シスコンリーマン、魔王の娘になる

石田 ゆうき

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第3章 旧領へ。新たな統治

北の鉱山

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「うぇぇぇ……」
「うっ、おっ……」

 静かな森に、美女二人の嗚咽にも似た声が響き渡る。
 ユルテとファロンはかすかな涙を浮かべていた。オレは二人の背中を優しくさする。地面に二人の体からこぼれた液体が広がっていった。

 ……あたりには、酸っぱい臭いがただよっていた。
 つまりはリバースである。ユルテとファロンは、乗り物酔いで大変な状態になっているのだ。

 ──なんでこんなことになってしまったのか。
 その原因はシロにある。無駄飯食いというシロの評価をあらためるために、移動手段にしようと思ったのが失敗だった。

 シロに乗るは、オレと侍女3人。
 その広い背中は、4人で乗ってもまだ余裕があり、快適な旅ができるかと思われた。だが街道を離れ、森に入ったあたりからスゴイことになってしまったのだ。

 シロは早く走っていても、器用に木々をよけて進める。
 しかしそれは、それだけアクロバティックな動きをするということでもある。

 体を固定する器具もなく、激しい揺れに身を任せていたユルテたちは、次第に気分が悪くなってしまったのだ。

 最初に限界に達したのはユルテだった。
 シロが高速機動中であったため、固形物を含んだ液体があたりに撒き散らされることになった。

 それを見たファロンも、我慢できずにリバース開始。
 横を走っていたヘルハウンドが、直撃弾を食らうハメになった。

 さすがにこのまま進行はできないので、シロを止まらせ、森で休んでいたというわけだ。

 シロの評価を上げるどころか、ドン底まで落ちたな!

「自分で空を飛ぶときには、こんなことにならないのに……」
「うぅ、なんか苦いの出てきた……」

 ついに胆汁まで吐き出したようだ。ファロンが泣きそうになっている。
 体が丈夫な魔族でも、乗り物酔いをするというのは意外な発見だった。

「全部出きったみたいだからもう大丈夫じゃろ。さ、こっちを向いて二人とも口を開けるがよい」

 魔法で水を出し、うがいをさせる。
 そのあとフィアと二人で、全員の服と体をキレイにした。

 魔法の水は、ぶっかけてもすぐに乾くのが便利だ。しかし、ところどころにシミが残ってしまった。いつもの豪華な服じゃなく、安い服(と言っても10万円以上する)を着てきて本当によかった。

 いつも世話されるばかりだったから、こういうのも新鮮でいいな。
 どっちかと言うと、世話されるより世話する方が気が楽だ。

「ううぅ……。フィアは平気なの……?」
「特に問題ない」

 侍女三人の中で、フィアだけは平然としていた。理由はわからない。
 フィアがオレのように、乗り物慣れしているわけはないのだが。

 こっちの世界、少なくともルオフィキシラル領では船以外の乗り物はあまり使われていない。馬はいるが、おもに荷運び用だ。それに侍女たちは、城から出るのもまれで船に乗る機会さえない。

 フィアの原種族は氷の精。これも乗り物酔いとは関係なさそうだ。
 どういうことだろう。原因がわかれば、ユルテたちの助けになりそうだが。

「……あ、固定魔法でバランス感覚を常時強化しているおかげかもしれんの」

 不意にひらめいた。
 バランス強化では平衡感覚、三半規管にも補正がかかっているのかもしれない。

「それを最初から教えてくだされば……!」

「いま気づいたことだし、しょうがないじゃろ。そもそもこんな悲劇が起こるなんて想像もしていなかったのじゃ」

 自分が乗った時に平気だったので、他の人がどうなるかまで考えが及ばなかったのだ。遊園地のアトラクションみたいで楽しかったし、この前湖まで行ったときはファロンも平気そうだったし。

「しばらくここで休憩するのじゃ。ゆっくりするとよい」


 * * * * *


 フェンリルを連れ帰り、民衆に威を示した。
 軍事、政治ともに人員を増強した。

 そして次にオレがとりかかったのは、代官たちを帰順させる仕事だった。
 とくかく戦争が起こる前に、十分な力を蓄えておかねばならない。そのためには領地を完全に掌握することが急務なのだ。

 代官たちは、税金も払わず好き勝手にしている。しかし名目上は、ディニッサの家来のままなのだ。仕掛けたとしても、大義名分はこちらにある。

 北は鉱山と職人。
 西は豊かな穀倉地帯。
 南は莫大な金を生む、海洋貿易の拠点。

 それぞれに特徴がある地域だが、まずオレは北の鉱山都市テパエに向かうことにした。理由はいくつかあるのだが、とりあえず鉱山が欲しかったのだ。

 テパエには、魔法金属オリハルコンが産出する山がある。
 オレの武器には、ぜひこのオリハルコンを使いたい。さらにはテパエには腕の良い職人もいるので、加工までいっしょにやってもらえる。

 それに増やした兵士で取り締まっている、犯罪者たちの件もある。
 罪人を強制労働させるなら、やっぱ鉱山でしょ。
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