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第19話 終了
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『不浄の泉』消滅後は、淡々と作戦という名の作業は行われた。
騎士団と『浄化師』の爺さんは、『不浄の泉』消滅の翌日には王都へと帰った。爺さんは、もう少し残りたかったようだが、騎士団が問答無用で連れ帰っている。
『浄化師』の爺さんはともかく、騎士団については、村人及び冒険者から非難囂々だった。なにせ、『アンデッドモンスター討伐』は本来、騎士団の仕事であり、冒険者は騎士団から依頼されて行っている体なのだから。
「紅竜と蒼竜だからな……」
大半の者は、そう言って諦めている。
「黒竜騎士団なら、こんな事は……」
シェーラは、父親が所属した騎士団故に、そんな事を言ってはいるが、『黒竜騎士団』自体、一般人から騎士になった者がいるとは言え、その所属騎士の大半は他の騎士団同様、貴族子弟らしいので、正直どうなるかは微妙だ。
そんな騎士団の事はともかく、掃討作戦自体は順調に進んでいく。
『不浄の泉』が消滅した事によって、これ以上『ゾンビ』が増加する事が無いため、今までのように朝行くと戦線が1キロ近く押し下げられていると言う事も無い。
そんな当たり前な事が、掃討する側の精神を安定させる。そして、それが安定した討伐を生み、相乗効果が生まれ、更なる討伐へと繋がって行く。
結果、『不浄の泉』消滅三日後には、応援できた王都からの冒険者の半数が帰還し、更に翌日には残った者の更に半数が帰還した。
そして、五日後には、応援冒険者のほぼ全てが帰還し、初日のメンバー、つまりこの村常駐冒険者と俺達だけになった。
俺達が残ったのは、この討伐戦の冒険者側責任者がカルトさんになったため、未だカルトさん達の護衛任務遂行中の俺達が、この場を離れる訳にはいかなかったからだ。
この最後に残った9組の冒険者による掃討戦は、戦列を組んで行うのでは無く、個別バラバラに各個撃破となっている。なにせ、既に戦列を組む必要が無い程に『ゾンビ』の数は減っており、その存在位置も完全にバラバラだからだ。
数は減った、とはいうものの、それでも1000匹程はいる。
俺達は、狩り残しが無いように、エリア分けを行って殲滅して行く。
ただ、その殲滅戦は、それまでと比べると圧倒的に余裕があるもので、その余裕を利用して色々と試していった。
まあ、試すと言っても、例のごとくティアの『歌唱』スキルなんだが。
と言う訳で、唐突に言い出すのは、当然ミミ。
「ティア、般若心経、知っちょる?」
「え? 般若心経って、あのお経の?」
「そそ」
「う~ぅん、知らないよ」
「マジか!」
「うん、うち浄土真宗だから」
「そいでも、一度くらいは聞いた事あるっしょ!」
「それは、あるよ」
「だったら、覚えてるっしょ! いつものアレで!!」
「いつものアレって……、ミミちゃん、お経は歌じゃ無いよ。一度聞いた位じゃ覚えられないよ」
「何でじゃー! あれ、歌と変わらんじゃん! 伴奏付いてっじゃん!!」
「伴奏って……、ミミちゃん、木魚は楽器じゃ無いよ」
ミミのヤツが、「うがぁぁぁぁ」と騒いでいるが、まあ、その辺りは日常だ。
……般若心経か、俺も経文は知らないな。
以前、空海が主人公の小説を読んでいて、主人公が般若心経を読むシーンがあり、「あれ?般若心経って、真言宗?」って思ってググった事がある。結果、般若心経自体は、日本の仏教の宗派に関係なく読まれるもので、般若経と言う経文の略典だとか書いてあった。その時いろいろ読んだのだが、詳細は覚えていない。
「ミミ、その般若心経ってやつ、ミミがティアに教えれば良いんじゃ無いか?」
俺がそう提案すると、ミミのやつは両手で頭上に大きな×を作った。
「私も、知らんもん!」
「「「……」」」
「色即是空空即是色、全てこの世は夢幻よ、覚めてしまえば、喝! ってのらな知っちょる」
……前半はともかく、後半は、どうせアニメか漫画の一節だろう。
「あ、あと、般若心経の名前は、本当は般若波羅密多心経ってのも知っちょる!」
「そこまで知ってて、肝心のお経は知らないんだ……」
「知らん! だ~か~ら~! ティアの歌覚え能力に期待したんよ!!」
……まあ、読経には、確かに音楽的な要素はある。ティアなら、と考えたミミの気持ちも分かる、かな。
「で、それで、その般若心経が、どうしたって?」
「うみゅ、ほれ、般若心経でゾンビが成仏せんかな~って思ったんよ。昔読んだラノベに、般若心経ゴスペルで汚れた聖域を浄化するっちゅうのがあったんよ。お経が心霊系に効果あるちゅうのは、鉄板じゃん!!」
「ゾンビって、幽霊と同じだったっけ?」
「アンデッドって言うぐらいだから、同じっしょ!」
「そうなの?」
ティアが、俺とシェーラに尋ねてきた。
「ミミ達の世界の心霊や幽霊がどのようなのもかは分からないが、不浄の泉から湧き出すモンスターに関しては全て、鑑定スキルによってアンデッドであると確認されている。そして、その中にゴーストと言うモンスターも存在する。当然これもアンデッドだ。前世の世界とやらは別として、この世界に関して言えば、ゾンビとゴーストは同族と言える」
「ロウは?」
「俺も、シェーラと同意見だな。ゴーストと幽霊が同種か、と言う問題はあるけどな。あと、その般若心経とかってのが効くかどうかも知らないけどな」
この世界の『ステータス』に表記される文言は絶対だ。ティアの『歌唱』スキルの説明に、『他の者に対して』とあり、それが実際、その付与効果がティア自身には無いように。この文言は絶対なのだ。
この、『ステータス』に書かれた文章は、その絶対性から『神言』と言われている。『鑑定』スキルで見られる情報も、同様に『神言』だ。神的存在が設定した文言だと言える訳で、『神言』と呼んでおかしい事は無い。
だから、『鑑定』によって読み取られた『ステータス』に『アンデッド』と言う文字が書かれているのであれば、そのモンスターは間違いなく『アンデッド』だ。
『アンデッドに特効』と書かれたアイテムであれば、『アンデッドモンスター』であれば、劇的な効果を発揮する。『般若心経』が『アンデッドに特効』となっているのであれば、確実に効果を発揮する訳だ。
現状、『ゴースト』と『幽霊』が同種なのか?と言う問題と、仮に、同種であったとして、『般若心経』が効果があるか?と言う問題がある。
仮に、ティアの『歌唱』スキルで『唄う』事によって『退魔効果』が発揮されるとしても、異界の宗教のお経が、その宗教が存在しない世界で効果が発揮できるのか?と言う問題もある。
いわゆる、キリスト教による悪魔に、仏教のお経が効くのか?って言う、前世でもよく取り上げられた疑問だ。
まあ、般若心経を知らない以上、考えるだけ無駄な事ではある。
「うん~みゅ~、般若心経が駄目ってなると……、うっし! 賛美歌行ってみよう! 般若心経より弱い気がすっけっど、あれは神をたたえる歌! アンデッドとは逆位相のはず!!」
強い、弱いってどこで決まるんだ? あと、逆位相って……。それはともかく、ティアは賛美歌は知っていたようだ。
「賛美歌なら、いくつか知ってるよ。今度、ゾンビが出たら唄ってみるね」
ティアが、そう言ってから10分程経った時、10匹程の集団に出くわした。そして、唄ってみると。
「止まっちょる」
「だね、止まってるね」
「消滅する予定だと、聞いたが?」
「無理っぽい」
その『ゾンビ』の集団は、ティアに近い位置から動かなくなっている。そして、まだ動くヤツらも、動きが緩慢で、一定の位置まで近づいた段階で動かなくなる。
完全に停止する距離は、ティアから5㍍程だ。そして、15㍍程の距離から、動きがだんだんと遅くなっている。
ティアが、話をするために、『賛美歌』を止めた時は、その途端、いつもどおりの動きで襲いかかってきた。効果があるのは間違いない。
「微妙だね……」
「そうでも無いぞ、今みたいに動きが止まっていれば、スティールし放題だからな。俺は楽だ」
「多分、スキルレベルが上がれば、ミミが言ったように、消滅まで行くのではないか?」
本人には、全く責任のない事なんだが、若干落ち込んでいるティアを、俺とシェーラからフォローする。
そして、諸悪の根源たるミミは、
「こりは、転生者を巡ってでも、是非とも般若心経を我が手に!!」
と、何やら、勝手な予定を立てているようだ。
そんな試行錯誤を繰り返すうちに、9組のパーティーで行っていた掃討作業も最終日を迎えた。9組だけになって三日後の事だ。
そして、その日、早朝から『スティール』にレア光が放たれた。
その時は、『賛美歌』による完全停止状態だったので、全員に余裕があった。と言うか、ミミとシェーラは完全待機状態だったし。
だから、出現光が完全に消える前に、光の中に現れた物体はミミの手によってかすめ取られる。相変わらす、ミミの『素早さ』補正値は、こんな時にしか役立っていない。
「指輪!!」
ミミが、俺から奪い取った物を掲げながら叫んだ。
それは、白のベースにルビーのような赤い石がはまった指輪だった。その指輪のリング部分は、幅が広く、シルバーアクセサリーなどに多く見られるデザインだと思う。
「レアか?」
「ああ、レアだった」
「ロミナスさんに確認して頂くよりないな。トマス氏では、装飾品の鑑定は無理だからな」
超レアの楯に引き続き、二つ目の要鑑定品というわけだ。
「多分、ステータス増幅系アイテムだと思うんよね~。装備して、ステータスを確認すれば一発なんやけど……、ゾンビドロップやから、何か、呪われてる可能性も有るし、やっぱ、ロミナスさん案件って事で!」
さすがのミミも、ゾンビドロップ品には、一応躊躇するようだ。
そんな、レア品について話していると、唐突にティアが変な事を言い出す。
「ロウ、今度、指輪ちょうだいね」
「指輪? これを欲しいのか?」
「違う、違う、婚約指輪。骨は拾ってやる、って言ったよね」
正直、この発言には驚いた。冗談とは言え、あの出来事に関する事を、こういう形でも口に出来るようになった事に、だ。
ティアの後方でシェーラも驚きの表情を浮かべている。
「自分で、骨、言ってるぞ。まあ、あれを婚約、プロポーズと言うかどうかはこっちに置いといて、その、婚約指輪ってのは何だ?」
「えっ? ロウ、知らないの? 婚約を記念して送る指輪だよ。給料の三ヶ月分」
「ティア、すまないが、私もそのような風習は聞いた事がないんだが、ひょっとして、前世の風習なのではないか?」
「えー! ホント!? ミミちゃーん!!」
「そだよ、この国に、んな風習ないよ。一般人は結婚式すらあげんのよね」
「えー! 結婚式も!?」
「そそ、村じゃ、周り近所に、結婚したぞー!って触れ回って終わり。もち、結婚指輪なんてのも無し」
「……知らなかったよ」
「まあ、しょうがないさ、俺達は孤児院育ちだからな、周囲の結婚だ何だにも、全然係わる機会なんて無かったし。まあ、ティアが欲しいんなら、良さそうなやつ探しとくよ。ただ、その、『給料の三ヶ月分』とか言う意味の分からないのは無理だぞ」
「えっ! 良いの!?」
そう言った瞬間、ティアの顔は、驚きから嬉しそうな顔に変わった。まあ、ティアが更に一歩前進した記念だと思えは安いものさ。
ちなみに、ティアの頬が赤く染まっている、なんてことはない。つまり、そう言うことだ。戯れ言の延長だな。だから、俺も続ける。
「ああ、婚約って言うか、骨拾いな。骨拾い保証指輪」
「えーっ、何か、その名前、やだー」
「分かった、分かった、婚約予約指輪、な。」
「うーっ、それで、良しとしとく」
ティアの口調か不満げだが、その顔は、かなり笑顔だった。
そんな笑顔を見ながら、いろいろとこれまでの事を思い浮かべていると、ミミのやつが、俺の前に右手を差し出してきた。
「何だ? この手は?」
「指輪、私にも」
「……断る!」
「なんでじゃ~!! 差別じゃ~!! 私にもプリーズ!!」
「あ、良いね、ミミちゃんも、一緒に骨拾ってもらおう!」
「そだぞ! 一緒に拾えー!!」
「だが、断る!!」
「何ですと~!! だが、言われた! だが!!」
何やら、微妙に違う所に引っかかっているミミは、久々に見せる、地団駄をダムダムダムと踏んでいた。
そして、そんにミミの横からもう一本の手が伸ばされる。
「……シェーラ、何だ? この手?」
「いや、ここは、私もやっておくべきかと……」
「ミミはともかく、シェーラが売れ残る訳無いだろう! ミミはともかく!!」
「二度も言った! 二度言うな! 駄目押すな!! 大事な事だから二度言いましたってかー!!」
そんな、カオスな状況を、ティアは楽しそうに笑いながら見ていた。その表情に、今までのような陰がほとんど見えない気がする。
酒瀬川の時以上に吹っ切れたのだと思う。だから、カオスな状況が収まったところで、俺は、今まで控えていた前世の話題を解禁する事にした。
「ティア、今まで、そのアニソンとやらを唄ってきたけど、ティアは前世で歌手だったんだろ? 自分の歌も持ってるんだよな。それは唄わないのか?」
実は、あの『託宣の儀』で前世の記憶を取り戻して以降、一度も、ティアは自分の持ち歌を歌った事がなかったんだよ。
これは、歌手としては、もの凄い辛い事なんじゃないかと思う。自分の大好きなはずの歌を歌えない。歌える精神状態ではない、って事がだ。
さっきの事を考えれば、もう、歌えるんじゃないかって思ったんだよ。だから、振った。
ティアが、自身の歌を唄う事は、多分、更なる一歩を踏み出す事になると思っている。間違いなく、もっと前に進む。
そんな、俺の思惑はともかく、言われたティアは、キョトンとした顔をしたがそれは一瞬で、特に引っかかるような表情は見せない。大丈夫そうだな。
「私の歌はね、恋愛を唄った歌ばっかりだから、付与効果は多分無いよ。ほら、最初の日にミミちゃんが言ってたでしょ。ね、ミミちゃん」
「そ~だ~ねぇ~、愛だ恋だじゃ、何のパラメーターが上がるっちゅ~の! 上がって『精神』がちょろっとでしょ。私が唯一知っちょるアニメ映画のテーマソングも恋愛系だし」
……唯一知ってる?
「ミミちゃん!!」
「な、何じゃ!! 急に大きな声出して!」
「ミミちゃん! 今、唯一知ってる、って言ったよね!!」
「うん、そだよ」
「他は!?」
「知んない」
「……嘘────!! 私、シングル12、アルバム3枚出してるんだよ! CMソングやドラマの主題歌にもなってのに!!……本当に知らないの?」
そう、アヤノは、中学一年の後半にデビューして、高校2年の五月に死亡するまでの間、ソロ歌手としてはかなり多い曲を出している。
そして、デビュー曲以外は、全て売り上げランキング一位から三位を一ヶ月以上維持した。発売日や一週間ではなく、一ヶ月以上、だ。良くある、他のアーティストの発売時期の隙間を狙った、見せかけのランキング操作では無く、本当に売れた証拠だ。
それなのに、当時24歳OLは知らないと言う。
「あにょね、ティア! オタクをなめんな────!! オタクはやる事が大量にあるんよ! 漫画読んで、アニメ見て、ドラマCD聞いて、ラノベ読んで、ネット小説読んで、ネットチェックして、同人誌読んで、ついでに仕事もしちょるんよ!! 興味の無い音楽なんか、聴く暇あるか────!!」
……ついでに、仕事してたのかよ。
「おたくという職業は、かなり忙しい職業なのだな」
……シェーラ、おたくは職業じゃなくって、職が付かない業だから! カルマだから!!。
「……興味なかったんだ」
「そのとお~り! 『天の川の下で』の曲はエエ曲だった!」
「良い曲だと思ったなら、他の曲もチェックしてよ!」
「アニソン以外は、興味なし!!」
……ある意味、潔くはある。まあ、おたくとは、程度の差はあれ、こんなものだろう。
そんな、予定外の騒動はあったが、何とか、俺の思惑どおりの『アヤノリサイタル』が始められた。
結果としては、全ての曲が、大なり小なりパラメーターを上げてはいるが、それは、現在ティアの『精神』の補正値が高いからだろう。曲自体の効果とは思えない。
まあ、そもそも、俺の目的はそれではなかった、唄わせる事自体が目的だったのだから。もう、目的は達している。
「良くて+4 大抵が+2と言う所だな」
「だ~ね~ぇ、ま、こんなもんしょ。予定どおり、予定どおり」
そう、確かに、ミミの予定どおりではあった。ここまでは。
ミミの予定が外れたのは、『天使の翼で抱きしめて』と言う曲を唄っていた時だ。この曲のサビが終わった辺りで、シェーラがミミに何やら耳打ちした。そして、響き渡るミミの絶叫。
「マジでか────!!」
その声にティアが驚いて、唄うのを止めると、ミミは即座に再開させた。
そして、その曲が流れる中、ミミのやつが腰のナイフを抜き出すと、なぜか、突然自分の手のひらに突き刺した。
「ミミちゃん!!」
ティアが、ミミの奇行を見て、慌てて『低級回復薬』を掛けようとするの、その本人が止め、それどころか、また歌を再開させる。
「大丈夫、大丈夫。ティアは唄う、唄う」
訳の分からないまま、不安げな顔で、歌を再開するティア。そして、ミミの奇行の意味が分かったのは、それから1分程経ったと頃だった。
ミミは、血の湧き出る手のひらを一定周期で血をなめ取っていた。その手のひらから湧き出してくる血が、だんだんと少なくなり、1分程で完全に止まっていた。そして、その30秒後には傷跡すら消えている。
「治療効果か……」
俺は、思わず呟いていた。
「そ! まさか、こんな効果があるとは!!」
何でも、この曲を唄いだしたあと、シェーラの腕にあった木の枝で引っ掻いた擦り傷が消えたらしい。それでもしや、と思ったシェーラがミミに相談して、ミミがあの奇行に走ったと言う事だ。
その後、今度は俺が腕に傷を作り、先ほどと違って、俺だけに集中してスポットで唄ってもらう。すると、30秒程で血は止まり、その後15秒程で傷も消えていた。
「治癒魔法ゲットだぜ!!」
そうやって喜ぶミミだったが、ティアは、それ程喜んではいなかった。
「駄目だよ、ミミちゃん。治癒速度が遅すぎるよ。これなら、ポーション使った方が良いよ」
「無問題! 使い方、使い方! 戦闘中のケガには今までどおりポーション。それ以外にはこの歌! あと、馬車移動の時、馬に唄ってあげれば、馬のケガも予防でけるんでないかい?」
「あ……そうだね、馬って、蹄とか意外に傷めやすいもんね」
今回の依頼で、馬好きになっていたティアには、これはクリティカルだったようだ。
この日の発見は、この治癒効果のある歌までだった。そして、とくに問題も無いまま、その日の掃討作業も終了し、この『ゾンビ討伐戦』自体が完全に終わった。
「終~了~!!」
ミミのやつが大声を上げるが、今回ばかりは、誰もとがめないし、うるさいとも思わなかった。全員の気持ちを代弁した叫びだった。
夕方、村へと帰ると、村人全員がささやかではあるがパーティーを開いてくれた。
「最初から最後まで、ご苦労だったね」
村長もね俺達をねぎらってくれる。
パーティーには、当然アルコールも出されたのだが、俺達のパーティーではシェーラ以外は元々飲まないし、今日はシェーラも明日の事を考えて控えたようだ。
まあ、俺達が飲まなくても、他の冒険者が全部飲むので、残るような事はない。村人も飲むしな。
それと、このパーティー中に、今更ではあるが、カルトさんが西ギルドの副ギルドマスターで有る事を知った。ロミナスさん以外にもう一人いるという外回りの副ギルドマスターだ。
そして、なんと、あのカチアさんが、次の副ギルドマスター候補だという。しかも、カルトさんのあとの。
カチアさん自身は、
「私は、受付嬢がやりたくってギルドに入ったの! サブマス候補ならロミナスさんの後釜が良かった!!」
などと、宣っていた。だが、その直後にカルトさんより、新たな暴露が成される。
「真偽スキル持ちを、内勤に就けてどうするんですか」
『真偽』スキルとは、以前言った嘘が分かるスキルだ。確かに、ギルドの外回りには必須とまでは言わないが、有ると無いでは全く違ってくるだろう。
「窓口でも必要なの!」
「必要ありません。窓口業務は鑑定があれば、事足ります」
「受付嬢が良いの!!」
「もう、嬢と言う年齢ではな…」
「26歳です!!」
「……」
カチアさんが26歳であるかどうかは、さておき、彼女が内勤に就く可能性は、ミミの身長が伸びる可能性と同じ位だろう。南無~。
ちなみに、カチアさんのJOBは『判事』だそうだ。ティアが、それを聞いて驚いて、思わず声を上げていた。
「何で、ギルドにいるんですか!!」
「だから、ギルドの受付嬢に憧れて入ったのよ! なのに、20年間一度もやらせてくれなかったんだよ!」
カチアさんから、悲痛な魂の叫びが飛び出す。そして、その叫びには、彼女の本当の年齢を推察できる情報も一緒に含まれていた。聴かなかった事にしておこう……。
いろいろと新事実が発覚したパーティーだった。
そして、翌日、カルトさんは午前中には昨日までの残務を片付け、昼には村を出発した。そして、今度は特に問題も発生する事無く、無事西ギルドまで帰還出来た。
ティアの『競馬ソング』と定期的に唄った『天使の翼で抱きしめて』の『ヒーリングソング』によってかなり早く着いている。
馬たちも、終始絶好調で、機嫌も良かった。クロさんも、完全に馬に任せて走らせていたようだ。
西ギルド前に到着すると、ティアは三頭の馬から顔をなめられまくっている。ベタベタだ。だが、ティアは嬉しそうだ。
「あ~、顔がべちゃべちゃだよ~」
笑顔で馬達をなで回すティアを見かねて、シェーラが手持ちのタオルで顔を拭いてやっていた。それでも、完全には唾液は取れないので、『魔法のウエストポーチ』から水袋を出して、頭から掛けて洗っている。それでも、ティアは嬉しそうだ。
そんな、ティアとシェーラを残し、俺とミミで今回の護衛依頼の終了処置と、『ゾンビ討伐戦』の処理を行った。
護衛依頼は、当初の指定額だが、『ゾンビ討伐戦』については、一人頭、一日50ダリで、10日間と言う事で500ダリと少ない。これは、国から出る依頼料が少ない事と、アンデッド討伐が実質冒険者の不利益を潰す事にも繋がっているから、と言う事で安く設定されている。
ただ、俺達の場合、他の冒険者と違って、コツコツと1ポイント『魔石』を拾い集めてあるし、『解毒薬』もある。トータルで、通常の一日当たりの収益以上にはなるはず。
そして、10日間で拾い集めたり、『解毒薬』の対価として受け取った『魔石』約4000個が入った袋を換金するために出すと、買い取り窓口の職員から驚かれた。
「お前達、こんなに取ってきたのかよ!」
「当たり前っしょ!! 1ポイントだろうが、魔石は魔石! 拾わんヤツがバカなんよ!!」
こればかりは、ミミに同意だ。10万匹いたら、10万ダリ分の『魔石』があった事になる。『魔法のウエストポーチ』が10個買える金額だ。他の冒険者が拾わない事の方が不思議でならない。本当に、マジで、だ。この事については、ティアは勿論、シェーラですら同意している。
多分、この当たりの感覚は孤児院育ち故に、1ダリどころか、その下の1ダグリにすら困窮していた過去の生活から来るものだろう。
今回の討伐にも、俺達同様に孤児院出の者や、貧乏農家出の者も多かったはずだが、参加した冒険者が4級以上と言う事で、冒険者になって既にかなりの時が経っていた事で、その辺りの感覚を失っているのだろう。
俺達は、早い段階で4級となり、今回の討伐に参加した関係で、貧乏くささと、貧乏性が抜け落ちないままだったという事だ。
この『魔石』の換金は、さすがに数が多いという事で、時間が掛かった。
ちなみに、この『魔石』は、専用のマジックアイテムによって、20ポイントごとに纏められ、20ポイント『魔石』として販売される。何でも、1ポイントから20ポイントまでの『魔石』は、20ポイントまでしか纏める事は出来ず、21ポイントから40ポイントも同様に40ポイントまでしか纏められないらしい。
『魔石』は、このように一定の値に纏めて販売するため、市販品は『20ポイント』『40ポイント』と言う二種類だけが販売される事になる。
当然、41ポイント以上の『魔石』を持つモンスターも存在するのだが、現状、それを倒せる者はほとんどいないので、41ポイント以上の『魔石』が市場に出回る事はない。そして、多分、41ポイントから60ポイント『魔石』も60ポイントに纏めることが出来ると思われる。ギルド側もやった事はないらしいけど。
大量の『魔石』の換金が終わったら、今度は『黒死鳥』の死体の買い取りについて話したのだが、全部ギルドに任せた。俺達には全く価値が分からない。考えるだけ無駄だと考えた。まあ、窓口がカルトさんなら、変な事はしないはず。それ位は信用している。
とは言え、カルトさんだけでなく、買い取り窓口の職員さんも、即決は出来ないようで、数日欲しいとの事だった。他の素材と違って、めったに出回らない素材らしいので、こればかりは仕方がない。
一応、カルトさんから、「少なくとも、1万ダリを下回る事はありません」との言質はいただいた。
「よっしゃ! これで、もう一つ魔法の袋が買える! 今のウエストポーチは衝立でカッツカツだかんね~」
全く相談無しで決めるミミだが、俺も反対はしない。多分、ティアとシェーラもだろう。『魔法のウエストポーチ』が二つあれば、かなり使い勝手が良くなる。出来れば、最終的には一人一個は持てるようになりたい。まだ、まだ、まだ先だが……。
そして、一通り終われば、ロミナスさんの所へと寄っていく。この時点で、ティアとシェーラも合流だ。
「ご苦労だったね」
ロミナスさんは、そう言って、俺達を労ってくれた。『ゾンビ』の件はともかく、『黒死鳥』に付いてはロミナスさんもかなり驚いたらしい。
「あんた達も、無茶したもんだね」
そう言ってくるロミナスさんに、俺達は全員で反論する。
「無茶せんと、死んどるっちゅうねん!」
「自分たちから、襲いかかった訳じゃなから……」
「不可抗力だと思う。……あれは」
「あれは、無理だ……」
そんな俺達の反論を、ロミナスさんは苦笑いで聞いていた。
その後、ミミが中心になって、『黒死鳥』戦、『ゾンビ討伐』の報告をした。って言うか、聞いてもらった。『ゾンビ討伐』に関しては、8割方騎士団についての愚痴だ。
そして、一通り落ち着いた所で、『ゾンビ』から『スティール』した指輪の鑑定を頼んだ。
「これは、MP消費を1/3にする指輪さね」
「うっしゃー! も~ろた!」
ロミナスさんの説明を聞いた途端、ミミのやつが指輪をがめる。しかも、なぜか、左手の薬指にはめようとする。だが『素早さ』補正値の存在価値を見せて、ミミから奪い取った。
「あにすんの!?」
「アホ! 勝手に自分の物にすんな! これは、シェーラのだ!」
「何でじゃー!! パイオツか!?パイオツの力なんか!!」
そんなアホな事を言い出すので、頭を強めにペチッと叩いておく。
「あのな、現在俺達の活動場所を考えろ! 森だ! も~り! お前のファイヤーストームの出番は無い! シェーラの地裂斬のMPを押さえて多用した方が良いだろう!」
「くおっ! そ、そうだった…ゾンビ戦の華麗なイメージが残ってて、勘違いしちょった……。終わった! 終わっちまった! 私の華麗なる時代が終わっちまったよ~!」
奇声を上げているミミをよそに、俺は指輪をシェーラに渡す。受け取ったシェーラは、一瞬躊躇するが、ティアが頷くのを見て、指輪をはめた。左手の薬指に……。なぜその指? まあ、この国に、そう言う風習は無いので、ミミが付けようとしていた指に付けただけとは思うけどさ。
そんな、アホな一騒動が終わったのを見計らって、ロミナスさんがミミに話しかけた。
「小っこい嬢ちゃん、あんたに、魔導師ギルドから呼び出しが来てるさね。例の、火炎旋風がらみさね」
「……行かなきゃマズイ?」
「いや、別に強制じゃないさね。ただ、まあ、ある意味、世紀の大発見だからね、魔導師ギルド的には、話ぐらいは聞きたいんじゃないのかい」
確かに、発動中の魔法現象をある程度とは言えコントロールできる、と言う事は、間違いなく大発見だろう。曲がりなりにも『魔導師ギルド』を名乗っている以上、無視する訳にはいかないはず。
ミミは、しばらく考えた上で、行く事にしたようだ。
「ちゅう事で、明日は、お休み!!」
ミミの宣言で、明日が休日となった。ま、どのみち、長期依頼後だから、元々休日を入れる予定ではあったしな。さて、明日はどうしよう。
騎士団と『浄化師』の爺さんは、『不浄の泉』消滅の翌日には王都へと帰った。爺さんは、もう少し残りたかったようだが、騎士団が問答無用で連れ帰っている。
『浄化師』の爺さんはともかく、騎士団については、村人及び冒険者から非難囂々だった。なにせ、『アンデッドモンスター討伐』は本来、騎士団の仕事であり、冒険者は騎士団から依頼されて行っている体なのだから。
「紅竜と蒼竜だからな……」
大半の者は、そう言って諦めている。
「黒竜騎士団なら、こんな事は……」
シェーラは、父親が所属した騎士団故に、そんな事を言ってはいるが、『黒竜騎士団』自体、一般人から騎士になった者がいるとは言え、その所属騎士の大半は他の騎士団同様、貴族子弟らしいので、正直どうなるかは微妙だ。
そんな騎士団の事はともかく、掃討作戦自体は順調に進んでいく。
『不浄の泉』が消滅した事によって、これ以上『ゾンビ』が増加する事が無いため、今までのように朝行くと戦線が1キロ近く押し下げられていると言う事も無い。
そんな当たり前な事が、掃討する側の精神を安定させる。そして、それが安定した討伐を生み、相乗効果が生まれ、更なる討伐へと繋がって行く。
結果、『不浄の泉』消滅三日後には、応援できた王都からの冒険者の半数が帰還し、更に翌日には残った者の更に半数が帰還した。
そして、五日後には、応援冒険者のほぼ全てが帰還し、初日のメンバー、つまりこの村常駐冒険者と俺達だけになった。
俺達が残ったのは、この討伐戦の冒険者側責任者がカルトさんになったため、未だカルトさん達の護衛任務遂行中の俺達が、この場を離れる訳にはいかなかったからだ。
この最後に残った9組の冒険者による掃討戦は、戦列を組んで行うのでは無く、個別バラバラに各個撃破となっている。なにせ、既に戦列を組む必要が無い程に『ゾンビ』の数は減っており、その存在位置も完全にバラバラだからだ。
数は減った、とはいうものの、それでも1000匹程はいる。
俺達は、狩り残しが無いように、エリア分けを行って殲滅して行く。
ただ、その殲滅戦は、それまでと比べると圧倒的に余裕があるもので、その余裕を利用して色々と試していった。
まあ、試すと言っても、例のごとくティアの『歌唱』スキルなんだが。
と言う訳で、唐突に言い出すのは、当然ミミ。
「ティア、般若心経、知っちょる?」
「え? 般若心経って、あのお経の?」
「そそ」
「う~ぅん、知らないよ」
「マジか!」
「うん、うち浄土真宗だから」
「そいでも、一度くらいは聞いた事あるっしょ!」
「それは、あるよ」
「だったら、覚えてるっしょ! いつものアレで!!」
「いつものアレって……、ミミちゃん、お経は歌じゃ無いよ。一度聞いた位じゃ覚えられないよ」
「何でじゃー! あれ、歌と変わらんじゃん! 伴奏付いてっじゃん!!」
「伴奏って……、ミミちゃん、木魚は楽器じゃ無いよ」
ミミのヤツが、「うがぁぁぁぁ」と騒いでいるが、まあ、その辺りは日常だ。
……般若心経か、俺も経文は知らないな。
以前、空海が主人公の小説を読んでいて、主人公が般若心経を読むシーンがあり、「あれ?般若心経って、真言宗?」って思ってググった事がある。結果、般若心経自体は、日本の仏教の宗派に関係なく読まれるもので、般若経と言う経文の略典だとか書いてあった。その時いろいろ読んだのだが、詳細は覚えていない。
「ミミ、その般若心経ってやつ、ミミがティアに教えれば良いんじゃ無いか?」
俺がそう提案すると、ミミのやつは両手で頭上に大きな×を作った。
「私も、知らんもん!」
「「「……」」」
「色即是空空即是色、全てこの世は夢幻よ、覚めてしまえば、喝! ってのらな知っちょる」
……前半はともかく、後半は、どうせアニメか漫画の一節だろう。
「あ、あと、般若心経の名前は、本当は般若波羅密多心経ってのも知っちょる!」
「そこまで知ってて、肝心のお経は知らないんだ……」
「知らん! だ~か~ら~! ティアの歌覚え能力に期待したんよ!!」
……まあ、読経には、確かに音楽的な要素はある。ティアなら、と考えたミミの気持ちも分かる、かな。
「で、それで、その般若心経が、どうしたって?」
「うみゅ、ほれ、般若心経でゾンビが成仏せんかな~って思ったんよ。昔読んだラノベに、般若心経ゴスペルで汚れた聖域を浄化するっちゅうのがあったんよ。お経が心霊系に効果あるちゅうのは、鉄板じゃん!!」
「ゾンビって、幽霊と同じだったっけ?」
「アンデッドって言うぐらいだから、同じっしょ!」
「そうなの?」
ティアが、俺とシェーラに尋ねてきた。
「ミミ達の世界の心霊や幽霊がどのようなのもかは分からないが、不浄の泉から湧き出すモンスターに関しては全て、鑑定スキルによってアンデッドであると確認されている。そして、その中にゴーストと言うモンスターも存在する。当然これもアンデッドだ。前世の世界とやらは別として、この世界に関して言えば、ゾンビとゴーストは同族と言える」
「ロウは?」
「俺も、シェーラと同意見だな。ゴーストと幽霊が同種か、と言う問題はあるけどな。あと、その般若心経とかってのが効くかどうかも知らないけどな」
この世界の『ステータス』に表記される文言は絶対だ。ティアの『歌唱』スキルの説明に、『他の者に対して』とあり、それが実際、その付与効果がティア自身には無いように。この文言は絶対なのだ。
この、『ステータス』に書かれた文章は、その絶対性から『神言』と言われている。『鑑定』スキルで見られる情報も、同様に『神言』だ。神的存在が設定した文言だと言える訳で、『神言』と呼んでおかしい事は無い。
だから、『鑑定』によって読み取られた『ステータス』に『アンデッド』と言う文字が書かれているのであれば、そのモンスターは間違いなく『アンデッド』だ。
『アンデッドに特効』と書かれたアイテムであれば、『アンデッドモンスター』であれば、劇的な効果を発揮する。『般若心経』が『アンデッドに特効』となっているのであれば、確実に効果を発揮する訳だ。
現状、『ゴースト』と『幽霊』が同種なのか?と言う問題と、仮に、同種であったとして、『般若心経』が効果があるか?と言う問題がある。
仮に、ティアの『歌唱』スキルで『唄う』事によって『退魔効果』が発揮されるとしても、異界の宗教のお経が、その宗教が存在しない世界で効果が発揮できるのか?と言う問題もある。
いわゆる、キリスト教による悪魔に、仏教のお経が効くのか?って言う、前世でもよく取り上げられた疑問だ。
まあ、般若心経を知らない以上、考えるだけ無駄な事ではある。
「うん~みゅ~、般若心経が駄目ってなると……、うっし! 賛美歌行ってみよう! 般若心経より弱い気がすっけっど、あれは神をたたえる歌! アンデッドとは逆位相のはず!!」
強い、弱いってどこで決まるんだ? あと、逆位相って……。それはともかく、ティアは賛美歌は知っていたようだ。
「賛美歌なら、いくつか知ってるよ。今度、ゾンビが出たら唄ってみるね」
ティアが、そう言ってから10分程経った時、10匹程の集団に出くわした。そして、唄ってみると。
「止まっちょる」
「だね、止まってるね」
「消滅する予定だと、聞いたが?」
「無理っぽい」
その『ゾンビ』の集団は、ティアに近い位置から動かなくなっている。そして、まだ動くヤツらも、動きが緩慢で、一定の位置まで近づいた段階で動かなくなる。
完全に停止する距離は、ティアから5㍍程だ。そして、15㍍程の距離から、動きがだんだんと遅くなっている。
ティアが、話をするために、『賛美歌』を止めた時は、その途端、いつもどおりの動きで襲いかかってきた。効果があるのは間違いない。
「微妙だね……」
「そうでも無いぞ、今みたいに動きが止まっていれば、スティールし放題だからな。俺は楽だ」
「多分、スキルレベルが上がれば、ミミが言ったように、消滅まで行くのではないか?」
本人には、全く責任のない事なんだが、若干落ち込んでいるティアを、俺とシェーラからフォローする。
そして、諸悪の根源たるミミは、
「こりは、転生者を巡ってでも、是非とも般若心経を我が手に!!」
と、何やら、勝手な予定を立てているようだ。
そんな試行錯誤を繰り返すうちに、9組のパーティーで行っていた掃討作業も最終日を迎えた。9組だけになって三日後の事だ。
そして、その日、早朝から『スティール』にレア光が放たれた。
その時は、『賛美歌』による完全停止状態だったので、全員に余裕があった。と言うか、ミミとシェーラは完全待機状態だったし。
だから、出現光が完全に消える前に、光の中に現れた物体はミミの手によってかすめ取られる。相変わらす、ミミの『素早さ』補正値は、こんな時にしか役立っていない。
「指輪!!」
ミミが、俺から奪い取った物を掲げながら叫んだ。
それは、白のベースにルビーのような赤い石がはまった指輪だった。その指輪のリング部分は、幅が広く、シルバーアクセサリーなどに多く見られるデザインだと思う。
「レアか?」
「ああ、レアだった」
「ロミナスさんに確認して頂くよりないな。トマス氏では、装飾品の鑑定は無理だからな」
超レアの楯に引き続き、二つ目の要鑑定品というわけだ。
「多分、ステータス増幅系アイテムだと思うんよね~。装備して、ステータスを確認すれば一発なんやけど……、ゾンビドロップやから、何か、呪われてる可能性も有るし、やっぱ、ロミナスさん案件って事で!」
さすがのミミも、ゾンビドロップ品には、一応躊躇するようだ。
そんな、レア品について話していると、唐突にティアが変な事を言い出す。
「ロウ、今度、指輪ちょうだいね」
「指輪? これを欲しいのか?」
「違う、違う、婚約指輪。骨は拾ってやる、って言ったよね」
正直、この発言には驚いた。冗談とは言え、あの出来事に関する事を、こういう形でも口に出来るようになった事に、だ。
ティアの後方でシェーラも驚きの表情を浮かべている。
「自分で、骨、言ってるぞ。まあ、あれを婚約、プロポーズと言うかどうかはこっちに置いといて、その、婚約指輪ってのは何だ?」
「えっ? ロウ、知らないの? 婚約を記念して送る指輪だよ。給料の三ヶ月分」
「ティア、すまないが、私もそのような風習は聞いた事がないんだが、ひょっとして、前世の風習なのではないか?」
「えー! ホント!? ミミちゃーん!!」
「そだよ、この国に、んな風習ないよ。一般人は結婚式すらあげんのよね」
「えー! 結婚式も!?」
「そそ、村じゃ、周り近所に、結婚したぞー!って触れ回って終わり。もち、結婚指輪なんてのも無し」
「……知らなかったよ」
「まあ、しょうがないさ、俺達は孤児院育ちだからな、周囲の結婚だ何だにも、全然係わる機会なんて無かったし。まあ、ティアが欲しいんなら、良さそうなやつ探しとくよ。ただ、その、『給料の三ヶ月分』とか言う意味の分からないのは無理だぞ」
「えっ! 良いの!?」
そう言った瞬間、ティアの顔は、驚きから嬉しそうな顔に変わった。まあ、ティアが更に一歩前進した記念だと思えは安いものさ。
ちなみに、ティアの頬が赤く染まっている、なんてことはない。つまり、そう言うことだ。戯れ言の延長だな。だから、俺も続ける。
「ああ、婚約って言うか、骨拾いな。骨拾い保証指輪」
「えーっ、何か、その名前、やだー」
「分かった、分かった、婚約予約指輪、な。」
「うーっ、それで、良しとしとく」
ティアの口調か不満げだが、その顔は、かなり笑顔だった。
そんな笑顔を見ながら、いろいろとこれまでの事を思い浮かべていると、ミミのやつが、俺の前に右手を差し出してきた。
「何だ? この手は?」
「指輪、私にも」
「……断る!」
「なんでじゃ~!! 差別じゃ~!! 私にもプリーズ!!」
「あ、良いね、ミミちゃんも、一緒に骨拾ってもらおう!」
「そだぞ! 一緒に拾えー!!」
「だが、断る!!」
「何ですと~!! だが、言われた! だが!!」
何やら、微妙に違う所に引っかかっているミミは、久々に見せる、地団駄をダムダムダムと踏んでいた。
そして、そんにミミの横からもう一本の手が伸ばされる。
「……シェーラ、何だ? この手?」
「いや、ここは、私もやっておくべきかと……」
「ミミはともかく、シェーラが売れ残る訳無いだろう! ミミはともかく!!」
「二度も言った! 二度言うな! 駄目押すな!! 大事な事だから二度言いましたってかー!!」
そんな、カオスな状況を、ティアは楽しそうに笑いながら見ていた。その表情に、今までのような陰がほとんど見えない気がする。
酒瀬川の時以上に吹っ切れたのだと思う。だから、カオスな状況が収まったところで、俺は、今まで控えていた前世の話題を解禁する事にした。
「ティア、今まで、そのアニソンとやらを唄ってきたけど、ティアは前世で歌手だったんだろ? 自分の歌も持ってるんだよな。それは唄わないのか?」
実は、あの『託宣の儀』で前世の記憶を取り戻して以降、一度も、ティアは自分の持ち歌を歌った事がなかったんだよ。
これは、歌手としては、もの凄い辛い事なんじゃないかと思う。自分の大好きなはずの歌を歌えない。歌える精神状態ではない、って事がだ。
さっきの事を考えれば、もう、歌えるんじゃないかって思ったんだよ。だから、振った。
ティアが、自身の歌を唄う事は、多分、更なる一歩を踏み出す事になると思っている。間違いなく、もっと前に進む。
そんな、俺の思惑はともかく、言われたティアは、キョトンとした顔をしたがそれは一瞬で、特に引っかかるような表情は見せない。大丈夫そうだな。
「私の歌はね、恋愛を唄った歌ばっかりだから、付与効果は多分無いよ。ほら、最初の日にミミちゃんが言ってたでしょ。ね、ミミちゃん」
「そ~だ~ねぇ~、愛だ恋だじゃ、何のパラメーターが上がるっちゅ~の! 上がって『精神』がちょろっとでしょ。私が唯一知っちょるアニメ映画のテーマソングも恋愛系だし」
……唯一知ってる?
「ミミちゃん!!」
「な、何じゃ!! 急に大きな声出して!」
「ミミちゃん! 今、唯一知ってる、って言ったよね!!」
「うん、そだよ」
「他は!?」
「知んない」
「……嘘────!! 私、シングル12、アルバム3枚出してるんだよ! CMソングやドラマの主題歌にもなってのに!!……本当に知らないの?」
そう、アヤノは、中学一年の後半にデビューして、高校2年の五月に死亡するまでの間、ソロ歌手としてはかなり多い曲を出している。
そして、デビュー曲以外は、全て売り上げランキング一位から三位を一ヶ月以上維持した。発売日や一週間ではなく、一ヶ月以上、だ。良くある、他のアーティストの発売時期の隙間を狙った、見せかけのランキング操作では無く、本当に売れた証拠だ。
それなのに、当時24歳OLは知らないと言う。
「あにょね、ティア! オタクをなめんな────!! オタクはやる事が大量にあるんよ! 漫画読んで、アニメ見て、ドラマCD聞いて、ラノベ読んで、ネット小説読んで、ネットチェックして、同人誌読んで、ついでに仕事もしちょるんよ!! 興味の無い音楽なんか、聴く暇あるか────!!」
……ついでに、仕事してたのかよ。
「おたくという職業は、かなり忙しい職業なのだな」
……シェーラ、おたくは職業じゃなくって、職が付かない業だから! カルマだから!!。
「……興味なかったんだ」
「そのとお~り! 『天の川の下で』の曲はエエ曲だった!」
「良い曲だと思ったなら、他の曲もチェックしてよ!」
「アニソン以外は、興味なし!!」
……ある意味、潔くはある。まあ、おたくとは、程度の差はあれ、こんなものだろう。
そんな、予定外の騒動はあったが、何とか、俺の思惑どおりの『アヤノリサイタル』が始められた。
結果としては、全ての曲が、大なり小なりパラメーターを上げてはいるが、それは、現在ティアの『精神』の補正値が高いからだろう。曲自体の効果とは思えない。
まあ、そもそも、俺の目的はそれではなかった、唄わせる事自体が目的だったのだから。もう、目的は達している。
「良くて+4 大抵が+2と言う所だな」
「だ~ね~ぇ、ま、こんなもんしょ。予定どおり、予定どおり」
そう、確かに、ミミの予定どおりではあった。ここまでは。
ミミの予定が外れたのは、『天使の翼で抱きしめて』と言う曲を唄っていた時だ。この曲のサビが終わった辺りで、シェーラがミミに何やら耳打ちした。そして、響き渡るミミの絶叫。
「マジでか────!!」
その声にティアが驚いて、唄うのを止めると、ミミは即座に再開させた。
そして、その曲が流れる中、ミミのやつが腰のナイフを抜き出すと、なぜか、突然自分の手のひらに突き刺した。
「ミミちゃん!!」
ティアが、ミミの奇行を見て、慌てて『低級回復薬』を掛けようとするの、その本人が止め、それどころか、また歌を再開させる。
「大丈夫、大丈夫。ティアは唄う、唄う」
訳の分からないまま、不安げな顔で、歌を再開するティア。そして、ミミの奇行の意味が分かったのは、それから1分程経ったと頃だった。
ミミは、血の湧き出る手のひらを一定周期で血をなめ取っていた。その手のひらから湧き出してくる血が、だんだんと少なくなり、1分程で完全に止まっていた。そして、その30秒後には傷跡すら消えている。
「治療効果か……」
俺は、思わず呟いていた。
「そ! まさか、こんな効果があるとは!!」
何でも、この曲を唄いだしたあと、シェーラの腕にあった木の枝で引っ掻いた擦り傷が消えたらしい。それでもしや、と思ったシェーラがミミに相談して、ミミがあの奇行に走ったと言う事だ。
その後、今度は俺が腕に傷を作り、先ほどと違って、俺だけに集中してスポットで唄ってもらう。すると、30秒程で血は止まり、その後15秒程で傷も消えていた。
「治癒魔法ゲットだぜ!!」
そうやって喜ぶミミだったが、ティアは、それ程喜んではいなかった。
「駄目だよ、ミミちゃん。治癒速度が遅すぎるよ。これなら、ポーション使った方が良いよ」
「無問題! 使い方、使い方! 戦闘中のケガには今までどおりポーション。それ以外にはこの歌! あと、馬車移動の時、馬に唄ってあげれば、馬のケガも予防でけるんでないかい?」
「あ……そうだね、馬って、蹄とか意外に傷めやすいもんね」
今回の依頼で、馬好きになっていたティアには、これはクリティカルだったようだ。
この日の発見は、この治癒効果のある歌までだった。そして、とくに問題も無いまま、その日の掃討作業も終了し、この『ゾンビ討伐戦』自体が完全に終わった。
「終~了~!!」
ミミのやつが大声を上げるが、今回ばかりは、誰もとがめないし、うるさいとも思わなかった。全員の気持ちを代弁した叫びだった。
夕方、村へと帰ると、村人全員がささやかではあるがパーティーを開いてくれた。
「最初から最後まで、ご苦労だったね」
村長もね俺達をねぎらってくれる。
パーティーには、当然アルコールも出されたのだが、俺達のパーティーではシェーラ以外は元々飲まないし、今日はシェーラも明日の事を考えて控えたようだ。
まあ、俺達が飲まなくても、他の冒険者が全部飲むので、残るような事はない。村人も飲むしな。
それと、このパーティー中に、今更ではあるが、カルトさんが西ギルドの副ギルドマスターで有る事を知った。ロミナスさん以外にもう一人いるという外回りの副ギルドマスターだ。
そして、なんと、あのカチアさんが、次の副ギルドマスター候補だという。しかも、カルトさんのあとの。
カチアさん自身は、
「私は、受付嬢がやりたくってギルドに入ったの! サブマス候補ならロミナスさんの後釜が良かった!!」
などと、宣っていた。だが、その直後にカルトさんより、新たな暴露が成される。
「真偽スキル持ちを、内勤に就けてどうするんですか」
『真偽』スキルとは、以前言った嘘が分かるスキルだ。確かに、ギルドの外回りには必須とまでは言わないが、有ると無いでは全く違ってくるだろう。
「窓口でも必要なの!」
「必要ありません。窓口業務は鑑定があれば、事足ります」
「受付嬢が良いの!!」
「もう、嬢と言う年齢ではな…」
「26歳です!!」
「……」
カチアさんが26歳であるかどうかは、さておき、彼女が内勤に就く可能性は、ミミの身長が伸びる可能性と同じ位だろう。南無~。
ちなみに、カチアさんのJOBは『判事』だそうだ。ティアが、それを聞いて驚いて、思わず声を上げていた。
「何で、ギルドにいるんですか!!」
「だから、ギルドの受付嬢に憧れて入ったのよ! なのに、20年間一度もやらせてくれなかったんだよ!」
カチアさんから、悲痛な魂の叫びが飛び出す。そして、その叫びには、彼女の本当の年齢を推察できる情報も一緒に含まれていた。聴かなかった事にしておこう……。
いろいろと新事実が発覚したパーティーだった。
そして、翌日、カルトさんは午前中には昨日までの残務を片付け、昼には村を出発した。そして、今度は特に問題も発生する事無く、無事西ギルドまで帰還出来た。
ティアの『競馬ソング』と定期的に唄った『天使の翼で抱きしめて』の『ヒーリングソング』によってかなり早く着いている。
馬たちも、終始絶好調で、機嫌も良かった。クロさんも、完全に馬に任せて走らせていたようだ。
西ギルド前に到着すると、ティアは三頭の馬から顔をなめられまくっている。ベタベタだ。だが、ティアは嬉しそうだ。
「あ~、顔がべちゃべちゃだよ~」
笑顔で馬達をなで回すティアを見かねて、シェーラが手持ちのタオルで顔を拭いてやっていた。それでも、完全には唾液は取れないので、『魔法のウエストポーチ』から水袋を出して、頭から掛けて洗っている。それでも、ティアは嬉しそうだ。
そんな、ティアとシェーラを残し、俺とミミで今回の護衛依頼の終了処置と、『ゾンビ討伐戦』の処理を行った。
護衛依頼は、当初の指定額だが、『ゾンビ討伐戦』については、一人頭、一日50ダリで、10日間と言う事で500ダリと少ない。これは、国から出る依頼料が少ない事と、アンデッド討伐が実質冒険者の不利益を潰す事にも繋がっているから、と言う事で安く設定されている。
ただ、俺達の場合、他の冒険者と違って、コツコツと1ポイント『魔石』を拾い集めてあるし、『解毒薬』もある。トータルで、通常の一日当たりの収益以上にはなるはず。
そして、10日間で拾い集めたり、『解毒薬』の対価として受け取った『魔石』約4000個が入った袋を換金するために出すと、買い取り窓口の職員から驚かれた。
「お前達、こんなに取ってきたのかよ!」
「当たり前っしょ!! 1ポイントだろうが、魔石は魔石! 拾わんヤツがバカなんよ!!」
こればかりは、ミミに同意だ。10万匹いたら、10万ダリ分の『魔石』があった事になる。『魔法のウエストポーチ』が10個買える金額だ。他の冒険者が拾わない事の方が不思議でならない。本当に、マジで、だ。この事については、ティアは勿論、シェーラですら同意している。
多分、この当たりの感覚は孤児院育ち故に、1ダリどころか、その下の1ダグリにすら困窮していた過去の生活から来るものだろう。
今回の討伐にも、俺達同様に孤児院出の者や、貧乏農家出の者も多かったはずだが、参加した冒険者が4級以上と言う事で、冒険者になって既にかなりの時が経っていた事で、その辺りの感覚を失っているのだろう。
俺達は、早い段階で4級となり、今回の討伐に参加した関係で、貧乏くささと、貧乏性が抜け落ちないままだったという事だ。
この『魔石』の換金は、さすがに数が多いという事で、時間が掛かった。
ちなみに、この『魔石』は、専用のマジックアイテムによって、20ポイントごとに纏められ、20ポイント『魔石』として販売される。何でも、1ポイントから20ポイントまでの『魔石』は、20ポイントまでしか纏める事は出来ず、21ポイントから40ポイントも同様に40ポイントまでしか纏められないらしい。
『魔石』は、このように一定の値に纏めて販売するため、市販品は『20ポイント』『40ポイント』と言う二種類だけが販売される事になる。
当然、41ポイント以上の『魔石』を持つモンスターも存在するのだが、現状、それを倒せる者はほとんどいないので、41ポイント以上の『魔石』が市場に出回る事はない。そして、多分、41ポイントから60ポイント『魔石』も60ポイントに纏めることが出来ると思われる。ギルド側もやった事はないらしいけど。
大量の『魔石』の換金が終わったら、今度は『黒死鳥』の死体の買い取りについて話したのだが、全部ギルドに任せた。俺達には全く価値が分からない。考えるだけ無駄だと考えた。まあ、窓口がカルトさんなら、変な事はしないはず。それ位は信用している。
とは言え、カルトさんだけでなく、買い取り窓口の職員さんも、即決は出来ないようで、数日欲しいとの事だった。他の素材と違って、めったに出回らない素材らしいので、こればかりは仕方がない。
一応、カルトさんから、「少なくとも、1万ダリを下回る事はありません」との言質はいただいた。
「よっしゃ! これで、もう一つ魔法の袋が買える! 今のウエストポーチは衝立でカッツカツだかんね~」
全く相談無しで決めるミミだが、俺も反対はしない。多分、ティアとシェーラもだろう。『魔法のウエストポーチ』が二つあれば、かなり使い勝手が良くなる。出来れば、最終的には一人一個は持てるようになりたい。まだ、まだ、まだ先だが……。
そして、一通り終われば、ロミナスさんの所へと寄っていく。この時点で、ティアとシェーラも合流だ。
「ご苦労だったね」
ロミナスさんは、そう言って、俺達を労ってくれた。『ゾンビ』の件はともかく、『黒死鳥』に付いてはロミナスさんもかなり驚いたらしい。
「あんた達も、無茶したもんだね」
そう言ってくるロミナスさんに、俺達は全員で反論する。
「無茶せんと、死んどるっちゅうねん!」
「自分たちから、襲いかかった訳じゃなから……」
「不可抗力だと思う。……あれは」
「あれは、無理だ……」
そんな俺達の反論を、ロミナスさんは苦笑いで聞いていた。
その後、ミミが中心になって、『黒死鳥』戦、『ゾンビ討伐』の報告をした。って言うか、聞いてもらった。『ゾンビ討伐』に関しては、8割方騎士団についての愚痴だ。
そして、一通り落ち着いた所で、『ゾンビ』から『スティール』した指輪の鑑定を頼んだ。
「これは、MP消費を1/3にする指輪さね」
「うっしゃー! も~ろた!」
ロミナスさんの説明を聞いた途端、ミミのやつが指輪をがめる。しかも、なぜか、左手の薬指にはめようとする。だが『素早さ』補正値の存在価値を見せて、ミミから奪い取った。
「あにすんの!?」
「アホ! 勝手に自分の物にすんな! これは、シェーラのだ!」
「何でじゃー!! パイオツか!?パイオツの力なんか!!」
そんなアホな事を言い出すので、頭を強めにペチッと叩いておく。
「あのな、現在俺達の活動場所を考えろ! 森だ! も~り! お前のファイヤーストームの出番は無い! シェーラの地裂斬のMPを押さえて多用した方が良いだろう!」
「くおっ! そ、そうだった…ゾンビ戦の華麗なイメージが残ってて、勘違いしちょった……。終わった! 終わっちまった! 私の華麗なる時代が終わっちまったよ~!」
奇声を上げているミミをよそに、俺は指輪をシェーラに渡す。受け取ったシェーラは、一瞬躊躇するが、ティアが頷くのを見て、指輪をはめた。左手の薬指に……。なぜその指? まあ、この国に、そう言う風習は無いので、ミミが付けようとしていた指に付けただけとは思うけどさ。
そんな、アホな一騒動が終わったのを見計らって、ロミナスさんがミミに話しかけた。
「小っこい嬢ちゃん、あんたに、魔導師ギルドから呼び出しが来てるさね。例の、火炎旋風がらみさね」
「……行かなきゃマズイ?」
「いや、別に強制じゃないさね。ただ、まあ、ある意味、世紀の大発見だからね、魔導師ギルド的には、話ぐらいは聞きたいんじゃないのかい」
確かに、発動中の魔法現象をある程度とは言えコントロールできる、と言う事は、間違いなく大発見だろう。曲がりなりにも『魔導師ギルド』を名乗っている以上、無視する訳にはいかないはず。
ミミは、しばらく考えた上で、行く事にしたようだ。
「ちゅう事で、明日は、お休み!!」
ミミの宣言で、明日が休日となった。ま、どのみち、長期依頼後だから、元々休日を入れる予定ではあったしな。さて、明日はどうしよう。
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(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
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ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
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