31日目に君の手を。

篠宮 楓

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 前章、14~20日目の6のあと。
 皆でゼリーを食べた後の、アオ家。


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 合宿前の、アオ家。

 遊びに来たまま居間で寝てしまった、ななしたち4人。ふと目を開けたななしは、閉じられた引き戸の向こうから聞こえてくる声に目をみはった。



「痛い、ですか?」
 聞こえた声に、思わずといった様子で返される呻き声。
「あ……っ」
「ダメですよアオさん、声を出しちゃ。ななしたちに気付かれてしまうでしょう?」
「う……ん」
 掠れたような声は、確実にアオで。小さいけれど敬語だけれど、有無を言わせない声音を持つのは、一緒にうたた寝していたはずの辻。

 呆然としながらもその引き戸へと、音を立てない様に近づいていく。

 耳を澄ますと、微かに衣擦れの音がした。


「つ、辻く……、ちょっ……と。もう……っ」
「もうダメですか? アオさん、年上なのに我慢が足りないですよ」
「だっ、だぁっ……てっ」

 小さいけれどはっきりと聞こえてきたその会話に、原田は目の前が真っ赤になるほどの怒りを感じた。膝立ちしていた体勢のまま、目の前の引き戸を力任せに開け放つ。引き戸のそれが建具にぶち当たって、静寂を破った。
 すると短い悲鳴があがり、振り向いたアオとばっちりと目があった。



「……、な、ななしくん……?」


「……」


 目の前にいたのは、アオと辻。
 それは間違っていなかった。
 うん。


「どうしたの? そんなに慌てて」

 辻が首を傾げながら、原田を見遣る。


 座っているアオの背後に膝立ちの辻。
 その両手は、アオの肩に置かれていて。


「……いや、なんでも、ない」


 瞬時に自分の間違いに気づいて無表情を装うと、原田は何事もなかったかのようにその引き戸閉めた。
「どした、ななし」
 戸を開けた音で起きたのか、後ろから佐々木の寝ぼけたような声が上がる。
「何かあったか?」
 同じように、井上の声も上がった。

「何もない」

 原田はそれだけ答えると、勢いよく立ち上がって庭へと早足で去っていった。






「どしたのかな、ななしくん」
 原田がドアを閉めた後、驚いたように聞いてきたアオに、辻は困った様に首を傾げた。
「きっと、トイレにでも行きたかったんじゃないですか?」
 そう言うと、合点がいったようにアオが頷いた。
「寝ぼけて、トイレとまちがえちゃったんだね。あはは、ななしくんドジだ~」
「アオさんは、鈍いですけどね」
 

 即返された言葉に、アオはそうかなぁと笑う。辻はそうですよと返しながら、アオの肩に置いた手に力を込めた。

「これ位許されると思うんですよねー、僕には」
 そう言いながら、ぐっと親指に力を込める。
「許されないよ、気持ちいいけど地獄の痛みだよ」

 辻が目を覚ました時、絵を描いていたアオに、肩もみを提案したのは純粋に疲れていそうだと思ったから。けれどあえてかける言葉を選んだのは、意図的。

 原田が思っていた通りの反応をしてくれて、面白いやら物足りないやら。
 

 まぁ、……

「いい薬です」

 原田には。






「寝てる間に、何があった」
「俺も寝てたから、わかんねー」

 佐々木と井上は、なぜか土手をダッシュしている原田を部屋の中から眺めていた。
 凄い音で目が覚めれば、隣の部屋の引き戸に向かって膝立ちしている原田の姿。声をかけてみたものの、何でもないと言って外に行ってしまった。
 それからずっと、部活でもないのに土手を走ってる。これでなんでもなかったら、お前ただのおかしな奴だと思うけど。

「あれ? ななしくんは?」

 隣の部屋の戸が開いて、ここの家主でもあるアオが顔をのぞかせた。
 佐々木達は首を傾げながらアオを見る。
「いや、何か起きたらあんな感じで」
 アオは縁側に出ると、腰を下ろした。
「高校生は元気だねぇ」
 しみじみと呟くアオに、思わず井上が突っ込む。

「いや、高校生の標準があれと思われると、非常に不本意……」
「そうですよ」
 するとアオの後ろから出てきた辻が、井上の言葉を遮った。
「たまに走り出したくなる時があるんですよ、いまどきの高校生男子は」
「へぇー、青春だねぇ」

……なわけねぇだろ

 佐々木・井上の脳裏に突っ込みが浮かんだけれど、それは口にしなかった。


 辻には逆らうまい。
 何がなんだかよくわからないけど、辻が黒といえば白でも黒というべきである。


 ……憐れ原田。




 原田のダッシュは、しばらく続いたという。




 ある、平和な一日。
 


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 王道的勘違い(笑
 さー、ななしくんは、何を忘れるために土手ダッシュを繰り返していたのでしょーか♪
 辻はななしで遊んでます(笑
 大丈夫、そこに友情はあるから←
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