婚約者をとった妹妃と体が入れ替わりました~婚約者がやっていると思われていたお仕事、全て放棄いたしますわ~

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元婚約者は悪事を働いておりますわ

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「やりましたわね」

 わたくしは嬉しくて、思わず笑顔になりました。目の前に座るエドガルドも口の端をすこし上げ、嬉しそうにしております。
 エドガルドの銀色の髪が風になびいて、まるで一枚の絵画のような美しさです。

「……とても嬉しそうですね」

 エドガルドは紅茶に手を伸ばしながら言いました。
 エドガルドの言葉に、笑顔を見せるのは違うかと思い、慌てて表情を引き締めました。

「失礼しました」
「……カジェタノきょうの評判は落ち、代わりにバレンティア殿下が上がりました。これで貴方の女王への道が遠のくのでは」 

 エドガルドは眉を寄せております。その様子に、ふと、エドガルドが貴族たちに晩餐会でガジェタノに対する疑問の声を上げさせ、さらにバレンティアを持ち上げるようなことを言わせたのではないか、と思いました。
 あのようなやり方で、ガジェタノを追い詰め、バレンティアを持ち上げよう、と私とエドガルドの間では話しておりません。私がなそうとしたのは、あくまでもカジェタノを追い詰めることであって、バレンティアの評判を上げることは想定しておりませんでした。
 だからエドガルドは、女王になりたいマヌエラが、余計なことをするな、と怒ると思ったのでしょうか。まさかマヌエラの中がバレンティアであるとは知らずに。

 私はわずかに微笑むと、エドガルドを呼び出した、本題を話すことにしました。

「それは良いのです。さて、本日、お呼びした理由なのですが……」

 エドガルドは私の反応をうかがっておりましたが、やがて諦めて居住いずまいを正し、じっくりと聞く姿勢を取りました。

「……重要なお話だとか」
「はい、とても」
「……盟約の魔法を使用しますか」
「エドガルドなら必要ないでしょう」

 私の言葉にエドガルドは苦しそうな表情をしました。

「あなたは……」

 苦しそうな表情を疑問に思い、金色の瞳を見つめると、エドガルドは視線を反らしました。戸惑いましたが、理由はわからないので、私も机に視線を移し続きを話します。

「……イルヴァ妃についてなのですが」
「王の愛妃ですか」

 小さく頷きました。
 私とマヌエラの母である正妃は十年前に没しました。それから王は愛妃を数人娶り、その中でもカジェタノの父、モンティージャ公爵が連れてきた、イルヴァ妃がお気に入りです。

「彼女はダンドロ帝国の諜報員ちょうほういんかもしれません……そしてカジェタノとモンティージャ公爵も内通している可能性があります」

 ひときわ小さな声で言うと、エドガルドは目を大きく見開きました。
 ダンドロ帝国とは最近、他国を破竹はちくの勢いで制圧し、領土を広げている国です。ザルガトとダンドロ帝国の間には、未だ二つの国がありますが、決して侵略の危機は他人事ではありません。
 それもあり北の大国のブトケエヴァと厚い友好を築いておきたかったのです。

「な……それは本当ですか……」

 エドガルドは瞳を左右に揺らし動揺しています。無理もありません。

「……あなたはそれを知ってなお、カジェタノ卿と婚姻を結ぶつもりですか」
「最近、わかりました。まだ疑惑の段階です」
「疑惑の段階……そんな重要なことを私に……」

 カジェタノの内通にかんしては、バレンティアが婚約破棄を言い渡された時は、憶測の域を出ていませんでした。しかしマヌエラとしてカジェタノの手の内にいるうちに、疑惑は深まり、さらにカジェタノの父、モンティージャ公爵も関与しているのでは、と思うようになりました。
 マヌエラになってから、モンティージャ公爵のタウンハウスを訪問した際、表向きは隠している、明らかに分不相応な調度品の数々を発見しました。きっとダンドロ帝国からの密通の報酬は、誤魔化しがきく調度品で受け取ることも多いのでしょう。 
 またカジェタノが親しくしている女性はたくさんいるのですが、その中にイルヴァ妃の侍女もおります。しかしカジェタノがイルヴァ妃の侍女に向ける視線は、マヌエラや他の女性に向けるものとは違うのです。バレンティアに向けるような憎しみはありませんが、かといってマヌエラに向ける甘さを含んでもおりません。まるで子飼いの部下に向けるような視線です。
 そしてマヌエラの部屋にも、明らかに与えられる公費を越えた、調度品や装飾品を発見しました。マヌエラも甘い汁を吸っていたのは明白です。しかしマヌエラは全ては知らされていなかったのでしょう。その証拠として、二人は決定的なことは、マヌエラの前で言いません。しかし他の人の前よりは警戒していないのか、ぽろぽろとダンドロ帝国との関係をほのめかします。
 けれど二人の悪事を公にしたくとも、公務を担わず伝手のないマヌエラには、信頼できる協力者はおりませんし、居たとしても私にはわかりません。そこでこの件はバレンティアが信頼していた、エドガルドに話すことにしました。

「ええ、優秀で信頼できると、今回の件でわかりましたから」

 私が信頼していることを伝えると、エドガルドは苦悶くもんの表情を浮かべました。

「……本当に今回の件だけでわかったのですか」

 私の心臓はどきりと波を打ちました。
 エドガルドの言った言葉の意味をとっさに考えます。もしかしてマヌエラがバレンティアである、とわかっている、または疑問に思っているのでしょうか。

「ええ……何か、疑問でも?」

 おそるおそる聞くと、エドガルドは私の瞳をじっと見つめます。しかしそっと視線を反らしました。

「……いえ、ありません」

 エドガルドの美しい横顔を見つめながら、分かって欲しかった、と勝手なことを心の内で思いました。
 真実を話そうかと口を開きかけますが、話した後のエドガルドの反応を想像して止めました。信じてくれなかった時、私はとても傷つくでしょう。私はエドガルドに対して、いつもいつも臆病になってしまいます。
 それにカジェタノとモンティージャ公爵を追い詰めた時、バレンティアがマヌエラであることは、きっとエドガルドを苦しめるでしょうから。
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