婚約者をとった妹妃と体が入れ替わりました~婚約者がやっていると思われていたお仕事、全て放棄いたしますわ~

つばめ

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元婚約者がやらかしましたわ

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 きらびやかな大晩餐会はつつがなく進行し、気難しい王女の機嫌も悪くないようでした。わたくしも提供される料理、一つ一つに気を配って見ておりましたが、どれもブトケエヴァに沿うものでした。
 エドガルドは事前に王宮料理人と話を詰め、さらに配膳係やパン係に、無駄に愛想を振りまくな、と伝えたそうです。
 儀典官ぎてんかんからは王宮料理人には多少話がいっていたようですが、配膳の者には何も伝えられていなかったようです。ですから、どちらにも大変感謝され、深い知識に関心されたとか。
 エドガルドはまさか儀典官が何もしていないとは思っていなかったようで、大変に驚いておりました。
 本来であれば王配となるカジェダノが気にするようなことではないのですが、私が公務をしていたときは当たり前のように気を配っていたことでした。私が公務を担うようになってからの三年、他国を招いた晩餐会が大成功を収めている、と言われるゆえんはここにあります。
 無能な儀典官は即刻そっこく、交代したいところですが、私の立場もあり、なかなか上手くはいきませんでした。

「マヌエラ、楽しんでいるかい?」

 カジェタノの言葉に思考にふけっていた私は、食器から顔を上げました。カジェタノは呑気に葡萄酒ぶどうしゅを飲んでおります。
 その顔を見て、今までの苦労を思い出し、なんだか腹が立ちました。

「ええ……とても」

 私が小さく返すとカジェタノは少しいぶかしみましたが、すぐに隣に座っているブトケエヴァの第一王女に顔を向けました。

「タチヤーナ殿下、楽しんでいただけておりますか?」

 嫌いな愛想笑いを浮かべたカジェタノに、気難しい王女は眉を寄せました。王女の反対隣りに座っている王も、カジェタノが失礼なことをしないか、ハラハラとした顔で見ております。晩餐会の間、王女は主に王と話をしておりました。

「ええ……お陰様で」

 王女の冷たい表情と声色にカジェタノが焦ったのがわかりました。おもむろに王女の白い手を取ると、媚びを売るように口づけを落としました。
 王女は驚いた顔で固まってしまいました。

「とても美しいお手ですね」

 手のこうを親指の腹で撫でられた王女はさらに不快な顔をしました。そして少し乱暴に手を下げました。

「……こちらの国に来てから、このような扱いを受けたのは初めてですわ」

 そう言うと王女は手の甲を布で拭き取りました。カジェタノは訳が分からないという顔で、ぽかんとしております。

「全く従僕じゅうぼく達はしっかりと我が国の文化を学んでくれているのに……上の者がこのような浅はかさだとは……」

 ぶつぶつと言う王女の言葉に、まず父が顔を真っ青にしました。その様子を見てガジェタノも不味いと気付いたのか顔が青くなっていきました。
 本来ならば魔石を買うザルガトの立場が上のはずと思いますが、北の大国は我々のような消費が少ない国にわざわざ売らなくても良いのです。しかし魔石が無いと国民の生活はとても不便で苦しくなります。
 だから北の大国の王に気に入られている王女の不評を買うことは、決して許されないのです。

「あ、タチヤーナ殿下、なにかご不快なことをしてしまいましたか……」

 王女はカジェタノをぎろりと睨みます。

「理由も分からないのですか。まあ、だから口づけなどという軟派なんぱなことをしたのでしょうが」

 王女は不快気に布を置くと、席を立とうとします。王もカジェタノも、そして私も顔を真っ青にし、ただ黙って見守ることしかできません。
 まさか手の甲への口づけ一つでここまで不快にさせてしまうとは。私もブトケエヴァへの知識不足を痛感させられました。

「タチヤーナ殿下、最後に特別なデザートを用意しておりますが」

 するとすっと王女の脇から現れたエドガルドが、静かな声で言いました。

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