触れて 融けて 流れて 消えて。

篠宮 楓

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其の参

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 晩秋。
 幹に栄養を届けてくれていた、葉たちが散り落ちた。枝に残っているものは、既に何もない。次の春に向けて、咲かせるためのつぼみをゆっくりと育んでいく……。

『ふぅ……』

 小さく、ため息を零した。
 夏から引きずっているだるさが、どうしても取れない。与えられた仕事である風を巡らせるたびに、身体が鉛を飲み込んだかのように重くなるのだ。
『歳かな……』
『まぁ、見た目は若くても主さまは千年生きてる桜だもんねぇ』
『小憎らしい言葉を吐くようになったね、喜楽。雛のお前を育ててやったのに』
『ふふっ、主さまが怒ったぁ』
 怒られている割には、嬉しそうな顔だけれどな。
 喜楽はくすくす笑いながら、私の手に触れる。流れ込んでくるのは、精霊の持つ力。自然から受け取る、生きていく力。

『早く元気になぁれ』

 喜楽に触れられた場所から、ゆっくりと生命力が流れ込んでくる。ひとの喜楽から生まれたこの子の力は、自然から生まれた私には少し強くてそして眩しい。
 ほんの少し、私には重い。
『ありがと、喜楽』
 少し体が楽になった所で、喜楽の手の甲を重ねられていない方の手でトントンと叩いた。
『もういいの? もっと持ってって大丈夫だよ? 俺元気だし』
『喜楽が元気なのは重々承知だよ。でもこれ以上力を受け取ってしまうと、お前の眩しさに目が瞑れてしまいそうだからね』
『主さま、おばば様~』
 喜楽は憎まれ口を叩きつつも、心配そうな表情を崩さない。同じ精霊という事もあるんだろうが、喜楽は桜の木に集った人々の喜楽から生まれた精霊。そして生まれてからは私が育んできたから、ある程度、お互いの事が分かってしまう。

『心配するな、喜楽。このまま冬になって身体を癒していけば、体の不調もなくなるはずだよ。それよりも、今日は森の主さまの所に行くんじゃなかったの?』
『んー? 今日は主さまと一緒にいるー』
 そう言って、ぴたりと半身を預けてくる喜楽をまじまじと見つめた。
『おや、珍しい。ふふ、甘えん坊さんだね』
『主さまのためだもーん』
 可愛いものだ。

 精霊に家族という概念はないけれど、きっとこの子は私の子供みたいな存在。喜楽にとっては、親なのだろう。
 同じ場所から生み出され共に過ごしてくれば、他の精霊たちよりも近しく感じるのは道理なのかもしれない。


『主さま、主さま。ふぅって吹いて』
『かるーくだよ、ゆっくりだよ』
『つかれちゃだめだよ、そっとだよ』


 先程まで私の仕事を手伝ってくれていた風の精霊達が、再び手元に寄り添ってくる。
『どうしたの?』
 風の精霊から、息吹を願われるなんて珍しい。

『いいからいいから』
『ふぅって』

 くるくると私と喜楽の側で飛ぶ精霊達に目を細めながら、繋いでいない手を口元に寄せた。
 仕事で吹かせる風よりも、ささやかなため息のような息吹。私を離れたその風は、精霊達が受け取ってふわりと熱を持った。

『主さまは、さくらの精霊』
『はるがにあう、さくらの主さま』
『はるにはねぇ、あったかーい東の風が似合うんだよ』

 風というには弱い、地に巡らせることのできない程の息吹。それが風の精霊達によって、桜の木をほわりと包んだ。
 
 あたたかい……。

『主さま、主さま』
『元気になーれ』
『元気になぁれ』

 あたたかい。
 
 私は手を精霊達に差し伸べると、目元を緩めた。

『ありがとう、お前たち。とてもあたたかいよ』

 私の手にまとわり付くように遊ぶ精霊達が、嬉しそうに光を放つ。それを喜楽と眺めながら、穏やかに時を過ごした。
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