9 / 17
入れ替わりがバレましたわ
しおりを挟む「な、なぜ……」
「……最初に名前を呼ばれた時から疑問に思っておりました。そうして女王の座が遠ざかろうとも笑うあなたと、バレンティアの姿が重なりました。さらに自身を追い詰めるだけと知りながら、悪を公にしようとする姿勢……ですから幽閉されている貴方の体にも会いに行きました。私はマヌエラだ、と自ら名乗ってくれましたよ」
エドガルドはそこまで言って、目頭を押さえました。私の体が自分はマヌエラだ、と言っていることは、あまりにも外聞が悪いため、秘匿にされておりました。
エドガルドは一息つくと続きを話し始めます。
「だから入れ替わっているのかと思い、王宮図書や国庫をあさり、そういう魔法や現象があるか探しました。すると500年前に、王族に入れ替わりの術を使うものがいたことがわかりました。ただしその術は、死ぬ瞬間に他人の意識に乗り移る、というものでしたが。……遥か昔、この国が成り立った時、王族は特殊な能力により、国民を支配したと言われておりますね。貴方様は先祖返りをしたのかもしれません」
エドガルドの言葉に、私は体の力が抜け、長椅子に背をあずけました。
「先祖返り……」
呟いた後、突然、涙が溢れました。一番にエドガルドが気づいてくれたという喜び、それから見ないふりをしていた大きな不安、色々な感情が混ざっている涙でした。
「婚約破棄や失脚を含め、たくさん辛かったですね」
エドガルドの労りがにじむ言葉に、さらに涙が溢れました。エドガルドは私が泣いているのを、そのあとはただ見守ってくれました。
しばらく泣いて気持ちが落ち着くと、一番に思ったことは、今までエドガルドのように入れ替わりに関して調べる、ということを全くしていなかった自分の愚かさでした。真っ先に思いつきそうなことなのに、不思議なもので全く頭に過りませんでした。それとも心の隅で自分の力だと思っていたから、すんなりと受け入れたのでしょうか。
しかし調べてくれた内容は気になります。
「500年前の王族は、力を操れていたのでしょうか。……戻ることはできるのでしょうか」
「わかりません。何も記載はありませんでした」
私はがっかりして肩の力を抜きました。
「そうですの……」
「入れ替わった時に、なにか特別な感覚はありませんでしたか」
私は入れ替わった時のことを思い出しました。たしか婚約を破棄されたことよりも、王を継ぐことができないことが、心に刺さりました。
女王になるために、今まであらゆることを諦めてきました。
ちらりとエドガルドの美しい顔を見ます。金色の瞳は、静かに私を写しておりました。どくりと心臓がなります。
もしマヌエラだったら諦めなくて良いのか、と何度思ったことでしょう。なのにマヌエラは私が諦めた、愛する者と結ばれる、という幸福を得、さらに私がそうまでしてなるはずだった、女王の座までも手に入れようとしている。
そのことに絶望したのです。
「……王の座から降ろされるかもと思い、自分の人生の意味が分からなくなって、絶望しました」
「つまり、感情が大きく揺れたと」
小さく頷きます。
「もう一度、感情が大きく揺れれば、戻るかもしれまんせね。故意にできることではないでしょうが」
難しい顔をするエドガルドに、私は苦笑いを返しました。
「いつか戻れるかも、と希望が持てただけ、ましですわ」
「……貴方が戻ってから、内通を公にします」
私は驚き慌てて言いました。
「何を……待っていたら、どんどん取り返しがつかなくなるかもしれません!」
「それよりも、貴方が無実の罪で裁かれるのが嫌なのです」
エドガルドの苦しげな言葉に、私は混乱しました。
「気持ちはとても嬉しいのですが……しかし国のためにも……!」
「国よりも貴方が大事なのです」
エドガルドの静かな声色の言葉に、私は驚いてこれ以上ないほど目を見開きました。
「な、なぜ……」
エドガルドは視線を反らしましたが、一度きつく瞼を閉じると、意を決したように瞳を向けてきます。
銀色の髪ははらりと肩から落ち、強い決意を放った金の瞳は輝いています。とても美しい男だと思いました。
「……貴方が好きなのです。この世で一番、大切なのです」
その言葉に再び涙が滲むのがわかりました。
私もずっとエドガルドが好きでした。小さい頃からずっとずっと大好きでした。
けれどエドガルドの気持ちはわかりませんでした。それに女王の道しか示されなかった私は、七代貴族から王配を迎えなければいけませんでした。だから諦めた恋でした。
それでも、ずっと、胸のうちにありました。
「わ、わたくし……」
そう言いながらエドガルドに手を伸ばして、そうしてその華奢な手を見て止めました。この手はマヌエラのもの、たとえ中身が自分でも、エドガルドに触れて欲しくない、と浅ましいことを思ったのです。
エドガルドは切なそうな表情をして、すっと視線を反らしました。私は慌てて、しかし次にかける言葉に迷いました。
私も好きだ、と言ったら、きっとエドガルドは入れ替わりを解消することに、さらにやっきになるでしょう。すると罪は公にされません。もし公にしたとしても、私が牢に入ることで、エドガルドにさらなる苦痛を与えてしまうでしょう。
私はどうしたら良いのかわからなくて、ぎゅっと目をつぶりました。そうして、どうか自分の体に戻って、と心の中で強く強く思いました。
そうして私は体から血の気が失せて、目の前が真っ白になりました。
17
あなたにおすすめの小説
妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます
tartan321
恋愛
最後の結末は??????
本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
reva
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
妹のせいで婚約破棄になりました。が、今や妹は金をせびり、元婚約者が復縁を迫ります。
百谷シカ
恋愛
妹イアサントは王子と婚約している身でありながら騎士と駆け落ちした。
おかげでドルイユ伯爵家は王侯貴族から無視され、孤立無援。
「ふしだらで浅はかな血筋の女など、息子に相応しくない!」
姉の私も煽りをうけ、ルベーグ伯爵家から婚約破棄を言い渡された。
愛するジェルマンは駆け落ちしようと言ってくれた。
でも、妹の不祥事があった後で、私まで駆け落ちなんてできない。
「ずっと愛しているよ、バルバラ。君と結ばれないなら僕は……!」
祖父母と両親を相次いで亡くし、遺された私は爵位を継いだ。
若い女伯爵の統治する没落寸前のドルイユを救ってくれたのは、
私が冤罪から助けた貿易商の青年カジミール・デュモン。
「あなたは命の恩人です。俺は一生、あなたの犬ですよ」
時は経ち、大商人となったデュモンと私は美しい友情を築いていた。
海の交易権を握ったドルイユ伯爵家は、再び社交界に返り咲いた。
そして、婚期を逃したはずの私に、求婚が舞い込んだ。
「強く美しく気高いレディ・ドルイユ。私の妻になってほしい」
ラファラン伯爵オーブリー・ルノー。
彼の求婚以来、デュモンの様子が少しおかしい。
そんな折、手紙が届いた。
今ではルベーグ伯爵となった元婚約者、ジェルマン・ジリベールから。
「会いたい、ですって……?」
=======================================
(他「エブリスタ」様に投稿)
【完結】華麗に婚約破棄されましょう。~卒業式典の出来事が小さな国の価値観を変えました~
ゆうぎり
恋愛
幼い頃姉の卒業式典で見た婚約破棄。
「かしこまりました」
と綺麗なカーテシーを披露して去って行った女性。
その出来事は私だけではなくこの小さな国の価値観を変えた。
※ゆるゆる設定です。
※頭空っぽにして、軽い感じで読み流して下さい。
※Wヒロイン、オムニバス風
今さら泣きついても遅いので、どうかお静かに。
reva
恋愛
「平民のくせに」「トロくて邪魔だ」──そう言われ続けてきた王宮の雑用係。地味で目立たない私のことなんて、誰も気にかけなかった。
特に伯爵令嬢のルナは、私の幸せを邪魔することばかり考えていた。
けれど、ある夜、怪我をした青年を助けたことで、私の運命は大きく動き出す。
彼の正体は、なんとこの国の若き国王陛下!
「君は私の光だ」と、陛下は私を誰よりも大切にしてくれる。
私を虐げ、利用した貴族たちは、今、悔し涙を流している。
ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。
ねお
恋愛
ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。
そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。
「そんなこと、私はしておりません!」
そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。
そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。
そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。
乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……
三葉 空
恋愛
「ごめん、シアラ。婚約破棄ってことで良いかな?」
ヘラヘラと情けない顔で言われる私は、公爵令嬢のシアラ・マークレイと申します。そして、私に婚約破棄を言い渡すのはこの国の王太子、ホリミック・ストラティス様です。
何でも話を聞く所によると、伯爵令嬢のマミ・ミューズレイに首ったけになってしまったそうな。お気持ちは分かります。あの女の乳のデカさは有名ですから。
えっ? もう既に男女の事を終えて、子供も出来てしまったと? 本当は後で国王と王妃が直々に詫びに来てくれるのだけど、手っ取り早く自分の口から伝えてしまいたかったですって? 本当に、自分勝手、ワガママなお方ですね。
正直、そちらから頼んで来ておいて、そんな一方的に婚約破棄を言い渡されたこと自体は腹が立ちますが、あなたという男に一切の未練はありません。なぜなら、あまりにもバカだから。
どうぞ、バカ同士でせいぜい幸せになって下さい。私は特に復讐するつもりはありませんから……と思っていたら、元王太子で、そのバカ王太子よりも有能なお兄様がご帰還されて、私を気に入って下さって……何だか、復讐できちゃいそうなんですけど?
甘そうな話は甘くない
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」
言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。
「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」
「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」
先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。
彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。
だけど顔は普通。
10人に1人くらいは見かける顔である。
そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。
前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。
そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。
「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」
彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。
(漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう)
この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。
カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる