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第1章 異世界へ。現状を知る
知らない部屋、知らない姿
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オレは、見知らぬ部屋に倒れていた。
最後に掃除したのはいつなのやら、冷たい床にはびっしりとホコリが積もっていた。
そうだ、陽菜は!?
すぐに妹の異変を思い出し、勢いよく立ち上がる。
しかしなぜかバランスをくずし、後ろに倒れてしまった。床に積もっていたホコリが盛大に宙を舞う。
「いってぇ~」
そう吐き捨てたオレは、心臓が止まるような思いを味わった。
なぜなら、耳に聞こえた声が自分のものではなかったからだ。
それはまるで、幼い女の子のような高い声だったのだ。
「落ち着け。とりあえず落ち着こう」
オレは尻餅をついたままの姿勢で、自分の姿を確認してみた。
手が小さい。長い爪が綺麗に手入れされている。おまけに左手の人差し指には、高そうな赤い宝石の指輪がはまっていた。
あまりのわけのわからなさに、思わず苦笑がもれる。
ため息をつきながら、ゆっくりと立ち上がった。
地面が近い。50cmは身長が縮んでいそうだ。
「さっきコケたのは、背が低すぎていつもと勝手が違ったせいか……」
いい加減なれてきた可愛らしい声でつぶやく。
あたりを見回すと、そこは広い部屋だった。
壁も天井も黒く、やや薄暗い。天井についている宝石のようなものが、ぼんやりとした光であたりを照らしていた。
部屋には雑多な物がおかれている。
剣、盾、鎧などの武具。壷、絵、彫像などの美術品。
骨董品に疎いオレでも一目で高価な品々だとわかるような逸品ぞろいだ。
ただ、部屋の広さにくらべると数が少ない。壁に取り付けられた立派な棚にも空きが目立つ。
「なんか、在庫調整に失敗した倉庫みたいだな……」
部屋を調べているうちに巨大な鏡を見つけた。
あわてて駆け寄る。
「……!」
姿見には、可愛らしいという言葉では足りないような美少女が映っていた。
輝くような銀色の髪、大きな金色の瞳、雪の妖精を思わせる透き通る白い肌。
間違いなく、今まで見た中で一番綺麗な女の子だ。
テレビに出るアイドルなんかより陽菜の方が断然かわいい。と、ふだんから公言しているオレでも、この少女より妹が上だとは言い張れない。
歳は小学校の高学年くらいだろうか。
まだ幼いが、成長すれば多くの男が取り合うような美女になるだろう。
また、着ている服も、その外見にふさわしく特別なものだった。
表着には、前が大きく開いたローブ。そのローブには、金銀のモール、レース、刺繍、リボンがいたるところ配され、さらに左肩には白く大きな花飾りがつけられていた。
「どこのお姫様だよ、こりゃ……」
服装にあきれたのは事実だが、ここまでは予想の範疇だった。
自分が女の子になっているだろうことは、声でわかっていたから。
だが予想外だったこともある。
まず、耳の形がおかしい。大きさは普通だが、先がとがった形をしていた。
さらに腰のあたりからは、コウモリのような黒い羽が一対生えていたのだ。
ためしに触ると、温かく、すこしくすぐったい感じがした。
さらに、意識すると二枚の羽が可愛らしくピコピコと動いたのだった。
「……これ、どう見ても人間じゃねーぞ。なんなんだよ、いったい」
オレは頭を抱えてうずくまった。
* * * * *
ドンッ、ドンドン!
しばらく放心状態だったオレを、扉を叩く音が現実にひきもどした。
「姫様! 中にいらっしゃるならドアをあけてくださいっ」
つづいて、若い女の声が聞こえてくる。
彼女は切羽詰った様子で、何度も呼びかけている。
少し迷ったのち、扉に向かった。
見たところ部屋に出口は一つしかない。ここに居続ける意味もないだろう。
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ!
オレが歩くあいだも、扉を叩く音がどんどん激しくなっていく。
なんか怖いな。一瞬ひるんだが、意を決してドアを引く。
ほんの少し隙間ができた時点で、扉は強引に外から押し開けられた。
同時に何かが、オレにぶつかってくる。
……なにが起きた?
気づくとオレは、だれかに押し倒され、仰向けに寝そべっていた。上に乗っている人に両腕ごと背中まで抱きしめられていて、身動き一つできない。
「姫様は! 姫様は! 姫様は!」
オレを押さえ込んでいる女性は、壊れた機械のようにおなじ言葉を繰り返していた。やわらかい胸が押し当てられ、クチナシの花のような甘い香りが鼻腔に広がった。だが、それを楽しむ余裕などまったくない。
オレを抱きしめている腕に、どんどん力が加わっていっているのだ。
骨がきしみ、息が苦しくなる。
や、ヤバイ、死ぬ、これ、マジで殺されちまう……!
なんだか、だんだん気分がよくなってきた。
よくみたら、まわり一面、花畑、じゃ、ないか……。
* * * * *
ふいに、体をしめつける力がゆるんだ。
命の危険からは脱したものの、頭がくらくらして考えがまとまらない。
「姫様は私を不安で殺すおつもりですか。半日も連絡しないなんて!」
どっちかというと、オレの方がいま殺されかかったんですが!
そう思ったが口には出さなかった。だって、この人はなんかヤバイ。
「まあ姫様! 御髪がホコリだらけじゃないですか」
それは、あなたが汚い床に押し倒したせいですよね。
そう思ったが、やっぱり口にはださない。こわいから。
すばやく近づいてきた女が、オレの背中とひざ裏に手を差し入れた。
そのまま軽々と抱き上げる。
……いわゆるお姫様だっこ状態だ。
オレは無意識のうちに、彼女の首に手をまわしていた。
なんだろう? たしかにこの方が上半身が安定するんだが……。
いつもそうしていたかのように、自然に腕が動いたのだ。
女は、そのまま部屋を出て廊下を歩き出した。
すこし落ち着いたオレは、女の顔を見て驚いた。
世界一の美しさは、ほんのわずかな時間で終わりを告げたらしい。
陽菜も暫定三位に転落した。
遺憾だがこのアブナイ人が出会った中で、もっとも美しいと認めざるを得ない。
その姿は絶世の美女としか言いようがなかった。
瞳は明るい水色。ゆるやかなウェーブがかかった、ベビーブロンドの髪が腰まで伸びる。淡いピンク色の肌にはシミ一つない。
──そして、その背中には純白の翼がはえていたのだった。
最後に掃除したのはいつなのやら、冷たい床にはびっしりとホコリが積もっていた。
そうだ、陽菜は!?
すぐに妹の異変を思い出し、勢いよく立ち上がる。
しかしなぜかバランスをくずし、後ろに倒れてしまった。床に積もっていたホコリが盛大に宙を舞う。
「いってぇ~」
そう吐き捨てたオレは、心臓が止まるような思いを味わった。
なぜなら、耳に聞こえた声が自分のものではなかったからだ。
それはまるで、幼い女の子のような高い声だったのだ。
「落ち着け。とりあえず落ち着こう」
オレは尻餅をついたままの姿勢で、自分の姿を確認してみた。
手が小さい。長い爪が綺麗に手入れされている。おまけに左手の人差し指には、高そうな赤い宝石の指輪がはまっていた。
あまりのわけのわからなさに、思わず苦笑がもれる。
ため息をつきながら、ゆっくりと立ち上がった。
地面が近い。50cmは身長が縮んでいそうだ。
「さっきコケたのは、背が低すぎていつもと勝手が違ったせいか……」
いい加減なれてきた可愛らしい声でつぶやく。
あたりを見回すと、そこは広い部屋だった。
壁も天井も黒く、やや薄暗い。天井についている宝石のようなものが、ぼんやりとした光であたりを照らしていた。
部屋には雑多な物がおかれている。
剣、盾、鎧などの武具。壷、絵、彫像などの美術品。
骨董品に疎いオレでも一目で高価な品々だとわかるような逸品ぞろいだ。
ただ、部屋の広さにくらべると数が少ない。壁に取り付けられた立派な棚にも空きが目立つ。
「なんか、在庫調整に失敗した倉庫みたいだな……」
部屋を調べているうちに巨大な鏡を見つけた。
あわてて駆け寄る。
「……!」
姿見には、可愛らしいという言葉では足りないような美少女が映っていた。
輝くような銀色の髪、大きな金色の瞳、雪の妖精を思わせる透き通る白い肌。
間違いなく、今まで見た中で一番綺麗な女の子だ。
テレビに出るアイドルなんかより陽菜の方が断然かわいい。と、ふだんから公言しているオレでも、この少女より妹が上だとは言い張れない。
歳は小学校の高学年くらいだろうか。
まだ幼いが、成長すれば多くの男が取り合うような美女になるだろう。
また、着ている服も、その外見にふさわしく特別なものだった。
表着には、前が大きく開いたローブ。そのローブには、金銀のモール、レース、刺繍、リボンがいたるところ配され、さらに左肩には白く大きな花飾りがつけられていた。
「どこのお姫様だよ、こりゃ……」
服装にあきれたのは事実だが、ここまでは予想の範疇だった。
自分が女の子になっているだろうことは、声でわかっていたから。
だが予想外だったこともある。
まず、耳の形がおかしい。大きさは普通だが、先がとがった形をしていた。
さらに腰のあたりからは、コウモリのような黒い羽が一対生えていたのだ。
ためしに触ると、温かく、すこしくすぐったい感じがした。
さらに、意識すると二枚の羽が可愛らしくピコピコと動いたのだった。
「……これ、どう見ても人間じゃねーぞ。なんなんだよ、いったい」
オレは頭を抱えてうずくまった。
* * * * *
ドンッ、ドンドン!
しばらく放心状態だったオレを、扉を叩く音が現実にひきもどした。
「姫様! 中にいらっしゃるならドアをあけてくださいっ」
つづいて、若い女の声が聞こえてくる。
彼女は切羽詰った様子で、何度も呼びかけている。
少し迷ったのち、扉に向かった。
見たところ部屋に出口は一つしかない。ここに居続ける意味もないだろう。
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ!
オレが歩くあいだも、扉を叩く音がどんどん激しくなっていく。
なんか怖いな。一瞬ひるんだが、意を決してドアを引く。
ほんの少し隙間ができた時点で、扉は強引に外から押し開けられた。
同時に何かが、オレにぶつかってくる。
……なにが起きた?
気づくとオレは、だれかに押し倒され、仰向けに寝そべっていた。上に乗っている人に両腕ごと背中まで抱きしめられていて、身動き一つできない。
「姫様は! 姫様は! 姫様は!」
オレを押さえ込んでいる女性は、壊れた機械のようにおなじ言葉を繰り返していた。やわらかい胸が押し当てられ、クチナシの花のような甘い香りが鼻腔に広がった。だが、それを楽しむ余裕などまったくない。
オレを抱きしめている腕に、どんどん力が加わっていっているのだ。
骨がきしみ、息が苦しくなる。
や、ヤバイ、死ぬ、これ、マジで殺されちまう……!
なんだか、だんだん気分がよくなってきた。
よくみたら、まわり一面、花畑、じゃ、ないか……。
* * * * *
ふいに、体をしめつける力がゆるんだ。
命の危険からは脱したものの、頭がくらくらして考えがまとまらない。
「姫様は私を不安で殺すおつもりですか。半日も連絡しないなんて!」
どっちかというと、オレの方がいま殺されかかったんですが!
そう思ったが口には出さなかった。だって、この人はなんかヤバイ。
「まあ姫様! 御髪がホコリだらけじゃないですか」
それは、あなたが汚い床に押し倒したせいですよね。
そう思ったが、やっぱり口にはださない。こわいから。
すばやく近づいてきた女が、オレの背中とひざ裏に手を差し入れた。
そのまま軽々と抱き上げる。
……いわゆるお姫様だっこ状態だ。
オレは無意識のうちに、彼女の首に手をまわしていた。
なんだろう? たしかにこの方が上半身が安定するんだが……。
いつもそうしていたかのように、自然に腕が動いたのだ。
女は、そのまま部屋を出て廊下を歩き出した。
すこし落ち着いたオレは、女の顔を見て驚いた。
世界一の美しさは、ほんのわずかな時間で終わりを告げたらしい。
陽菜も暫定三位に転落した。
遺憾だがこのアブナイ人が出会った中で、もっとも美しいと認めざるを得ない。
その姿は絶世の美女としか言いようがなかった。
瞳は明るい水色。ゆるやかなウェーブがかかった、ベビーブロンドの髪が腰まで伸びる。淡いピンク色の肌にはシミ一つない。
──そして、その背中には純白の翼がはえていたのだった。
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