95 / 112
SS番外集
とある日のいちゃいちゃ。
しおりを挟む
「……おいしそー」
ぽつり、呟いた声が原田の耳に届いた。
課題をやっていた原田は、珍しくかけてあるテレビに視線を移す。近くでスケッチブックを手に絵を描いていたはずのアオの視線が、テレビ画面に向けられていたからだ。
「……ケーキ?」
思わず呟けば、それを引き継ぐようにテレビ画面の向こうで、アイドル達が手に持ったスプーンをこちらに向けた。
そのスプーンには、すくわれたチョコケーキ。
『ケーキとぼくのキス、どっちがすき?』
思わず、口から飲んでたお茶を流しそうになった。もちろん外側に向けて。
……ケーキとキスって、比べられるのか。
どっちが好きとかあるのか。
俺的にはどっちも……
「……」
「……」
視線を感じて、思考の海から這い登る。
思わず顔を向けると、アオと目があった。
きょとんとしたその目が、何かを訴えている。
訴えられている。
「……」
「……」
やばい、まずい、なんだこれ。
何か望まれている、何か期待されている。
「……」
「……」
アオは挙動不審な俺を見てニコリと笑うと、立ち上がって台所へと歩いて行った。
見ると手元のグラスが空になっていて、おかわりを取りに行ったらしい。
ホッとしたような、なんかちょっともったいないような。
「……もったいないってなんだ!」
「何言ってるの、ななしくん」
「……!!」
思わず飛び上がった。
座ったまま飛び上がるという、偉業を成した。
阿呆だ。
アオはそんな俺を不思議そうに見ながら、持ってきたお盆を座卓の上に置いた。
「おやつ食べよう、おやつ」
買っておいたんだー、と見せられたそれは。
「え、これ……」
透明なプラスチックの容器と黒色のフタに金のリボンのパッケージ。
……さっき、これ、テレビの向こうに見なかったか?
「うん、初恋ショコラ。昨日CMで見たら、おいしそうだったんだもん」
原田の疑問を払拭するかのように、アオはそのパッケージに包まれたプラスチックケースをことりと目の前に置いた。
「まだ佐々木くん達来ないよね?」
「え……? あ、う……おう」
ちらりと時計を見れば、あいつらが来ると言った時間の一時間前を針は差している。アオは嬉しそうに笑うと、 スプーンを俺に手渡して自分の席に腰を下ろした。
「今日、ななしくんしか来ないと思ってたから、二つしか買ってなかったの。来る前に食べちゃおう?」
えへへーと悪戯っぽく笑うと、パッケージを破いて中身を取り出した。つられるように原田もそのパッケージに手を掛ける。
その美味しさとローカロリーという事、そして国民的アイドルと呼ばれる人気芸能人がCMしている事もあって人気商品だと聞く。
佐々木が確か、買えない買えないって騒いでいた気がする。
テレビをあまり見ない原田でも知ってる、コンビニの人気商品。
アオが二人で食べようと買っておいてくれたことが、何気に嬉しい。
黒い色の蓋をぱかりと開けて、いざ食べようとしたその時。
「ケーキと私のキス、どっちがすき?」
口元に差し出された、小さなスプーンにすくわれたケーキ。その指先を辿っていくと、アオの興味津々な顔。
「……な」
ぼんっ、と顔に血が集まる。
思い出すのは、つい箍が外れたあの日のこと。
本人は悪戯程度にしか思っていなかった軽いキスに、思いっきり爆発した自分の欲。
三人が帰った後、猛省して謝り倒した。
「……前のでこりた……だろ」
また馬鹿な事をしてしまいそうで、思わずその手を軽く押しのけてしまった。
これでいい。
……怖がらせたら、少しでも拒否られたらへこむ。
そう自分に言い聞かせて、スプーンを持ち直したら。
「……ななしくん……」
「……!」
アオの声に、がばっと顔を上げた。
そこには、へにゃりと眉尻を下げたアオの姿
「ごめんね。前にも迷惑かけちゃったのに、またやっちゃった」
「え?」
アオが謝る事なんて、何も……っ。
「私がふざけるからいけないんだよね。うん、ごめん!」
そう申し訳なさそうに笑ったその声は、原田の箍を外すのに確実に有効だった。
「……え?」
自分のスプーンを座卓に放ると、スプーンごとアオの手を掴んでぐっと引き寄せた。
アオの短くあげられた声ごと、その唇に自分のそれを重ねる。ほんの少しあわされたそれは、すぐに離れた。
「ケーキとあんたは、同列に、ならない」
真っ赤な顔のままそう言うと、原田はアオの手を離してケーキをかきこむように食べ始めた。アオはぽかんとした表情で原田を見ていたけれど、嬉しそうに目を細めるとがばりと原田に抱きついた。
「ななしくん、かわいい!」
「んなっ、かわいいってなんだ!!」
原田の首筋に顔を埋めたアオは、抱きしめた腕に力を込めた。
「大好きだよ、ななしくん」
そりゃどーも……、そう小さく呟く声が微かに耳に届いた。
おまけ。
「……ほんの三十分、早く来ただけなんだけどな」
「まぁ、見られてもいいって事だろ。土手から見える居間でイチャこらしてるんだから」
佐々木と井上が、柴垣の横から中を覗く。
少し早めに来てみたら、なんだかキスシーンに出くわしてしまった。
「まぁ、少し時間ずらして行けばいいんじゃねーの」
そう佐々木が土手の方へと視線を逸らしたその時。
「こんにちはー、アオさん」
「「……!!」」
辻が何の躊躇もなく庭へと入っていった。
大きな挨拶と同時に。
時間をずらそうとしていた佐々木と井上は、堂々と歩いていく辻の後姿を呆気にとられたように見つめていて。その辻の向こうでは、慌てふためく原田とアオの姿が見える。
「……辻、容赦ねーな」
「……岸田と上手い事いってないからなー」
意外と一番子供っぽいの、辻なんじゃないか? という疑問の元、二人は辻の背中を追いかけて原田達の元へと向った。
----------------------------------------
以前参加した、初恋ショコラ『ケーキとぼくのキス、どっちがすき?』、企画投稿のお話です。
ぽつり、呟いた声が原田の耳に届いた。
課題をやっていた原田は、珍しくかけてあるテレビに視線を移す。近くでスケッチブックを手に絵を描いていたはずのアオの視線が、テレビ画面に向けられていたからだ。
「……ケーキ?」
思わず呟けば、それを引き継ぐようにテレビ画面の向こうで、アイドル達が手に持ったスプーンをこちらに向けた。
そのスプーンには、すくわれたチョコケーキ。
『ケーキとぼくのキス、どっちがすき?』
思わず、口から飲んでたお茶を流しそうになった。もちろん外側に向けて。
……ケーキとキスって、比べられるのか。
どっちが好きとかあるのか。
俺的にはどっちも……
「……」
「……」
視線を感じて、思考の海から這い登る。
思わず顔を向けると、アオと目があった。
きょとんとしたその目が、何かを訴えている。
訴えられている。
「……」
「……」
やばい、まずい、なんだこれ。
何か望まれている、何か期待されている。
「……」
「……」
アオは挙動不審な俺を見てニコリと笑うと、立ち上がって台所へと歩いて行った。
見ると手元のグラスが空になっていて、おかわりを取りに行ったらしい。
ホッとしたような、なんかちょっともったいないような。
「……もったいないってなんだ!」
「何言ってるの、ななしくん」
「……!!」
思わず飛び上がった。
座ったまま飛び上がるという、偉業を成した。
阿呆だ。
アオはそんな俺を不思議そうに見ながら、持ってきたお盆を座卓の上に置いた。
「おやつ食べよう、おやつ」
買っておいたんだー、と見せられたそれは。
「え、これ……」
透明なプラスチックの容器と黒色のフタに金のリボンのパッケージ。
……さっき、これ、テレビの向こうに見なかったか?
「うん、初恋ショコラ。昨日CMで見たら、おいしそうだったんだもん」
原田の疑問を払拭するかのように、アオはそのパッケージに包まれたプラスチックケースをことりと目の前に置いた。
「まだ佐々木くん達来ないよね?」
「え……? あ、う……おう」
ちらりと時計を見れば、あいつらが来ると言った時間の一時間前を針は差している。アオは嬉しそうに笑うと、 スプーンを俺に手渡して自分の席に腰を下ろした。
「今日、ななしくんしか来ないと思ってたから、二つしか買ってなかったの。来る前に食べちゃおう?」
えへへーと悪戯っぽく笑うと、パッケージを破いて中身を取り出した。つられるように原田もそのパッケージに手を掛ける。
その美味しさとローカロリーという事、そして国民的アイドルと呼ばれる人気芸能人がCMしている事もあって人気商品だと聞く。
佐々木が確か、買えない買えないって騒いでいた気がする。
テレビをあまり見ない原田でも知ってる、コンビニの人気商品。
アオが二人で食べようと買っておいてくれたことが、何気に嬉しい。
黒い色の蓋をぱかりと開けて、いざ食べようとしたその時。
「ケーキと私のキス、どっちがすき?」
口元に差し出された、小さなスプーンにすくわれたケーキ。その指先を辿っていくと、アオの興味津々な顔。
「……な」
ぼんっ、と顔に血が集まる。
思い出すのは、つい箍が外れたあの日のこと。
本人は悪戯程度にしか思っていなかった軽いキスに、思いっきり爆発した自分の欲。
三人が帰った後、猛省して謝り倒した。
「……前のでこりた……だろ」
また馬鹿な事をしてしまいそうで、思わずその手を軽く押しのけてしまった。
これでいい。
……怖がらせたら、少しでも拒否られたらへこむ。
そう自分に言い聞かせて、スプーンを持ち直したら。
「……ななしくん……」
「……!」
アオの声に、がばっと顔を上げた。
そこには、へにゃりと眉尻を下げたアオの姿
「ごめんね。前にも迷惑かけちゃったのに、またやっちゃった」
「え?」
アオが謝る事なんて、何も……っ。
「私がふざけるからいけないんだよね。うん、ごめん!」
そう申し訳なさそうに笑ったその声は、原田の箍を外すのに確実に有効だった。
「……え?」
自分のスプーンを座卓に放ると、スプーンごとアオの手を掴んでぐっと引き寄せた。
アオの短くあげられた声ごと、その唇に自分のそれを重ねる。ほんの少しあわされたそれは、すぐに離れた。
「ケーキとあんたは、同列に、ならない」
真っ赤な顔のままそう言うと、原田はアオの手を離してケーキをかきこむように食べ始めた。アオはぽかんとした表情で原田を見ていたけれど、嬉しそうに目を細めるとがばりと原田に抱きついた。
「ななしくん、かわいい!」
「んなっ、かわいいってなんだ!!」
原田の首筋に顔を埋めたアオは、抱きしめた腕に力を込めた。
「大好きだよ、ななしくん」
そりゃどーも……、そう小さく呟く声が微かに耳に届いた。
おまけ。
「……ほんの三十分、早く来ただけなんだけどな」
「まぁ、見られてもいいって事だろ。土手から見える居間でイチャこらしてるんだから」
佐々木と井上が、柴垣の横から中を覗く。
少し早めに来てみたら、なんだかキスシーンに出くわしてしまった。
「まぁ、少し時間ずらして行けばいいんじゃねーの」
そう佐々木が土手の方へと視線を逸らしたその時。
「こんにちはー、アオさん」
「「……!!」」
辻が何の躊躇もなく庭へと入っていった。
大きな挨拶と同時に。
時間をずらそうとしていた佐々木と井上は、堂々と歩いていく辻の後姿を呆気にとられたように見つめていて。その辻の向こうでは、慌てふためく原田とアオの姿が見える。
「……辻、容赦ねーな」
「……岸田と上手い事いってないからなー」
意外と一番子供っぽいの、辻なんじゃないか? という疑問の元、二人は辻の背中を追いかけて原田達の元へと向った。
----------------------------------------
以前参加した、初恋ショコラ『ケーキとぼくのキス、どっちがすき?』、企画投稿のお話です。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる