婚約者をとった妹妃と体が入れ替わりました~婚約者がやっていると思われていたお仕事、全て放棄いたしますわ~

つばめ

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軟禁され監視されておりますわ

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 目の前の書翰紙しょかんしを見つめながら、わたくしは小さく息を吐き出しました。

「ご気分が優れませんか」

 気遣うような侍女の言葉に、小さく頭を振り、笑みを浮かべます。

「問題ないわ。……ただ何を書いてよいのかわからなくて」

 侍女は痛ましそうな顔をします。

「頭をお使いになるようでしたら、なにか甘いものをご用意します」
「お願いできるかしら」
「はい」

 侍女はうやうやしく礼をすると、隣の部屋に向かいました。
 私は文机に視線を戻し、筆をとりますが、やはり何を書いて良いのかわかりません。
 カジェタノが自身の騎士を付けると言ってから、文の内容まで見られるようになりました。ですから暗号のようにして、カジェタノが私たちの動きに気づいているかもしれない、と伝えたいのですが、なかなか内容が思いつきません。
 何日も悩んでおりますが、文の一通もまともに書くことができていません。この間にもカジェタノが悪事の証拠を消しているかもしれない、という不安ばかりが募ります。
 考え込んでいると、侍女が甘いものを運んできました。

「殿下……エドガルドきょうより文とお花が届いております」

 侍女が押してきた手車には、お茶と菓子、それから文と青い花も乗っておりました。
 私は驚いて目を見開きました。青い花は季節外れのため、入手するのが困難なのです。それなのに私の好きな花を、エドガルドが送ってくれたことに、胸が締め付けられました。
 眉を寄せながら、そっと文を取り、ぺーパーナイフで封を切ります。上質な書翰紙しょかんしつづられた文字は美しいです。
 内容は小さい頃に二人でよく訪れていた、またマヌエラになってからはお茶をしていた東屋の、青い花の庭園が取り潰されるかもしれない、というものでした。そうして最後には、必ず花だけでも救い出す、と書いてありました。
 私は最後の一文を見て、必ず貴方をこの場所から救います、とエドガルドに言われたことを思い出しました。胸が苦しくなって、紙を握り締めそうになり、慌てて文机の上に丁寧に置きました。
 私は侍女が窓辺に飾ってくれた青い花を見ながら、エドガルドのことを考えました。軟禁されてから、情報が遮断されているため、悪事のことと、エドガルドのことばかり考えています。

 私はどうすれば良かったのでしょうか。素直な気持ちを言えば、何も考えず、ただエドガルドと結ばれたいです。しかし私はザルガトの第一王女であり、後継者として育てられてきました。その立ち位置が素直になることを許しません。
 けれど本当はカジェタノと婚姻することは、心の底では受け入れられておりませんでした。ずっと考えないように、見ないふりをしていました。ですからカジェタノとの交流も必要最低限で、だからマヌエラと恋仲になったことも、婚約を破棄すると言われるまで気づきませんでした。
 自分の気持ちから目を反らし続け、勉学や公務ばかりしていた私が招いたのが、婚約破棄だったのかもしれません。

 私は瞼を閉じると、一つ息を吐き出しました。決して良い結果にならずとも、自分の気持ちと向きあい、そして正直にもがこうと思いました。そうすればたとえ上手くいかずとも、諦めた結果、なにかの歯車が狂ってしまった今よりは、ましだと思ったのです。
 まずは一番大切なエドガルドに、この気持ちを素直に言おうと思いました。それがお互いを苦しめることになっても、今ある気持ちだけは確かなのですから。
 私は決意を固めると、椅子から立ち上がり、そっと青い花の花弁を撫でました。エドガルドと触れ合うことができる日がくることを願いながら。





「バレンティア殿下、明日、謁見えっけんの間にお越しくださるよう、我が主から言伝ことづてたまわっております」

 目の前のカジェタノの騎士は、大げさなほど胸を張って言いました。机の上には書状が置いてあります。

「……部屋から出ても良い、ということでしょうか」
「明日だけは」

 騎士の冷たい声色に、私は眉を寄せました。
 明日、謁見の間にて何が行われるのでしょう。呼び出したのはカジェタノです。私は嫌な予感に胸が鳴り、不安が溢れそうになりました。
 いつか見たカジェタノの暗くよどんだ瞳が頭を過りました。

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