君が見ていた空の向こう

篠宮 楓

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はじまり。

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それは、唐突だった。
唐突にやってきた。



「俺、お前の事好きなんだよね」



「……は?」


固まってしまった俺に、罪はない。



――ここは、男子校です。








――――――君が見ていたそらの向こう――――――











たすく、なんでそんなに機嫌悪いの?」
朝っぱらからさー、と不思議そうに俺の目の前の机に鞄を置いた正也を思わず睨む。
「なんだよ」
少しびくついたように目を見開く正也に、俺の横の席に座ってやり取りを見ていた僚太がひらひらと手のひらを振った。
「あー、あまり話かけてやるな。絶賛お怒り中だから」
「ふぅん」
意味は分からないけれど、とりあえず触れない方がいいと判断したのだろう正也は椅子に腰かけて僚太へと体を向ける。
「そう言えばさ、いつもならもう来てるはずの朽木はどうしたの?」
「まっ、まさ……」
「今頃、厚生室にでもいるんじゃね?」

慌てて正也の言葉を遮ろうとした僚太の気遣いは徒労に終わり、盛大に俺の声が響いた。
「さっき、張っ倒してきたから」
「うぇぇぇぇ?」

お前にかよ、そう顔を歪めた正也は俺の人睨みで肩を竦めた。


「何があったかしんねーけど、お前が殴ったら朽木はすっ飛ぶだろー。見た目に反して腕っぷし強いんだから」
おーイタそー、と両腕をさする正也に僚太が呆れた視線を向けた。
「そんな祐にその物言いが出来る時点で、お前って結構最強だと思うんだが」
「えー? だって祐ってば筋の通らない事で人殴ったりしないもんね?」
そう言ってニコリと笑う正也は、ある意味最強だと思う。
腕力も身長もないけれど、無邪気に見せかけるその人懐っこい笑顔と、言葉で相手を言いくるめられるところとか。

ふわふわの茶っぽい髪の毛と大きい目は、女だったらと周囲を残念がらせている。
本人は嫌がりながらも、それを最大限生かして男子校で生息中。


「そう言って先に祐の行動を制限させるお前が、ある意味俺は一番怖いんだよ」
呆れた表情を浮かべたまま少し乗り出した体を椅子に戻す僚太は、どちらかといえば硬派の部類に入るだろう。

剣道を幼い頃から続けているからか、精神的な面でとても落ち着いている。
周囲に気を使いすぎているきらいがあるが、そんなところも気に入ってて。
その内胃薬常備になるんじゃないかと思うほど。

真っ黒な髪を無造作に後ろに流して、気にしてないのだろうに姿形はとても凛としている。
少し目つきが悪いのが難点だが、それも自分で気にしているらしく細身の伊達眼鏡をかけて緩和させようとしている、根っからの気遣い君と言えるだろう。



「んで、なんで朽木と喧嘩したんだよ。祐が殴ったっていうなら、それなりの理由があるんだろ?」
「……って言うから」
正也の問いかけに声を潜めて返答すれば、聞こえないとばかりに耳に手を当てて聞き返されるから。
貯まっていた鬱憤ごと、思いっきり叫んだ。

「あいつが俺の事好きだとか、いきなり言うからだ!!」

「……」
「……」

しんとした教室内。
しまったとは思ったが、言ってしまったものは仕方ない。
大体あいつに言われたのも下駄箱だったから、周りにたくさん人いたし。
きっと今頃は、俺の喧嘩っ早さと共に広められてるだろう。

朽木が、阿呆な事を言い出したことを。

目をまん丸く見開いた僚太は、瞬きもせずに俺を見ている……が。

「え? そんなの今更じゃん?」

正也の言葉に、思わず二人して間抜けな声をあげた。

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