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はじまり。
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平均身長より少し高い俺でも見上げる朽木は、覆いかぶさるようにして俺を見ている。
いつものぼけぼけ朽木とは違う雰囲気に少し押されながら、俺は奴の目の前に手に持っていた封筒を突き付けた。
「お前、今の奴がここに来る事知ってたな」
朽木の視線が封筒に動いて、すぐに戻る。
「知ってたよ?」
「ならちゃんと昼になる前に言えよ。真摯に気持ちを伝えようとしている奴に対して、今の俺とお前の態度は最低だ!」
好きです、の一言の下にもう一つ。
昼に屋上にきてくださいの一文。
この手紙は、呼び出しも含めていた。
それならば俺一人で相対して、受けた気持ちを断るにしてもちゃんと返すのが筋だろう。
そう続ければ、朽木が一瞬目を眇めた。
「祐は、ホントまっすぐだよね。男からの告白でも、ちゃんと筋を通そうとするんだから」
「男とか、関係ないだろ」
そりゃびっくりはするけど。
そう続ければ、朽木は上体を傾けて俺の耳元に顔を近づけてきた。
「じゃあ、俺の気持ちは?」
「はぁ?」
断ってんじゃねーか、思いっきり。
「殴ったのに伝わってないわけか」
そりゃ残念だ。
朽木はくすりと耳元で笑うと、俺の肩に額をのせた。
「俺がずっと祐に向けていた気持ちは? 一年からずっと祐を見てきたんだ、今更、他の奴に渡すなんてことするわけないだろ」
それは、背筋がぞくりとするような静かな声で。
いつもとの落差も相あまって、物凄く冷たく感じる。
思わず固まった俺に気付いたのか、ほんの少し顔をあげた。
前髪の隙間からこっちを見る朽木の表情は、どこか暗さを含んでいて。
後ずさりたかったけれど壁を背負っている俺に、逃げ道はなかった。
「その手紙、俺への牽制かと思ったんだよね」
「なんで」
「言ったでしょ? 俺、祐が好きだって。知ってる奴は知ってるだろうし、その上で祐宛ての手紙を俺のとこに入れるなんてさ、それしか理由考えられないでしょ」
「ただの間違いだってありえんだろ」
実際、本当に間違ったんだと思う。あの慌てよう。
ふとさっきバッタのようにぺこぺこしていた一年生が、脳裏に浮かんだ。
「俺のものに手を出そうとするなんて、いい度胸だと思ったけどね」
「誰がお前のもんだ。ど阿呆」
「祐が、だよ」
手のひらだけじゃなく肘までを壁につけた朽木との距離は、物凄く近い。
目の前に見えるガラス玉みたいな黒い目は、じっと俺を見下ろしている。
「ゆっくりでも祐の気持ちをこっちに向けられればって思ってたけど、まさか横やりいれられると思ってなくてさ。手紙の内容も内容だし、んじゃどうしようかなーって思って」
淡々話し続けていた朽木の手が、するりと俺の頬に触れた。
「心から手に入れられないなら、先にカラダかなぁーて思ってたら祐が来たもんだから」
「だから――」
勃った、かよ。
この状態でその言葉を言えなくて思わず濁せば、ゆっくりと朽木の目が細められた。
「欲情した、のがよかった?」
「どっちもよくねーよ! 大体、それはお互いの同意の上の行為だろ? 一方的に気持ちを押し付けるのは、男相手でもレイプっていうんだよ」
「そうだね。だから、我慢してるんじゃない」
今だって……と言外に含まれた意味に、眉根を寄せる。
そんな俺をじっと見ながら、小さく首を傾げた。
「ねぇ、祐はさ。俺のことキライ?」
「友人としては好きだ。それ以上でも以下でもねぇよ」
即答。
好意はあってもそれは友人という範疇からは出ていない。
朽木は暗に返されている告白への返事を、少しも表情を変えずに聞いていた。
「でもさ」
するり、頬に触れていた指先がかすかに動いく。
「普通、高校生男子でただの友人が、こんなにスキンシップするとかないと思うんだけど」
「それはお前が勝手に……!」
「でも気持ち悪いとか死ぬほどいやだとかじゃないでしょ? なんだかんだ言って、受け入れてくれてるし。なら、俺に望みってあると思うんだよね」
一気に顔に血液が集まっていく。
恥ずかしさに目が潤みそうになって、ぎりっと朽木をにらむ目に力を入れた。
「勝手な曲解すんなよ!」
「するよ。だって、俺……」
少し言葉に間をあけた朽木の口が、綺麗な弧を描いた。
「なん、だよ……」
笑ってるはずなのに、なんで背筋が寒い……!
朽木はそのまま俺の耳元に口を寄せた。
「俺は、祐が欲しいから」
言われたその言葉は、掠れ気味の低い甘ったるい声とあいあまって……。
気を抜くとずるずると座り込みそうになる体を、壁に押し付けるようにして足に力を入れる。
「お、俺は! 友人以外の関係はいらんからな!」
「ふぅん。まぁ、いいんじゃない? 誰でも最初は戸惑うよね」
「だからっ、なんでお前はそう自己中なんだ……っ」
「うん、自己中だよ。そんなのわかってるでしょ」
話し合いにならない会話にイラついて、朽木の胸をドンッと叩いた。
「とにかくこの話はもうおしまいだ! 終わり!」
そう叫べば、面白そうに朽木は体を離す。
とたん、寒さを感じて体が無意識に震えた。
互いの体温で暖をとっていた状況に今更ながら気づいて、拳に力を込めて握りしめる。
「百歩譲ってあれをお前の告白だとして、それを俺が断った! それだけの話で、もうすでに終わった!」
「違うよ、祐」
俺の言葉を遮るように口を開いた朽木は、数歩校内へと入るドアの方に足を進めていたがゆっくりと振り返った。
「これから、はじまるんだよ」
それだけ言うと、俺を置き去りにしたまま屋上から校内へと入っていった。
後姿がドアの向こうに消えるのを呆然と見送って、俺はまん丸く開いていた目でばしばしと瞬きをする。
「……は?」
何が? 何が始まるって?
ずるずると壁に背中をつけながらしゃがみこむ。
脳内をぐるぐると駆け巡るもやもやとした言いようのない感情に、両手で頭を抱え込んだ。
何がなんだかよく分かんねぇけど、
――俺は、祐が欲しいから
その言葉と声に体に力が入らなくなったとか……、絶対あいつにだけは知られたくないと思った。
いつものぼけぼけ朽木とは違う雰囲気に少し押されながら、俺は奴の目の前に手に持っていた封筒を突き付けた。
「お前、今の奴がここに来る事知ってたな」
朽木の視線が封筒に動いて、すぐに戻る。
「知ってたよ?」
「ならちゃんと昼になる前に言えよ。真摯に気持ちを伝えようとしている奴に対して、今の俺とお前の態度は最低だ!」
好きです、の一言の下にもう一つ。
昼に屋上にきてくださいの一文。
この手紙は、呼び出しも含めていた。
それならば俺一人で相対して、受けた気持ちを断るにしてもちゃんと返すのが筋だろう。
そう続ければ、朽木が一瞬目を眇めた。
「祐は、ホントまっすぐだよね。男からの告白でも、ちゃんと筋を通そうとするんだから」
「男とか、関係ないだろ」
そりゃびっくりはするけど。
そう続ければ、朽木は上体を傾けて俺の耳元に顔を近づけてきた。
「じゃあ、俺の気持ちは?」
「はぁ?」
断ってんじゃねーか、思いっきり。
「殴ったのに伝わってないわけか」
そりゃ残念だ。
朽木はくすりと耳元で笑うと、俺の肩に額をのせた。
「俺がずっと祐に向けていた気持ちは? 一年からずっと祐を見てきたんだ、今更、他の奴に渡すなんてことするわけないだろ」
それは、背筋がぞくりとするような静かな声で。
いつもとの落差も相あまって、物凄く冷たく感じる。
思わず固まった俺に気付いたのか、ほんの少し顔をあげた。
前髪の隙間からこっちを見る朽木の表情は、どこか暗さを含んでいて。
後ずさりたかったけれど壁を背負っている俺に、逃げ道はなかった。
「その手紙、俺への牽制かと思ったんだよね」
「なんで」
「言ったでしょ? 俺、祐が好きだって。知ってる奴は知ってるだろうし、その上で祐宛ての手紙を俺のとこに入れるなんてさ、それしか理由考えられないでしょ」
「ただの間違いだってありえんだろ」
実際、本当に間違ったんだと思う。あの慌てよう。
ふとさっきバッタのようにぺこぺこしていた一年生が、脳裏に浮かんだ。
「俺のものに手を出そうとするなんて、いい度胸だと思ったけどね」
「誰がお前のもんだ。ど阿呆」
「祐が、だよ」
手のひらだけじゃなく肘までを壁につけた朽木との距離は、物凄く近い。
目の前に見えるガラス玉みたいな黒い目は、じっと俺を見下ろしている。
「ゆっくりでも祐の気持ちをこっちに向けられればって思ってたけど、まさか横やりいれられると思ってなくてさ。手紙の内容も内容だし、んじゃどうしようかなーって思って」
淡々話し続けていた朽木の手が、するりと俺の頬に触れた。
「心から手に入れられないなら、先にカラダかなぁーて思ってたら祐が来たもんだから」
「だから――」
勃った、かよ。
この状態でその言葉を言えなくて思わず濁せば、ゆっくりと朽木の目が細められた。
「欲情した、のがよかった?」
「どっちもよくねーよ! 大体、それはお互いの同意の上の行為だろ? 一方的に気持ちを押し付けるのは、男相手でもレイプっていうんだよ」
「そうだね。だから、我慢してるんじゃない」
今だって……と言外に含まれた意味に、眉根を寄せる。
そんな俺をじっと見ながら、小さく首を傾げた。
「ねぇ、祐はさ。俺のことキライ?」
「友人としては好きだ。それ以上でも以下でもねぇよ」
即答。
好意はあってもそれは友人という範疇からは出ていない。
朽木は暗に返されている告白への返事を、少しも表情を変えずに聞いていた。
「でもさ」
するり、頬に触れていた指先がかすかに動いく。
「普通、高校生男子でただの友人が、こんなにスキンシップするとかないと思うんだけど」
「それはお前が勝手に……!」
「でも気持ち悪いとか死ぬほどいやだとかじゃないでしょ? なんだかんだ言って、受け入れてくれてるし。なら、俺に望みってあると思うんだよね」
一気に顔に血液が集まっていく。
恥ずかしさに目が潤みそうになって、ぎりっと朽木をにらむ目に力を入れた。
「勝手な曲解すんなよ!」
「するよ。だって、俺……」
少し言葉に間をあけた朽木の口が、綺麗な弧を描いた。
「なん、だよ……」
笑ってるはずなのに、なんで背筋が寒い……!
朽木はそのまま俺の耳元に口を寄せた。
「俺は、祐が欲しいから」
言われたその言葉は、掠れ気味の低い甘ったるい声とあいあまって……。
気を抜くとずるずると座り込みそうになる体を、壁に押し付けるようにして足に力を入れる。
「お、俺は! 友人以外の関係はいらんからな!」
「ふぅん。まぁ、いいんじゃない? 誰でも最初は戸惑うよね」
「だからっ、なんでお前はそう自己中なんだ……っ」
「うん、自己中だよ。そんなのわかってるでしょ」
話し合いにならない会話にイラついて、朽木の胸をドンッと叩いた。
「とにかくこの話はもうおしまいだ! 終わり!」
そう叫べば、面白そうに朽木は体を離す。
とたん、寒さを感じて体が無意識に震えた。
互いの体温で暖をとっていた状況に今更ながら気づいて、拳に力を込めて握りしめる。
「百歩譲ってあれをお前の告白だとして、それを俺が断った! それだけの話で、もうすでに終わった!」
「違うよ、祐」
俺の言葉を遮るように口を開いた朽木は、数歩校内へと入るドアの方に足を進めていたがゆっくりと振り返った。
「これから、はじまるんだよ」
それだけ言うと、俺を置き去りにしたまま屋上から校内へと入っていった。
後姿がドアの向こうに消えるのを呆然と見送って、俺はまん丸く開いていた目でばしばしと瞬きをする。
「……は?」
何が? 何が始まるって?
ずるずると壁に背中をつけながらしゃがみこむ。
脳内をぐるぐると駆け巡るもやもやとした言いようのない感情に、両手で頭を抱え込んだ。
何がなんだかよく分かんねぇけど、
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その言葉と声に体に力が入らなくなったとか……、絶対あいつにだけは知られたくないと思った。
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