婚約者をとった妹妃と体が入れ替わりました~婚約者がやっていると思われていたお仕事、全て放棄いたしますわ~

つばめ

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入れ替わりがバレましたわ

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「な、なぜ……」
「……最初に名前を呼ばれた時から疑問に思っておりました。そうして女王の座が遠ざかろうとも笑うあなたと、バレンティアの姿が重なりました。さらに自身を追い詰めるだけと知りながら、悪を公にしようとする姿勢……ですから幽閉されている貴方の体にも会いに行きました。私はマヌエラだ、と自ら名乗ってくれましたよ」

 エドガルドはそこまで言って、目頭を押さえました。私の体マヌエラが自分はマヌエラだ、と言っていることは、あまりにも外聞が悪いため、秘匿ひとくにされておりました。
 エドガルドは一息つくと続きを話し始めます。

「だから入れ替わっているのかと思い、王宮図書や国庫をあさり、そういう魔法や現象があるか探しました。すると500年前に、王族に入れ替わりの術を使うものがいたことがわかりました。ただしその術は、死ぬ瞬間に他人の意識に乗り移る、というものでしたが。……遥か昔、この国が成り立った時、王族は特殊な能力により、国民を支配したと言われておりますね。貴方様は先祖返りをしたのかもしれません」

 エドガルドの言葉に、わたくしは体の力が抜け、長椅子に背をあずけました。

「先祖返り……」

 呟いた後、突然、涙が溢れました。一番にエドガルドが気づいてくれたという喜び、それから見ないふりをしていた大きな不安、色々な感情が混ざっている涙でした。

「婚約破棄や失脚を含め、たくさん辛かったですね」

 エドガルドの労りがにじむ言葉に、さらに涙が溢れました。エドガルドは私が泣いているのを、そのあとはただ見守ってくれました。
 しばらく泣いて気持ちが落ち着くと、一番に思ったことは、今までエドガルドのように入れ替わりに関して調べる、ということを全くしていなかった自分の愚かさでした。真っ先に思いつきそうなことなのに、不思議なもので全く頭に過りませんでした。それとも心の隅で自分の力だと思っていたから、すんなりと受け入れたのでしょうか。
 しかし調べてくれた内容は気になります。

「500年前の王族は、力を操れていたのでしょうか。……戻ることはできるのでしょうか」
「わかりません。何も記載はありませんでした」

 私はがっかりして肩の力を抜きました。

「そうですの……」
「入れ替わった時に、なにか特別な感覚はありませんでしたか」

 私は入れ替わった時のことを思い出しました。たしか婚約を破棄されたことよりも、王を継ぐことができないことが、心に刺さりました。
 女王になるために、今まであらゆることを諦めてきました。
 ちらりとエドガルドの美しい顔を見ます。金色の瞳は、静かに私を写しておりました。どくりと心臓がなります。
 もしマヌエラだったら諦めなくて良いのか、と何度思ったことでしょう。なのにマヌエラは私が諦めた、愛する者と結ばれる、という幸福を得、さらに私がそうまでしてなるはずだった、女王の座までも手に入れようとしている。
 そのことに絶望したのです。

「……王の座から降ろされるかもと思い、自分の人生の意味が分からなくなって、絶望しました」
「つまり、感情が大きく揺れたと」

 小さく頷きます。

「もう一度、感情が大きく揺れれば、戻るかもしれまんせね。故意こいにできることではないでしょうが」

 難しい顔をするエドガルドに、私は苦笑いを返しました。

「いつか戻れるかも、と希望が持てただけ、ましですわ」
「……貴方が戻ってから、内通を公にします」

 私は驚き慌てて言いました。

「何を……待っていたら、どんどん取り返しがつかなくなるかもしれません!」
「それよりも、貴方が無実の罪で裁かれるのが嫌なのです」

 エドガルドの苦しげな言葉に、私は混乱しました。

「気持ちはとても嬉しいのですが……しかし国のためにも……!」
「国よりも貴方が大事なのです」

 エドガルドの静かな声色の言葉に、私は驚いてこれ以上ないほど目を見開きました。

「な、なぜ……」

 エドガルドは視線を反らしましたが、一度きつく瞼を閉じると、意を決したように瞳を向けてきます。
 銀色の髪ははらりと肩から落ち、強い決意を放った金の瞳は輝いています。とても美しい男だと思いました。

「……貴方が好きなのです。この世で一番、大切なのです」

 その言葉に再び涙が滲むのがわかりました。
 私もずっとエドガルドが好きでした。小さい頃からずっとずっと大好きでした。
 けれどエドガルドの気持ちはわかりませんでした。それに女王の道しか示されなかった私は、七代貴族から王配おうはいを迎えなければいけませんでした。だから諦めた恋でした。
 それでも、ずっと、胸のうちにありました。

「わ、わたくし……」

 そう言いながらエドガルドに手を伸ばして、そうしてその華奢な手を見て止めました。この手はマヌエラのもの、たとえ中身が自分でも、エドガルドに触れて欲しくない、と浅ましいことを思ったのです。
 エドガルドは切なそうな表情をして、すっと視線を反らしました。私は慌てて、しかし次にかける言葉に迷いました。
 私も好きだ、と言ったら、きっとエドガルドは入れ替わりを解消することに、さらにやっきになるでしょう。すると罪は公にされません。もし公にしたとしても、私が牢に入ることで、エドガルドにさらなる苦痛を与えてしまうでしょう。
 私はどうしたら良いのかわからなくて、ぎゅっと目をつぶりました。そうして、どうか自分の体に戻って、と心の中で強く強く思いました。
 そうして私は体から血の気が失せて、目の前が真っ白になりました。
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