婚約者をとった妹妃と体が入れ替わりました~婚約者がやっていると思われていたお仕事、全て放棄いたしますわ~

つばめ

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幸せになる努力をし続けますわ

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※※※



「美しいですね」

 優雅に微笑んだエドガルドは、青い花を優しく摘まんで言いました。美しいエドガルドの笑顔に見惚れていたわたくしは、そっと視線を青い花に移しました。
 私は椅子に座っているため、間近でみることはできませんが、目の前には一面、青い花が咲き乱れております。

「ええ、今年も満開に咲きましたね」

 とても美しい光景に、私は素直に同意しました。

「……来年には3人で見れますかね」

 再び視線をエドガルドに戻し、私は微笑みながら、大きなお腹を撫でました。

「ええ……きっと」

 私の言葉にエドガルドは嬉しそうに笑いました。
 エドガルドの笑顔に改めて幸せを感じながら、私は与えられた屋敷を見ました。
 カジェタノ達が捕らえられてから、宰相の娘を二人とも娶った王は、二年後、無事に男児をもうけることができました。さらに数年後、また男児が二人産まれたので、私は晴れて後継の座から退くことになりました。
 そして宰相の養子となったエドガルドと、無事に婚姻を果たしたのです。
 まあ養子といっても、宰相は王の子であり孫の第二王子に、最終的には後を継がせるつもりのようです。なのでエドガルドは一代限りの侯爵家の当主となり、子爵の位も継ぐことになっております。
 私は今までのことを思い出し、ふと、現在ザルガトが置かれている状況が頭を過りました。

「……また無理なことを帝国は言ってきているのですか」

 私の問いにエドガルドは眉を寄せました。
 依然としてダンドロ帝国の脅威は去っておらず、むしろ近づいております。ダンドロ帝国とザルガトの間にある二つの国の内、一つが落とされたのです。
 私は守るように自身のお腹を抱えました。そんな私の手を、近づいてきたエドガルドの、長く美しい指が包んでくれます。

「必ず守ります。何があっても」

 エドガルドの力強い言葉に、私は肩の力を抜いて微笑みました。きっとエドガルドであれば守ってくれるだろう、という確認がありました。

「はい……でもエドガルドとこの子を私も守ります……幸せにします」
「貴方は昔から頼もしいですね……それに努力家だ」

 エドガルドの言葉に、とても嬉しくなりました。エドガルドは小さい頃から、私が努力すると褒めてくれたものです。

「……エドガルドも努力家ですからね。きっとこの子も努力家になるでしょう」

 エドガルドは頷くと、優雅に微笑みました。

「努力しても上手くいかないこともあるけど、でも努力しないと何もなすことはできない……私も子に教えますよ」

 エドガルドが父から教えられ、そして小さい頃に良く口にしていた言葉です。
 その言葉を受けて、私は勉学も公務も、努力をし続けました。結果的には無駄になってしまったけれど、しかし一生懸命にやっていたからこそ、カジェタノの内通を知ることができたとも思っています。

「……ええ、私も幸せになる努力を、続けないといけませんね」

 エドガルドは目を見開きました。

「そうですね……努力は自分の、それから愛する人の幸せのためにするものですね」

 私は笑顔で頷きました。過去の自分は、きっと努力の方向性を間違えてしまったのでしょう。けれど間違いをしなければ、正解が分からなかったかもしれません。

「ええ、幸せの努力をするよう、教えましょうね」

 エドガルドと私は一つ頷くと、お互いの瞳を見つめて微笑み合いました。



※※※



 薄い金色の髪に濃いアンバーの瞳の少女が、青い花が咲き乱れる草原に立っている。隣には母親と思われる美しい女性が並んでいた。
 青い花を撫でいた少女は顔を上げると、美しく微笑む母親を見上げた。しかし少女は眉を寄せ、母親の印象的な金の瞳を、穴があきそうなほどに見る。

「どうしたの?」

 先ほどまで嬉しそうに駆け回っていた少女の変化に、母親は優しく理由を聞いた。

「どうしてわたしの目は、お母さんとちがって、きれいな金じゃないの?」

 母親は目を見開き、しかし再び美しく微笑んだ。

「お母さんも小さい頃は同じ色の瞳だったわ。大丈夫、成長すると色が薄くなるの」
「そうなんだ!」

 少女は嬉しそうに飛び跳ねると、母親の足に抱き着いた。そうして青い花以外は何もない、広い草原を見つめる。

「ねえねえ、お母さんのおばあちゃんは、ここにいたのよね」
「ええ、ここにはザルガトの王宮があったのよ。おばあちゃんはね、お姫様だったの」
「おひめさま……」

 お姫様という素敵な言葉に、少女は顔をほころばせた。

「そう、あなたと同じバレンティアって名前だったの。でもザルガトは帝国に支配されて、お姫様じゃなくなってしまったけれど」
「ええ、ざんねんだね……つかまっちゃったの?」
「そうね……でもおばあちゃんは昔からの偉い貴族に嫁いでいなかったから、帝国に痛いことはされなかったの。しかもおばあちゃんの旦那さんは、帝国に実力が認められて、敵対国だったけど偉い地位につけたのよ。だから、今、ザルガト王族の血を引いているのは私と貴方だけ」
「ううん……? 私のおうちはふつうだよね?」
「ふふ……帝国は圧倒的な王を失って……ええと……すごい王様が亡くなってから分裂して今はないの。それで貴族の時代は終わって、みんな一緒になったのよ」
「良くわかんない……でもおひめさまじゃなくなった、ってことだよね。ざんねんだなあ」

 少女のとても残念そうな表情に、母親は思わず笑ってしまう。

「……でもね、本当に好きな人と結ばれなくて、苦しんでいたお貴族様もたくさんいたのよ。あとは好きな人には別に好きな人がいて、でも貴族だから自分と結婚する……それに耐えられない人もいたの」
「うんん、もっと難しい」
「ふふ……きっといつか、わかる時がくるわ」

 母親は屈むと、少女の頭を撫で、抱きしめた。

「好きな人同士が結ばれたから、私と貴方がここにいるのよ」

 少女は目を丸くしたが、大好きな母親の温もりに笑顔を浮かべた。

「お母さんと一緒にいれないのはつらいから……ちょっとだけわかるかも」

 母親は少女の言葉に抱きしめる力を強めた。

「バレンティアと一緒にいること……幸せにすることが私の幸せだわ」

 母親は体を離し、金の瞳を細める。

「我が家にずっと続いている言葉があるの」
「ずっとつづいてる?」

 少女は濃いアンバーの瞳を、くりくりと丸くした。

「ええ……自分と大切な人のために、幸せになる努力をしなさいって」
「しあわせになるどりょく……」

 母親に言われた言葉を、少女は噛み締めるように呟いた。
 この場所にずっと咲いている青い花が、優しい風に吹かれ、2人の周りで静かに揺れていた。


 完
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感想 7

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みんなの感想(7件)

ちゃんこ
2022.03.15 ちゃんこ

単純なザマァで終わらない深い締めに、ため息が出ました。
素敵なお話しをありがとうございました。

2022.03.16 つばめ

深い締めと言ってもらえて、とても嬉しいです。
こちらこそ素敵なご感想をありがとうございました。

解除
Conanlove
2022.02.16 Conanlove

面白くて一気に読んでしまいました。楽しかったです!なんか大河ドラマの様ですね~最後の親子の語らいがしみじみと感じられました!素晴らしい作品ですね~😄

2022.02.17 つばめ

面白い、楽しかった、素晴らしいとのお言葉、すごく嬉しいです😂さらに大河ドラマのようだなんて…!書いて良かったなあと思います。
最後は悩んで何度か書き直したので、褒めていただけて安心しました!

素晴らしいご感想、本当にありがとうございます。今後、書くパワーをいただけました😊

解除
2021.10.31 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2021.10.31 つばめ

ご感想本当にありがとうございます。
2人が結ばれて良かった、と言ってもらえ嬉しいです。

最後はおっしゃる通りのざまぁを国王や宰相は受けております。
王族や貴族が血にこだわって優秀な人材を逃してしまった末路と言えるかと思います。
また帝国の皇帝も血にこだわっており、しかし後継の問題で揉めて無くなってしまった、というモンゴル帝国と一緒の末路にしました。
ちなみに栄枯盛衰というお言葉を始めて聞いたので調べました。新しい知識をありがとうございます…!

ラストシーンは何度か書き直したので、素敵な読後感、と言っていただけとても嬉しいです。
こちらこそ深くお読みいただき、重ねてお礼を申し上げます。

解除

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