シスコンリーマン、魔王の娘になる

石田 ゆうき

文字の大きさ
54 / 148
第2章 お城の外へ。常識を知る

凱旋

しおりを挟む
 ノランたちと合流して、ルオフィキシラリアの街に戻る。
 血は洗い流したし、全員新しい服に着替えた。なかなか良い感じだ。

 兵士たちはお揃い服で統一感があるし、魔族たちは綺羅びやかな服をまとった。ヘルハウンドたちだって、赤い布切れで飾り立ててある。急ごしらえにしては、悪くない衣装が揃えられたと言っていい。

 しばらくすると、街が見えてきた。
 城壁の外に多くの人が集まっている。外壁のさらに外側には、貧民が住むボロ小屋が軒を連ねている。だが今集まっているのは、スラムの住民ではないようだ。

「ノラン、そなたなにかやったかの?」
「近くの村や町にも触れを。お気に召しませんか」

 宣伝効果を高めるために、より広い範囲に情報を回してくれたようだ。
 ノランは武官の割に、察しもいいし手回しも良い。将来的には、宰相のような仕事をまかせてもいいかもしれない。

「いや、よくやった。みな、予定より早いが隊列を組め」

 ノランを先頭にして、きっちりと整列する。
 彼も配下も、歴戦の猛者たちらしくキビキビと動いた。

 オレとファロン以外が徒歩なのが、少し残念だ。
 馬にでも乗っていたほうがカッコよかっただろうに。いちおうヘルハウンドに乗らないかと勧めてみたのだが、みんなに断られたのだった。

 わぁぁぁ!

 住民たちから歓声が上がった。オレたちに気づいたらしい。
 集まった人も多いし、かなり盛り上がっている。水浴びに時間がかかりすぎてクナーに叱られたが、遅れたくらいでちょうどよかったのだ。

 門に近づくにつれ、人々の顔もはっきり見えるようになってきた。
 ノランの説明がうまくいったようで、シロを見ても怯える様子はない。


 * * * * *


 門を通りぬけ、城に向かって行進する。
 オレはシロの上から街の人々に手をふった。そのたびに大きな歓声があがる。

 なんだかお祭りみたいだ。
 よく見ると、なにか食べ物を売って歩いている抜け目のない連中もいる。

 ──大通りを進み、中央広場まで来たところで行進を止めた。
 人々の熱狂が高まるばかりで、このまま解散させるのもどうかと思ったのだ。

「みなのもの、静まれ」

 魔法で強化した声で呼びかける。
 少しづつ歓声が低くなり、やがてあたりは静寂に包まれた。
 オレは、ゆっくりと人々を見回した。

「よく集まった、わが民よ。まず、先王が没してより9年もの無為をわびよう」

 いったん言葉を止めて様子をみる。
 すこしざわめいているが、騒ぎ出す者はいない。

「だが今日より先は、そなたらが誇れる主たることを誓う。わらわは魔狼フェンリルを降して、その力をしめした──」

「グォォオォォ!」

 突然シロが吠えた。
 住民に恐慌が走り、悲鳴が上がる。近くにいた者が、あわてて逃げ出そうとするが、密集した人混みに身動きがとれない。

 いきなりなんだ、シロが野生の本性をあらわしたのか……!?
 一瞬オレも緊張したが、シロが何かをする気配はない。咆哮のあと、何事もなかったように元の姿勢に戻った。

「シロ、伏せ! おとなしくしていよ!」
「ウォフ……」

 オレが厳しい口調でたしなめると、シロは叱られた子供のように小さくなった。
 ……なんとなく今のは、魔狼フェンリルという単語に反応しただけのような気がする。自分の紹介がされているとでも勘違いしたか?

 シロの咆哮に、住民はパニックをおこす寸前だった。
 けれども、オレがシロをおとなしくさせたことで、みな安心したようだった。

 シロには驚かされたが、住民へのパフォーマンスとしては、なかなか良かったかもしれない。おそろしい魔物を完全に御している、と印象付けられたはずだ。

「このように、強大なフェンリルでさえ、わらわに従う。そなたらも安んじてわらわについてくるがよい。栄光の日々をそなたらに与えよう!」

「ディニッサ様!!」「ディニッサ様!!」「ディニッサ様!!」

 大地を揺らすような、今日一番の歓声が群衆からあがった。
 ヘルハウンドたちが、逆に怯えるほどの大歓声だ。

 今日この日、トゥーヌルの時代が終わった。
 ──そして、ディニッサの時代が始まったのだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

処理中です...