恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~

嘉月まり

文字の大きさ
7 / 98
第1章 神隠しの行く末

4※

しおりを挟む
「ん……っ、……!?」
 少女は反射的にそれを押し留めようと男の胸に手をやる。しかし男はまるで意に介さず、角度を変えながら触れるだけのくちづけを重ねてきた。
 男はもう少女を惑わす甘やかな態度を持たず、あの人ならざる者の空気をまとっている。ゆえに拒絶の言葉すら吐かせてはもらえない強引さと物足りなさに、少女の思考は混線し体は硬直してしまった。だがそれに反し、内側ではたまらなくむず痒いような感覚がわき起こる。
(わたし――わたし、どうして)
なぜこれほど立て続けに、目的もわからぬ欲に求められているのか……考えようとしても男の唇に阻まれそれすら立ち行かない。
 やがて舌が割り入れられるようになると、少女は自然と目を閉じ体の力を抜いた。
 自分の中を――体でも心でもないもっと深くを男に探られているような気がして、またそれが心地よい。けだものに踏み荒らされ、めちゃくちゃにされてしまった自身の中の大地が少しずつならされ、小さな緑が息吹を始める。そんなやわらかくて、あたたかいもの。
 男も少女の様子が変わったのを感じてさらにその舌を絡めては、まるで砂糖菓子を崩すように唾液を交わす。
「……ん……っ、ふ……ぁ」
呼吸の仕方がわからず男に訴えるようにわずかに腕に力を込めれば、ほんの少しの猶予を与えられ息継ぎを許される。
 交わす視線は自身のものが一方的に熱っぽいだけだったが、耳や肌に伝わる吐息や水音は同じ。それが少女にはとてもくすぐったい。
 そうして完全になすがままになった少女は、男に支えられその背を守られるように羽織ごと砂に寝かされた。
 男は表情を動かさぬまま、少女に囁く。
「……お前が俺を求めたら、放っておくつもりだった」
「……え?」
「その膿み切った熱の発散と、肩の“朱印”だけは抑えてやる。それである程度は収まるはずだ」
「しゅ……いん?」
「ああ。……お前は余計なことを考えず、そのまま寝ていろ。守ったみさおまでは奪わぬ」
「……」
 何をされるのかわからないまま怖々こわごわと、それでも素直に頷いた少女を見て、男は障りにならぬよう腰元の剣を外し、傍らに置く。
 男の一挙手一投足が気になり目で追えば、その鞘も美しく金糸や銀糸が散りばめられ、地の青と相まって水の様を現していた。剣を結っていた腰紐の先にも、魚の形をした対の飾りが下がっている。地面と触れる間際、柄とつばを結ぶ輪飾り――これも金だった――に並ぶ小さな鈴がしゃららと鳴り、その波間にも紛れぬ澄んだ音に、少女の意識が揺さぶられた。
(……綺麗)
男の衣が、飾りが、髪が、肌が、唇が。そのすべてが奏でる音までも。何もかもが綺麗すぎて、体を伝う粘液に汚されてしまうのが嫌だったが、そのすべてに体をなでられるたび、ふわふわとした甘やかな、不思議な感覚が内から呼び起こされる。
 まるで、自分が……この男に、こうされるために存在しているような気にさえなる。
「何を見ている」
「――…あ」
ぼうっと鈴の列を眺めていると、上から降ってきた男の声に現実に呼び戻される。声の方を向けば、先とは真逆に、自分に覆いかぶさる男と視線が交わった。
 何をされるか、本能的に感じ取った体がきゅうっと萎縮する。自分にも聞こえるくらい鼓動が大きくなって、なにかを告げようと弱々しく開いた唇に、無言のまま男のものが重ねられた。そのまま耳元や首筋を唇でなぞられ、固く大きな手に乳房と頂のつぼみをすくわれれば、甘く痺れる快感が体に広がる。ぬめりを帯びた液が潤滑油となり、先に蛇に弄ばれたそこは、少女の意思を通り越して、男の指先に過敏に反応を返してしまった。
「……痛むか」
「い……いえ。でも――ひぁっ」
「……」
言い終わる前に、今度は舌を這わされて少女はびくんと背を仰け反らせた。
「――あ、……っ、は……」
やわらかく生暖かい感触がその小さな粒を執拗に構う。蛇の冷たい皮膚や舌とは違う、人の感触。無理矢理引き上げられるような強制的なやり方ではなく、じわじわと自ら昂っていく快感。尊厳を侵される羞恥心ではなく、ただ……異性を意識するだけの、狂おしい羞恥心。
 全部混ざると声すらも出せないのだと、少女は頭の片隅で思う。まどろみのような、とろけた心地。それはただ身の内にこもらせて、長く長く味わっていたい。
 やがてもう片方の乳房をやわらかく湛えていた手も、腰をなぞり下腹部をなで、徐々に少女の一番大切な部分に向かっていく。
 気付けば少女は何かに耐えるように背に敷かれた男の羽織を握りしめ、太ももをこすり合わせてしまっていた。
 「あぁ……、はぁ……っ……んんっ……」
そこに男の手が入り、淡い茂みとまろやかな肉の丘をつつみこむ。その谷間で花色に色付く二枚の薄いひれは、もうしっとりと透明な露にまみれていた。それをすくい、なぞるように焦れったく男の指が上下に動く。
 波音の狭間に微かに聞こえる淫靡な音。
(なにか……、なにか変……)
胸の先と秘裂を舌と指とですくい取られ、そのたびに体は火照り高まる熱で意識がどんどんうかされていく。
 少し怖い。でも気持ちいい。けれども――そこじゃない。まだ気持ちよくなれる、もっと、もっと好いところがあったはずだと腰と足が本能的に訴えた。
 「は……あ、あの。あ……ッ」
もうどうにかして欲しいという意を含ませた少女の呼び掛けに、男はチュ、と最後に強く胸の先を吸い顔を上げ、少女の耳元で囁く。
「……日嗣、だ」
「ひ、……つぎ。ひつぎ、様?」
「ああ。……わかるな?」
一度男に額をなでられると、脳裏に“日嗣”の二文字が浮かぶ。そしてその単語が何かを理解した少女は、なぜかそれが当然のことであるかのように敬称を添え、その名を口にする。
 ……名を明かしてくれたのは、求めてもいい、ということなのだろうか?
 抱いてほしいなんて言わない、言えない。だけれどこの――くすぶる欲気を払い去ってほしい。
 その思いに応えるかのように秘裂の奥がすぼまり、それだけで全身が糖蜜に浸されたような甘ったるい心地になる。
 反面いまだ男の指が触れてくれない核心の、荒びた欲求を抑えることもできず、少女は男に拒まれる恐怖にさいなまれながらも、たどたどしく慈悲を乞う文言を発した。
「日嗣……様。お願い……します……、もう……」
「……」
男はわずかにその陶器のような表情を変え、皮肉めいた笑みを口元に浮かべる。しかし言葉を発することなく、
「――あぁッ!」
不意討ちのように少女の中で最も敏感な、秘裂の上でふくらむ肉のつぼみを擦り上げた。
「あっ……、ぁあ」
「どうした。触れて欲しかったのだろう?」
「それは、でも……っ、んんっ」
男は再び体を倒すと、少女の潤んだ視線と言葉を遮るように唇を重ね、指先で感じるしこりを優しくなでさする。
「――んっ、ん、ぅぅ……っ」
痺れるような快感が肌の裏側で走り少女はたまらず身をよじるが、男の指はその小さなつぼみを決して逃がしてくれなかった。さらにまた胸先の方まで責め上げられ、捕らえられた花芽たちはその優しい蹂躙を悦び、媚びるようにその姿を主張し男の指にまとわりつく。
 男の動きはどこか機械的で、感情を伴わないものであることも頭のどこかでは察していた。それでも純な少女の面影を残す理性は、その体の反逆に簡単に攻め崩されていく。
 他人から与えられる、予測できない快感の美味さと、自身の思考が塗り替えられていく怖さ。自分から求めたにも関わらず、その両方をどうしたらいいのかわからない。
「だめ……っ、も……ダメぇ……ッ!」
もはや身の内だけでは収め切れない何かが体の中に渦巻いている。快感と恐怖と、そのどちらもが男の手に撹拌かくはんされて、少女はついに、わけもわからず男にすがりついた。
「ごめ……なさい、日嗣……様っ、日嗣様っ……、でも……怖くて……っ」
「構わぬ――そのまま達せよ」
少女の絶頂が近いことを察した男は、ゆっくりと少女の右肩に舌を這わせる。牙の痕から走るいくつもの赤い筋。それが途端に脈動を始め、少女は一気に体が熱くなるのを感じた。
「あぁぁっ……!」
甘美な悪戯に晒されていた肉粒が、男の指に吸いつくように震える。その下の花弁も糸を引き、自身と男を縫いつけている。
 男は決して逸らず、少女が自ら達するのを待ち、優しく指を添え撫で続けた。そうして与えられる快感は恐怖まで呑み込み、その速度を増し脳天までせり上がってくる。
 ――自分の中に、鮮烈な何かが刻まれていく。
 本能よりも奥深い場所へ、男の名と存在が刻みこまれていく。
 そして次の瞬間、その感覚は巨大な濤波とうはとなって快楽の渦を巻き上げ、一気に少女の中で弾けた。
「――…だ、め……っ、日嗣様……っ! ――あぁぁ……ッ!!」
「……」
その渦に男を引きずり込むように、あるいは引きずり込まれないよう救いを求め、少女は男の背に腕を回しその衣をぎゅっとつかむ。
 男はそれを許し、身の内の衝撃にびくびくと震える小さな体からあふれる余波を受け入れた。そして、少女の四肢でなされる緩い拘束――その縮められた距離の中で、ただ静かに少女の右肩に唇を落とした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...