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前章、14~20日目の6のあと。
皆でゼリーを食べた後の、アオ家。
-------------------------------------------------------
合宿前の、アオ家。
遊びに来たまま居間で寝てしまった、ななしたち4人。ふと目を開けたななしは、閉じられた引き戸の向こうから聞こえてくる声に目をみはった。
「痛い、ですか?」
聞こえた声に、思わずといった様子で返される呻き声。
「あ……っ」
「ダメですよアオさん、声を出しちゃ。ななしたちに気付かれてしまうでしょう?」
「う……ん」
掠れたような声は、確実にアオで。小さいけれど敬語だけれど、有無を言わせない声音を持つのは、一緒にうたた寝していたはずの辻。
呆然としながらもその引き戸へと、音を立てない様に近づいていく。
耳を澄ますと、微かに衣擦れの音がした。
「つ、辻く……、ちょっ……と。もう……っ」
「もうダメですか? アオさん、年上なのに我慢が足りないですよ」
「だっ、だぁっ……てっ」
小さいけれどはっきりと聞こえてきたその会話に、原田は目の前が真っ赤になるほどの怒りを感じた。膝立ちしていた体勢のまま、目の前の引き戸を力任せに開け放つ。引き戸のそれが建具にぶち当たって、静寂を破った。
すると短い悲鳴があがり、振り向いたアオとばっちりと目があった。
「……、な、ななしくん……?」
「……」
目の前にいたのは、アオと辻。
それは間違っていなかった。
うん。
「どうしたの? そんなに慌てて」
辻が首を傾げながら、原田を見遣る。
座っているアオの背後に膝立ちの辻。
その両手は、アオの肩に置かれていて。
「……いや、なんでも、ない」
瞬時に自分の間違いに気づいて無表情を装うと、原田は何事もなかったかのようにその引き戸閉めた。
「どした、ななし」
戸を開けた音で起きたのか、後ろから佐々木の寝ぼけたような声が上がる。
「何かあったか?」
同じように、井上の声も上がった。
「何もない」
原田はそれだけ答えると、勢いよく立ち上がって庭へと早足で去っていった。
「どしたのかな、ななしくん」
原田がドアを閉めた後、驚いたように聞いてきたアオに、辻は困った様に首を傾げた。
「きっと、トイレにでも行きたかったんじゃないですか?」
そう言うと、合点がいったようにアオが頷いた。
「寝ぼけて、トイレとまちがえちゃったんだね。あはは、ななしくんドジだ~」
「アオさんは、鈍いですけどね」
即返された言葉に、アオはそうかなぁと笑う。辻はそうですよと返しながら、アオの肩に置いた手に力を込めた。
「これ位許されると思うんですよねー、僕には」
そう言いながら、ぐっと親指に力を込める。
「許されないよ、気持ちいいけど地獄の痛みだよ」
辻が目を覚ました時、絵を描いていたアオに、肩もみを提案したのは純粋に疲れていそうだと思ったから。けれどあえてかける言葉を選んだのは、意図的。
原田が思っていた通りの反応をしてくれて、面白いやら物足りないやら。
まぁ、……
「いい薬です」
原田には。
「寝てる間に、何があった」
「俺も寝てたから、わかんねー」
佐々木と井上は、なぜか土手をダッシュしている原田を部屋の中から眺めていた。
凄い音で目が覚めれば、隣の部屋の引き戸に向かって膝立ちしている原田の姿。声をかけてみたものの、何でもないと言って外に行ってしまった。
それからずっと、部活でもないのに土手を走ってる。これでなんでもなかったら、お前ただのおかしな奴だと思うけど。
「あれ? ななしくんは?」
隣の部屋の戸が開いて、ここの家主でもあるアオが顔をのぞかせた。
佐々木達は首を傾げながらアオを見る。
「いや、何か起きたらあんな感じで」
アオは縁側に出ると、腰を下ろした。
「高校生は元気だねぇ」
しみじみと呟くアオに、思わず井上が突っ込む。
「いや、高校生の標準があれと思われると、非常に不本意……」
「そうですよ」
するとアオの後ろから出てきた辻が、井上の言葉を遮った。
「たまに走り出したくなる時があるんですよ、いまどきの高校生男子は」
「へぇー、青春だねぇ」
……なわけねぇだろ
佐々木・井上の脳裏に突っ込みが浮かんだけれど、それは口にしなかった。
辻には逆らうまい。
何がなんだかよくわからないけど、辻が黒といえば白でも黒というべきである。
……憐れ原田。
原田のダッシュは、しばらく続いたという。
ある、平和な一日。
-------------------------------------------------------
王道的勘違い(笑
さー、ななしくんは、何を忘れるために土手ダッシュを繰り返していたのでしょーか♪
辻はななしで遊んでます(笑
大丈夫、そこに友情はあるから←
皆でゼリーを食べた後の、アオ家。
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合宿前の、アオ家。
遊びに来たまま居間で寝てしまった、ななしたち4人。ふと目を開けたななしは、閉じられた引き戸の向こうから聞こえてくる声に目をみはった。
「痛い、ですか?」
聞こえた声に、思わずといった様子で返される呻き声。
「あ……っ」
「ダメですよアオさん、声を出しちゃ。ななしたちに気付かれてしまうでしょう?」
「う……ん」
掠れたような声は、確実にアオで。小さいけれど敬語だけれど、有無を言わせない声音を持つのは、一緒にうたた寝していたはずの辻。
呆然としながらもその引き戸へと、音を立てない様に近づいていく。
耳を澄ますと、微かに衣擦れの音がした。
「つ、辻く……、ちょっ……と。もう……っ」
「もうダメですか? アオさん、年上なのに我慢が足りないですよ」
「だっ、だぁっ……てっ」
小さいけれどはっきりと聞こえてきたその会話に、原田は目の前が真っ赤になるほどの怒りを感じた。膝立ちしていた体勢のまま、目の前の引き戸を力任せに開け放つ。引き戸のそれが建具にぶち当たって、静寂を破った。
すると短い悲鳴があがり、振り向いたアオとばっちりと目があった。
「……、な、ななしくん……?」
「……」
目の前にいたのは、アオと辻。
それは間違っていなかった。
うん。
「どうしたの? そんなに慌てて」
辻が首を傾げながら、原田を見遣る。
座っているアオの背後に膝立ちの辻。
その両手は、アオの肩に置かれていて。
「……いや、なんでも、ない」
瞬時に自分の間違いに気づいて無表情を装うと、原田は何事もなかったかのようにその引き戸閉めた。
「どした、ななし」
戸を開けた音で起きたのか、後ろから佐々木の寝ぼけたような声が上がる。
「何かあったか?」
同じように、井上の声も上がった。
「何もない」
原田はそれだけ答えると、勢いよく立ち上がって庭へと早足で去っていった。
「どしたのかな、ななしくん」
原田がドアを閉めた後、驚いたように聞いてきたアオに、辻は困った様に首を傾げた。
「きっと、トイレにでも行きたかったんじゃないですか?」
そう言うと、合点がいったようにアオが頷いた。
「寝ぼけて、トイレとまちがえちゃったんだね。あはは、ななしくんドジだ~」
「アオさんは、鈍いですけどね」
即返された言葉に、アオはそうかなぁと笑う。辻はそうですよと返しながら、アオの肩に置いた手に力を込めた。
「これ位許されると思うんですよねー、僕には」
そう言いながら、ぐっと親指に力を込める。
「許されないよ、気持ちいいけど地獄の痛みだよ」
辻が目を覚ました時、絵を描いていたアオに、肩もみを提案したのは純粋に疲れていそうだと思ったから。けれどあえてかける言葉を選んだのは、意図的。
原田が思っていた通りの反応をしてくれて、面白いやら物足りないやら。
まぁ、……
「いい薬です」
原田には。
「寝てる間に、何があった」
「俺も寝てたから、わかんねー」
佐々木と井上は、なぜか土手をダッシュしている原田を部屋の中から眺めていた。
凄い音で目が覚めれば、隣の部屋の引き戸に向かって膝立ちしている原田の姿。声をかけてみたものの、何でもないと言って外に行ってしまった。
それからずっと、部活でもないのに土手を走ってる。これでなんでもなかったら、お前ただのおかしな奴だと思うけど。
「あれ? ななしくんは?」
隣の部屋の戸が開いて、ここの家主でもあるアオが顔をのぞかせた。
佐々木達は首を傾げながらアオを見る。
「いや、何か起きたらあんな感じで」
アオは縁側に出ると、腰を下ろした。
「高校生は元気だねぇ」
しみじみと呟くアオに、思わず井上が突っ込む。
「いや、高校生の標準があれと思われると、非常に不本意……」
「そうですよ」
するとアオの後ろから出てきた辻が、井上の言葉を遮った。
「たまに走り出したくなる時があるんですよ、いまどきの高校生男子は」
「へぇー、青春だねぇ」
……なわけねぇだろ
佐々木・井上の脳裏に突っ込みが浮かんだけれど、それは口にしなかった。
辻には逆らうまい。
何がなんだかよくわからないけど、辻が黒といえば白でも黒というべきである。
……憐れ原田。
原田のダッシュは、しばらく続いたという。
ある、平和な一日。
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王道的勘違い(笑
さー、ななしくんは、何を忘れるために土手ダッシュを繰り返していたのでしょーか♪
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