君が見ていた空の向こう

篠宮 楓

文字の大きさ
5 / 19
はじまり。

しおりを挟む
平均身長より少し高い俺でも見上げる朽木は、覆いかぶさるようにして俺を見ている。
いつものぼけぼけ朽木とは違う雰囲気に少し押されながら、俺は奴の目の前に手に持っていた封筒を突き付けた。

「お前、今の奴がここに来る事知ってたな」

朽木の視線が封筒に動いて、すぐに戻る。
「知ってたよ?」
「ならちゃんと昼になる前に言えよ。真摯に気持ちを伝えようとしている奴に対して、今の俺とお前の態度は最低だ!」

好きです、の一言の下にもう一つ。
昼に屋上にきてくださいの一文。
この手紙は、呼び出しも含めていた。

それならば俺一人で相対して、受けた気持ちを断るにしてもちゃんと返すのが筋だろう。

そう続ければ、朽木が一瞬目を眇めた。
「祐は、ホントまっすぐだよね。男からの告白でも、ちゃんと筋を通そうとするんだから」
「男とか、関係ないだろ」
そりゃびっくりはするけど。
そう続ければ、朽木は上体を傾けて俺の耳元に顔を近づけてきた。
「じゃあ、俺の気持ちは?」
「はぁ?」
断ってんじゃねーか、思いっきり。
「殴ったのに伝わってないわけか」
そりゃ残念だ。

朽木はくすりと耳元で笑うと、俺の肩に額をのせた。
「俺がずっと祐に向けていた気持ちは? 一年からずっと祐を見てきたんだ、今更、他の奴に渡すなんてことするわけないだろ」
それは、背筋がぞくりとするような静かな声で。
いつもとの落差も相あまって、物凄く冷たく感じる。

思わず固まった俺に気付いたのか、ほんの少し顔をあげた。

前髪の隙間からこっちを見る朽木の表情は、どこか暗さを含んでいて。
後ずさりたかったけれど壁を背負っている俺に、逃げ道はなかった。

「その手紙、俺への牽制かと思ったんだよね」
「なんで」
「言ったでしょ? 俺、祐が好きだって。知ってる奴は知ってるだろうし、その上で祐宛ての手紙を俺のとこに入れるなんてさ、それしか理由考えられないでしょ」
「ただの間違いだってありえんだろ」

実際、本当に間違ったんだと思う。あの慌てよう。
ふとさっきバッタのようにぺこぺこしていた一年生が、脳裏に浮かんだ。

「俺のものに手を出そうとするなんて、いい度胸だと思ったけどね」
「誰がお前のもんだ。ど阿呆」
「祐が、だよ」

手のひらだけじゃなく肘までを壁につけた朽木との距離は、物凄く近い。
目の前に見えるガラス玉みたいな黒い目は、じっと俺を見下ろしている。

「ゆっくりでも祐の気持ちをこっちに向けられればって思ってたけど、まさか横やりいれられると思ってなくてさ。手紙の内容も内容だし、んじゃどうしようかなーって思って」
淡々話し続けていた朽木の手が、するりと俺の頬に触れた。
「心から手に入れられないなら、先にカラダかなぁーて思ってたら祐が来たもんだから」
「だから――」
勃った、かよ。
この状態でその言葉を言えなくて思わず濁せば、ゆっくりと朽木の目が細められた。



「欲情した、のがよかった?」
「どっちもよくねーよ! 大体、それはお互いの同意の上の行為だろ? 一方的に気持ちを押し付けるのは、男相手でもレイプっていうんだよ」
「そうだね。だから、我慢してるんじゃない」
今だって……と言外に含まれた意味に、眉根を寄せる。
そんな俺をじっと見ながら、小さく首を傾げた。

「ねぇ、祐はさ。俺のことキライ?」
「友人としては好きだ。それ以上でも以下でもねぇよ」

即答。
好意はあってもそれは友人という範疇からは出ていない。
朽木は暗に返されている告白への返事を、少しも表情を変えずに聞いていた。

「でもさ」

するり、頬に触れていた指先がかすかに動いく。
「普通、高校生男子でただの友人が、こんなにスキンシップするとかないと思うんだけど」
「それはお前が勝手に……!」
「でも気持ち悪いとか死ぬほどいやだとかじゃないでしょ? なんだかんだ言って、受け入れてくれてるし。なら、俺に望みってあると思うんだよね」
一気に顔に血液が集まっていく。
恥ずかしさに目が潤みそうになって、ぎりっと朽木をにらむ目に力を入れた。
「勝手な曲解すんなよ!」
「するよ。だって、俺……」

少し言葉に間をあけた朽木の口が、綺麗な弧を描いた。
「なん、だよ……」
笑ってるはずなのに、なんで背筋が寒い……!
朽木はそのまま俺の耳元に口を寄せた。

「俺は、祐が欲しいから」

言われたその言葉は、掠れ気味の低い甘ったるい声とあいあまって……。

気を抜くとずるずると座り込みそうになる体を、壁に押し付けるようにして足に力を入れる。
「お、俺は! 友人以外の関係はいらんからな!」
「ふぅん。まぁ、いいんじゃない? 誰でも最初は戸惑うよね」
「だからっ、なんでお前はそう自己中なんだ……っ」
「うん、自己中だよ。そんなのわかってるでしょ」

話し合いにならない会話にイラついて、朽木の胸をドンッと叩いた。

「とにかくこの話はもうおしまいだ! 終わり!」
そう叫べば、面白そうに朽木は体を離す。
とたん、寒さを感じて体が無意識に震えた。
互いの体温で暖をとっていた状況に今更ながら気づいて、拳に力を込めて握りしめる。
「百歩譲ってあれをお前の告白だとして、それを俺が断った! それだけの話で、もうすでに終わった!」

「違うよ、祐」

俺の言葉を遮るように口を開いた朽木は、数歩校内へと入るドアの方に足を進めていたがゆっくりと振り返った。

「これから、はじまるんだよ」

それだけ言うと、俺を置き去りにしたまま屋上から校内へと入っていった。
後姿がドアの向こうに消えるのを呆然と見送って、俺はまん丸く開いていた目でばしばしと瞬きをする。

「……は?」

何が? 何が始まるって?

ずるずると壁に背中をつけながらしゃがみこむ。
脳内をぐるぐると駆け巡るもやもやとした言いようのない感情に、両手で頭を抱え込んだ。
何がなんだかよく分かんねぇけど、



――俺は、祐が欲しいから



その言葉と声に体に力が入らなくなったとか……、絶対あいつにだけは知られたくないと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

届かない「ただいま」

AzureHaru
BL
いつも通りの変わらない日常のはずだった。 「行ってきます。」と言って出て行った貴方。1日が終わる頃に「ただいま。」と「おかえり。」を笑顔で交わすはずだった。でも、その言葉はもう貴方には届かない。 これは「優しさが奪った日常」の物語。

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

罰ゲームって楽しいね♪

あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」 おれ七海 直也(ななみ なおや)は 告白された。 クールでかっこいいと言われている 鈴木 海(すずき かい)に、告白、 さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。 なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの 告白の答えを待つ…。 おれは、わかっていた────これは 罰ゲームだ。 きっと罰ゲームで『男に告白しろ』 とでも言われたのだろう…。 いいよ、なら──楽しんでやろう!! てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ! ひょんなことで海とつき合ったおれ…。 だが、それが…とんでもないことになる。 ────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪ この作品はpixivにも記載されています。

処理中です...