埋(うずみふ)風――風が吹いたら死体が見つかり、ぼくは少女を殺す夢を見る

三章企画

文字の大きさ
27 / 33

犬の花が咲くとき(その2)

しおりを挟む
 植物は、半年ほどの間に、与えられた肥料分のうち三割から四割を吸収して自らの細胞を作っていく。土壌に肥料分(特に堆肥や有機系肥料)が残存していれば、さらに三年ほどの間にさらに四割程度吸収していくという報告もあった。溶脱分がなければ、肥料全てを吸収できるのかもしれない。
 実践的には、肥料の溶脱量を減らし、肥料分を吸収しやすい工夫をすれば、半年単位で五、六割まで吸収率を上げる事が可能になっている。水耕栽培やコート系肥料の使用などがその良い例になるだろう。
 人間のように、口から直接取り込めるようにでもなれば、さらに吸収率は上がって、十割近くになるかもしれないのだが、それは難しい話だ。

 植物は、窒素を硝酸やアンモニアの形態になったものを吸収していくが、人間は、窒素をアミノ酸という形態で吸収していく。
 植物の根は、腐葉土などを硝酸態に変える分泌物を出して分解し、吸収しやすくしているが、人間の体内にはそんな仕組み(酵素や分泌物)が少ない。
 だから人間は、腐葉土や堆肥を食っても栄養分にしたり、細胞を分裂生成させてくことは難しい。一方で、体内に特殊な酵素やバクテリアなどを存在させて、他の生物が食用としない植物を食べて生存する生物もある。彼らのように何らかの別な仕組みを組み込むことで、腐葉土や堆肥をアミノ酸に変えることができれば、骨格や内臓、あるいは脳細胞などを生成することも可能になるのかも知れない。
 だが、人間にとっての現実は、堆肥を食えば腹をこわすのが関の山だった。
 押領寺さんの圃場の泰山木を見た夜、ぼくはそうした怪しげな事ばかりを考えていた。
――ぼくは、犬という個体が、(押領寺さんの恣意によって)植物に変わっていく姿を、いずれ目の当たりにすることになると知っていた。
 腐敗した犬(の肉片)を虫が食い糞として排出する。あるいは、黴やバクテリアによって分解(これも食われ糞となることだが)されていく。それを泰山木の根が分解し吸収していく。ごく当たり前に行われている自然の過程だと頭ではわかっていたのだが、気持ちがついて行けなかった。
 気が付くと巨大な泰山木に無数の白い犬の頭の形をした花が咲いていて、降るように落ちてきては、鳴く。押領寺さんは、無限に降り続ける犬の花を、ひとつずつ丁寧に集めては山のように積み上げる度に、ぼくを見て、にやり、にやりと笑う……。
 いつしかぼくは、眠って夢を見ているのだか、起きて妄想しているのだかわからなくなっていた。

 押領寺さんが犬の花を拾っては山に積み上げたように、確か無数に小さな人形になった、人形の手足のようにばらばらになった一城美奈子を、ぼくも掬い集めては堆肥の山のように積み上げようとしている。
 そんな夢を見たことがあった。
 おそろしくたくさんの一城美奈子の欠片がそこにあるのに、ホイールローダーのバケットは掬っても掬っても一杯にならない。
 彼女がしゃべろうとしていることばが聞き取れれば、バケットは一杯になるのにと思って、ぼくはひたすら焦っている。
 そんな夢だった。
「泰山木の花になった犬は鳴くのに、人は口も利けないのか」
 ぼくは苦く笑った。
 そして、床に横たわっている見えない彼女の首をゆっくりと絞めてみた。
 両の掌は空気を握り潰し、空気を握り潰すたびに、指の背が固く冷たい床に触れて何度も音を立てた。ぼくは手の甲を、指の背を見つめた。夢の中で感じた床はもっと軟らかく、もっと暖かだった。
 色はどうだったろう。

 彼女がタブグラインダーで切り刻まれる夢を見たとき、彼女は敷き均されたウッドチップの山に寝かされていたが、彼女を絞め殺したときの床の色は、腐食しかけた木片の焦げ茶色だったろうか。だとしたら。
――ぼくは彼女を、一城美奈子を、センターの堆肥の上で殺した。そういうことになるのだろうか。
 あり得ないと言う思いと、あり得るという思いが、夢と妄想との中で一晩中朦朧と交錯し続けていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...