婚約者をとった妹妃と体が入れ替わりました~婚約者がやっていると思われていたお仕事、全て放棄いたしますわ~

つばめ

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婚約を破棄されましたわ

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 うららかな日差しが射している昼下がり、少女と少年が花壇の前に座って花を見ていた。
 少女、8歳のバレンティアは隣に座っている少年に顔を向けた。深いアンバーの瞳の少年も顔を横に動かし、バレンティアの緑青ろくしょう色の瞳を見つめ返した。
 バレンティアは少年の整った顔をうっとりと見た。二つ年上の少年はバレンティアと違って勉強も魔法も、なんでも完璧にこなしている。憧れの存在だった。

「わたくしは、なんで、うまくできないのでしょうか」

 幼いながらも気品を感じさせる声でバレンティアは言った。バレンティアはこの国、ザルガトの第一王女にして、後継ぎともくされている。だから子女でありながら、小さい頃から帝王学ていおうがくほどこされていた。

「僕もさいしょは上手くいかなかったよ」

 少年は整った顔に大人びた苦笑いを浮かべ、バレンティアの手をそっと握った。自分より幾分いくぶんと低い体温となめらかな肌に、バレンティアの心臓はどくどくと高鳴った。

「……そうはおみうけしませんが」
「本当だよ。だからなんども上手くいくまで努力したんだ。努力しても上手くいかないこともあるけど、でも努力しないと何もなすことはできない、って父さんが言っていた」

 少年はそう言うと、顔を目の前の花に戻した。二人の前には美しい青い花が咲いている。
 バレンティアは少年の酷く大人びた横顔を見つめながら、なぜか胸が痛くてしょうがなかった。



※※※



「君との婚約を破棄したいんだ」

 カジェタノの冷たい声色の言葉に、わたくしは驚いて目を見開きました。

「本気ですの?」

 乾いた唇からなんとか言葉を吐き出すと、カジェタノは冷たい視線で頷きました。そうして隣にいる妹妃、マヌエラを優しい瞳で見つめます。マヌエラはカジェタノの方に頭を傾けると、悲しそうな表情をしました。

「お姉さま、ごめんなさい。でも私たち愛し合っているのです」

 そう言うとマヌエラは、はしたなくもカジェタノの腕を掴み、しな垂れかかりました。カジェタノもマヌエラの手のこうを自分の手で包み頭をもたれさせます。

「マヌエラが謝る必要はないよ」

 カジェタノの言葉に私は心の中で眉を寄せました。私は施された帝王学により、表情を表に出すことはありません。
 それにしても謝る必要がない、とはどういうことでしょうか。姉である第一王女の婚約者と恋仲になり、さらに婚約破棄までさせようとしているのに。
 隣の一人掛けの椅子に座っている父である王に顔を向けると、さすがにぴたりとくっついてる二人に眉を寄せておりました。父も帝王学を学んでいるはずですが、感情が表れることが多いです。

「……私と婚約を破棄するということは、王配おうはいとしての債務さいむも下りるということですわね」

 私の言葉に顔をこちらに向けたカジェタノはちらりと王を横目で見ました。私も釣られるように王を見ると、難しい顔をして瞼を閉じておりました。
 瞼を閉じているこの国の王には、私と目の前の妹、マヌエラしか子供がおりません。ですから私は女王となり、叔父である公爵の次男、すなわち従兄いとこのカジェタノを王配として迎える予定でした。
 しかしカジェタノが妹と婚姻を結ぶのであれば、王配教育の一環としてなしていた公務こうむもやめるということでしょう。けれど自分の功績にするのが上手いカジェタノに実績をかすめとられておりますが、すべての公務は私がしておりました。だから人員を増やす必要はないのですが、念のために確認をいたしました。
 婚約破棄の上に妹と結婚だなんて、国内の貴族や諸外国に対する外面が悪いにもほどがありますが、功績をかすめ取られないことに関しては少し肩の荷が下りますわ。

「それなんだが、バレンティア……公務をこなしているのはカジャタノだろう。だからカジェタノがマヌエラとどうしても添い遂げたいというのであれば……マヌエラを女王にしようか、とも考えているんだ」

 ゆっくりと口を開いた父の言葉に、私は先ほど婚約破棄と言われた以上に驚きました。
 父までもカジェタノが公務をしていたと思い、あまつさえ彼が誰と婚姻を結ぶかで次代の王を決めるとは。しかし父としては自分の血が王になれば良いのであって、それは私でも妹でも変わりないのでしょう。
 私は奈落の底に落とされたような気持になって、あるまじきことですが、ドレスの裾をぎゅうっと握りしめました。
 呆然とした顔で視線をカジェタノとマヌエラに移すと、勝ち誇ったような顔をしておりました。
 ここまでの仕打ちをうけるようなことを私はしたのでしょうか。いえ、王の座とは昔から骨肉の争い、時には死も当たり前の、そこまでして欲する者がいるものでしたね。
 私は体から血の気が失せて、目の前が真っ白になりました。

 
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