婚約者をとった妹妃と体が入れ替わりました~婚約者がやっていると思われていたお仕事、全て放棄いたしますわ~

つばめ

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悪事の証拠は揃いましたわ


 気持を切り替えたわたくしは、エドガルドに疑惑の詳細を話し終えると、すっかり冷めたお茶を飲み干すためカップを持ちました。すると向こうからカジェタノが歩いてくるのが見えました。
 晩餐会から評価が落ち、取り巻きも少なくなったカジェタノは、余裕が無くなり、さらに怒りっぽくなりました。今も肩で風を切る姿から、怒っているのがわかります。

「マヌエラ! ここにいたのかっ」

 カジェタノは責めるように私を見ると、次に忌々いまいましそうにエドガルドを睨みました。

「ごきげんよう、カジェタノ」

 私は座ったまま、エドガルドは立ち上がり、お辞儀をしました。

「……なぜエドガルドと茶など、はしたないぞ」

 私は驚いて目を見開きました。
 さんざん他の女性とお茶をしているカジェタノに言われたくありません。それに晩餐会をするまでは、エドガルドとお茶を共にしようとも、何も言いませんでした。
 王配おうはいや国の重要な地位に選ばれるのは、カジェタノの生家である公爵家を含め、七大貴族からと決まっております。ですから、子爵の息子のエドガルドをマヌエラが選ぶはずがない、と思っていたのでしょう。しかし晩餐会で活躍したエドガルドに嫉妬し、敵対視するようになり、目に止まったのでしょうか。これは誤算でした。

「ただエドガルドの知識の深さから意見をうかがいたく……」

 慌てた私が口を開きますが、カジェタノは話の途中に手で止めました。

「マヌエラまでエドガルドか……!」

 荒々しく、そして苦しそうな顔で言ったカジャタノに驚き、私はぴたりと止まってしまいました。マヌエラまで、とはどういう意味でしょうか。

「イヌラの神に誓い、男女の恋、などという仲ではございません」

 エドガルドは冷たい声色で言うと、ちらりと私を見ました。ちくりと胸が痛みます。しかしすぐにエドガルドを巻き込んではいけないと思い同意しました。

「ええ、その通りよ。エドガルドきょう、話は終わりました。どうぞお帰りください」

 エドガルドはじっと私を見ておりましたが、視線を反らすと優雅にお辞儀をし、背を向けて王宮に歩いていきます。私は立ち去るエドガルドの後ろ姿をぼんやりと見送りました。

「ふう……」

 カジェタノが重い息を吐いたので、慌ててそちらに顔を向けました。カジェタノのこげ茶の瞳は暗く、よどんでいるようで、ぞくりと怖くなりました。


※※


「証拠は揃いました」

 エドガルドは紅茶を飲みながら、静かに言いました。後ろには枯れてしまった青い花の代わりに、美しい青緑色の花が咲いております。
 私は紙に記された文字を読みながら頷きました。あれからカジェタノの目もあり、エドガルドと直接会うのは難しくなりました。そこでエドガルドが寄越してくれた信頼のおける従僕じゅうぼくを通じ、なんとかやり取りを行いました。
 ですのでこうして直接、エドガルドと会うのは久しいのです。

「ええ……ありがとう。これで王国の膿を出せます」

 私は穏やかに笑って言いました。
 手元にはイルヴァ妃とカジェタノ、それにモンティージャ公爵が、ダンドロ帝国の間者とやり取りをしていることを証言してくれる者の名簿、それから魔法による映像記憶があります。さらにそれぞれの不明瞭な資産や、金銭の流れの偽造を詳細に指摘した文章。モンティージャ公爵からは裏帳簿まで手に入れることができました。
 この短期間でここまで調べるとは、さすがエドガルドだと思いました。
 私はさらにマヌエラ今の私が受け取っていた金銭の額も確認します。これだけの金額を受け取っていたら、出所は知らなかった、と言ったところで、何かしらの罰は受けるでしょう。

「……貴方様の証拠は破棄します」

 エドガルドの言葉に、私は目を見開きました。

「貴方が指摘しなければ、今回の件は明るみに出なかった。そして、そのままカジェタノ卿が権力を掌握しょうあくしていったでしょう。貴方は証拠を掴むために、金銭を受け取り、カジェタノ卿の仲間のふりをしていた。……そうでしょう?」

 エドガルドの描いた筋書きに、苦笑いを返しました。

「証拠は嘘をつきません。仲間のふりをしていた、と言ってどれだけの者が納得するでしょうか。しかもその者が女王になるだとと……私は遊び惚けていて、お姉さまと違い評判も悪いですし」
くつがえさせます」
「……なぜ、そこまで。調べている内に、私の散財の過去を知ったでしょう」

 苦悶の表情を浮かべるエドガルドを見ていたくなくて、私は静かに瞼を閉じました。

「……どうかお姉さまをよろしくね」

 当初はカジェタノとマヌエラが婚約破棄をすれば済む話かと思っておりましたが、イルヴァ妃、さらに叔父であるモンティージャ公爵も関与しているとなれば、公にして膿を出さないといけません。
 悪事が公にされれば、マヌエラの中に入っている私ごと罰せられることは、わかっておりました。そうして妹の望みでもあろう女王の座は、私の体バレンティアに入っているマヌエラがつくことも。
 私もマヌラエが王に相応しいとは少しも考えておりません。しかし前回の晩餐会での活躍と、この悪事を暴いたことで、王宮での地位を得るエドガルドがいればきっと大丈夫、と信じるしかありません。
 どうか私の体の中にいるマヌエラを、エドガルドが導いてくれるよう祈っています。エドガルドであれば、たとえ昔から懇意にしていたバレンティアであろうとも、間違いを犯せば罰してくれるでしょう。

「犠牲になるのですか」

 エドガルドの苦しそうな声に、犠牲とはどういう意味だろう、と瞼を持ち上げました。マヌエラは実際にお金を受け取っていたのですから、犠牲ではなく、ただ罪をつぐなうだけです。

「あなたは、バレンティアですね」

 確信を持ったエドガルドの言葉に、私は大きく目を見開きました。

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