婚約者をとった妹妃と体が入れ替わりました~婚約者がやっていると思われていたお仕事、全て放棄いたしますわ~

つばめ

文字の大きさ
10 / 17

元の体に戻りましたわ


 瞼をゆっくりと持ち上げると、懐かしい薄い青色の天葢てんがいが見えました。起き上がると、慌てた様子で侍女じじょが傍にきました。
 しかし何も言わず、こちらの様子をうかがうように立っております。

「どうしたの?」

 いつもであれば、与えられた隣の部屋にいるのに、どうしたのでしょうか。

「い、いえ……お倒れになったのですが……ご気分はいかがでしょうか」

 恐る恐るという感じで言った侍女の倒れたという言葉に、わたくしは驚いて目を見開きます。そうしてマヌエラとは違う長い指が視界に入りました。

「て、手鏡を……」

 絞り出すような声で言うと、侍女は素早く手鏡を持ってきました。ひやりとした銀の柄を持ち、自分の顔を確認いたします。
 冷たい印象の顔にある緑青ろくしょうの瞳、それからやけに白い肌、そして薄い金色の髪。まぎれもなくバレンティアがおりました。確認するように肌に指をわせますと、手鏡の中の私も同じ動きをします。

「戻って……」

 目を見開きながらぽつりと漏らすと、控えめに扉を叩く音がしました。
 侍女はちらりと視線を向けて、それから私の瞳を見つめてきました。

「エドガルドきょうが、お目覚め次第にお会いしたいと……突然に倒れられたものですから、無理はなさらないほうが……意識が無い間に、お医者様にもみてもらいましたが、原因はわからないようですし」
「いえ、会います」

 まだ少し混乱していましたが、私は急いで言うと、ベッドから起き上がりました。陽が高いうちに倒れたからか、幸いドレスを着ておりましたし、すこし身仕度を整えるだけで隣の居間に向かいました。
 居間と寝室を結ぶ扉のすぐ傍に、監視をするために控えているのだろう、騎士がおりました。きっと先ほど扉を叩いたのは彼でしょう。
 居間に入るとエドガルドはすでに座っておりました。立ち上がろうとするのを、視線で制し、私もエドガルドの前に座ります。騎士は私が座るのを見届けると、寝室と繋がっているものとは別の扉を開け、廊下に出ました。

「バレンティア殿下ですか……」

 確認するようにエドガルドは聞きました。私は何度も頷きながら、口を開きます。

「ええ、ええ……私です。バレンティアです」

 嬉しい気持ちが込み上げて、笑顔が溢れます。エドガルドは心底とほっとした表情をしました。

「良かった……良かったですね」

 私は再び何度も頷きました。これで全てのことが上手く行くかもしれない、と一瞬思いました。

貴方マヌエラ殿下の体がいきなり倒れたので、急ぎ医者を呼びました。カジェタノ卿も慌てて来て……貴方から聞いていた状況と似ていたので、もしや、と思いこちらまで来たら、バレンティア殿下も倒れていると聞いて確信しました」
「そうだったのですね……」

 私は倒れる前の状況を思い出します。それから、好きだ、と言われたことも思い出し、顔が徐々に赤くなっていきました。
 私は金の瞳が輝く、エドガルドの美しい顔を見ました。この想いを伝えても良いのでしょうか。
 しかし罪を暴きマヌエラがいなくなれば、王の座につくのは私です。その時、たとえカジェタノがいなくなろうとも、王配おうはいの座は他の七代貴族が埋めるでしょう。
 私は唇を噛み締めました。王の座を捨てエドガルドの手を取りたい。けれどそうすればエドガルドも、今の地位を捨てねばならず、国に追われる身になるかもしれません。
 エドガルドは優秀だったからか、生家の寄親よりおやである伯爵家を差し置き、宰相の補佐として幼い頃から教育を施されておりました。エドガルドの父上は寄子よりことしての立場が悪くなるにも関わらず、彼を応援し支えてきました。
 二人きりで逃げれば、そんなエドガルドの生家にも迷惑をかけるでしょう。
 私は色々と考えてしまい、何を言ったら良いのか、再びわからなくなりました。入れ替わりが解消されても、結局、気持を素直に伝えることができません。

「必ず貴方をこの場所から救います」

 私が迷っていると、エドガルドは強い瞳で言いました。
 この場所とは、軟禁されている部屋のことでしょう。臆病な私に尽くしてくれるエドガルドに、胸が締め付けられました。
 私も正直に自分の気持ちを話そうかと口を開きかけると、廊下が騒がしくなりました。そして、突然、勢い良く扉が開きます。

「やはり! 戻っているわ!」

 部屋に入ってきたのは、先ほどまで自分だったマヌエラでした。若草色の瞳は嬉々ききとして輝いております。その後ろにはマヌエラに手を引かれながら、混乱しているカジェタノがおりました。

「言ったでしょう、カジェタノ!」

 マヌエラは嬉しそうにカジェタノを振り返りました。

「……いや、君の言ったことは全て信じるよ」
「お姉さまの姿だったときは信じてくれなかったじゃない!!」

 カジェタノの言葉にマヌエラは噴火したように怒り、瞳に涙が滲んでおりました。確かに愛する者が信じてくれなかったことは、とても悲しかったでしょう。

「貴方が信じてくれなかったせいで、私はずっとバレンティアの姿で軟禁されていたのよ!」

 マヌエラの叫びにカジェタノはたじたじのようでしたが、ふと私と目が合い、それからエドガルドを見て眉を寄せました。しばし黙っていましたが、徐々に目を見開き顔を歪めます。
 私はカジェタノの表情の変化を見て、もしかして私とエドガルドに、ダンドロ帝国と密通していることが発覚した、と気づいたのではと思いました。カジェタノとモンティージャ公爵はマヌエラの前では、気を抜いておりましたから。
 それは罪を公にする上で、とても不味いです。

「……二人で何を話していたのですか?」

 カジェタノは無表情になり、恐ろしい雰囲気を放ちながら言いました。

「カジェタノ? 私の話を……」

 態度が変わったカジェタノにすこし怯えながらも、怒りが収まっていないのか、マヌエラは話しかけます。しかしカジェタノは手で話を止めました。

「……以後、バレンティア殿下がどなたかと面会されるときは、部屋の中にも騎士をつけましょう」

 カジェタノは静かな声で言うと、自分の後ろに控えていた、生家から連れてきた子飼いの騎士を見ます。カジェタノの騎士は頷くと扉に向かいました。そうして扉の外にいた騎士に何事かを言っております。

「……貴方にその権限はないのでは」

 エドガルドが冷たい声色で言いますが、カジェタノは鼻で笑いました。

「これから許可を取りましょう。……それとも何か不都合でもおありですか。まさか、男女の恋、などという関係ではありませんでしょう?」

 カジェタノの見下げた瞳に、私は全身の血が煮え立つのを感じました。反論しようと口を開きかけますが、エドガルドが視線だけで制してきました。
 そんな私たちのやり取りを、カジャタノは面白くなさそうな顔で見ておりました。
感想 7

あなたにおすすめの小説

「お前は妹の身代わりにすぎなかった」と捨てられた養女——でも領民が選んだのは、血の繋がらない姉の方だった

歩人
ファンタジー
孤児のフィーネは伯爵家に引き取られた。 病弱な令嬢エーデルの「代役」として。社交も、領地管理も、使用人の采配も—— 全て「エーデル様」の名前で、完璧にこなしてきた。 十一年後。健康を取り戻したエーデルが屋敷に帰還した日、伯爵は言った。 「もう用済みだ、出ていけ」 フィーネは静かに屋敷を去った。 それから一月もしないうちに、領民たちが伯爵に詰め寄った。 「前のお嬢様を返してください」

病弱を演じていた性悪な姉は、仮病が原因で大変なことになってしまうようです

柚木ゆず
ファンタジー
 優秀で性格の良い妹と比較されるのが嫌で、比較をされなくなる上に心配をしてもらえるようになるから。大嫌いな妹を、召し使いのように扱き使えるから。一日中ゴロゴロできて、なんでも好きな物を買ってもらえるから。  ファデアリア男爵家の長女ジュリアはそんな理由で仮病を使い、可哀想な令嬢を演じて理想的な毎日を過ごしていました。  ですが、そんな幸せな日常は――。これまで彼女が吐いてきた嘘によって、一変してしまうことになるのでした。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

【完結済み】妹の婚約者に、恋をした

鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。 刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。 可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。 無事完結しました。

永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~

畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。

妹のことが好き過ぎて婚約破棄をしたいそうですが、後悔しても知りませんよ?

カミツドリ
ファンタジー
侯爵令嬢のフリージアは婚約者である第四王子殿下のボルドーに、彼女の妹のことが好きになったという理由で婚約破棄をされてしまう。 フリージアは逆らうことが出来ずに受け入れる以外に、選択肢はなかった。ただし最後に、「後悔しないでくださいね?」という言葉だけを残して去って行く……。

試験でカンニング犯にされた平民ですが、帝国文官試験で首席合格しました

あきくん☆ひろくん
恋愛
魔法学園の卒業試験で、私はカンニング犯に仕立て上げられた。 断罪してきたのは、かつて好意を寄せてくれていた高位貴族の子息。そしてその隣には、私を嫌う貴族令嬢が立っていた。 平民の私には弁明の余地もない。私は試験の順位を辞退し、その場を去ることになった。 ――だが。 私にはもう一つの試験がある。 それは、帝国でも屈指の難関といわれる帝国文官試験。 そして数日後。 その結果は――首席合格だった。 冤罪で断罪された平民が、帝国の文官として身を立てる物語。

妹は謝らない

青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。 手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。 気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。 「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。 わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。 「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう? 小説家になろうにも投稿しています。