シスコンリーマン、魔王の娘になる

石田 ゆうき

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第2章 お城の外へ。常識を知る

狐たち

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 ファロンの魔法で、たくさんの狐があらわれた。
 黄色、白、黒。毛色はさまざまだが、みなフワフワでかわいらしい。

 同じイヌ科でも、狐は人に懐かないと聞いたことがある。
 けど魔法で呼ばれたせいか、この狐たちは人懐っこい。近寄っても逃げないし、体を撫でても嫌がらなかった。

「きゃーん」
「そうなの。あっちに? そっかー。君は? うんうん、森の奥に──」

 ファロンは、なにやら狐と話しあってる。
 オレにはただの鳴き声にしか聞こえないのだが、ファロンの耳には意味のある言葉として届いているようだった。

 ファロンの情報収集を待つ間、オレはひたすらに狐たちを撫でまくっていた。
 それぞれ触れた感触が違うし、反応も微妙に違う。撫でられて喜ぶ狐もいれば、今ご主人様に報告中なんですけど、と言いたげな狐もいて面白い。

 ふと、やかましい鳴き声の中で、静かにしている狐が目についた。
 近づいてみると、後ろ足の先っぽが無い。怪我したばかりなのか、足から赤い血が滴り落ちていた。

「治してやるから、抵抗してはならぬぞ」

 そう言って、狐を抱き上げる。
 オレの言葉がわかるのかどうか。その黄色い狐は、おとなしくしていた。

 後ろ足をにぎって、治療魔法をかける。
 すると、すぐに肉が盛り上がり、きれいに足が治っていた。
 他人に治療魔法をかけるのは初めてだが、うまくいったようだった。

 ケガが治った狐は、きゅーんきゅーんと鳴きながらオレの手を舐めてきた。
 オレも、狐のふわふわな毛を撫でてやる。

「カイは狐好きなの?」
「どうじゃろ。実際に見るのは初めてだからの。まあ動物全般好きではあるな」

 都会で暮らしていると、野生の狐を目にする機会などない。
 でも犬も猫も好きだし、狐もたぶん嫌いではない。じっさい目の前にいる、色とりどりの毛玉はかわいいし。

「そっかー。その子を助けてくれてありがと。カイは優しいね」

「それもどうじゃろ。それほど優しくもないと思うぞ。それと、わらわの名はディニッサじゃ。少なくとも外ではそう呼ぶがよい」

 ファロンはうなずくと、笑顔を見せてくれた。


 * * * * *


「ノランの居場所わかったよー。近くの村で休んでるみたい。この黒い子が案内してくれるって」

 しばらくファロンと狐たちの会話が続いた後で、ようやく情報が手に入った。
 案内人もついでにゲットできたし、すぐにノランたちと合流できるだろう。

「おお、やったの!」

 浮かれるオレと反対に、ファロンは真剣な顔になっていた。
 オレの肩に乗っている狐を撫でながら、口を開く。

「この子、魔物に噛まれてケガしたみたい。黒くて大きい犬って言っているから、たぶんヘルハウンドかなー。ここからそんなに遠くないところだから気をつけて」

「魔物か。急いで討伐隊と合流したほうがよさそうじゃの……」

 オレたちは、村へと急ぐことにした。


 * * * * *


 黒い狐が先導し、足を怪我していた小さい狐はオレの肩に。
 その他の狐たちは、すでにそばにはいない。散開して周囲の偵察をしてくれているらしい。

 偵察のかいあってか、魔物にも出くわさず、無事村にたどりつけたのだった。

 森にぽっかり空いた場所に、村はあった。
 周辺に畑などがあるものの、その規模は小さい。どう見ても裕福とは思えない、さびれた村だった。

 村は、粗末な木の柵で囲われている。
 あれでいったい何が防げるのか、疑問がわいてくる。少なくとも、魔物には効果がないだろう。

 柵の外には、20人ほどのエルフが集まっていた。
 ほとんどの者が弓を背負っている。腰に剣も帯びているし、農民には見えない。

 討伐隊だ。ちょうど出発するところのようだった。
 ……危なかった。狐の案内がなかったら、行き違いになっていただろう。

 オレが近づくと、彼らの視線が集まった。
 緊張が漂っていて、一見して歓迎していないことがわかる。

 さてどうだろう。話し合いはうまくいくかな……。
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