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篠宮 楓

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ねぇ、知ってる?(人間関係)

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「ねぇ、知ってる?」

 うーわー、捕まったぁぁぁ。




 程よく都会で程よく田舎……んー、ごめん。まぁ田舎寄りの住宅街の一軒家。私たち夫婦は数年前に引っ越してきた。
 昔ながらの住宅地の中に三軒だけ建てられた、新築分譲。
 どうやら以前は空き地だったらしい。たまに遊びに来て驚いて帰る、おじいちゃん&孫セットを見たりする。
 そんなこんなで、ご近所さんは大体昔からここに住んでうん十年のベテランさんばかり。
 引っ越しの挨拶をして、見かければ元気よく挨拶、すれ違っても元気よく挨拶!
 翌年、早速自治会の班長が回ってきて、大変だったけど何とか地域に溶け込めた……と思う。



「ねぇ、知ってる?」

 ゴミ捨てに隣の列の道路っぱたまで行った時、後ろからかけられたその声に思わず顔を顰めそこなって何とか無表情を貫いた。
 どこで誰に見られてるかわからないから、360度女優でいなくちゃね。
 訳の分からない決心をしつつ、表情に笑みを浮かべて振り返る。
「おはようございます、三井さん」
 そこには脳内で想像したとおりのご近所のおばさま、三井さんがごみ袋を持って歩いてくるところだった。
「おはよう」
 私の挨拶に応えながら、ごみ袋をずいっとゴミネットの横に持っていく。
「……」
 無言の圧でもって、今自分のごみ袋を収めて掛けたばかりのゴミネットを持ち上げた。
「どうぞ~」
「あら、ごめんね。気を遣わせちゃって。もう、ホント気遣いなんだから」
 そういいながらも、絶対ネットには触れず私が持ち上げたスペースにゴミ袋を入れ込むと何事もなかったかのように腰を伸ばして両腕を組んだ。

 ……井戸端会議体制……

 カラスに捲られないようにゴミのネットをゴミ袋に被せ、そして端を下におり込む私をしり目に、三井さんはいつもの言葉を吐き出した。

「あ、そうそう。ねぇ、知ってる?」

 何をだよ。

 思わず脳内ツッコミが発動してしまったけれど、仕方ないと思わない?
 あぁぁ、話が長くなるうえに相槌打ちにくい事ばかり言ってくるんだこの人。

「えぇと?」
 
 本当は何も聞きたくないけれど、ここで断ると「やっぱり若い子は話を聞いてくれない」みたいな感じでご近所ネットワークで話されちゃうんだよね。
 たまにゴミ捨ての時に捕まると、ご近所さんの話しをされるから怖い怖い。 
 
 三井さんはここぞとばかりに身を乗り出してきた。

「ほら、うちの後ろのお宅、分かる? 隣の通路だとわからないかしら。私もおたくの通路の事はあんまり分からないしねぇ」

 同じ班の人とはいえ隣の通路のお宅だと、こうやってゴミ出しの時に偶然会わない限りホントに顔を合わせないことが多い。
 それでも一度引っ越しの挨拶に行ってるから、名前や顔位は分かる。
「あ、」
「まぁ、その奥さんなんだけどね」
 聞いといて、それかい……!

 思わずひくつきそうになって、表情を固める。楽しそうでもなくいやそうでもなく、微笑だ。微笑……!

 三井さんは得意げに腕を前で組んだ。

「一体、何してるのかしらね」
「?」
 主婦してるんじゃない? 確か専業主婦のお姉さんだったような。
 思わずはてなマークを浮かべてしまうが、三井さんは気にしない。
「だって一日家にいるのよ、私みたいなお婆さんじゃあるまいし暇じゃないのかしら」
 ここで同意すると、3つの意味で私はヤバい。
 
 1.お姉さんを批判してしまう
 2.三井さんがお婆ちゃんだと認めてしまう
 3.私「が」文句を言っていたと思わせるような、ミスリードな会話をされてしまう

 かといって、もし否定すれば。私が、三井さんの文句の標的にされそうで怖い。

 近所づきあいは、はたしてとても面倒だ。


「何か、ご自宅でなさってるんでしょうかねぇ」

 私がとった回避案は、もしかしたら他の可能性が! 案。
 否定も肯定もせず、私分かりませんみたいな雰囲気を醸し出しそして話を終わりに持っていく技!

 ただただゴミ出しに来ただけなんだ! 私をおうちに帰してくれ!

「あぁ、今の子って在宅? でやってるのをお仕事っていうわよね。なんか趣味とか、そういうの」

 ……私も趣味のものづくりを自宅でしてますが……!
 ネットショップもやってますが!

 三井さんは組んでいた腕を外して両手を擦り合わせると、寒くなってきたわねと独り言ちた。
「あなたとは通路が違って中々会わないし様子も分からないから、心配してたのよ。元気そうでよかったわ。風邪ひかないようにね」
「あ、はい。ありがとうございます」

 やっと話が終わったことに内心安堵しながら、隣の通路……自宅のある方へと歩き出したその瞬間。

「あ、そういえば朝の六時半に雨戸開けるのって、少し早いと思うのよね。気になってたの。じゃあね」

「え、あ、はい。すみません……」

 思わず謝罪を口にすれば、三井さんは満足げに頷いて帰っていった。


「……」


 その後姿を見送って、自宅へと戻る。
 黙ったまま手を洗い居間に戻ると、ごみ捨ての前に淹れておいたお茶を一口飲んだ。



—あ、そういえば朝の六時半に雨戸開けるのって、少し早いと思うのよね。気になってたの



「……」


 朝六時半に雨戸開けてるって、三井さんちからうちは見えないはずなのに……何で知ってるの?
 なんか雨戸をあける音が特徴的とか?? それでうちだってわかるってこと? そもそも音が聞こえてるの? もしかしてどっかから見てるの???




「こえぇぇぇぇっ!」



 このリアルなご近所ホラー、めちゃくちゃ怖い。
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