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吟の帰還……の前準備 雪の計画遂行・2【商店街夏祭り企画】
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トムトムさんちの紬さんと孝子ちゃんに、デザートを頼む回です^^
トムトムさん、ご協力ありがとうございました!!
----------------------------------
「母さん、ただいま」
ぼんやりと店先で考え事をしていたら、息子の醸が配達を終えて裏から店に入ってきた。
雪は頬に当てていた手を下ろしながら、後ろを振り向く。
「お帰りなさい、醸くん」
雪の返事に片手を上げて応えながら、醸は納品伝票を机に置いて伸びをしている。
体格だけは燗さんに似て大きく育った醸は、ここ数年浮いた噂の一つもない。
学生時代にもしかしたら雪達の知らないところでお付き合いをしていた女の子がいたかもしれないけれど、大学を出て家に入ってからそんな影は一つもない。
そう。この子は……
「そういえば、姉さんから連絡来た? 今年は、夏祭り帰ってくるかなぁ」
雪はそんな醸を見遣って、小さく息をついた。
「醸くん、私少し出てきてもいいかしら。紬さんちに行ってくるわ」
顔を上げて醸に問いかければ、ゆっくりと首を傾げた。
「紬さん? 別にいいけど、どうしたの」
不思議そうなその顔に、雪はふんわりと笑いかけると行ってきますとだけ伝えて店頭から外に出た。
醸は、親の欲目を引いてもそこまで悪くない造作をしてると思う。でも、なんでかしらね……。吟ちゃん一筋の、お姉ちゃん大好きくんに育っちゃって……。
再び小さくため息をついて、何かを諦めるように軽く頭を振った。
「まぁ、これで醸くんもお姉ちゃん離れしてくれるでしょ」
醸が聞いていたら真っ青になって言葉の意味を問い詰められそうな独り言を漏らして、雪は中央広場をゆっくりと歩いて行った。
中央広場を挟んで向かいにある、喫茶店トムトム。店のドアを開けて入れば、ひんやりと気持ちのいい風が雪の首筋を撫でていく。
「いらっしゃいませ……、あ、雪さん」
紬さんちの双子くんの弟、次郎くんがカウンターの向こうでコーヒーを淹れていた手を止めて顔を上げた。
「こんにちは、次郎くん。紬さんいる?」
朝のうちに一応時間を取ってもらうことをお願いしてはいたけれど、お客様相手の商売は毎日一定した時間配分で仕事をしているわけじゃない。
それは店頭が混雑することなどほとんどない自店だけれど、雪にもわかっている。
次郎くんは厨房に顔を向けると、そこにいた紬さんを呼んでくれた。すぐに紬さんが顔を出す。
「雪さん、いらっしゃい」
にっこりと笑った紬さんは、一言厨房に何か言うとフロアに出て一番奥の席に通してくれた。
勧められたテーブル席に座ると、その後ろから孝子ちゃんがアイスコーヒーをトレイに乗せて歩いてくる。
「雪さん、こんにちは」
「こんにちは、孝子ちゃん」
にこにこと笑ってテーブルに飲み物を置いてくれる孝子ちゃんは、紬さんの姪っ子ちゃん。このお店のパティシエとして働いている。
挨拶を終えて戻ろうとする孝子ちゃんを、雪は引き留めた。
「孝子ちゃんにお願いしたいことがあるの、一緒に話を聞いてもらえるかな」
一応紬さんには電話した時に伝えていたけれど、やはり自分からも……とお願いすると、少し不思議そうに首を傾げたけれど頷いて紬さんの隣に座ってくれた。
「それで、どうしたの? 雪さん。何か相談があるってことだったけれど」
紬さんに話を促されて、雪は少し申し訳ない表情で話し始めた。
「あのね、夏祭りの前日に吟ちゃんが帰ってくるんだけど」
「あら、吟さん帰ってくるんですか?」
驚いたように両手を合わせた孝子ちゃんに、頷き返す。
「あのね、まだ燗さんに言ってないの。だからここだけの話で内緒にしていて欲しいんだけど」
「あ、はいっ」
素直に頷いてくれる孝子ちゃんに、目元を緩ませる。
「ありがとう。それで、その時にイカチョコムースをね、吟ちゃんに食べさせたいと思って」
イカチョコムースは、喫茶トムトムがイカ様フェアの際につくったデザートメニュー。
婚約中の重光先生と沙織さんの仲を取り持ったイカ様にあやかって、商店街のお店がたまに行うイカ様フェア。
吟ちゃんにも、重光先生たちのように幸せになってほしい。
だから……
「誕生日ケーキくらいの大きさのイカチョコムース、作ってもらうなんて……こと、できるかしら」
「誕生日ケーキ!」
驚いたように紬さんが呟く。孝子ちゃんも、目をぱちぱちしている。
「吟ちゃん。その日、結婚したいっていう相手を連れてくるの」
「!!!」
叫ぼうとした孝子ちゃんが、すんでのところで両手で口を塞いでそれを耐えていた。
紬さんはぱちぱちと瞬きした後、嬉しそうに相好を崩す。
「おめでとう! そうなの、吟ちゃんが結婚」
その表情に、ふわりと肩から力が抜ける。
「ありがとう。当日まで燗さんにはナイショだから、どうなるかなーと思ったりもするんだけれどね」
すんなり決まるとは思えないし、吟がそれに従うとも思えない。
当日は久しぶりの親子げんかになるかもしれない、止めるのは醸くんで八つ当たりされるのも醸くんだけど。
そう笑うと、想像できてしまったのか紬さんと孝子ちゃんが目を見合わせた。
「こんなに急な話で紬さんや孝子ちゃんには迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ないんだけれど……」
そう言うと一瞬の静けさのあと、あたりまえじゃない……と言葉が返ってきた。
「当り前よ、私たちも吟ちゃんをお祝いしたいわ。そんなことは気にしないで? ね、孝子」
隣に座る孝子ちゃんに紬さんが視線を向けると、彼女は嬉しそうに頷いてくれる。
「吟さんの為だもん、大きいイカチョコムース作ります!」
「そうそう。そのまま、アニバーサリー用のケーキとしてメニューに加えてもいいと思うから、金型、金物屋さんに相談してみるわ」
雪は二人に見えないところで、ぎゅっと拳を握る。
お祝い料理は万全ね!
吟ちゃん、これで下準備は整ったわよ!
あとは、あなたの頑張り次第!!
楽しそうにこれからの流れを話し合い始めた二人に、雪は心からお礼を伝えた。
トムトムさん、ご協力ありがとうございました!!
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「母さん、ただいま」
ぼんやりと店先で考え事をしていたら、息子の醸が配達を終えて裏から店に入ってきた。
雪は頬に当てていた手を下ろしながら、後ろを振り向く。
「お帰りなさい、醸くん」
雪の返事に片手を上げて応えながら、醸は納品伝票を机に置いて伸びをしている。
体格だけは燗さんに似て大きく育った醸は、ここ数年浮いた噂の一つもない。
学生時代にもしかしたら雪達の知らないところでお付き合いをしていた女の子がいたかもしれないけれど、大学を出て家に入ってからそんな影は一つもない。
そう。この子は……
「そういえば、姉さんから連絡来た? 今年は、夏祭り帰ってくるかなぁ」
雪はそんな醸を見遣って、小さく息をついた。
「醸くん、私少し出てきてもいいかしら。紬さんちに行ってくるわ」
顔を上げて醸に問いかければ、ゆっくりと首を傾げた。
「紬さん? 別にいいけど、どうしたの」
不思議そうなその顔に、雪はふんわりと笑いかけると行ってきますとだけ伝えて店頭から外に出た。
醸は、親の欲目を引いてもそこまで悪くない造作をしてると思う。でも、なんでかしらね……。吟ちゃん一筋の、お姉ちゃん大好きくんに育っちゃって……。
再び小さくため息をついて、何かを諦めるように軽く頭を振った。
「まぁ、これで醸くんもお姉ちゃん離れしてくれるでしょ」
醸が聞いていたら真っ青になって言葉の意味を問い詰められそうな独り言を漏らして、雪は中央広場をゆっくりと歩いて行った。
中央広場を挟んで向かいにある、喫茶店トムトム。店のドアを開けて入れば、ひんやりと気持ちのいい風が雪の首筋を撫でていく。
「いらっしゃいませ……、あ、雪さん」
紬さんちの双子くんの弟、次郎くんがカウンターの向こうでコーヒーを淹れていた手を止めて顔を上げた。
「こんにちは、次郎くん。紬さんいる?」
朝のうちに一応時間を取ってもらうことをお願いしてはいたけれど、お客様相手の商売は毎日一定した時間配分で仕事をしているわけじゃない。
それは店頭が混雑することなどほとんどない自店だけれど、雪にもわかっている。
次郎くんは厨房に顔を向けると、そこにいた紬さんを呼んでくれた。すぐに紬さんが顔を出す。
「雪さん、いらっしゃい」
にっこりと笑った紬さんは、一言厨房に何か言うとフロアに出て一番奥の席に通してくれた。
勧められたテーブル席に座ると、その後ろから孝子ちゃんがアイスコーヒーをトレイに乗せて歩いてくる。
「雪さん、こんにちは」
「こんにちは、孝子ちゃん」
にこにこと笑ってテーブルに飲み物を置いてくれる孝子ちゃんは、紬さんの姪っ子ちゃん。このお店のパティシエとして働いている。
挨拶を終えて戻ろうとする孝子ちゃんを、雪は引き留めた。
「孝子ちゃんにお願いしたいことがあるの、一緒に話を聞いてもらえるかな」
一応紬さんには電話した時に伝えていたけれど、やはり自分からも……とお願いすると、少し不思議そうに首を傾げたけれど頷いて紬さんの隣に座ってくれた。
「それで、どうしたの? 雪さん。何か相談があるってことだったけれど」
紬さんに話を促されて、雪は少し申し訳ない表情で話し始めた。
「あのね、夏祭りの前日に吟ちゃんが帰ってくるんだけど」
「あら、吟さん帰ってくるんですか?」
驚いたように両手を合わせた孝子ちゃんに、頷き返す。
「あのね、まだ燗さんに言ってないの。だからここだけの話で内緒にしていて欲しいんだけど」
「あ、はいっ」
素直に頷いてくれる孝子ちゃんに、目元を緩ませる。
「ありがとう。それで、その時にイカチョコムースをね、吟ちゃんに食べさせたいと思って」
イカチョコムースは、喫茶トムトムがイカ様フェアの際につくったデザートメニュー。
婚約中の重光先生と沙織さんの仲を取り持ったイカ様にあやかって、商店街のお店がたまに行うイカ様フェア。
吟ちゃんにも、重光先生たちのように幸せになってほしい。
だから……
「誕生日ケーキくらいの大きさのイカチョコムース、作ってもらうなんて……こと、できるかしら」
「誕生日ケーキ!」
驚いたように紬さんが呟く。孝子ちゃんも、目をぱちぱちしている。
「吟ちゃん。その日、結婚したいっていう相手を連れてくるの」
「!!!」
叫ぼうとした孝子ちゃんが、すんでのところで両手で口を塞いでそれを耐えていた。
紬さんはぱちぱちと瞬きした後、嬉しそうに相好を崩す。
「おめでとう! そうなの、吟ちゃんが結婚」
その表情に、ふわりと肩から力が抜ける。
「ありがとう。当日まで燗さんにはナイショだから、どうなるかなーと思ったりもするんだけれどね」
すんなり決まるとは思えないし、吟がそれに従うとも思えない。
当日は久しぶりの親子げんかになるかもしれない、止めるのは醸くんで八つ当たりされるのも醸くんだけど。
そう笑うと、想像できてしまったのか紬さんと孝子ちゃんが目を見合わせた。
「こんなに急な話で紬さんや孝子ちゃんには迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ないんだけれど……」
そう言うと一瞬の静けさのあと、あたりまえじゃない……と言葉が返ってきた。
「当り前よ、私たちも吟ちゃんをお祝いしたいわ。そんなことは気にしないで? ね、孝子」
隣に座る孝子ちゃんに紬さんが視線を向けると、彼女は嬉しそうに頷いてくれる。
「吟さんの為だもん、大きいイカチョコムース作ります!」
「そうそう。そのまま、アニバーサリー用のケーキとしてメニューに加えてもいいと思うから、金型、金物屋さんに相談してみるわ」
雪は二人に見えないところで、ぎゅっと拳を握る。
お祝い料理は万全ね!
吟ちゃん、これで下準備は整ったわよ!
あとは、あなたの頑張り次第!!
楽しそうにこれからの流れを話し合い始めた二人に、雪は心からお礼を伝えた。
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