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元婚約者に呼び出されましたわ
しおりを挟む久しぶりに部屋の外に出て、暗い回廊を進み、謁見の間に入りました。謁見の間には、目の前に父、それから右脇にカジェタノとモンティージャ公爵、さらにマヌエラがおりました。そして左側には、宰相と裁判人、それからエドガルドがおりました。
エドガルドの美しい姿を見て、私の心臓はどくりと大きく波を打ちます。
他には数名の上位貴族と、王の家臣がおりました。
「久しいな、バレンティア」
まず王が私に声をかけました。私は王の前に進むと跪きました。
「はい、父上もお変わりなく」
挨拶をすると王は瞳を曇らせました。その瞳を見て、嫌な予感が増し、鼓動が早くなりました。
「陛下、進めてもよろしいですか」
カジェタノは一歩前に進み出ると、私を見下げながら、王に確認を取ります。王は無言で鷹揚に頷きました。
「バレンティア殿下、早速ですが……お呼び立てしたのは、貴方の罪を暴くためです」
私は目を見開きました。罪とは何でしょう。入れ替わっていたときに、自分はマヌエラだ、と主張していたことでしょうか。
「罪……?」
私の小さな呟きにカジェタノはもったいぶったように笑います。視線を移しますと、モンティージャ公爵とマヌエラも、嫌な笑みを浮かべていました。
「ええ……貴方がダントロ帝国と内通していた、という罪です」
謁見の間はざわりと揺れました。
私は驚いて固まってしまいました。まさか自分達の犯した罪を、私にすり替えるとは思いませんでした。私が軟禁されている間に、偽の証拠を揃えたのでしょうか。
「陛下、発言をお許しください」
すると左側から、よく通るエドガルドの声がしました。顔をそちらに向けると、力強い金の瞳のエドガルドと視線が合います。私は安心して肩の力を抜きました。
「許す」
王は再び鷹揚に頷きました。
「感謝いたします。……先ほどバレンティア殿下が内通しているとおっしゃっていましたが、こちらは逆にカジェタノ卿がダントロ帝国と繋がっていた証拠がございます。さらにモンティージャ公爵閣下とマヌエラ殿下も関わっていると思われます」
再び謁見の間がざわり、と揺れました。しかしあらかじめ予想していたのか、エドガルドに名を上げられた3人は、無表情で動じた様子はありません。
カジェタノは口の端をあげると、小首を傾げ両手を広げます。馬鹿にしたような仕草です。
「何か証拠でもおありで?」
エドガルドは冷たい視線で3人を見ながら口を開きました。
「間者とのやり取りを証言する者、さらに魔法による映像記憶があります。また、不明瞭な資産や、金銭の流れの偽造を証明する書類、裏帳簿もございます」
確実そうな証拠があるエドガルドに、ざわざわと動揺する声が聞こえました。
「……ほう、映像証拠ね。ここで見せて頂いても」
カジェタノは煽るように不敵に笑っています。余裕そうな態度に、やはり証拠を隠滅したのか、と私は胸がざわつきました。
エドガルドは無表情でしばらく黙っていましたが、一つ頷きました。
「ええ、わかりました」
エドガルド達は映像が記されている水晶を持ってくると、布が敷かれた台の上に置きました。映像を再生するのは黒い祭服を着た見守り人のようです。見守り人が水晶に手をかざすと、ぼうっと映像が謁見の間の広い壁に映ります。
そこには黒く長い外套を着たカジェタノと、間者が話をしている様子が映っておりました。遠いため話している内容はわかりませんが、いかにも怪しい雰囲気です。
「ふむ……私に見えなくもない」
カジェタノの言葉に私は眉を寄せました。遠目ではありますが、カジェタノのあの癖の強い巻き毛で本人だとわかります。
「それに音声もない。この者が間者であることや、内通の話をしていた証拠は?」
確かにこの映像だけでは、証拠にはとても弱いです。しかしこのときに何を話していたか、を証言してくれる者がおります。証言者はカジェタノと間者の近くに映っておりますし証拠として確実です。
「内容を証言してくれる者がおります」
「それはこの映像に映っている?」
カジェタノの言葉に、エドガルドは頷きました。するとカジェタノは今まで一番に嫌らしい、にやあという音がしそうな笑顔を見せました。
「ふむ……ところで、こちらにもバレンティア殿下が内通をしていた、ということを証言してくれる者がおりましてね」
話を変えたカジェタノに、みな戸惑いました。私も眉を寄せてしまいます。
「こちらに来てもらっています。さあ……」
エドガルドが後ろを振り返ると、謁見の間に一人の従僕が入ってきました。
私は目を見開きました。
「貴方はバレンティア殿下が間者と話しているのを聞いたのですよね?」
カジェタノの言葉に従僕は頷きました。
私は、なぜ、と問おうとして、しかし声が出てきません。あの従僕はカジェタノと間者の会話を証言してくれるはずの者でした。
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