42 / 112
14日目~20日目 原田視点
5
しおりを挟む
一時間くらいたった頃、佐々木と辻がのんびりとやってきた。既にアオは部屋に引っ込んで絵の続きを書いていて、俺は井上の隣で出来上がったばかりの合宿のメニュー表を読んでいた。
「どう? できた?」
俺の自転車の隣に同じように停めた辻が、バッグ片手に手元を覗き込んできた。それに応じるように辻にメニュー表を渡している俺達の横を、佐々木が駆け足で通り過ぎていく。
その姿を目で追うと、佐々木はその勢いのまま縁側まで走っていって両手をそこについた。
「おねーさーん! お邪魔しまーす!」
「……佐々木っ」
何やってんだ、あいつっ。
思わず辻にメニュー表を押し付けて、佐々木に駆け寄った。そのまま頭を掴んで後ろに引く。
「お前は子供か! あんま、アオの邪魔すんな」
さっき絵を描きに戻ったばかりなのに。
佐々木は俺の手首を両手で掴んで引きはがすと、むぅっと顔を顰めて両腕を前で組んだ。
「子供ではない! ちゃんと挨拶をしているんだからな」
「口調は、普通に子供だけどね」
いつの間にか、後ろに辻が立っていて。
「てーか、さっきまでお前が邪魔してたじゃんか」
井上が、ニヤニヤと悪い笑みを浮かべていた。
その言葉に、思わず口ごもる。
「そ、それは……っ」
「あー、部長くんと辻くんだ。こんにちはー」
俺の言葉を遮って、ひょこりとアオが引き戸から顔を出した。
「合宿?」
辻と佐々木が途中で買ってきたゼリーを、縁側に座って食べる。
辻曰く、小食な人でもゼリーなら食べられると思って、だそうだ。前回はサイダー味だったね、と笑いながらいちご味のゼリーを口に運ぶアオの言葉を聞きながら、小さなスプーンでゼリーをかき回す。
……なんとなく、自分の知らないアオの話にもやもやするって。
脳内乙女かよ、俺。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、アオはおいしいねぇと笑う。それに応えるように笑った辻の出した話題が、来週から行く予定の夏合宿だった。
不思議そうに辻の言葉を繰り返すアオに、井上がメニュー表を差し出す。
「日程ここに書いてあるんで」
アオはそれを受け取ると、両手で持って内容を読み始めた。
俺も、それを横から覗きこむ。
夏合宿は県が運営している合宿所を使う為、他の高校も使っている。実際、日にちが少しずれるけれど、多ければ三校が共同で体育館を使う場合もある。だからこそ、外部試合が出来たりもするんだけど。
「八月二十日から……二十九日まで? 凄い頑張るんだね」
確かに、夏休み最終週。
けれど今年の夏休みは九月二日が日曜日の為、帰宅してから四日は猶予がある。
「合宿中に他の高校との試合も含まれてるから、日程的に長くなっちゃったんだよな。うちが結構、馬鹿見た感じ」
佐々木が残り少ないゼリーをカップの中でかき集めながら、面倒くさそうにぼやく。
渉外なんていう役職はないから、他校との話し合いには大体部長の佐々木か副部長の辻が駆り出される。顧問も一緒に行くんだろうけれど、細かく調整するのはどうしても佐々木に掛かってくる。
俺にはできない芸当だ。
「まぁ仕方ないよ。日程長くなるか三十日までいるかなら、長い方がまだましだよね」
と、辻がため息をつく。
仕方ないとか言いながら、絶対そう思ってないな。こいつ。
「合宿かぁ、楽しそうだねぇ」
ふふふと笑いながらメニュー表を眺めているアオに、佐々木がいい事思いついたと手を打つ。
「おねーさん、都合ついたら合宿に手伝いに来ませんか?」
「え?」
突然の申し出に、アオがびっくりした様に目を大きく見開く。佐々木は妙案とでもいう様に嬉々としてアオに話しかける。
「うち、マネージャーが一人しかいなくて、大変なんですよ。アオさん来てくれたら、食事的に助かります!」
「食事的って……、私部外者だよ?」
「合宿所きちゃえばそんなのどーでもいいですし! 今なら、ななしを専属の助手として授けましょう!」
「なんだそれ」
専属の助手って!
言ってるうちにテンションが上がって来たのか、佐々木は音量の上がってきた声でまくし立てた。
「ほら、合宿中、ななしに会えないし! ここはひとつ、おねーさんが出張な感じで!」
……あ、そうか。
合宿に行ったら、さすがにアオに会えないんだ。
そこ、繋がってなかった。
佐々木に言われて初めて気が付くとかなんかすげぇ嫌だけど、本気で初めて気が付いた。
ちらりと、アオに視線だけ向ける。
こいつ、何て答えるんだろ……?
少しは悩むかと思ったけれど、アオは即答だった。
「やだー」
……なんだ、それ。
「どう? できた?」
俺の自転車の隣に同じように停めた辻が、バッグ片手に手元を覗き込んできた。それに応じるように辻にメニュー表を渡している俺達の横を、佐々木が駆け足で通り過ぎていく。
その姿を目で追うと、佐々木はその勢いのまま縁側まで走っていって両手をそこについた。
「おねーさーん! お邪魔しまーす!」
「……佐々木っ」
何やってんだ、あいつっ。
思わず辻にメニュー表を押し付けて、佐々木に駆け寄った。そのまま頭を掴んで後ろに引く。
「お前は子供か! あんま、アオの邪魔すんな」
さっき絵を描きに戻ったばかりなのに。
佐々木は俺の手首を両手で掴んで引きはがすと、むぅっと顔を顰めて両腕を前で組んだ。
「子供ではない! ちゃんと挨拶をしているんだからな」
「口調は、普通に子供だけどね」
いつの間にか、後ろに辻が立っていて。
「てーか、さっきまでお前が邪魔してたじゃんか」
井上が、ニヤニヤと悪い笑みを浮かべていた。
その言葉に、思わず口ごもる。
「そ、それは……っ」
「あー、部長くんと辻くんだ。こんにちはー」
俺の言葉を遮って、ひょこりとアオが引き戸から顔を出した。
「合宿?」
辻と佐々木が途中で買ってきたゼリーを、縁側に座って食べる。
辻曰く、小食な人でもゼリーなら食べられると思って、だそうだ。前回はサイダー味だったね、と笑いながらいちご味のゼリーを口に運ぶアオの言葉を聞きながら、小さなスプーンでゼリーをかき回す。
……なんとなく、自分の知らないアオの話にもやもやするって。
脳内乙女かよ、俺。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、アオはおいしいねぇと笑う。それに応えるように笑った辻の出した話題が、来週から行く予定の夏合宿だった。
不思議そうに辻の言葉を繰り返すアオに、井上がメニュー表を差し出す。
「日程ここに書いてあるんで」
アオはそれを受け取ると、両手で持って内容を読み始めた。
俺も、それを横から覗きこむ。
夏合宿は県が運営している合宿所を使う為、他の高校も使っている。実際、日にちが少しずれるけれど、多ければ三校が共同で体育館を使う場合もある。だからこそ、外部試合が出来たりもするんだけど。
「八月二十日から……二十九日まで? 凄い頑張るんだね」
確かに、夏休み最終週。
けれど今年の夏休みは九月二日が日曜日の為、帰宅してから四日は猶予がある。
「合宿中に他の高校との試合も含まれてるから、日程的に長くなっちゃったんだよな。うちが結構、馬鹿見た感じ」
佐々木が残り少ないゼリーをカップの中でかき集めながら、面倒くさそうにぼやく。
渉外なんていう役職はないから、他校との話し合いには大体部長の佐々木か副部長の辻が駆り出される。顧問も一緒に行くんだろうけれど、細かく調整するのはどうしても佐々木に掛かってくる。
俺にはできない芸当だ。
「まぁ仕方ないよ。日程長くなるか三十日までいるかなら、長い方がまだましだよね」
と、辻がため息をつく。
仕方ないとか言いながら、絶対そう思ってないな。こいつ。
「合宿かぁ、楽しそうだねぇ」
ふふふと笑いながらメニュー表を眺めているアオに、佐々木がいい事思いついたと手を打つ。
「おねーさん、都合ついたら合宿に手伝いに来ませんか?」
「え?」
突然の申し出に、アオがびっくりした様に目を大きく見開く。佐々木は妙案とでもいう様に嬉々としてアオに話しかける。
「うち、マネージャーが一人しかいなくて、大変なんですよ。アオさん来てくれたら、食事的に助かります!」
「食事的って……、私部外者だよ?」
「合宿所きちゃえばそんなのどーでもいいですし! 今なら、ななしを専属の助手として授けましょう!」
「なんだそれ」
専属の助手って!
言ってるうちにテンションが上がって来たのか、佐々木は音量の上がってきた声でまくし立てた。
「ほら、合宿中、ななしに会えないし! ここはひとつ、おねーさんが出張な感じで!」
……あ、そうか。
合宿に行ったら、さすがにアオに会えないんだ。
そこ、繋がってなかった。
佐々木に言われて初めて気が付くとかなんかすげぇ嫌だけど、本気で初めて気が付いた。
ちらりと、アオに視線だけ向ける。
こいつ、何て答えるんだろ……?
少しは悩むかと思ったけれど、アオは即答だった。
「やだー」
……なんだ、それ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる