関係が機能すれば、コミュニティのあり方が変わる】

 ザッカーバーグは「FBが主たるSNSでない国は、日本、ロシア、中国、韓国だけだ」としている。Facebookは日本のコミュニティの在り方を変えるか、という質問に対して。

 日本で浸透しているSNSは、Twitterであったり、Instagramであったり、ブログでも、いくつでもアカウントが作成でき、「匿名」でやり取りができる。
 一方、Facebookは実名で、リアルな友人とのコミュニティの場だ。欧米をはじめとしたFacebookが発達している国は、ネットに何かを求めつつも、リアルな人間関係が機能している国と言える。


 私も前者の、本名とは異なるアカウント名で活動する、TwitterやInstagramを主に利用している。リアルの知人とのやりとりはあまりしない。
 しんどい。よくない状態だとは思う。でも本当に、心からしんどいのだ。

 「フェイスブック的なリアルな人間関係を主とするコミュニケーションツールが、日本で受け入れられるようになれば、おのずと日本のコミュニティのあり方も変わってくるのではないでしょうか」と、著者は言う。


5、
 10年前の書籍なので、最初から情報が古いものだと思って読んでいた。
 しかし、10年経っても解決していない問題や、現在読んでも新たな知見が得られた。





茂木健一郎(2011)『島国日本の脳をきたえる』,東京書籍株式会社
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