君が見ていた空の向こう

篠宮 楓

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 朽木は担任の所に顔だけ出してくるからと言い残すと、正門横で待ち合わせを決めてそのまま職員室へと走って行った。
 俺はその後ろ姿を見送って、一つため息をつく。
 自分ちに呼んで、何しようとかどうしようとかあんまり考えていない。むしろわからないからこそ、自宅へと向かいたかった。
 正也もそうだし加倉井も、やっぱり色々考えてる。自分が初めて遭遇したそう言う性癖の奴が朽木だっただけに、隠さなきゃいけない話だとまったく思いつかなかった。まぁ本人がオープンにしてるんだから、朽木に関してはあんまり関係ないのかもしれないけど。
 とりあえず、くっつかれる→うざい→殴る、の繰り返しをしてきた身としては、今日はちゃんと話さないと駄目だと思う。朽木の事も、自分の事も。
 
 小さくため息を吐き出して、教室へと向かう。既に部活動は始まっているし用のない奴らは帰ってるし、誰もいない教室はしんと静まり返っていた。のろのろと自分の机に向かうと、横に掛けてあるバッグを手に取る。
 面倒だから早くこの状態から抜け出したいとそんな事を思っていたくせに、いざ朽木を目の前にするとその時間をあとに伸ばそう伸ばそうとしている自分にイライラする。多分、決定的な言葉を口にするのもされるのも嫌なのかもしれない。今のまま、この現状維持のまま適当に終わらせられないかとかまで考えてしまう。
「なんなんだ、この女々しさは」
 自分は、こんな性格じゃなかったはず。
がしがしと片手で頭を掻きながら、待ち合わせの正門へと向かった。



「……」
 正門に、朽木はいた。
 いや、正確に言うと朽木もいた、だ。
 なにやら頬を染める女子生徒が苦笑い気味に頷いていて、それを見下ろす無表情な朽木の二人がいた。傾き始めている陽のオレンジがあたりを色づけていて、これぞ青春とでも文字を入れたくなるような光景。
 ゆっくりと歩いていた俺の足は、ピタリとその場で動かなくなった。
 何を話しているのか、それはきっと女の子の表情が物語っていて。だというのに朽木はぴくりとも反応もしない無表情のまま、小さく相槌を打っている。
 思わずその光景を眺めながら、鞄を持つ手に力を込めた。
 なんで、俺は立ち止まってるんだろう。これが、俺が勧めた……他を探せっていう事じゃないか。

「……」

 意味が解らない。本当に分からない。

 女の子の手が朽木の腕に触れようと動くのを、思わず目で追っている自分なんか。
 それを避けるように身を引いた朽木に、なぜか安堵する自分なんか。

 女の子は少し口元を歪めたけれど、何か朽木に告げて歩き去って行った。途中から、小走りで。朽木はその姿を見送るわけでもなく、かったるそうに欠伸を一つするとこちらを向いた。
「祐」
 少し驚いたように声を上げて、そのくそ長い脚で駆け寄ってくる。
「遅かったね。帰っちゃったのかと思った」
 ほわり、という単語が似合うその表情はさっきの無表情とは全く違ってて。
「……」
「祐?」
 何も答えない俺の顔を覗き込むように屈んだ朽木から、思いっきり顔を反らした。

 意味が解らない、本当に自分が分からない。
 たったそれだけのことに、何、ほっとしてんだ俺。

「祐、どうしたの?」

 不思議そうに首を傾げる朽木をそのままに、さっさと歩きだした。
「祐、待って」
 一拍置いてすぐ後ろを追ってきた朽木は、何の気なしに俺の腕を掴む。どくりと乱れた鼓動に、思わずその手を振りほどいた。顔を上げれば、そんな俺の態度なんかいつも通りとでもいう様に朽木はふわふわと笑ってる。その顔を直視できなくて、思いっきり顔を背けた。
「帰るぞ」
 そう言葉を投げれば、当たり前のように横に並んで歩きだす。
 さっきまで女の子を照らしていたオレンジ色が、今は俺と朽木を染めていて。

 その事にどこかほっとしてしまった自分を、脳内でこれでもかと締め上げていた。

 なんでだ? 月曜までは普通にうざかった、こいつの面倒くさい態度も言葉も全部うざくて一蹴してたのに。なんで今日はこんなに……
 ぎり、と、歯を噛みしめる。

 朽木の行動に、俺の感情が振り回されてるなんて……。


「俺が……、俺の方が好きみてーじゃねーか」


思わず零した言葉は小さすぎて、朽木に聞こえなかったことだけがどこか救いだった。
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