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身体が蓮の足の上に触れる前に、ふわりと勢いを消される。
いつの間にか蓮の両腕が、背中と腰にまわっていた。
驚いて瞑った目を開ければ、すぐ傍に蓮の整った顔。
横抱きの状態で蓮の膝の上に寝かされていることに気が付くのに、そう時間はかからなかった。
「なっ、何して!?」
慌てて起き上がろうとすれば、その腕ごと抱きすくめられて動く事さえ制限されてしまう。葉月はあまりの羞恥に、顔を真っ赤にして叫んだ。
「離して、蓮!」
「煩いよ?」
……え?
笑みがくっついているけれど。
声も、柔らかいけれど。
目がまったく笑ってない。
ぞくり、と背中に震えが走った。
「葉月、お手伝い」
蓮は怯えたような表情を浮かべる葉月の手に、数枚の紙を持たせる。
「それは読み終えたから、持ってて?」
……嘘だ。
すでに置かれてしまったから手に取るしかなかったけれど、ゲラを渡されてそんなに経ってない。こんな枚数を、数秒で読めるはずがない。
「……蓮?」
「なぁに? 葉月」
こわごわと聞いているのに、蓮は甘ったるい声で応える。それだけじゃなく、ゲラを持っていない手で葉月の髪をくるくると弄りはじめた。
甘い。
とにかく甘い。
砂噛んでるくらい甘いのに、目がまったく笑ってない。
……怖い。
葉月の脳裏に浮かぶのは、この言葉のみ。なぜこんな事になっているのか、蓮が何に怒っているのかよくわからないけれど、それでも脳内で警報が鳴り響いている。
「蓮。手伝いならするけど、ここには加藤さんもいるんだし……」
「へぇ? 加藤さんにだけ見られるの、嫌なんだ」
桜子もいるのに、そう続けた言葉に葉月は首を傾げた。
「だけっていうか、この状態は桜子さんからは見えな……」
「へぇ?」
たったその一言で口を閉じさせられた。
蓮は顔を伏せたまま、視線だけ加藤へと向ける。
蓮達を見ていたようで、引きつった顔の加藤とばちりと目があった。
「どうぞ、仕事を」
眼光鋭い、とはこの事を言うのだろう。辞書に見本として写真でものせたくなるほどの殺気だった冷たい視線に、加藤の顔から血の気が引いた。
「あ、いや、あの。すみません」
すでに、自分が何で謝っているのかさえ理解できない。
それでも蓮の怒りは、実感を伴って加藤を襲う。
どうしていいかわからず、思わず葉月に目を向けた。
蓮を押さえられる、唯一の女性に。
途端。
「祐介、帰るぞ」
ダイニングテーブルで原稿に向かっていたはずの桜子が、すでに身支度を終えた状態で蓮の後ろに立った。
「……、桜子?」
その顔が冷笑を浮かべていることに気が付いて、指先まで冷たくなった。
蓮が笑っていてもその心情を察することができる葉月と同じで、加藤も桜子の心情を察するに長けている。
その桜子が。
今まで見た事がないくらい、物凄い怒りを湛えているのだ。
加藤の呼ぶ声に、桜子は微かに目を細めた。
「早く」
「いや、でも……」
加藤は再び葉月に視線を向けた。
まだ、了承してもらっていないのだ。しかも、大切なものが彼女のエプロンのポケットに入ったまま……。葉月も気にしているようで、困惑した表情で蓮と加藤の間を交互に視線を走らせている。
それが、いけなかった。
「はづき」
甘ったるい声が頭上で響き、
「え……、んっ?」
顔を上げた途端、唇を蓮のそれに覆われた。
驚きに見開かれた、葉月の目。
同じように二人を見たまま、固まった加藤。
「ほら、帰るよ」
今度ばかりは加藤も何も言えず、荷物を纏めて部屋から出て行った。
いつの間にか蓮の両腕が、背中と腰にまわっていた。
驚いて瞑った目を開ければ、すぐ傍に蓮の整った顔。
横抱きの状態で蓮の膝の上に寝かされていることに気が付くのに、そう時間はかからなかった。
「なっ、何して!?」
慌てて起き上がろうとすれば、その腕ごと抱きすくめられて動く事さえ制限されてしまう。葉月はあまりの羞恥に、顔を真っ赤にして叫んだ。
「離して、蓮!」
「煩いよ?」
……え?
笑みがくっついているけれど。
声も、柔らかいけれど。
目がまったく笑ってない。
ぞくり、と背中に震えが走った。
「葉月、お手伝い」
蓮は怯えたような表情を浮かべる葉月の手に、数枚の紙を持たせる。
「それは読み終えたから、持ってて?」
……嘘だ。
すでに置かれてしまったから手に取るしかなかったけれど、ゲラを渡されてそんなに経ってない。こんな枚数を、数秒で読めるはずがない。
「……蓮?」
「なぁに? 葉月」
こわごわと聞いているのに、蓮は甘ったるい声で応える。それだけじゃなく、ゲラを持っていない手で葉月の髪をくるくると弄りはじめた。
甘い。
とにかく甘い。
砂噛んでるくらい甘いのに、目がまったく笑ってない。
……怖い。
葉月の脳裏に浮かぶのは、この言葉のみ。なぜこんな事になっているのか、蓮が何に怒っているのかよくわからないけれど、それでも脳内で警報が鳴り響いている。
「蓮。手伝いならするけど、ここには加藤さんもいるんだし……」
「へぇ? 加藤さんにだけ見られるの、嫌なんだ」
桜子もいるのに、そう続けた言葉に葉月は首を傾げた。
「だけっていうか、この状態は桜子さんからは見えな……」
「へぇ?」
たったその一言で口を閉じさせられた。
蓮は顔を伏せたまま、視線だけ加藤へと向ける。
蓮達を見ていたようで、引きつった顔の加藤とばちりと目があった。
「どうぞ、仕事を」
眼光鋭い、とはこの事を言うのだろう。辞書に見本として写真でものせたくなるほどの殺気だった冷たい視線に、加藤の顔から血の気が引いた。
「あ、いや、あの。すみません」
すでに、自分が何で謝っているのかさえ理解できない。
それでも蓮の怒りは、実感を伴って加藤を襲う。
どうしていいかわからず、思わず葉月に目を向けた。
蓮を押さえられる、唯一の女性に。
途端。
「祐介、帰るぞ」
ダイニングテーブルで原稿に向かっていたはずの桜子が、すでに身支度を終えた状態で蓮の後ろに立った。
「……、桜子?」
その顔が冷笑を浮かべていることに気が付いて、指先まで冷たくなった。
蓮が笑っていてもその心情を察することができる葉月と同じで、加藤も桜子の心情を察するに長けている。
その桜子が。
今まで見た事がないくらい、物凄い怒りを湛えているのだ。
加藤の呼ぶ声に、桜子は微かに目を細めた。
「早く」
「いや、でも……」
加藤は再び葉月に視線を向けた。
まだ、了承してもらっていないのだ。しかも、大切なものが彼女のエプロンのポケットに入ったまま……。葉月も気にしているようで、困惑した表情で蓮と加藤の間を交互に視線を走らせている。
それが、いけなかった。
「はづき」
甘ったるい声が頭上で響き、
「え……、んっ?」
顔を上げた途端、唇を蓮のそれに覆われた。
驚きに見開かれた、葉月の目。
同じように二人を見たまま、固まった加藤。
「ほら、帰るよ」
今度ばかりは加藤も何も言えず、荷物を纏めて部屋から出て行った。
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