この気持ちは、あの日に。

篠宮 楓

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はじまり。

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 例えば。

 恋って風船に似てる、とか思ったりする。

 相手への想いを膨らませて、一生懸命膨らませて。

 誰かが止めてくれるまで。

 自ら止めるその時まで。

 膨らみ続けて。無自覚に膨らませ続けて。

 最後は消えてなくなって……、想いの欠片だけが心の片隅に残る。

 それは空気のように透明なんかじゃなくて。

 それは簡単に捨てられる、破れた風船のなれはてなんかなじゃなくて。



 いつまでも いつまでも そこにある

 十字傷のような 治りにくい 痛み。








 大学からの、帰り道。
 ゆらゆらと電車に揺られながら、ぼやっと車内に目を向けた。混雑とまではいかないけれど、それでも立っている人が多い車内。サマータイムが始まったからなのか、帰宅中に今まであまり見られなかったサラリーマンやOLさんたちの姿もちらほらと見受けられる。

 明日から、もう早めの電車にした方がいいかな。図書館で本を読むの、少し自重しようかな。
 そんな事を考えながら一つ向こうのドアの傍の座席に座る男の人が、視界に映った。


「……え?」


 一つ呟いて、視線を無理やり外す。けれど吸い寄せられるように、再び彼をその目に映した。

「……やっぱり」

 どのくらい振りだろう。
 一年? 二年?

 あの頃の私は、まだ高校生だった。
 あの頃のあの人は、まだ大学生だった。

 どのくらい年が離れていても、同じ世界に存在していると思える安心感があった。

 なのに、今は――

「……社会人」

 スーツを着ているあの人の居場所は、学生の私からずっと離れて感じる。

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