12 / 22
こえ。
しおりを挟む
声を、掛けにくい。
ていうか、無理。
高校生と大学生、それでも声を掛けられた。同じ学生だったし。
でも社会人になったおにーさんに、私みたいな人間が声を掛けていいものなのか。見えない壁が、目の前に立ちふさがっているみたいで。
どうにも、ならない。
ぎゅ、と肩から掛けているカバンを掴む。
分かってる。声を掛ける事なんて簡単だ。でも、拒絶の表情をされたらと思うと、怖いのだ。もっと早く会えていたら、違ったかもしれない。なんかこんな時間経ってからとか……声を掛ける、勢いが……っ!
内心、ひたすら謝り倒す。
こんな事をしても、ただの自己満足でしかないのは分かってるけれど……っ。
電車は、おにーさんが降りる駅に滑り込んでいく。
もう、会う事はないのに。本当にこれでいいのと、責める自分がいるけれど。足が、動かない。
どうしよう、どうしよう……
迷っているうちに、電車がゆっくりと停まる。自分のいる側のドアが、静かな音を立てて開いた。
「……え?」
思わず、声が出た。
「?」
不思議そうにホームへと降りていく人の視線に気が付いて、口を片手でふさぐ。けれど、目はどうしてもおにーさんから離れなかった。
だって。
おにーさんは降りる気配もないまま、車内にいたから。さっきと同じ体勢で、外を見つめているから。
「なんで?」
驚いている私をしり目に、電車はドアを閉め動き出す。がくん、という衝撃を、手近な手すりに縋って耐えた。
どうしておにーさん、降りないの?
あ、でも一人暮らしを始めたとか、友達の所に行くとか……
そこまで考えて、ツキリと心が痛んだ。
彼女さんの所に、行く、とか。
そうだ。
あの時の彼女さんと、続いているのかもしれない。
また自己完結とか言われちゃうかなぁ。脳裏に、弟のむすっとした顔が思い浮かぶ。あの時もおにーさんに会えなかったと告げたら、弟は少し眉を顰めからふぃっと顔を逸らした。
「自業自得って事、だろうけど。仕方ない、次から気を付ければ」
精一杯の、慰めなんだろう。
少しの棘は、戒めだ。
でも――
次も無理そうだよ、我が弟!
受験を乗り越えて今は私とは違う大学で新入生をやってる弟に、内心叫ぶ。
自分の降りる駅について、目を伏せた。
不甲斐無いおねーちゃんを、許して。
溜息をつきながら、空いたドアから外に出る。
ホームに降りて歩きながら、肩を落とした。
あぁ、あの時と変わってない。私。自己嫌悪に苛まれるくらいなら、謝ればいいのに!分かってるのに、分かっているのに……
それでもどうにもできなくて足早に改札へと向かっていた私の耳に、後方から大きな呼び声が聞こえた。
「君!」
それは、おにーさんの声だった。
ていうか、無理。
高校生と大学生、それでも声を掛けられた。同じ学生だったし。
でも社会人になったおにーさんに、私みたいな人間が声を掛けていいものなのか。見えない壁が、目の前に立ちふさがっているみたいで。
どうにも、ならない。
ぎゅ、と肩から掛けているカバンを掴む。
分かってる。声を掛ける事なんて簡単だ。でも、拒絶の表情をされたらと思うと、怖いのだ。もっと早く会えていたら、違ったかもしれない。なんかこんな時間経ってからとか……声を掛ける、勢いが……っ!
内心、ひたすら謝り倒す。
こんな事をしても、ただの自己満足でしかないのは分かってるけれど……っ。
電車は、おにーさんが降りる駅に滑り込んでいく。
もう、会う事はないのに。本当にこれでいいのと、責める自分がいるけれど。足が、動かない。
どうしよう、どうしよう……
迷っているうちに、電車がゆっくりと停まる。自分のいる側のドアが、静かな音を立てて開いた。
「……え?」
思わず、声が出た。
「?」
不思議そうにホームへと降りていく人の視線に気が付いて、口を片手でふさぐ。けれど、目はどうしてもおにーさんから離れなかった。
だって。
おにーさんは降りる気配もないまま、車内にいたから。さっきと同じ体勢で、外を見つめているから。
「なんで?」
驚いている私をしり目に、電車はドアを閉め動き出す。がくん、という衝撃を、手近な手すりに縋って耐えた。
どうしておにーさん、降りないの?
あ、でも一人暮らしを始めたとか、友達の所に行くとか……
そこまで考えて、ツキリと心が痛んだ。
彼女さんの所に、行く、とか。
そうだ。
あの時の彼女さんと、続いているのかもしれない。
また自己完結とか言われちゃうかなぁ。脳裏に、弟のむすっとした顔が思い浮かぶ。あの時もおにーさんに会えなかったと告げたら、弟は少し眉を顰めからふぃっと顔を逸らした。
「自業自得って事、だろうけど。仕方ない、次から気を付ければ」
精一杯の、慰めなんだろう。
少しの棘は、戒めだ。
でも――
次も無理そうだよ、我が弟!
受験を乗り越えて今は私とは違う大学で新入生をやってる弟に、内心叫ぶ。
自分の降りる駅について、目を伏せた。
不甲斐無いおねーちゃんを、許して。
溜息をつきながら、空いたドアから外に出る。
ホームに降りて歩きながら、肩を落とした。
あぁ、あの時と変わってない。私。自己嫌悪に苛まれるくらいなら、謝ればいいのに!分かってるのに、分かっているのに……
それでもどうにもできなくて足早に改札へと向かっていた私の耳に、後方から大きな呼び声が聞こえた。
「君!」
それは、おにーさんの声だった。
0
あなたにおすすめの小説
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
初恋にケリをつけたい
志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」
そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。
「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」
初恋とケリをつけたい男女の話。
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる