この気持ちは、あの日に。

篠宮 楓

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おれ、の。

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 そう言ったおにーさんの顔は、真剣そのもので。どういう意味? と、問い返す雰囲気じゃなかった。

 ……えーと。どうしたらよいのだろう?

 答えることが出来なくてじっとおにーさんを見つめ返していたら、がくりと首を垂れて大きなため息をついた。

「過去形、だよな。好きでした、だったもんな」
 自嘲する様に呟くおにーさんの言葉で、やっと’過去形’のかかってくる部分が分かった私は、慌てて口を開いた。
「おにー……っ」
「だよな、そうだよな。こんなんしつこいとか、俺、執念深すぎだよな」
 は? 言ってる意味が分かりませんが、私の話を……
「え、あの、だから……っ」
「ごめん、分かってる。高校大学の1年半って、早いもんな。素早く通り過ぎるもんな。むしろ自ら駆け抜けるよな。俺なんか、その中の一コマくらいにしかいないんだろうけどさ」
「いや、だからあの……!」
「あぁ、もういいや。それ以上、傷抉らないで」
「えぇ?」

 なんか、自己完結しちゃいましたよ! おにーさんてば!

 項垂れたまま顔を上げないおにーさんは、なんだか物凄く意気消沈。
 なんだろう、よく分からないけど私の所為ですか……???

「……あのさ」

 どうしたらいいのかなーと思いながらじっとおにーさんの頭のてっぺんを見ていたら、やっと口を開いたらしい。

「はい?」

 一応返事をすると、もう一度あのさ……と呟いた。

「俺の彼女って、誰?」
「……はい?」

 そんな事は私が聞きたいのですが。

 反射的に聞き返すと、だから……とおにーさんが顔を上げた。
「いもしない、俺の彼女って誰の事言ってるの?」
 ……いもしない?

 思わず目を見開いた私は、いやいやいやと内心頭を振っておにーさんを見返した。

「いたでしょ? だって、私、見たもの……」
「だから、見たっていつどこで」
 え? 何この応酬。
 もう分かってるんだから、いいんだけど。
「大学の合格発表の日、おにーさんと待ち合わせた駅で。ロータリーのベンチで一緒にいたじゃないですか」
 勢い込んで一気に言い切ると、再び顔を伏せてしまった。
「あれかよ……」
 さっきよりも、肩の落とし具合が半端ないですおにーさん!
「眉間ぐりぐり、されてたじゃないですか。あれ見て私、ショックだったんですよ。彼女さんにされてたことを、私にやったのかって」
 だから理不尽な行動だと分かっていたけど、おにーさんから逃げたんだもの。
「でも、お門違いでしたよね。私なんて怒る立場でも何もなかったのに、ホントすみません」

 はぁ。

 大きなため息が、おにーさんから漏れた。

 一体、何回ため息をついてるんだろう、おにーさんてば。私よりも確実に多いよね。幸せが逃げるよ! ちゃんと吸い込まないと。

 あれ?
 ……でも吸いこんだら二酸化炭素だから、呼吸が出来ないんじゃ……?

「あのさ、よく分かった」

 よく分からない事を考えていた私は、おにーさんの声で引き戻された。

「分かってくれましたか、私の盛大な思春期の過ちを」
「うん、ホント思春期の過ちだわ」

 ……おい。
 こんなに猛省している私に向って、同じことを二度言うってどんな鬼畜!

 けれど続いた言葉に、思わず口を開けた。


「俺の」


「は?」


 おにーさんの?
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