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公務は放棄しますわ
カジェタノが居なくなってしばらくすると、眠っていなかった私は目を開きました。そうして寝台から起き上がり、まずは姿見の前に移動しました。
姿見には、ピンクブロンドの髪に、若草色の瞳、愛らしい顔立ちのマヌエラがおりました。私が手を上げれば、姿見の中のマヌエラも手を上げます。私が笑えば、姿見の中のマヌエラも笑います。まぎれもなく私はマヌエラになっておりました。
確認を終え音も無く息を吐き出すと、長椅子に移動し、これからのことを考えました。
※※
「マヌエラ、ここにいたのかい?」
カジェタノの言葉に仕方なく顔を上げました。青い花が咲き乱れるお気に入りの東屋で本を読んでいるところでしたのに。
声をかけたカジェタノはとても疲れた顔をしておりました。私の体は体調不良として部屋に軟禁され、カジャタノは公務を一人でおこなっています。しかし上手くいっていないようで、今までしていたように遊び惚けることもできず、仕事詰めです。
もちろん私も手伝わず、日がな一日、本を読んだりお茶をしたりして過ごしておりますわ。ちなみにマヌエラが女王になると決まった訳ではないので、まだ帝王学は施されておりません。
こんなに何もすることがないのは初めてで、とても癒されるのですが、暇だとも感じてしまいます。二人は暇だから婚約者の妹と恋愛をしたり、姉の婚約者を取ったりしたのでしょうか。少しは私の仕事も手伝って欲しかったですわ。
「お疲れのようですわね」
私は心配そうな表情をして、カジェタノを見つめました。カジェタノは弱った顔をすると、私の頬に手を伸ばそうとしてきましたが、紅茶を取る振りをして逃れました。
最初の頃は、マヌエラを演じるうえで、カジェタノとの関係に悩んでおりました。しかしたとえマヌエラの体だったとしても、カジェタノとの婚姻は望んでおりません。折を見てこちらから婚約を破棄する予定です。
だから散々利用してきたカジェタノに公務の大変さを味わってもらい、さらに無能さを晒せばよいと思っております。そうすれば、より婚約破棄をしやすいですし。
ですので今はまだマヌエラの演技を続けておりますが、カジェタノに愛想をつかされても、さほど支障はありません。なので触れられるなどの嫌なことは避けることにしました。
カジェタノは苛立った顔で手を下げると、侍女が淹れたばかりの紅茶に移しました。
「ああ、思ったより公務が忙しくてね」
「思ったより……」
カジェタノは、しまった、という顔をしてカップを止めました。どうやらマヌエラにも自分が公務をしていたと偽っていたようです。
「ああ……新しい公務が増えてね。思ったよりも時間がかかって……」
さすが、誤魔化し方は上手いです。私は頷くと眉を寄せました。
「お体に気をつけてくださいね。なにも出来ないけれど……」
私の言葉にカジェタノはひくひくと口の端を上げました。
私にも公務を手伝って欲しそうなカジェタノの言葉を、今までもなんやかんやとかわしておりました。もうこの男に功績を取られるのはこりごりなのです。
「ああ……ありがとう……そういえば君は隣国に留学していたね。隣国の学院には諸外国の方がたくさんいたと聞く。もしよければ今度行われる晩餐会の儀典を見てほしいんだが……」
カジェタノの言葉に眉を寄せたまま固まってしまいました。断っているのになおも食いついてくるところに、カジェタノの余裕のなさがうかがえて胸がすきましたが、同時にすごく不安になりました。
今度行われる晩餐会は、わが国とあまり交流のない北の大国の第一王女が主賓です。温厚な我が国と違い北の大国はきっちりとしていて、しかも王女は輪をかけて気難しいらしいのです。しかも我が国の催事を執り行う儀典官はあまり有能とはいえません。良く気をつけなければ、我が国の面子を丸潰れにする失態を犯しかねないと思いました。
私はちらりとカジェタノの顔を見ました。きっとこの男も何の役にも立たないでしょう。しかし手伝いたくはないし、何よりカジェタノの功績にしたくないのです。
「申し訳ございません。私ではお力になれないかと……」
カジェタノは残念そうに息を吐くと肩を落としました。
晩餐会でカジェタノに恥をかかせると、北の大国との関係にヒビを入れてしまう。両立してしまう2つの事柄に、頭を悩ませました。
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