17 / 17
幸せになる努力をし続けますわ
しおりを挟む※※※
「美しいですね」
優雅に微笑んだエドガルドは、青い花を優しく摘まんで言いました。美しいエドガルドの笑顔に見惚れていた私は、そっと視線を青い花に移しました。
私は椅子に座っているため、間近でみることはできませんが、目の前には一面、青い花が咲き乱れております。
「ええ、今年も満開に咲きましたね」
とても美しい光景に、私は素直に同意しました。
「……来年には3人で見れますかね」
再び視線をエドガルドに戻し、私は微笑みながら、大きなお腹を撫でました。
「ええ……きっと」
私の言葉にエドガルドは嬉しそうに笑いました。
エドガルドの笑顔に改めて幸せを感じながら、私は与えられた屋敷を見ました。
カジェタノ達が捕らえられてから、宰相の娘を二人とも娶った王は、二年後、無事に男児をもうけることができました。さらに数年後、また男児が二人産まれたので、私は晴れて後継の座から退くことになりました。
そして宰相の養子となったエドガルドと、無事に婚姻を果たしたのです。
まあ養子といっても、宰相は王の子であり孫の第二王子に、最終的には後を継がせるつもりのようです。なのでエドガルドは一代限りの侯爵家の当主となり、子爵の位も継ぐことになっております。
私は今までのことを思い出し、ふと、現在ザルガトが置かれている状況が頭を過りました。
「……また無理なことを帝国は言ってきているのですか」
私の問いにエドガルドは眉を寄せました。
依然としてダンドロ帝国の脅威は去っておらず、むしろ近づいております。ダンドロ帝国とザルガトの間にある二つの国の内、一つが落とされたのです。
私は守るように自身のお腹を抱えました。そんな私の手を、近づいてきたエドガルドの、長く美しい指が包んでくれます。
「必ず守ります。何があっても」
エドガルドの力強い言葉に、私は肩の力を抜いて微笑みました。きっとエドガルドであれば守ってくれるだろう、という確認がありました。
「はい……でもエドガルドとこの子を私も守ります……幸せにします」
「貴方は昔から頼もしいですね……それに努力家だ」
エドガルドの言葉に、とても嬉しくなりました。エドガルドは小さい頃から、私が努力すると褒めてくれたものです。
「……エドガルドも努力家ですからね。きっとこの子も努力家になるでしょう」
エドガルドは頷くと、優雅に微笑みました。
「努力しても上手くいかないこともあるけど、でも努力しないと何もなすことはできない……私も子に教えますよ」
エドガルドが父から教えられ、そして小さい頃に良く口にしていた言葉です。
その言葉を受けて、私は勉学も公務も、努力をし続けました。結果的には無駄になってしまったけれど、しかし一生懸命にやっていたからこそ、カジェタノの内通を知ることができたとも思っています。
「……ええ、私も幸せになる努力を、続けないといけませんね」
エドガルドは目を見開きました。
「そうですね……努力は自分の、それから愛する人の幸せのためにするものですね」
私は笑顔で頷きました。過去の自分は、きっと努力の方向性を間違えてしまったのでしょう。けれど間違いをしなければ、正解が分からなかったかもしれません。
「ええ、幸せの努力をするよう、教えましょうね」
エドガルドと私は一つ頷くと、お互いの瞳を見つめて微笑み合いました。
※※※
薄い金色の髪に濃いアンバーの瞳の少女が、青い花が咲き乱れる草原に立っている。隣には母親と思われる美しい女性が並んでいた。
青い花を撫でいた少女は顔を上げると、美しく微笑む母親を見上げた。しかし少女は眉を寄せ、母親の印象的な金の瞳を、穴があきそうなほどに見る。
「どうしたの?」
先ほどまで嬉しそうに駆け回っていた少女の変化に、母親は優しく理由を聞いた。
「どうしてわたしの目は、お母さんとちがって、きれいな金じゃないの?」
母親は目を見開き、しかし再び美しく微笑んだ。
「お母さんも小さい頃は同じ色の瞳だったわ。大丈夫、成長すると色が薄くなるの」
「そうなんだ!」
少女は嬉しそうに飛び跳ねると、母親の足に抱き着いた。そうして青い花以外は何もない、広い草原を見つめる。
「ねえねえ、お母さんのおばあちゃんは、ここにいたのよね」
「ええ、ここにはザルガトの王宮があったのよ。おばあちゃんはね、お姫様だったの」
「おひめさま……」
お姫様という素敵な言葉に、少女は顔を綻ばせた。
「そう、あなたと同じバレンティアって名前だったの。でもザルガトは帝国に支配されて、お姫様じゃなくなってしまったけれど」
「ええ、ざんねんだね……つかまっちゃったの?」
「そうね……でもおばあちゃんは昔からの偉い貴族に嫁いでいなかったから、帝国に痛いことはされなかったの。しかもおばあちゃんの旦那さんは、帝国に実力が認められて、敵対国だったけど偉い地位につけたのよ。だから、今、ザルガト王族の血を引いているのは私と貴方だけ」
「ううん……? 私のおうちはふつうだよね?」
「ふふ……帝国は圧倒的な王を失って……ええと……すごい王様が亡くなってから分裂して今はないの。それで貴族の時代は終わって、みんな一緒になったのよ」
「良くわかんない……でもおひめさまじゃなくなった、ってことだよね。ざんねんだなあ」
少女のとても残念そうな表情に、母親は思わず笑ってしまう。
「……でもね、本当に好きな人と結ばれなくて、苦しんでいたお貴族様もたくさんいたのよ。あとは好きな人には別に好きな人がいて、でも貴族だから自分と結婚する……それに耐えられない人もいたの」
「うんん、もっと難しい」
「ふふ……きっといつか、わかる時がくるわ」
母親は屈むと、少女の頭を撫で、抱きしめた。
「好きな人同士が結ばれたから、私と貴方がここにいるのよ」
少女は目を丸くしたが、大好きな母親の温もりに笑顔を浮かべた。
「お母さんと一緒にいれないのはつらいから……ちょっとだけわかるかも」
母親は少女の言葉に抱きしめる力を強めた。
「バレンティアと一緒にいること……幸せにすることが私の幸せだわ」
母親は体を離し、金の瞳を細める。
「我が家にずっと続いている言葉があるの」
「ずっとつづいてる?」
少女は濃いアンバーの瞳を、くりくりと丸くした。
「ええ……自分と大切な人のために、幸せになる努力をしなさいって」
「しあわせになるどりょく……」
母親に言われた言葉を、少女は噛み締めるように呟いた。
この場所にずっと咲いている青い花が、優しい風に吹かれ、2人の周りで静かに揺れていた。
完
16
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(7件)
あなたにおすすめの小説
妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます
tartan321
恋愛
最後の結末は??????
本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
reva
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
妹のせいで婚約破棄になりました。が、今や妹は金をせびり、元婚約者が復縁を迫ります。
百谷シカ
恋愛
妹イアサントは王子と婚約している身でありながら騎士と駆け落ちした。
おかげでドルイユ伯爵家は王侯貴族から無視され、孤立無援。
「ふしだらで浅はかな血筋の女など、息子に相応しくない!」
姉の私も煽りをうけ、ルベーグ伯爵家から婚約破棄を言い渡された。
愛するジェルマンは駆け落ちしようと言ってくれた。
でも、妹の不祥事があった後で、私まで駆け落ちなんてできない。
「ずっと愛しているよ、バルバラ。君と結ばれないなら僕は……!」
祖父母と両親を相次いで亡くし、遺された私は爵位を継いだ。
若い女伯爵の統治する没落寸前のドルイユを救ってくれたのは、
私が冤罪から助けた貿易商の青年カジミール・デュモン。
「あなたは命の恩人です。俺は一生、あなたの犬ですよ」
時は経ち、大商人となったデュモンと私は美しい友情を築いていた。
海の交易権を握ったドルイユ伯爵家は、再び社交界に返り咲いた。
そして、婚期を逃したはずの私に、求婚が舞い込んだ。
「強く美しく気高いレディ・ドルイユ。私の妻になってほしい」
ラファラン伯爵オーブリー・ルノー。
彼の求婚以来、デュモンの様子が少しおかしい。
そんな折、手紙が届いた。
今ではルベーグ伯爵となった元婚約者、ジェルマン・ジリベールから。
「会いたい、ですって……?」
=======================================
(他「エブリスタ」様に投稿)
【完結】華麗に婚約破棄されましょう。~卒業式典の出来事が小さな国の価値観を変えました~
ゆうぎり
恋愛
幼い頃姉の卒業式典で見た婚約破棄。
「かしこまりました」
と綺麗なカーテシーを披露して去って行った女性。
その出来事は私だけではなくこの小さな国の価値観を変えた。
※ゆるゆる設定です。
※頭空っぽにして、軽い感じで読み流して下さい。
※Wヒロイン、オムニバス風
今さら泣きついても遅いので、どうかお静かに。
reva
恋愛
「平民のくせに」「トロくて邪魔だ」──そう言われ続けてきた王宮の雑用係。地味で目立たない私のことなんて、誰も気にかけなかった。
特に伯爵令嬢のルナは、私の幸せを邪魔することばかり考えていた。
けれど、ある夜、怪我をした青年を助けたことで、私の運命は大きく動き出す。
彼の正体は、なんとこの国の若き国王陛下!
「君は私の光だ」と、陛下は私を誰よりも大切にしてくれる。
私を虐げ、利用した貴族たちは、今、悔し涙を流している。
ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。
ねお
恋愛
ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。
そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。
「そんなこと、私はしておりません!」
そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。
そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。
そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。
乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……
三葉 空
恋愛
「ごめん、シアラ。婚約破棄ってことで良いかな?」
ヘラヘラと情けない顔で言われる私は、公爵令嬢のシアラ・マークレイと申します。そして、私に婚約破棄を言い渡すのはこの国の王太子、ホリミック・ストラティス様です。
何でも話を聞く所によると、伯爵令嬢のマミ・ミューズレイに首ったけになってしまったそうな。お気持ちは分かります。あの女の乳のデカさは有名ですから。
えっ? もう既に男女の事を終えて、子供も出来てしまったと? 本当は後で国王と王妃が直々に詫びに来てくれるのだけど、手っ取り早く自分の口から伝えてしまいたかったですって? 本当に、自分勝手、ワガママなお方ですね。
正直、そちらから頼んで来ておいて、そんな一方的に婚約破棄を言い渡されたこと自体は腹が立ちますが、あなたという男に一切の未練はありません。なぜなら、あまりにもバカだから。
どうぞ、バカ同士でせいぜい幸せになって下さい。私は特に復讐するつもりはありませんから……と思っていたら、元王太子で、そのバカ王太子よりも有能なお兄様がご帰還されて、私を気に入って下さって……何だか、復讐できちゃいそうなんですけど?
甘そうな話は甘くない
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」
言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。
「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」
「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」
先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。
彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。
だけど顔は普通。
10人に1人くらいは見かける顔である。
そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。
前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。
そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。
「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」
彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。
(漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう)
この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。
カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
単純なザマァで終わらない深い締めに、ため息が出ました。
素敵なお話しをありがとうございました。
深い締めと言ってもらえて、とても嬉しいです。
こちらこそ素敵なご感想をありがとうございました。
面白くて一気に読んでしまいました。楽しかったです!なんか大河ドラマの様ですね~最後の親子の語らいがしみじみと感じられました!素晴らしい作品ですね~😄
面白い、楽しかった、素晴らしいとのお言葉、すごく嬉しいです😂さらに大河ドラマのようだなんて…!書いて良かったなあと思います。
最後は悩んで何度か書き直したので、褒めていただけて安心しました!
素晴らしいご感想、本当にありがとうございます。今後、書くパワーをいただけました😊
退会済ユーザのコメントです
ご感想本当にありがとうございます。
2人が結ばれて良かった、と言ってもらえ嬉しいです。
最後はおっしゃる通りのざまぁを国王や宰相は受けております。
王族や貴族が血にこだわって優秀な人材を逃してしまった末路と言えるかと思います。
また帝国の皇帝も血にこだわっており、しかし後継の問題で揉めて無くなってしまった、というモンゴル帝国と一緒の末路にしました。
ちなみに栄枯盛衰というお言葉を始めて聞いたので調べました。新しい知識をありがとうございます…!
ラストシーンは何度か書き直したので、素敵な読後感、と言っていただけとても嬉しいです。
こちらこそ深くお読みいただき、重ねてお礼を申し上げます。